アダムとイブと君と




※当作品は、全てニワカ知識によって執筆した物です。
※尚、作者は、原作ゲーム未プレイ勢且つ実況動画等で得た知識のみで書いております。その他につきましては、現在放送中のアニメのみ履修済みです。
※基本的には、個人的な趣味性癖からなる完全自己満の俺得な構成です。原作に無い設定や捏造等が多分に含まれる可能性がありますので、苦手な方はご注意ください。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 生まれ落ちたその時、既に彼等は大人の見た目をしていた。けれど、彼等の内に宿る情緒などと言った部分は、赤子と大して変わらぬ程に幼かった。
 此れに、生まれながらに賢い男の片割れは、嘗て大昔の時代に生きていた人類達が遺した書物を手に学習を始める。男は、アダムという名らしく、兄を名乗った。
 其れからというもの、彼は兎に角書物という物を読み漁り、学びを通して確実に知識を増やしていった。
 此れを面白く思わない男が、一人居た。彼の弟らしき存在の、イブという男である。
 イブは先に生まれた兄に対し、情緒や感情がまだ未発達なのか、見た目に反し言葉遣いも幼稚で、言動共に行動も幼かった。長髪の男たるアダムの事を、“兄ちゃん兄ちゃん”と呼ばわり慕うところを見ても、随分と子供らしく思える。そして、唯一の肉親である家族みたいな関係性故か、親鳥の後を付いて回る雛鳥のようにずっと付いて回った。
 見た目が見た目故を気にしての事だろう、大人の姿に相応しく慎ましく紳士たる行動を取るべきだと説いたアダム。けれど、著しくもまだまだ成長途中のイブにとっては、理解の及ばぬ範疇であった。
 そうして、今日もまた日がな一日中、「兄ちゃん遊ぼうよ〜っ!」と付き纏われ、うんざりしていた。いい加減、兄離れをして、少しは自立して欲しいところである。
 不意に、アダムはあからさま盛大な溜め息をいて、口を開いた。
「はぁ〜……っ。イブよ、お前も良い年頃なんだ……俺の事は“兄ちゃん”ではなく“兄さん”と呼べと言った筈だが?」
「御免なさい……っ。でも、俺……早く兄ちゃ、――兄さんと遊びたくって……」
「全く、少しは大人しく出来ないのか……っ。俺が渡した本には、ちゃんと目を通したんだろうなぁ?」
「うん。言われた通りに、ちゃんと最後まで目を通したよぉ。でも、ずっと椅子に座って読書し続けるのも飽きちゃった。ねぇ、俺、一応お勉強はしたよ? だから、こんな退屈な事ばっかより、兄ちゃんと遊びたい……! なぁなぁ、兄ちゃあ〜んっ!」
 駄々を捏ねる子供みたいに愚図り始めた弟に、とうとう匙を投げてしまったらしい兄・アダムは、読んでいた本を一度閉じると、指を一回鳴らして或る者の存在を呼んだ。
「お呼びでしょうか?」
「律、すまないが……暫く弟の相手を頼めるか? あまりにしつこいんでな……可愛い弟とは言え、流石に鬱陶しくなる」
「嗚呼……いつもの“構ってちゃん”とやらを発動させた訳ですね。……して、私は、具体的には何をすれば宜しいので?」
「俺がもう良いと言うまで、イブの面倒を頼みたい。俺は少し遣る事が出来たのでな……。ちょっと出掛けて来る。その間、留守番と弟のお守りを任せる」
「承知致しました。其れでは、アダム様のお帰りまで、私がお守りする任を」
「あぁ、宜しく頼むぞ。では、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、アダム様。どうかお気を付けて」
「えぇっ……兄ちゃん、何処か出掛けるの? だったら俺も行くぅ!」
「駄目だ。俺は此れから一人だけで考え事を実行したいんだ。よって、お前は邪魔になるから、律とお留守番だ。最後まできちんと勉強するまで此処を動くんじゃないぞ。俺の言う事が分かったな? 絶対に付いて来るなよ。あと、俺の事は“兄さん”と呼べ」
