その日は突然訪れた。
「ふざけないで!あたしは天女なのよ!?」
城主であられる幸村様と天女様の元へ食事を運ぶ人手さえもが足りなくなり、駆り出されたのは私と梅ちゃんだった。
私はお茶を、梅ちゃんは天女様の膳を。
しかし、梅ちゃんが手前に膳を並べた途端に天女様が声を上げたのだ。
ただ、私が見ていた限りで梅ちゃんが作法を間違った様子はないし、礼儀も正しかったはず。
天女様が声を上げるような、そんな無作法なんてしていなかった。
「華姫様、いかがなされた?」
どうして天女様からお咎めを受けるような声を受けたのか訳も分からず怯えてしまった梅ちゃんと、それを庇うように前へ出た雪さん。
しかし、雪さんが何か口にするよりも早く声を発したのは幸村様だった。
「どうしたもこうしたもないわよっ!幸村、あたし魚嫌いだって言ったじゃない!」
なのに何なのよ、と益々声を荒げた天女様が指差す場所には朝餉のおかずとして焼かれた川魚が一匹。
天女様の態度からして、魚嫌いだというのは公言されていて膳に上げないように仰せられていたのかもしれない。
けれど、肉魚をこの時代で口にしたのは片手で足りるほどの私からしたら、とんでもない贅沢を口になされた天女様だとしか感じられない。
「超信じらんない!何なのよ、嫌がらせ!?」
「ま、まさかそのようなことは!天女様へそのような無礼など致しませぬ!」
「じゃあなんで魚が出たのよ!」
以前から先輩女中たちから聞いている天女様関連の話からすると、きっと厨の下女中数人と膳を用意した梅ちゃん──そして魚を釣った下男までも。
全員が罰を命じられてしまう可能性が高い。
今まで散々それを間近で見てきたらしい雪さんが必死に宥めている様子から、本当に現実となり得る。
けれど、私はどうしたら良いかも分からず黙っているしかなくて手を止めてしまう、が。
次に放たれた天女様の言葉に耳を疑い、目を見開くこととなった。
「フィッシュバーガーとかなら食べれるけど!魚まるまるは無理なんだから!あーもー・・・何でこんなご飯しかないわけ?クリームパスタ食べたい!サラダのサンドイッチ食べたい!ココアとかコーラ飲みたいーっ!」
本当に、自分の耳がおかしくなったのではないかと息が詰まる思いが胸を締め付ける。
突然現れたという天女様が今口にしたそれぞれの単語。
フィッシュバーガー、パスタ、サンドイッチ、ココア、コーラ。
それらはこの時代には存在しないはずだ。
いくら天から舞い降りた天女様でも、今から遥か未来の食べ物を知るはずもなければ、まるで食したことがあるかのような言動も信じられない。
「はぁ・・・何でこんなバサラにトリップしちゃったのよぅ。現代と簡単に行き来できると思ってたのにぃ〜・・・」
未だに罰を受けることに怯える梅ちゃんと雪さんと同じくらい、青ざめているだろう私は目眩を覚えた。
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