「えーと・・・」 旅立って──と言っても、まだ二日。 しかし二日目で、私は出仕する城のお膝元である町へ辿り着いた。 「掛け蕎麦を一つお願いします」 村と町では金銭感覚が違うという村長さんの言葉があって、なるべくお金は使わずに我慢していようとしていたのだけれど。 町へ着いたという安堵から途端にお腹が減って、我慢がきかなくなった。 賑わう時間ではないためか、あまり客がいない店で何とか読める文字の品を頼む。 いくら昔の文体も習っていて、ある程度は読めると言っても時間がかかってしまうから、なるべくなら客があまりいない店が良かったのだ。 ただ、掛け蕎麦は平仮名みたいだったし、金額的にも村長さんから教わった計算でいくと余裕だと分かった。 「はいよ、お待たせ!」 元気の良いおばさんから受け取った蕎麦は、この時代で初めて食べる麺類。 久しぶりの食事だからか、それとも前の食事を懐かしく思い出したからか、とても美味しかった。 「ふぅ・・・美味しかった」 「見かけない顔だね、お姉さんどこから来たの?」 「えっ?」 ことん、と蕎麦の汁まで完食し終えると今の今まで私の斜め後ろに座っていた二人組のうち、一人が話し掛けてきた。 一瞬、この時代にもナンパがあるのかと驚いた、が。 いくら城下町は広いといえど、この店に私みたいな田舎者は珍しいのだと理解した。 だって、この少年は本当に不思議そうな顔をしていたから。 「私、東の山村から来たのです」 「そうなんだ、旅でもしてるの?」 「いいえ・・・あ、ここまで旅をしたとは言えますけど」 「何か用事?」 「はい。ここの城へ出仕するようにと村長さんから言われまして」 ほら、と少年に見せたのは村長さんの直筆の手紙。 そこには城から届いた印が同封されている。 この印がなければ、いくら出仕したくとも不審者として門前払いされるらしい。 「ふぅん・・・城に出仕するんだ、お姉さん」 「はい。どんな仕事かまでは知らないのですが」 「人手不足って話らしいからねー」 少年はそう言うと、もう一人と一緒にお勘定を済ませて、仕事がんばってとだけ言い残して去っていった。