小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽真逆の逆様。

ネタというよりは、一次創作で書いていた作品なる。
確か、書き上げていたのは今年の春頃だったと思うけど…二次創作作品とは別個の扱いなので、どうしようかなと考えた結果、取り敢えずネタ枠で上げてみる事にした。
何となく雰囲気が伝われば良いと思って書いた物故に、いきなり始まっていきなり終わる感じだけど気にしない、何でも読めるぜ!な方はどうぞ追記へ。
一応注意書きするとしたら、“倫理観に欠けたお話”という事だけ。
あと、普段とは『』違う形で使用してるので、主人公の台詞は「」で表記→逆にもう一人の人物の台詞を『』で表記。


【追記】

或る日、彼の人は私にこう問うてきた。

『―君は、何故死にたいと思いながら、未だ息をし、生きているのかね?』

夕暮れ時の事だった様に思う。

―黄昏時、誰そ彼時。

その時の刻を示す言葉は幾らか他にも表現し得るものはあった。
兎に角、その中の何れかに該当する頃の刻であったと記憶している。
彼の人は、窓辺から差し込む夕陽の朱に染まりながら、それに背を向け影を作りながら私に続けてこう言った。

『もう一つ、君に対して気になる事を挙げよう。――君が思うに、この世で美しいものとするもとは何かね…?それが、今私は最も気になって気になってしょうがない事柄だ。さあ、時間は幾らでもある。君が今思う"答え"とするものを答え給え。』

それは何とも一方的で勝手で、他人の心の内など考えもしない傲慢な問いかけだった。
私はそれに一瞬眉根を寄せながら、しかし、すぐに真顔という無表情に戻り、目の前に居る顔を見つめる。
上手い事夕陽の光に遮られているのか、彼の人の顔には影が差していて、その表情を詳しくは窺い見る事は出来なかった。
だが、その口許に笑みが形作られていたのだけは何となく窺い知れた。
彼の人は、ほんに可笑しな質問をしてくる。

「…その問とは、必ずしも答えなくてはならぬものですか?」
『必ずでなくとも良いさ。ただ、君が"今"感じ得るもの…思いの欠片を吐露してくれればそれで良い。』

何とも不思議な空間だった様に思う。
何とも不可思議で、不気味で、無機質なそれに、私は同期する様に答えを口にしていった。

「………まず初めの問の、"何故死にたいと思いながらも、未だ息をし生き続けているか"ならば…それは、至極単純な事です。私に死ぬ度胸も無ければ、それを実行に移す器量も無い、覚悟が無いからです。」
『ほう。では…、"もう死ぬ事は諦めた"という事なのかね?』
「いいえ…私はたぶん、きっと未だ死ぬ事を諦めてはいないと思います。」
『ほう。それは何故かね?』
「何故ならば、人は時が経てば何時しか死ぬものだと解り得ていますが、実際の現実では、思った以上に死ぬ事よりも生きている事の方が辛いもの…よって、何れ私はまた何処かしらで生きる事を諦め、死を選ぼうとするでしょう。ですから、現状、この先の未来に何の希望も見出せないまま無駄に息を続け…日々を貪る様に生き続けるのです。」
『そうかそうか。それはそれは、実に滑稽な生き方だな。見様によっては無様だとも見て取れるし…また別の見様によっては、人が生きていく為に何かに抗いながらも答えを導き出しつつ先へ進んでいく、まるで旅人の様な美しい生き方だ。…嗚呼、言っておくが、これは別に侮辱などではないよ?ただの称賛だ。勘違いはしないでくれ給えよ。』

夕暮れ時の朱に囚われた空間に、淡々とした単調な声音が響いた。
彼の人が目の前で壇上の机に肘を付き、手を組んで此方を見つめてきた。

『―では、次に問うた事に対する君の回答は、どんなものかな…?』

至極愉しそうに目の前の顔は口端をにんまりと持ち上げる。
私はそれをただ無表情に見つめ返す。

「…私が思うに、この世で美しいものとは…生きとし生ける人々が織り成すもの全て、でしょうか…。」
『ほう、つまりは…生きとし生ける者達の生命の輝きこそが、この世で最も美しいとするもの…という事かね?』
「"今"の私は、少なからずともそう思います…。」
『成程。それは素晴らしい答えだな。うむ、実に面白い回答だ。予想外の回答であったよ。』

