05


Q.任務先で一緒に歩いていたら、背後に付いて歩いていた彼女に服の裾を掴まれました。

パターン:斎藤一の場合。


 レイシフト先での事でした。
警戒とは名ばかりの巡回レベルで見て回っていると、不意にちょん、と背広の裾を摘まんできたマスターの彼女に、彼は足を止めて振り返りました。


「どしたの、マスターちゃん」
「はい?」
「僕のスーツの裾、掴んだでしょ?何か用だったんじゃないの?」
「あー…いや、特に用とかそういう意図は全く無く…完全無意識的に掴んだものでした」
「あら、そうだったの?何も言わずに掴んできたから、僕はてっきり何か伝えたい事でもあって引き留めてきたのかと思ったわ」
「全っ然そういうのではなかったから気にしないで……って、変にスーツの裾掴んだまま言う事ではなかったね。御免。今、離すわ…シワになっちゃってたら御免ね?最悪、戻ったらアイロンでも掛けとくわ」
「いや、そこまでしなくて大丈夫だから…っ。どしたのよ…?何か元気無い感じ?それとも、僕には言えない事でお悩み中?」
「うんにゃ、そういう事でもないから…本っ当気にしないで」
「無理。此処まで頑なに拒まれちゃ逆に気になる」
「すまん…けど、言って笑わない?」
「事と場合による」
「じゃあ言わない」
「嘘だよ、御免って〜!笑わないから教えてよ、マスターちゃん!」


 “つれない事言わないでさぁ”と催促を受けて、彼女はもごもごと口を開きました。


「いやさぁ…こう、何も無しに歩いてるだけだと、何となく手持ち無沙汰になると言いますか…何か無性に落ち着かなくなって不安になるから、何かしらを掴んでいた方が落ち着くよな、安心するよな…――って訳で一ちゃんの服の裾掴んじゃいました、すみません」
「え…何ソレ、バチクソ可愛いだけなんだけど。マスターちゃんはソレを無意識にやっただと…?」
「だから御免て」
「何で謝んの?僕、別に怒ってないよ」
「だって、現在進行形で一ちゃんの顔地味に怖いんだもん…っ。何か知らんけど怖い部類の顔してるよ…?その顔、ガチなヤツやん、私知ってる」
「ん〜別に怒ってる訳じゃないって。ただ…このレイシフト終わったら、抵抗されようが否関係無しにお持ち帰りしようと考えてただけ」
「ヒッ…!?そんな琴線触れるような事しました私!?」
「引かないでよ、傷付くなぁ〜!お持ち帰りした後待ってる事っつっても、そりゃナニしか無いけど?」
「待って、今の何が一ちゃんのスイッチに触れたんだ、簡潔に理由を述べよ」
「あ?んなもん理由なんか無ェよ。アンタが迂闊な事さらっと口にするもんだから、滾って勃ってヤル気スイッチ入っちまっただけ。だから、責任取って」
「一ちゃんの性癖スイッチが分からん…ッ!!」
「俺だって別に欲情する気無かったわ。けど、今のは完全マスターが悪い。……っつー訳だから、帰ったら覚悟しといてね?マスターちゃん(はぁと)」
「ヒェ…ッ、私生きて戻ってこれるかな………っ」


 口を割ったら、何でか知らんけど欲情したっぽい一ちゃんにガチなトーンでお誘いを受けました。
マスターである彼女は、其れを聞いて内心ガクブルです。
でも、背広の端っこを掴む手は離しませんでした。
何故なら、此処で離したら相手を否定し拒絶する事と同義だからです。
彼女は其れを望みませんでした。
彼自身もその事を分かった上で先程の発言をした訳でしたが、其れでも尚離されない様子なのを見て、彼は「帰ったら絶対抱く…」と思うのでした。
ガチ恋ってやつですね!
わぁ、なんて情熱的熱烈っぷり…!
突然ガチに迫られた彼女は困惑気味のようです。
しかし、相変わらず拒絶反応は見せません。
良好なようです。
あと一押しかもですね!
彼もそう思ったのか、グイグイ押す事にした模様です。


「取り敢えず、こんなお仕事パパッと済ませて帰りましょ」
「そだね。其れには同意だわ」
「んで、帰ったらシャワー浴びて汗流して僕とハッスルしましょ」
「そーだね…、いや待て何つった?今危うく頷きかけたけど、汗流すくだりの後おま何つった?」
「よし、言質は取ったから覚悟しとけよ。帰ったら即行抱く。問答無用に抱く、良いな?」
「目がガチですやん…本気と書いてマジと読むタイプの目ェしてますやん?何がそんなにツボに嵌まったんか知らんけど」
「うるせぇ。須桜が可愛い事言うのが悪いし、可愛い事を平然と無意識に仕出かすのが悪い。今回同行するサーヴァントが俺じゃなかったら、他の奴に同じ事してたって事だろ?無理、許せんから、他の奴が手ェ出す前に俺が手ェ出して俺の物だって痕付けて見せびらかしてやるよ。逃げるなよ…?――ま、逃がす気もねぇし逃がさんがな」
「ヒェ…ッ、おっかない人に捕まっちゃったお、タスケテ……ッ」
「はい、マスターちゃんは僕から離れないでね〜!――一瞬でも離れようものなら、その場でブチ犯す」
「お巡りさん!コイツです!捕まえてください…!!」
「うん、僕がそのお巡りさんだから!マスターちゃんは良い子で僕に逮捕されちゃってね!大人しくしてたら酷い事しないから」
「そうだった。そういやこの人、元お巡りさんだったわ……。んでもって後半につれてのトーンがマジ」


