04


Q.一緒にお出掛けした際、隣立って歩いていたら彼女が後ろ背に服を掴んで付いてきました。

パターン:クー・フーリン(キャスニキ)の場合。


 彼女に上着のポンチョを掴まれた時点で気付いてはいましたが、無意識で掴んだのだろうその仕草に、彼女にもなかなかに可愛らしいところがあるじゃないかと思った彼は、素知らぬ振りをして暫くの間そのままで居させました。
しかし、少し経った後、確信犯の如くわざとらしく今初めて気が付いたかのように見せかけて声をかけました。


「なぁ、嬢ちゃん」
「ん?何?術ニキ」
「さっきから何か気になって見てみたら上着掴まれてたんだが…何か俺に用だったかね?」
「へ…?――あ、」


 彼に言われて初めて気が付いたらしい彼女は、すぐさまパッと離して平然とした様子で謝ってきました。


「御免。何か気付かない内に掴んじゃってたわ」
「いやなに、良いって事よ。それよか…今の無意識だったのかい?」
「んー…っ、たぶん…?」
「たぶんて…お前さん、自分の事だろうよ…」
「だって、本当に意識無くやってた事なんだもん…。つい用も無しに服を掴んでたのは悪かったって」
「あ、いや、それ自体は別に構わねぇから良いんだけどよ。何か理由でもあったのかと思って訊いてみただけさね」
「理由…?理由ねぇ……うーん、何分無意識だっただけに特に理由とかも無いんだけどなぁ…」


 彼に問われて、改めて己の取った行動の意図を考え込み始める須桜。
彼は其れを何処か面白そうに見つめます。
そんな視線に全く気付かない様子の彼女は、思い至った事にピコンッ!と閃いたように顔を明るくさせました。


「あ…っ、もしかしたら、まだマスターになる前の事だけども…お姉やんと一緒に街中歩く時、よく鞄の紐とか後ろ背に服の一部を掴んだりして歩いてたから、其れが出ちゃったのかも…。姉とは仲が良かったからさ。よく二人でこうして並んで歩いたりしてたんだぁ」
「へぇ〜、そりゃ初耳だねぇ」
「何か変に癖付いてたのもあったから…たぶん其れが原因かもね。ほら、術ニキとはマスターになったばかりの始めの頃からお世話になってるというか、ずっと一緒に居る訳だからさ。そんなんで気心許せる相手だって感覚になって、つい掴んじゃってたのかも。“急に馴れ馴れしくすんなよ”とかって気を悪くしてたら御免ね?」
「ん?別にそんなんじゃねぇから気にしなくても良いぜ?寧ろ、嬢ちゃんにそこまで気を許してもらえてたんだなって知れて嬉しいしな…!」
「おわ!?っぷ…!……もぉ〜…っ、いきなり頭くしゃくしゃにしないでよぉ〜」
「ははっ、悪ぃ悪ぃ。ついアンタが可愛く思えちまってな!此れくらいのコミュニケーションは許容範囲内だろ…?許してくれや」


 彼女の反応が可愛らしく思えて仕方がなくなった彼は、徐に彼女の頭を撫で髪の毛をくしゃくしゃにしてしまいました。
いきなりの彼の行動に不満げな声を漏らした彼女は、唇を尖らせて頭を押さえ、頭上にある彼の顔を睨み付けながら乱れた髪を直します。
その仕草さえも可愛らしい女の子の其れで、愛らしさが溢れてしまったのでしょう。
心なしか、口許がにやけてしまっている彼は、其れを隠しもせずに彼女に言いました。


「話を聞くまでは、俺はてっきり嬢ちゃんが俺に甘えてきてくれたのかとばっかりに思ってたんだがねぇ〜。ちと予想が外れて残念だな。まぁ、嬢ちゃんから信頼されてると思えば、気分は良いけどな!」
「ちょっと、術ニキの中で私の立ち位置ってどうなってんの…っ!?」
「あ?そうだなぁ〜…お互いにそれなりに気心許し合ってる仲なのは勿論だが…、――こうやって近い距離に居ても自然なくらいの関係だとは思ってるぜ?」
「なんッ…!?ちょっ、か、顔近過ぎるよ……ッ!!い、いい一旦離れてぇ!!」


