性癖論争



※此れを書いた作者は、ニワカ知識にて執筆しております。
※基本的に二次創作から得た知識と捏造諸々で構成したお話です。
※細かいところには目を瞑る、もしくはスルーして頂けましたら幸いです。
※尚、履修済みアニメシリーズはAG/BW/BW2/XY/XYZのみ、原作ゲームは一切履修しておりません(一応、剣盾のみ実況動画を視聴済み)。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 たぶん、アレは、俗に言う“酒の勢い”とやらでやらかしてしまったのだと思う。でなければ、まず第一にやらかす筈の無い出来事。
 たぶん、確実に、酒が入って気が大きくなっていた故のやらかしだろう。気心知れた仲の良い面子との集まりで気が緩んでいたのだ。酒に酔った挙げ句、あろう事か己は、過激派ファンの多いドラゴンストームことナックルジムのジムリ・キバナに絡み酒してしまっていた。いや、何故。百歩譲って絡んだまでは許せたとしよう。酔っ払った勢いという事で軽く流せた。だが、問題は絡んだ時の話題の選択だった。
「ぶっちゃけ、図体細身の高身長且つ筋肉ムキムキで褐色肌ってヲタク視点から思うに要素盛り過ぎだと思うんですよォ。其処に更に八重歯ですよ? 鋭く可愛い犬歯あるだけでも萌えを禁じ得ないのに、敢えての八重歯とか……最早凶器としか言い様がありませんが?? ヲタクを殺しに掛かってきているとしか思えねぇーんですが、此れ如何に……っ」
「いや、突然何を言い出すかと思いきや、本当何て事をぶち撒け始めるんですか、貴女は??」
 絡んだ相手の反対側の席で飲んでいた今は元スパイクタウンのジムリであるネズが至極理解し難いものを見る目でツッコんできたのは覚えている。うん、貴方の反応が至極まとも且つ正解の回答だったよ。でも、当時の己は酒に酔ってまともな思考回路を持っていなかった。だから、控えめの遠回しにやんわりとその話題に対する制止を貰ったにも関わらず話を続けた。
「だって、そうじゃありません……? 褐色の肌にキラリと滴る汗に、バトル後の高揚で火照り赤らむ様子だとか、据え膳獲って食えと言わんばかりの絵面じゃないですか。控えめに言ってエロでしかない。此れは、非常にマズイ事ですよ。だって考えてみてもご覧なさいよ……その姿をガラル中の国民が画面越しに釘付けになるんですよ? 大変けしからん事案過ぎて考えるだけで頭パァンするわ」
「あ゙〜、貴女ソレたぶん頭イカれたんですよ。酒かっ喰らってないで病院行ってくだせぇ。ノイジーを撒き散らすのも大概にしろ」
「何でッッッ!!」
「今日の彼女はやけに饒舌というか、熱が入っているな? 見ていて面白いから良いが!」
 此方のウザ絡みする様子をキバナとは反対の己の隣でジョッキ片手ににこやかにそう感想を漏らしたのは、元チャンピオン兼バトルタワー・オーナーのダンデ氏だった。今改めて思い返しても、凄い面子と飲んでいたものだ。酔っていて其処まで気が回っていなかったけれども。
 止める事なく、寧ろ追加の酒を勧められたから調子に乗った己は、其れくらいに留めてやめときゃ良かったのに、緩んだお口は留まるところを知らなかった。端的に言おう。酔っ払った所為で普段はまともな理性のストッパーが緩んでいたのだ。原因は其処にあった。
「あのですねぇ。褐色キャラはエロスの塊だって事をもっと皆自覚した方が良いんですよォ!! だって見てください!? このヌメラみたいにふにゃりと溶けた顔……っ!! コレがバトルの時は好戦的な顔付きに変貌するんですよ!? 其れでいて八重歯がっつり見せ付けながら大口開けて吼えるんですよ!? どんだけ性癖盛るんだヤメロ確実に刺さって瀕死と化すからヤメロください、変態は此処ですジュンサーさん」
「何かさっきから聞いてれば、俺の事卑猥物みたいな扱いしてない……? 端的に言って傷付くんですけどぉ〜っ」
「は?? 何を今更……貴方は歩く卑猥物こと歩く18禁だろ。存在価値を見誤るな。貴方は既に存在そのものがエロの塊なんだよ。何も知らない無垢で純粋な兎が発情してくれたらどうしてくれる? テメェは一度画面の向こうの人間の理性を己が握っているんだという自覚をしろ」
