小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽誘蛾灯に寄る羽虫。

『不滅のあなたへ』という作品を見た後、台所で食器片付けしてる時に、偶々窓の外を見たら電気の明かりに寄ってきた蛾の姿を見付けて、そこから得たインスピレーションを元に描いた一次創作作品なる。
特にオチというオチも無い作品だが、まぁ久し振りに一次創作ネタでまともに書き上げ切れたお話なので、アップしてみた次第。
最後、どういう風に終わらせようか全く考えぬ間に書き始めたので、ちょっとよく分かんない感じだけど気にしない方向で。
暇な時に読む感じの読み物として読んでもらえたら幸いなり。
何分、『不滅のあなたへ』を見た後だった事もあって、書いてる最中、この物語の主人公(?)はツダケン(津田健次郎さん)のお声で再生されてるイメージだった、という話は余談…。
内容としては、終始不思議なもの。
主人公はどういった存在なのか、あまり確定させたものではなく、神様のようなものといった風なのか、曖昧な存在として描いたぜ。
読み手が何を受け取るのかとか何も考えずに書いたもんだから、何でも許せる方向け…?
まぁ、お暇な時にでもどうぞ。


【追記】

あれは光だ。
己が惹かれ、導かれ、求めるもの。
光。
気付けば其れは自分の居るすぐ近くの場所にあって、己は其れに誘われるように導かれるように近付いていった。
光は、何か透明な壁越しの先に存在した。
此れは、何だ。
窓だ。
自分と光との間を阻む其れは、人間界で言うところの窓と言うものだった。
もどかしい。
己はもっと光の近くに寄りたいのに。
光がある所の側に行きたいのに。
窓と言う透明な硝子壁は己の行き先を阻んだ。
どうにかして光の元へ行けないか。
己は考えた。
取り敢えず、ただ真っ直ぐに突き進んでみるとしよう。
そうしたら、いつしかこの邪魔な壁を突き破れるかもしれない。
そう思って、己は透明に阻む壁へ体当たりをかますように突き進んでみた。
破れない。
進めない。
ただひたすらに自分の躰を痛め付けているだけだ。
これでは先へは進めない。
どうしたものか。
別の方法を考えてみた。
何処かに自分が入り込めるような隙間は無いか。
どんなに細く狭くたっても構わない。
己の躰を捩じ込めれる隙間は無いだろうか。
探してみたが、見付からなかった。
どうしよう。
なら、次の手を考えてみるのはどうか。
早速別の方法を試してみた。
壁の先に居る人間に自分の存在を気付かせてみよう。
己の存在を知らせて、中に招き入れてもらう作戦だ。
これならどうだろうか。
己はまた再び透明の壁に体当たりして音を立て、壁の向こう――家の中に居る人間に存在を知らせた。
今度こそどうだ。
そしたら、壁の向こうに居た人間は自分の存在に気が付いてくれた。
だが、己の存在を嫌うような反応を見せ、己を追い払うような仕草を見せた。
次いで、威嚇のつもりか、自分が体当たりしていた部分を小突いて脅かしてきた。
―“私に近寄るな”。
そういう意味合いだろうか。
成程、今、己が取っている姿が嫌いなのか。
そうか…。
人は、蛾と言う存在が嫌いなのだな。
ならば、別の姿なら受け入れてもらえるのだろうか。
己は考えた。
もっと、今よりももっと自由に近くに光の側へ行きたい、と――。
光に気に入られるような姿形(すがたかたち)を取れば受け入れてもらえるのか。
試してみる価値はありそうだ。
己は、一度、其処から離れて他所へと向かった。
近場を見て回って、沢山のものを観察してみた。
そして、人が恐れぬような形を真似て、再び戻って壁の先を覗いてみる。
光は相変わらず透明な壁の向こうにあった。
近くを人間が横切る。
己はまた自分の存在を知らせる為、窓を引っ掻いて音を立てた。
次いで、自分は動物を真似ていたので、鳴き声を上げてより存在を際立たせてみた。
人間が気付いた。
己の存在を認知して此方に歩み寄ってくる。
しかし、人間は興味深そうに眺めるだけに終えて、その場を離れる。
己の存在に興味を失ったのか。
また振り出しに戻った。
まだ、己はこの透明な壁の先には行けない。
カツリ、己の手の先に伸びる爪が窓に当たって空しく音を立てた。
どうすればこの先へ進める。
己はまた考えた。
考えて、考えて、考え抜いた思考の果てに、思い付いた。
やはり、光に好かれる姿を取るべきだと…。
きっと、この姿は望むべきものじゃなかったのだ。
ならば、別の新たな形を取らなくては。
次はどの姿を真似る。
またその場を離れて辺りを観察してみた。
そして、行き着いた考えに、己は人の姿を取った。
人の姿を真似て、またあの場所に戻る。
今度こそ、どうだろうか。
じっと待ってみる。
光は絶えず其処にある。
受け入れてもらえるか。
不安と期待が入り交じって、そわそわと落ち着かない、浮かない気持ちになる。
しかし、堪えるように透明な壁を挟んだ前で待ってみた。
じっと見つめたまま、大人しく、誰かに気付いてもらえるよう。
暫くして、誰も居なかった空間に人がやって来る。
そして、己の存在に気が付く。
同時に、何か驚いたような表情を向けて此方を見つめてくる。
あと、もう少しの辛抱だ。
己は、自身の行き先を阻む透明な壁の前に居座った。
人間が動く。
目の前の窓が開く。
人間が口を開く。