 おちゃらけた態度を取っていたかと思えば、急に躰の距離を縮め密着し、腰を抱いて顔を間近に寄せて声音低く囁いてきた彼。
そのあまりの色気と豹変っぷりに慌てた彼女は、テンパった声で彼の胸を押し返しました。
クー・フーリンという人物の中でも年嵩である彼は、こういった時、誰よりも色気を放つから慣れないのです。
そんな彼女の初な反応に気を良くした彼は、上機嫌な様子で顔を離し、身も離しました。
突然として近くなった距離と温度に、ポッと熱を灯して赤くなった顔を隠してそっぽを向く彼女は普通の女の子です。
 他と変わらぬ様子の反応を見せる彼女に、心なしか内心安堵した彼は、再び彼女の頭に手を置くとぽんぽんと優しく撫でました。
其れに対し、今度は彼女も文句は言いません。


「まぁ、今のは軽いジョークだが、今くらいのに近しい程アンタとは気を許し合ってるつもりだからよ。何かあれば遠慮せずに言ってくれや。さっきみたいに甘えるでも良し、別に何かしらの理由付けなくたっても甘えてぇなら甘えてぇって言って良いんだからな?アンタはマスターとしてその背には重過ぎる重荷を背負ってるんだからよ。偶には甘えるくらいしたってバチは当たらねぇぜ」
「術ニキ…」
「ほらよ、そんなシケた顔してねぇで何時もみたいに笑ってな?アンタに暗い顔は似合わねぇぜ」
「…うん、有難う術ニキ」
「良いって事さね」


 ヒラヒラと片手を振って気軽に答える彼に、思わず沈みかけた気持ちが軽くなったのか、改めて彼の上着を掴み直す須桜。
しかし、其れに何か思うところがあったのか、一度首を捻ってみせた彼。
 そして、何か思い付いたのか、上着を掴んできた彼女の手を優しく離させると、徐に自身の上着を脱ぎ、頭からスポリッと彼女に着させました。
唐突なその流れに驚いた彼女は、目をぱちくりしながら彼を見つめます。


「アンタ、俺の上着気に入ってんだろ…?暫く貸しといてやるから、着ときな」
「は、え…?や、まぁ、確かにコレ好きだし、気に入ってはいるけども…っ。唐突にどうしたの……?」
「うん?ソレある方が何か落ち着くのかと思ってよ。俺が着てんのを掴むよりか、自分で着てんのを掴む方が危なくねぇだろ?俺と嬢ちゃんとじゃ、必然的に身長差も体格差もあるからな。あとはまぁ…単純に俺が嬢ちゃんと手ぇ繋ぎたくなったから、っていう理由からかね。俺の服掴んでたら、利き手塞がっちまって手ぇ繋げねぇだろ?」
「あぁ…成程、そういう事ね。……って、今のを成程と納得して良いのか?」
「細かい事は気にすんなって…!何だったら、腰を抱いて歩いて帰ったって良いんだぜ?」
「其れだけは丁重にお断りさせて頂きます…!」
「ちぇ…っ、つれねぇなぁ」


 食い気味に返されたその返事に、一瞬だけ不貞腐れた表情を見せた彼。
だが、そんなこんな言いつつも素直に手を繋ぐ事は了承してくれた彼女に、ご満悦な様子でカルデアへと帰っていくのでした。


A.何故か掴んでいた上着を着せられた上に手を繋ぐ事になりました。

術ニキのあのヒラヒラとした上着、気になりますよね(笑)。彼お相手ならば、ちょっと甘い雰囲気になりつつも和やかな空気で最終的には手を繋ぐ流れになるかなぁ〜と思いまして。終始完全俺得でしかない構成で描きました。取り敢えず、クー・フーリンの中でも年嵩である彼のあの色気、どうにかなりませんかね…。


執筆日:2020.08.21
加筆修正日:2021.10.03