「えッ、急にガチギレ起こすじゃん、コッワァ……」
「駄目だ、此奴。酒が入り過ぎてまともな思考回路残ってないんですよ。今の内に落とさないとマズイ事になりますよ、屹度きっと
「ネズの言うマズイ事って?」
「最悪、明日の朝刊の一面に飾られる事態になるかもしれねぇって言ってんですよ。スキャンダルはお断りでしょう?」
「あ〜、そういう……。でも、今更彼女止まるか? 具体的にどう止めるつもりなんだ?」
「さぁ? 首の裏狙って手刀でも落とせば案外すんなり落ちてくれるんじゃないんですかね」
「まさかの物理法での解決だった。落とすってそういう事だったのか……。でも、女性に対して乱暴な真似は紳士精神に反する行為だと俺は思うぞ?」
「なら、このまま放置しときますか? まぁ、どっちに転ぶにしろ、炎上するのはキバナだけですし。俺は面倒事に巻き込まれるのは御免なので」
 止まらぬ己とキバナ二人を挟んだ傍観者が止める・止めないの話で一時揉めていた事など露知らず。結局ブレーキ役と徹する者は誰一人として居なかった事で、現場は混沌と化した。
「褐色がエロいとか言うなら、逆に俺も言わせてもらうけどさぁ。肌の色白けりゃ良いってもんでもないんだぜ? 考えてもみろよ。夜明かりを落とした薄暗い空間の中にも関わらずぼんやり浮かび上がる真白い裸体のシルエットとか、どう考えてもソッチのがエロい」
「嘘でしょう……? キバナまでこんなくだらねぇノイジーな会話に混ざるんですか?? 信じられねぇッ……」
「なぁ、どうなのよ?」
「いやいや、ゼェーッタイ褐色のがえちえちのえちだからっ!! 色気の暴力は精神衛生上に異常を来たしかねないのでお控えくださァ〜い!!」
「はぁ!? ふざっけんなよマジで!! 真っ暗なベッドの上で映えるのは陶磁器のような白さだろッ!? 何なら、赤色が映えるのも白だわ!!」
「おう上等だわ!! そういう事なら聖戦だッッッ!! おら、掛かって来いやァ!!」
「良いぜ、望むところだ!! ソッチこそ、このオレさま相手に喧嘩吹っ掛けた事後悔するなよッ!?」
「うるせぇ!! 歩く卑猥物がほざくんじゃねぇ!!」
「おーおー、上等だゴルァ。テメェのその舌先噛み千切ってやらぁ゙ッッッ!!」
「お、落ち着け二人共……っ! お互い酔い過ぎなんだ! 一旦冷静になろう!! なっ!」
「じゃあ、ダンデはどうなんだよ?」
「え゙ッ」
 悪酔いしたのか、段々とヒートアップしていく口論に仲裁のつもりで止めに入ったところが、まさかの飛び火するという事態に。突然の其れに混乱の極みに立たされたダンデは冷や汗を垂れ流して二人を見た。
 一方、キバナから振られた突然の問に顰め面を作りつつも、数秒という熟考の末、難しい顔をして答えを口にする。
「ダンデも十分卑猥物ですね。筋肉ムチムチで幼女とか危険物でしかないので、近寄らないでおくに一票です。火の無いところに煙は立たない、ですから。でもまぁ、ぶっちゃけキバナよりかはマシかなって」
「何でだよ!!? ダンデは良くてオレさまは駄目なの!?」
「駄目なモンは駄目なの理解しろ」
「ふざけんなよ、クソが!! ソッチがその気なら俺にも考えがあるわ……ッ。悪ィけど、此奴の事借りてくぞ!!」
 何が琴線に触れたのか。そう言って自分達の飲んだ分だけの代金を叩き付ける勢いでカウンターへ置くなり、己の存在を荷物の如く肩へと担ぎ上げて店の出入口へと向かったキバナ。当然己は暴れ繰り回った。が、逞しく恵まれたあの体躯に対して己の攻撃力など、蟻VS象の図と同じく敵う筈もなく。広く大きなその背へ投げられる己の罵倒など毛程も意に介さぬ様子でパブを後にした。
 たぶん、ダンデ辺りは慌てて制止の声をかけていたものと思われるが、如何せん酒が入っていた所為で記憶はあやふやだ。ネズは我関せずを最後まで貫いたようで、荒々しい足音を立てて出て行く私達を止めなかった。
 そして、気が付けば、頭にラブの付くホテルで朝を迎えていたというのが此処に至るまでの流れである。此れが所謂ベタで定番な“朝チュン”という流れですね、把握。いや、何を冷静に把握してるんだか。少しは慌ててみせんかい馬鹿者。
