偶に輝く目を褒める




 女は、斯く語る。
「あの人、いつもは死んだ目してますけど、たまぁ〜に光るんですよ。気のせいかもしれないし、見間違いかもしれない、はたまた目の錯覚かもしれないですけども。やるときゃやるんですよ。だって、何だかんだ言いつつも、最後にはいつも決まって助けてくれるし、格好良く決めてくれるじゃないですか、銀さんって」
 そうやって褒めている女の後ろで、ボサボサ天パ頭をボリボリと掻きながら歩いてくる、如何にもやる気の無さげな男が一人、女の方を向いて一言口を挟む。
「いや、俺、そんな出来た男じゃないから。そんな持ち上げたって出る物何もねぇから。…あー、まぁ、強いて出せるっつったら、読み掛けのジャンプぐらいしかねぇけど……」
 男は明後日な方向へ視線を投げながらそう言う。女は振り向き、男に向かって微笑み、こう言った。
「じゃあ、その読み掛けのジャンプでも良いので、ちょっとだけ見せてください。今週のジャンプ、まだ私読めてませんでしたので。あっ、何でしたら、一緒に読みません…? どうせ、この後お暇でしょう?」
 無邪気な顔をして手を差し出してくる女に対し、男は苦い笑みを浮かべて笑った。
「うん、まぁ…暇な事は暇なんだけど……そんな断定的に言われると、こぉ〜…グサァーッ! と刺さるっつーかさぁ〜…俺の言ってる事分かる??」
「事実なんだから良いじゃないですか。どうせ、お仕事何にもされてないんですから」
「いや、俺、此れでも一応働く事は働いてる身だからね!? 万屋に依頼が来ない限りは、かもしんないけどもよ!! 俺、こんなでもちゃんと働いてるからぁ!? 確かに、普段特にコレと言った事は何もしてないし、パチンコ行って金スッてるだけかもしんないけどさぁー……っ」
「ごちゃごちゃと御託は良いですから、早く一緒にジャンプ読みましょうよ。ほら、此処の席空いてますから!」
 女が自身の隣の席を叩いて男へ早く座るよう促す。
 男は再び何とも言えない顔付きになってから、深い溜め息をいて促されるまま女の隣へ腰掛けた。
「あのなぁ…アンタも女なら、もうちょい警戒心ってものを……、」
「せっかくですから、銀さんの音読付きで読み聞かせてくださいなっ」
「おいィィィーッ!! ちょっと、人の話聞いてるぅ!? 絶対聞いてないよね!? もう何なの、この子っっっ!! 幼気いたいけなオジサン捕まえて褒めてきたと思ったら滅茶苦茶ディスってきた上にガラスのハート抉ってきたんですけどォ!!?」
「貴方みたいな人にそんな脆い繊細なハートがあったとは初耳で驚きでした。あと、貴方程“幼気”という言葉が似合わなさ過ぎる人もそう居ませんよ。せめて、あと十数年近くは若くないと…。さっ、そんな事はどうでも良いんで、早くジャンプ読みましょ」
「ねぇ、俺、泣いて良い……? つか、もう泣くわ。涙出てるもん」
「泣くのは構いませんが、ジャンプ濡らさないでくださいね」
「俺よりジャンプのが大事とか、この女マジで酷ェわ……ッ」
 男の盛大なツッコミと切実な訴えは完全スルーされ、仕方なく男は女の言いなりに付き合ってやるのだった。


執筆日:2022.03.31

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