「はぁい……っ、分かったよ兄さん……」
「律、しっかり見張りを頼んだぞ」
「畏まりました。アダム様からのご命令はきちんと果たします故、お任せください」
「うむ。では、今度こそ行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い」
 何処へ行くにも付いて行こうとする弟を振り切る為に召喚するは、自分達と同様に生まれた女型の機械生命体であった。彼女の名を、律と言った。
 何故、この世に生まれ落ちたかの由は知らぬが、求められたが故に彼女は此処に居る。
 他の機械生命体とは異なる存在の彼等は、似た者同士として居場所を分かち合って暮らしていた。
 尚、律の役目は、おもにイブの見張り及びお守りである。自分を必要として選択を与えてくれるアダムの存在を、しゅと定めて以来、主人と家来の如く付き従っている。
 彼女は、アダム同様に賢く、出来も良い為か、大抵の事は難無くこなしてみせた。故に、アダムは弟の相手に疲れ、面倒になると、その役目を押し付けるように彼の面倒を任せた。
 彼女は断らない。曰く、嫌ではないから断る必要性を感じないのだそうだ。この意思を、アダムは高く評価していた。だからこそ、事ある毎に彼女を側に置き、弟に接する時のように可愛がった。
「何で俺は置いてきぼりにするんだよぉう……っ」
「アダム様は、貴方様の成長を促す為に、お勉強に集中せよ――と、お達しなさったのでしょう。ですので、決して貴方様の事をお嫌いになった訳などではございませんよ、イブ様」
「其れ、本当……?」
「はい。私は嘘をきません。ですから、イブ様、元気を出してくださいませ」
「……うん、分かったよ律! 俺、兄さんが帰ってくるまで、勉強頑張る!」
「えぇ、その意気ですイブ様……! 其れでは、私はイブ様のお勉強のサポートをする為に、お茶を淹れて参りますね。私が戻るまで、良い子で待ってるんですよ?」
「はぁーいっ、分かってるよ律……!」
 彼女の言葉に元気を取り戻したらしいイブは、張り切って元気の良い返事をして机に向かい、分厚い書物を読む事に集中した。此れに笑顔を浮かべた彼女は、少し離れた場所へ移動し、読書のお供にとお茶と軽食のお菓子を用意し始める。
 嘗て存在した人類が絶滅し、僅かな動植物が残る他は、機械生命体ばかりが蔓延るだけの世界となった今。旧時代の遺物となる物を集めて、嘗て存在した人間のように振る舞う彼等である。
 機械生命体故に、本来であらば食事の必要など無いのだが、人に似せて生まれた姿だからこそ人の様に……との思いを込めて。彼女は、主に仰ぐアダムより教えられた事を律儀に覚え、実行に移していた。
「ただ本を読むだけではつまらないでしょうからね。読書のお供に、一杯のお茶は如何ですか?」
「わぁっ、有難う律! 何だか甘くて良い匂いがするけど……此れは何て言う飲み物?」
「“アップルティー”という紅茶の種類の飲み物で、嘗て人間達が作って飲んだとされる物だそうですよ。名前の通り、林檎を使った紅茶だそうで、甘い香りは其れからでしょう。冷めない内にどうぞ」
「律は、兄さんと同じで色んな事に詳しいよね!」
「基本的な知識はアダム様より賜りましたが、その他の知識については、全て書物に書かれた情報から得た物に過ぎません」
「そっかぁ。ねぇねぇ、このお皿に乗った、ふわふわとした真っ白い三角形の物と小さな塊達は……?」
「ふわふわとした真っ白の三角形なる物は、“サンドウィッチ”と言う食べ物で、おもに軽食の類で人間達が食していた物になります。真っ白な物は、“パン”なる物で、中に具材となる食べ物を挟むからこそ“サンドウィッチ”との名の付く食べ物であるようです。小さな塊達と称された物は、所謂“ビスケット”や“クッキー”と言った類のお菓子になります。何方も紅茶をお供に食すと良いそうですので、小腹を満たすのに丁度良いかと思ってご用意致しました。お気に召して頂けましたでしょうか……?」