 ビビって距離を取ろうものなら、逆に距離を詰められ、ガッチリと捕まえられるのでした。
コレは逃げられない。
挙げ句の果てに、ガチトーンで脅される始末。
“私、何かしましたっけ…?”と明後日な方向を仰がずには居られません。
しかし、現実逃避をしても、現状から逃れられる術はありません。
よって、彼女は大人しく彼に身を捧げる他無いのです。

 一応述べておきますが、二人はまだ恋人関係ではありません。
ですが、こうして軽口を言い合える程に心を許し合っている事は確かなのです。
故に、切っ掛けは何だったにせよ、彼は今回の件を一歩前進する為の足掛かりにしたようです。
少々どころかかなり強引ですし、一歩どころか五歩も六歩も先へ進む気ですけれども。
お互い好き合っている仲ならば、きっと問題は無いのでしょう。
『ファイトあるのみです!』と、心の中で応援する事に致しましょう。


「さあ〜こんなお気楽任務、ちゃちゃっと終わらせて帰りますよ〜、っと!」
「一ちゃん待って、気は確かか…っ!?」
「端っから正気ですけど、こちとら。…何、マスターちゃんは僕に抱かれるの嫌なの?」
「え、ぅ、や……別に、嫌って程ではないんすけど…心の準備というか、そんな訳でしてね…っ。出来れば、もうちょい待ってくれると有難いのだけど〜………っ、」
「無理、待たん。今夜抱く。絶対ェ抱く。ぐっちゃぐちゃのどろっどろになるまで抱く」
「意志が固い上に例えが具体的過ぎる…ッ!」


 マスターである彼女は既に真っ赤です。
発火しそうな勢いで燃えてます。
羞恥度はMAX超えて振り切れてますね、コレは。
其処で、彼は、ただの魔力供給という理由で受け取られる前に先手を打ちに行きます。
斎藤一、男を見せる気です。
いよっ、流石は一丁前の色男…!()


「其れくらい、僕はマスターちゃんの事大好きなんだよ。ガチな方でね。…あ、言っとくけど、今更拒否権なんて無いからね!一ちゃんからの愛情は返品不可ですんで、精々たっぷり甘やかされた上でどろっどろに愛されちゃってくれね〜!!」
「突然の告白or愛が重い…!!でも、嫌いにはなれないのよね!!存外私も惚れっぽかったわ、このチョロ助ェ…ッッッ!!」
「何だ、僕等両思いなんじゃん。だったらもう遠慮とか要らないね〜!帰ったらとことん抱き潰してやろ」
「死刑宣告かな…?」
「やだなぁ〜っ、愛故の反動ってヤツだってぇ〜!だから、マスターちゃんは大人しく僕に抱かれてね?」
「明日無事に起きられるかな、私…というかベッド壊れない?大丈夫?つーか私が無事で居られるかが不安だわ。絶対確実に飛ばされるぞ、意識……取り敢えず、何もかも初めてだからお手柔らかに頼みますよ、一ちゃん…?」


 否定はしない、つまりはオーケーされたという事ですね!
両者結ばれた瞬間です。
英霊である彼も内心で其れを理解したのか、一瞬だけスン…ッ、と表情を落とした後、ヘラリとした笑みに戻して答えます。


「………オッケー、頑張って善処するね!」
「ソレ、駄目なパターンの返事ですやん…明日の私、強く生きろよ」
「ちょっと、何もそこまで心配しなくても良いでしょ…!僕を何だと思ってるのよ!?」
「性欲というリミッターを外された体力お化けの獣さんかな…?」


 英霊は人並み外れた体力を持った怪物なので、事実ですね。
的を得た発言に、彼は再び声音低く呟きます。


「よし、マジで飛ぶ程気持ち良くイカせてやるから覚悟してろよ。俺無しじゃ生きられない躰にしてやる」
「下手な口利いてすんませんでした、だから許して、後生だから許して、頼むゥーッッッ!!」
「逃がさんからなァ?マ・ス・タ・ァ・ちゃん??」


 案外彼は嫉妬深い人だったようですね。
そのせいで、今まで抑え付けていた感情が溢れてしまった模様です。
最早、仕方がない事ですね。
愛されてしまったが故に受け入れる他ありません。
Good luck☆
今宵の彼女と彼に幸あれ〜!


A.彼のスイッチを押したらしく、今宵初めてを奪われる(抱かれる)事が決定致しました。

何か気付いたら俺の手は勝手に一ちゃん編を書いていたんだ…、とだけ述べて(言い訳して)おきます。一ちゃん尊い…。何であんな格好良いの…。軽率にハマって落ちた沼が深過ぎてやばい。控えめに言って存在がギルティー。顔も良ければ声も良いし見た目も良いの三点揃い。簡潔に述べてただのイケメン。筆舌でさえも語り尽くせない。日本語どっか行く。ただただ語彙力無くすわ…(遺言)。


執筆日:2021.10.03