小ネタ帳
此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。
▽刀さに(たぬさに)中編・没ネタ7。
本丸襲撃編・その4。お話終盤な感じ。
その3のお話を【上】とするなら、今回は【下】みたいな。
前回に引き続き、書きたい部分だけ書いた代物。
最後のみ本丸襲撃編最終展開についての設定メモ。
【追記】
―彼女が敵の手によって文字通り地に倒れ臥した直後。
粗方の敵を殲滅し切ったかと思えた刹那、少し離れた処から悲鳴を上げる仲間の声が聞こえた。
その声に弾かれるように直ぐ様その場へ向かうと、見たくもなかった光景と立ち会う羽目になるのだった。
「……あ、るじ…………?」
嘘だとしか思えない光景だった。
「嘘、だろ………?ちょっと前まで一緒に居たじゃねーか…。敵が迫り来る恐怖に襲われながらも、怯えながらも俺達を生かそうと言ってたじゃねーか……。自分は、死んでも良いなんて下らねぇ事ほざきやがるから、アンタが生きなきゃ俺達も存在出来ねぇって…、俺達を生かす為にも生きるって決めた筈じゃなかったのかよ……っ。別れ際…俺とそう約束したんじゃなかったのかよ………!……なのに…っ、やっぱり死ぬなんて事あって良い訳ねェじゃねーかァ…ッ!!」
もうろくすぽ動かせない腕に力を込めて、地に臥せった主の躰を抱き起こした。
瞬時に傷口は何処だと隈無く視線を遣って主の身を赤く染める原因を突き止めた。
赤く生温い血潮を滴り落として地を染めていたのは、腹からの出血だった。
敵からやられたんだろう、深く貫かれたらしい腹からはドクドクと止めどなく血が溢れてきていた。
何とかして止血しねぇとと傷口に手を翳して触れた刹那、ぬるりとした感触が己を襲った。
触れたのは、主の腹から溢れて止まらない真っ赤な血だった。
その瞬間、酷く恐くなって、主の身を抱え起こし直して必死に傷口へ止血帯代わりの襟巻きを押し当てた。
改めて触れた主の身は、酷いくらいに冷たくなっていて、今残っている熱ももうじき消え去ってしまうのだろう。
そんなのあっちゃならねぇと思った。
だから、俺は必死になって吼えた。
「何でだよ、主………ッ!!生きたいって言ったのは、アンタだろ…!?だったら、こんなとこでくたばってる場合かよ…ッッッ!!起きろよ……ッ、今すぐ目ェ開けて何時もみたいに男勝りに喋ってみせろよ…!!アンタみたいなのがこんなとこで死ぬ玉じゃねェーだろ…ッ!?…頼むから目ェ開けてくれ……ッ、死ぬなァ…ッッッ!!!!!」
喉を裂くんじゃねぇかってくらいに大声で叫んだ。
そんな必死な願いが届いたのか知らねぇが、ほぼ虫の息だった主が僅かに咳き込んで小さく呼吸を継いだ。
其れに俺は咄嗟に反応して、主の口許へ耳を持っていった。
すると、微かにだがまだ息をする音がした。
ほんの僅かだが、胸も上下している様子が見てとれた。
主が、まだ息をしている。
其れが分かっただけで、俺達にはまだ希望があるんだと思えた。
“主はまだ生きている。”
其れさえ分かれば、後はどうにでもなると思った。
「主は生きてる…っっっ!!と言っても、今はギリギリ何とか保ってるだけの瀕死状態には変わりねェ…!!急いで政府に知らせろッ!!安全な場所に移動させんぞ…ッッッ!!」
「はい…ッッッ!!」
俺が放ったその言葉に、側に居た五虎退が弾かれたように動き出す。
其れに伴って近くに居た奴も同様に停止させていた動きを再開させる。
「死ぬんじゃねーぞ主………ッ!!ギリギリでも死の淵にしがみ付いとけよ…!!アンタの事は絶対に助ける!!だから死ぬんじゃねェ…!!生きろ………ッッッ!!」
もう既に力の入らなくなっていた四肢を動かし、主の身を抱き上げる。
ぐったりと俺に身を預けるだけの主の身は、驚く程に軽かった。
其処で改めて主の、人間の脆さを目の当たりにしたようだった。
―主の身は、果たしてこんなにも軽かっただろうか…?