「俺の為に色々用意してくれて有難う、律〜! 早速食べてみるよ! んっと、どっちが良いかなぁ〜……? う〜ん……取り敢えず、この食べやすそうな一口サイズの“クッキー”ってヤツにしようっと!」
 分厚い本を片手に、クッキーを一つ口に放り込んだイブは、じっくり咀嚼した後、破顔して彼女の方へ振り向く。
「美味しい! コレ、とっても美味しいよ律!」
「ふふっ、まだまだ沢山ありますから、慌てずごゆっくりとお楽しみください。あぁ……あと、喉を詰まらせないように、定期的に水分を取る事もお忘れ無きよう」
「うんっ! 分かったよ律! ん〜っ、小っちゃいのが逆に食べやすくて良いね、コレ! 今度は、“サンドウィッチ”の方も食べてみよう……っ!」
 子供みたいに無邪気に喜ぶ彼の様子に、彼女は微笑ましげな笑みを湛えて、すぐ側に椅子を持ち寄り腰掛けた。特に用事が無い限りは、イブの側を離れないが為だ。
 兄と同じようにか、もしくは、其れ以上に優しく寄り添う彼女の事を、彼は姉や其れに近しい存在の如く慕っていた。今この時も、自分を気に掛けて側に付いていてくれる事に、嬉しく思っていた。
「んふふふっ……俺、律の事だぁ〜い好き! 律は?」
「そうですね。私も、イブ様の事は大切で、かけがえの無い存在だと思っておりますよ」
「えーっと……つまりは?」
「好き、という事になるのではないでしょうか……? 私は、あまり自分の感情等について、上手く理解が出来ておりません故……イブ様の満足の行く答えになっていないかもしれませんが」
 好きや嫌い等といった感情は、本来ならば、自分達には必要の無い物であると認識している。けれど、其れを人間ではなく、“機械生命体”だからというのを理由に決め付けるのは、些か早計であるとアダムは言った。感情を持つ事もまた、我々が特別な存在として生まれたが故の事であると。だからこそ、無理に抑える必要は無いと教わり、今に至る。
 俯き加減で言った彼女の言葉に、イブは意に介した様子も無く、純粋な感想を口にした。
「好きなんだったら良かったぁ〜! 律に嫌われたりなんかしたら、俺、悲しくてきっと泣いちゃうもん。嫌われてないんだって分かってホッとした! 俺ね、兄ちゃんの事も勿論大好きで大事なんだけど、律の事は其れよりももっと大事で大好きなんだ! だから、いつか俺が兄ちゃんみたく格好良い男になれたら、その時は、律の事お嫁さんに貰っても良ーい……?」
「えっ……私を、お嫁さんに、ですか……??」
「うんっ! だって、俺、其れくらい律の事、大大大好きなんだもん……っ! えへへぇ〜っ、俺だって遣れば出来る子だもんね……! 頑張って格好良い大人の男になるから、待っててよ!」
「…………ハ、イ……ッ、私なぞがお相手で宜しいのでしたら……慎んでお受け致しますね…………っ」
 半ば呆然としながらの返事を返した彼女。しかし、其れに満足したらしきイブは、勉強モードへ切り替えたのか、其れから暫くの間は読書に集中するのだった。
 一人、ぽつねんと手持ち無沙汰気味となった律は、上の空な空気になりながら、アダムの帰宅を待った。
 そうして、用を済ませて帰ってきたアダムを、彼女はいつも通りを装って出迎える。
「只今戻った。イブの面倒と留守番をこなしてくれて助かった、律」
「あっ……お、お帰りなさいませ、アダム様……!」
「うん……? 何やらいつもと様子が異なるようだが、どうした。俺が不在の間、何かあったか?」
「いえっ、大した事では無いのですが…………その、アダム様が居られない間、イブ様から……えと、所謂求婚なるものを受けまして…………!」