彼の人は実に愉快そうにからからと口を大きく開けて笑った。
笑って、後に続けてこう言った。

『うむ…しかしながら、私は全くの逆の事を考えたよ。ええ、ええ。まこと真逆の答えをね。』
「真逆、ですか…?」
『私が君に対し問いかけた問に対して、私が抱いた真逆の答えというものを、君は知りたいと思うかね?』
「まぁ…その返し振りからしてみれば。」
『ふふふ、君は実に素直…または実直且つ真面目で宜しい。良いだろう。私が君にした問に対しての私自身の回答を教えよう。』

大振りな動きで壇上の席から立ち上がり、たった今居た壇上の場から降りてくると、私のすぐ側に立って言った。

『私がこの世で最も美しいものとするものはねぇ…まさに、人の死というものなのさ…!』
「人の生ではなく、人の死に美を見出した…という事ですか?」
『嗚呼、そうさ。だってそうだろう?人とは、皆揃って何時かは寿命を迎え、死する時が来る。それは遅かれ早かれ、皆同じだ。死なんていつ何時だってやって来るものだ。それこそ、常に隣り合わせである様に、死とは自身のすぐ側に潜んでいる…。これは誰にだって当て嵌まる事であり、平等なものだ。それ故に、生と死は表裏一体のもの。生が表側とするのなら、その裏側は死となる。生の裏側には、何時だって死が隠れているものなのだよ。…お解り頂けたかね?』
「…ええ、全く。貴方が風変りの変人で変わった中身(人格)をお持ちであるという事は。」
『ははははっ、それは結構。君の評価は実に面白い。気に入ったよ。是非とも、これからもこの先に待ち得る事柄についての様々な見解を、君とは語り合っていきたいと思うよ。』

一方的にそう言って勝手に問いかけ喋ってくるだけの人は、そんな風にまた笑って勝手な事を言ってのけた。
それに対し、私は特に答える事は無く、無言を突き返した。
そうした時、彼の人は真正面の目の前へとやって来て、間近に顔を近付けてこう告げた。

『―なあ、迷える子羊よ…。この世とは、実に矛盾で溢れた矛盾だらけの世界だ。そんな世界の中で、君はどう足掻き踠き生きていくつもりかね?この世の中は矛盾だらけだ。それはそれは理不尽な程に、境界が曖昧な程にねぇ。だが、それが摂理というものだ。世の中に生きとし生ける者達は、皆その矛盾を抱えながら生きている。…君もまた同じだよ。勿論、私も然りさ。誰しもが、この世の中矛盾を抱えながら生きている。生きるも死ぬも曖昧、生きたいのか死にたいのかも曖昧。君も同様…"死にたいのに生きたい"、これはまこと矛盾を指すものだ。わたしもまた、"生きたいが死に憧れを持つ者"だ…。皆、同じ、矛盾を抱えている。それを、君は理解し得たのかな…?』

にんまり顔が、目前でまた問いかけた。
私はただ黙すだけである。
"だんまり"というのも、答えの内なのだ。
彼の人は満足そうに笑って前のめりに乗り出していた上半身を退かせる。

『直に日が暮れる…。さあ、明日もくだらぬ日々が待っている。語り合いはまたの機会にしようか。』

まるで教師のように振る舞っていた彼の人が身を翻してまた壇上へと上がって行った。

『―では、また逢おう。迷える子羊よ。』

夕闇に溶け込むように、彼の人の影が薄まっていく。
元より影が出来て遮られていた顔は見えなくなっていた。
霧のように彼の人は夕闇の暗がりに溶け込んで散り消えていった。

ーそもそもが、彼の人は一体何だったのだろうか。

人だったのか、はたまた誰そ彼時が見せた妖か、別の何かか。
然程気にならない事にはさっさと蓋をして、どうでも良い事を考える。
夕闇に溶けた筈の影が言う。

『―我等は常に真逆の立場に居る者なのだよ。君が光側に居るとしたらば、私はその反対側の影に居る。君が生を謳うのならば、私は死を謳う。我等は常に真逆、相反する者…。そして、君はその矛盾を抱えた者だ。私は君で…君は私だよ。』

真逆の逆様に連なる者は語る。

2020/07/20(12:28)

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