以前にも一度彼女の身を抱き抱えて運ぶなんて事はあったが、その時はこんなにも軽いとは思わずに、ちょっと軽いなと思ったぐらいで、其れは主の身が女だからだという風な認識でしか思っていなかった。
だがしかし、今になって其れを後悔した。
(此奴は、こんなにも軽かったのか…っ?人間ってのは、こんなにもあっさりやられちまう程脆かったのかよ…っ!)
数多と打たれ、人々の手を渡り歩いて使われてきた自分なら知ってた筈の事実を、何故こうも忘れていたのか。
自分が情けなくて腹立たしかった。
同時に、約束まで交わして生かそうとした…守らなければならなかった主人に瀕死にまで追い込む程の傷を負わせてしまった。
その事が一番己を腹立たせた。
「頼むから…ッ、まだ何とか持たせろよ主………!!」
其処でふと、俺は自身の主を呼ぶ為の手段を持たないんだと気付いた。
彼女の審神者としての名前は知っていても、彼女を彼女足らしめる、本当の名前を知らない。
(そういえば、俺は“主”という呼称以外に主を呼べる名前を知らなかったっけか…。)
こんな時に場違いな事が頭に浮かんでは思考を占めていった。
(…そうだ、俺は…こんな時にこそ呼ぶべき主の本当の名を知らねぇんだ…。)
其れは、何とも歯痒い事なのだと、その時思い知った。
死の淵を彷徨っているであろう主の意識を繋ぎ止める為に必要な、最も有効な術を…俺は持ち得ないのだと。
悔しくて、ギリッと強く歯を食い縛ったら、強く噛み締め過ぎたのか、口端が切れてじわりと鈍い痛みが滲んだ。
知ろうとすら思ってこなかった自分が悪いんだと己を責め立てた。
同時に、今そんな自責の念に駆られたとて、どうしようもない事なのだと思った。
既に起きてしまった事、過ぎた事は変えられない。
其れが歴史であり、残酷な事実だった。
自分達は、その在りし歴史を守るべく顕現された刀剣の付喪神。
ならば、どんなに酷な現実であろうと向き合わねばならないだろう。
ともすれば、今はただ己が大事な主の命を救うべく動くのみである。
「しっかりしろよ、主………ッ!絶対死ぬんじゃねェーぞ……ッ!!」
辺りは焔に包まれ真っ赤に燃え盛っていた。
あんなに立派に構えていた本丸も、今や無惨な姿に成り果てていた。
だが、俺達はまだ生きている。
主も、辛うじてだが生きている。
なら俺達はただ前へ進むだけだ。
全身ボロボロの傷だらけ満身創痍の姿が、今の俺達の姿だった。
悔しいが、此れが今の現状であった。
強くなりてぇ。
もっと強くなって、今回みてぇに敵が攻めてきても闘える、上手く立ち回れる強さが欲しい。
其れには、経験を積む他無かった。
俺達は、圧倒的に練度が足りてねぇ。
だから、主を守り切る事が出来なかった。
約束を守れなかった。
だからこそ、誓う…っ。
今度こそ負けねぇと。
主を守り切ってみせれるくらい強くなってみせると。
赤く染まり切った主の身を抱き締めて誓った。
もう二度と主の身が切り裂かれるなんて事が無いように強くなってやる、と。
悔しさに塗れて目頭を熱くさせる俺を鼓舞するように、抱き締めた主の身が小さく鼓動の音を繋ぐ音を響かせた。
この後、生と死の境を彷徨った彼女は、その畔で母方の祖先である武将に蜘蛛の糸の如く繋がれ、生かされる→容易に諦めるなと説教叱られ、生きろと諭される。
何かを掴まされた感覚に目を覚ますと、意識を戻すきっかけとなった。
実際に手に掴んだものは、様子を見に来たたぬさんの掌であった。
直後、少しの混乱後静かに涙を流し、彼に必至と縋り寄る。
落ち着いた頃になって、夢を見ていたと零し、其処で見た人に生きろと言われて目が覚めた事を伝える。
恐らく、その人は母方のご先祖様である事も含めて話す。
其れを聞いた彼は、「じゃあ、その侍に感謝しねぇとな」と返す。
2021/02/28(14:32)
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