「キュウコン……? 其れは、もしや……好き合う者同士が連れ添い合う為、つがいを組むという……アレの方の事を指すのか?」
「えぇ、はい、正しくその意味での求婚なるものです……っ」
 帰宅するなり、アダムは顔を覆い隠して天を仰いだ。次いで、事実確認の為に、再度同じ事を問う。
「確認の為、もう一度聞き直すが……其れは、あのイブ本人が言った事で合っているか?」
「はい。直前に、好きか嫌いかの感情についての論議後、アダム様の好きとは異なる意味で私の事が好きだと仰いました。その後に、何れ私を嫁に貰いたいから、其れまで待っていてくれ――と、口にされました……」
「……そうか。其れで、律は何と応えたんだ……?」
「えっと……イブ様が本気でそのおつもりなのでしたら、お受けするのもやぶさかではないと思い……そのままをお伝え致しました」
「つまりは……?」
「慎んでお受け致します、とオーケーする意思をお返事として返させて頂いた次第です……っ」
 はにかみを隠せない様子で俯きがちにそう告げてきた彼女に、アダムは何とも言えない複雑な面持ちで弟の元へ歩み寄って行く。此れに、兄の帰宅に気付いたイブが、書面より顔を上げて嬉しそうに綻ばせる。
「あっ、兄さんお帰りなさい! 俺、兄さんの言い付け通り、真面目に勉強頑張ってたよ! 偉い? 偉い?」
「そうか。きちんと良い子で待てた事は偉いぞ。ご褒美として、後で兄さんが遊んでやるから、一つ聞かせて欲しい……」
「うんっ、何々兄さん?」
「俺が出掛けている隙に、律の事を口説いたとの報告を受けたのだが……間違い無いか?」
「口説く……? あー、もしかして、大好きの続きのお話の事? 其れなら本当の事だよ! 俺は、兄さんみたく強くて格好良い大人な男になれたら、律をお嫁さんに貰うんだぁ〜! 律本人からもオーケーの返事貰えたから、お互い好き同士で両想いだよ、兄さん! だから、兄さんには俺が兄さんみたくなるまで応援して欲しい……っ!」
「イブ……お前という奴は……っ、何故そう段階を吹っ飛ばしてしまうんだ……!」
「え……に、兄さん? 大丈夫……?」
 唐突に頭を抱え始めた兄の様子に、心配になったイブは席を立ってまで側へ寄り、心配げに声をかけた。当事者たる律は、少し離れた位置で二人の様子を見守るも、敢えて空気を察して何も口を利かずに沈黙を保つ。
 ふと、徐に弟の両肩を掴んできたアダムが、ゆらりと面を上げるなり、鬼気迫る様子で迫った。
「良いか、弟よ……結婚を前提にお付き合いをするのは別に構わんし、俺も大賛成で諸手を上げて喜ぼう。しかし、プロポーズを受けたら終わりではない事を肝によぉく銘じておけ」
「う、うんっ……分かったよ、兄さん……。分かったから、一旦離れようよ兄さん。ちょっと顔が近過ぎるよ……? あと、兄さん顔怖いよ……っ」
「今、俺は大事な話の最中だ。遮るんじゃない」
「御免なさい、兄さん……っ。取り敢えず、何かよく分かんないけど、俺が何か一つ段階を飛ばしちゃったらしい事だけは分かったよ。反省するから、許してくれよ兄さん」
「よし……では、此れからお前が律の伴侶として相応しくなる為の訓練を行う。此れに付いて来れなければ、お前を伴侶として認める事は出来ん。故に、付いて来れるよう努力しろ。……良いな?」
「其れってつまり……兄さんも応援してくれるって事だよね!? 俺、頑張って付いていくから、見ててよね律……!」
「さぁ、俺の厳しい訓練に付いて来るが良い……!」
「分かったよ、兄さん!! 沢山遊んで沢山学んで強くなろう!!」
 そうして、アダムとイブ兄弟達は、訓練と称して激し過ぎる運動を始め、所謂ドンパチをやらかし始めるのだった。その様を終始眺める律は、何故か平常通りでにこやかな笑みを浮かべて、攻撃の当たらない場所に避けて一人佇むのであった。


執筆日:2023.03.20
公開日:2023.03.21

|
…BackTop…