「あの……ウチに何か御用ですか?」

己に対して、初めて人間が口を利いた。
己は、初めての其れに非道く感動して驚いた。
人間が不思議そうに首を傾げて再び声を発する。

「あの…すみません、大丈夫ですか…?えっと、何か御用があってウチの前に立たれてたんですよね?もし、そうじゃないのでしたら…他所へ行ってくださいませんかね…。じゃないと、気味が悪いので……」

人間が不安げな気持ちを声に乗せてそう言った。
嗚呼、このままではまた嫌われてしまう。
私は、初めて自分の声を発してみた。

「……アナタに、出逢えて良かった…」

初めて出した声は、凡そ目の前に居る人間が出したものよりも低く太いものだった。
其れが、私がこの世に生まれて発した声であり、言葉であった。
人間は虚を突かれたような驚いた表情を浮かべて瞬きをする。
次いで、意味を理解出来ていない意思を表す言葉を発した。

「――は…っ?」

私は漸く理解した。
彼女こそ、私が求めて止まなかった光の存在であったのだと。
私は彼女の手を取って微笑んだ。

「アナタは、ワタシの光だ。…ずっと、ずっと探し続けていたものだ……。此処で、漸く出逢えた…。ワタシの光。……どうか、ワタシがアナタの近くに、側に行く許可をくださいませんか…?」

彼女は戸惑いながらも、私の問い掛けにどう応えたものかと考えあぐねている様子だった。
私は、その様子をつぶさに見つめて、全て忘れぬよう記憶してしまおうと観察した。
彼女は迷いながらも私の手は払わずにおずおずといった口調で口を割る。

「え、っと……よく分かりませんけど、一先ずお話をするなら一旦中に入りませんか…?あ…っと、玄関なら向こう側にありますので、彼方からぐるっと回って来てください。鍵は、開けておきますので…」

嗚呼、私はやっと光に受け入れてもらえたのだ。
感激を覚えずにはいられなかった。
私は彼女に言われた通りに従った。
私が居た建物の裏手に回り、招かれた正式な建物への入口――玄関先へと向かう。
其処で、光は…彼女は待っていた。
愛しいという感情が胸に込み上がる。
逸る気持ちを抑えて彼女の元へ急ぐ。
戸惑いながらも、彼女が控えめに口角を上げて微笑んだ。
其れが、彼女が私へと初めて微笑んでくれた笑みだった。

「どうぞ、此方へ。まずは立ったままではなく、楽に話せるように椅子にでも腰掛けて話しましょう。大したおもてなしとかも出来ませんけども…お話くらいなら出来ますから。……えぇっと、まず初めに自己紹介からしましょうか。お互い、初対面の筈ですし…ね?じゃあ、言い出しっぺの私から…えっと、私の名前は■■です。貴方のお名前は、何と言うんですか…?」

彼女が私へ問い掛ける。
私は少し逡巡した後に応えを発する。

「ワタシの名前は――…、」

其れが、私が彼女という存在と初めて交わした会話だった。
凡そ、人間らしい言葉を扱い、発したのは、生まれて初めての事だった。
でも、とても楽しかったし、とても有意義な時間だった。
己にとって、時間というものはそれ程気にするようなものではない…否、気にする事の無かった概念であったが。
生まれて初めて得た感覚に、私は全身全霊でその感情を喜びとして受け取り、また表現した。
言葉を扱うのもまた初めての事であったが、何とか頑張って彼女に思いを伝えた。
彼女は、一つ一つに対して丁寧に応じてくれた。
彼女はとても優しく、親切だった。
慈愛というのは、こんな時に感じるものなのか。
彼女を永遠に見つめ眺める事に、私は幸福を感じていた。
彼女へは、ひたすらに慈しみのメッセージを乗せた瞳で見つめていた。
彼女が其れに気付き、少し照れたように気恥ずかしそうに身動ぎをして、私から距離を取る。
私は彼女に近付く。
そうして、離れた分また近寄って彼女へと慈愛の視線を送った。
出来る事なら、彼女に受け入れてもらいたい。
そして、彼女を愛したい。
私は、彼女に出逢うべくして生まれたのだ。
出来る事なら彼女と愛し愛し合いたい。
私は望み、再び求めた。
ずっとずっと手に入れたいと思っていた感情から光を求めて。
そして、手に入れた。
光を愛で慈しむ姿を…。
彼女こそ、私の光――求めて止まなかった存在であったのだった。

2021/05/09(06:30)

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