 頭は酒の飲み過ぎによる二日酔いを起こしていてズキズキと痛む。だが、昨晩の悪酔いしていた時の記憶は朧気ながらはっきりと覚えていた。酒は飲んでも呑まれるなが鉄則だったというのに、最も最悪な朝コースだ。
 ずるりと気怠い体を起こして、ベッドの周りに脱ぎ散らかされた或いは剥かれて散乱した衣服の類を僅かに残った気力で掻き集め、何とかシャワールームへと引き摺り歩いた。そして、昨晩やらかした諸々の全てを忘れ去るように水に流し去る。下半身の痛みや違和感については、この際何も考えないようにしよう。深く考えたら正気を失う。何であの場で留まれなかったんだ、自分……ッ。悔いたところで後の祭りに過ぎないが、此れを悔やまずに居て堪るか。否、無理であろう(反語)。
 まだ熟睡中な彼に関して、どう対処したものか。取り敢えず、備え付けであったバスローブに着替えて部屋に戻る事にした。そしたら、ベッドの上で先程までスヤスヤと眠っていた筈の彼が起き上がっていて、今しがた部屋へと入ってきた己の方を見ていた。思わずビシリッとその場で固まってしまった。寝てると思った相手が起きていたら、そりゃ驚くものだろう。露骨に驚く姿勢を見せたからか、はたまた、抱かれた側である己が先に起きてシャワーを浴びていた事実に思い当たったからか、大層気まずげに視線を逸らされる。まぁ、昨晩の一件を思い返せば当然の話か。
 妙に悟った空気でスンッ……とした顔付きでベッド脇まで近寄れば、突然申し訳なさそうにこうべを垂れた彼が口を開いた。
「本っっっ当に御免……!! 酔った挙げ句変な絡み方して、あまつさえホテルに連れ込んで致しちゃうとか、俺サイッテーだわ……!! 本っ当に御免ッッッ!! この通りだから許して……!! 頼むから嫌わないでェ!!」
「いや……今回の事に関しては、どう考えてもお互い様なんで、どっちが悪かったとかないよ……。強いて言うなら、変な形で絡んだ私の方に責任があるわ」
「いやッ、アンタは悪くないって!! たぶん、抱かれる手前に抵抗しただろうけども、体格差から言って勝ち目無いのは目に見えてるし……! だから、結果的俺がアンタの事無理矢理手籠めにしちゃった流れな訳で…………。ッあ゙〜〜〜何っっっで段階すっ飛ばしちゃうかなオレさまぁ゙!! 好きな子との初めては酒抜きで超絶甘々に甘やかした上でのトロトロセックスするつもりだったのにぃ゙〜!! 最悪……オレさま一生引き摺るし冗談抜きで凹みそう……ッ」
「…………うん? どゆ事……??」
 ベッドの上で綺麗な土下座をかましながらの怒涛の勢いに、半分困惑しながら首を傾げて問えば、ムクリと頭を上げた彼が涙や何やらでベショベショになった顔でボソリと呟く。
「ッ〜〜……順序間違えちゃったけど、俺、アンタの事ずっと前から好きだったの! 出逢った時からの一目惚れだったの!! だから、いつか本当に告る時は夜景のよく見える窓際の席でディナーでも食べながら言うつもりだったの!! でも、恥ずかしくてなかなか勇気出なくて、ずっと言えなくて……っ。好きな気持ちが燻ったまま大きくなるばっかで……! 酒の勢いでイケるかな〜とかって考えてたら、まさかのヤッちまってて絶賛とてつもない罪悪感に駆られてる今ココ…………ッ」
「えぇ……まさかのまさかな流れで吃驚〜……ッ。というか、色んな意味で驚き過ぎて何と返すのが正解なんかも分からんのだが……」
「頼むから嫌うのだけはお願いヤメて切実にお願い見捨てないでぇ゙〜〜〜!!」
「取り敢えず、嫌わないでやっから顔拭きな? 物凄い事になってるよ……。ほら、ティッシュ」
「ゔぇ゙っ……有難う……スキ……ッ」
「ハイハイ、私の事好きなのは理解したから」
 今の状況、確実に立ち場が逆転している気がしてならないのだが、今更気にしてもしょうがないか。一先ず、合意の上かはさておき、何故か抱かれた側に介護されている図は如何なものか。普通乙女なサイドは此方側ではないのか。いざ自分がその立ち場になったらそんなものなのか。いまいち腑に落ちない心地がするが、どエライイケメン(しかも褐色キャラ)がメソメソと泣きっ面を曝しているのは、控えめに言って扇情的で困る。見るからにエロい以外の何物でもなくて、今まさに理不尽にも視界の暴力が己を襲っていた。
 じっと見過ぎても気まずいし、何なら昨晩のやらかし場面が一瞬脳裏を過ぎらなくもなかったので、露骨に視線を逸らしてしまった。すると、目の前で泣いていた男が面倒臭い彼女のソレみたいなムーヴを始めるから余計困った。
「そうだよなァ゙!! やっぱ無理矢理は嫌だったよなァ゙!! 御免なオレさま今すぐ死んで詫びるから其れで許してぇ゙〜!!」
「いや何も其処までしろとか言わないし、もう分かったからそれ以上泣くな!! 現在進行形で絵面が控えめに言って精神衛生上に悪い状況にある事を自覚しろッ!!」
「え゙…………嫌わないで居てくれんの? これまで通り、一緒に飲みに付き合ってくれたりしてくれる??」
「キバナがそうしたいなら……別に、満更でもないっていうか、キバナと居るの気楽で愉しいから……出来れば、これまで通りの関係で居たいんだけど……駄目、ですか?」
「は?? 無理、結婚しよ。責任取るついでに籍入れて正式に付き合おう」
「いや順序可笑しいわ。百歩譲って責任取る流れは分かるよ? でも、籍入れてからの正式なお付き合いの流れが意味不だわ。籍入れるよりお付き合いすんのが先だろ。結婚はその後だわ」
「えっ……俺相手で良いの??」
「此処までぶち撒けられて断われる女が居る? 居たらキバナの女共に殺されるわ。そうでなくとも、キバナにガチの彼女出来たってなった時点で刺されるわ。普通に事故だよ事故。いや、この場合、事件の流れか……?」
「やだ……俺の彼女が普通に受け入れてくれてて最高……ッ。有難う神様……オレさま生きてて良かった!!」
 そんなこんなでハッピーエンドな二人は正式なお付き合いを始める事になった。当然の事だが、昨晩の怒り心頭どころか視線一つで人を殺せそうな程怒髪天な目付きで己をラブホに担ぎ込んでいた場面は、通りすがりのパパラッチに撮られていて、翌日の朝刊の一面を飾ったのは言うまでもない。此れを切っ掛けに公式記者会見を開いたキバナは、記事に載っていた彼女とは正式にお付き合いしている旨を発表。晴れて人目も憚らずに恋人と居る生活を手に入れる事が出来たのだった。めでたしめでたし。
 それにしても、新聞記事を飾った一面の彼の顔が何とも言い難い顔をしていて笑った。
『おめでとうございます、キバナ。此れで晴れて公の場でイチャつけますね。もう下手に隠れなくても良くなったのは嬉しいでしょう?』
「おまっ……ネズ、この野郎、何で止めてくれなかったんだよチクショーッッッ!!」
『其処まで面倒見るのは御免です。ティーンでもあるまいし……。まぁ、精々大事にしてやってくださいね。アンタの愚痴聞くのは勘弁願いたいんで。にしても、酷い顔してますね、例の記事のアンタ。どんだけ飢えてたんですか?』
「ウルセェ!! こちとら酒も入ってて煽られた手前でキレそうだったんだよ!! 悪かったな!!!!」
『せからしかッッッ。電話口でもノイジーとか俺の鼓膜破る気ですか?? 兎に角、祝いの言葉は送ってやったんで、次式の予定が決まったら教えてください。特別にアンタ等がくっついたのを祝して歌でも歌ってやります。まぁ、期待はしないでくださいね』
「有難うな!! 式の日取り決まったらまた連絡するわ!! じゃあな!!!!」
 勢い良く切った電話の隣で、クスクスと笑う己の声にじわりと耳まで顔を赤らめる男が振り返る。
「もぉ〜笑うなよぉ……ッ!!」
「ふふっ……だって、ネズとの遣り取りの流れ読めて面白かったんだもんッ……ふは!」
「次煽ったら今度こそ本気で抱いてやるからな!! ゼッテェーオレさまが論破してみせっから覚悟してろッ!!」
「フッ、望むところじゃん。私に勝てると思うなよ?」
 不敵に笑い合ったのちに、彼が雄の顔で迫り落としに来るまで後5秒。


執筆日:2024.03.08
公開日:2024.03.09

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