騎士王様と百合園


【Chapter.3_Class:Saber_Altria Pendragon(アルトリア・ペンドラゴン/剣)】


 次の餌食は誰にするかと吟味していたその時、野次馬の群れから一人の可憐な少女が前へと進み出て来て言った。
「アーチャーが負けたとあらば、私が出ない訳には行かないでしょう」
「セイバー!? だ、だが、分かっているのか? 此れはただのゲームに過ぎないのだぞ?」
「然れど、親しき者が負けたと聞けば、黙っている訳には行きません。此処は私にお任せして頂けませんか、マスター?」
「えっ……そりゃ、立候補してもらえるなら願ったり叶ったりだけど……大丈夫? 一応言っとくけど、アルトリアがこれから相手するの、須桜さんだからね? 同性相手で告白合戦になる訳だけど……その辺本当に大丈夫? 平気?」
「愛を語らい合う事に性別など必要あるでしょうか? そもが、これから行うは、“何方か一方が恥ずかしがる、または照れる等をしたら負け”というゲームなのでしょう? 即興劇エチュードのようなものと思って臨めば、行けます……!」
「か、格好良い……っ! 俺のセイバーが勇まし過ぎて惚れない訳が無い!!」
「待て待て、我が弟よ。まだ勝負すら始まってないんだぞ! ウチの子可愛いのは分かったが、しっかりしろ……!」
 初めての立候補制に戸惑いを隠せない藤丸は言う。
 念の為に言っておくが、此れはお遊びである。くだらない暇潰し程度のお戯れに彼女を起用するのは申し訳なさが先立つ。だが、アルトリア本人はやる気満々なようだ。恐らく、テンション的には、エミヤの仇を取ってやるつもりなのだろう。懇意にしている仲のセイバーことアルトリアの言葉に、彼は嬉し恥ずかしといった具合だった。
「私の方は、誰が相手だろうと構わないよ? 性別不問、誰であろうと負ける気はしないから。何時いつでも掛かって来てどうぞ?」
「では、私がお相手致す。構いませんね?」
「勿論っ」
「それじゃあ……Ready fight!!」
 互いに見つめ合って、はっけよーい。
 今回の勝負、先攻後攻の取り合いは水面下で行われたようで。先攻を取ったらしきアルトリアが先に打って出た。
「須桜、貴女は実を言うと大変可憐な乙女ですね? 時折見せる愛らしい笑みに、此方がとても心擽られている事に気付いていないのでしょう。けれど、貴女の純粋で素直なところが、惹かれて止まない美徳なのでしょうね。……我が愛しの姫君よ、我が剣に誓って、生涯貴女を守り抜くお許しを頂けませんか? 心より愛しております、須桜。どうか、私に貴女を守らせてくださいね?」
「わぉ……姫君と来たかぁ〜」
「お気に召されませんでしたでしょうか……?」
「私は全然オッケーだったんですがね? 周りにいらっしゃる外野の内数名の方々の方が、何か召されておられるご様子でして……控えめに言って大丈夫? ちゃんと息してる?」
「こんな騎士が居て、自分にそんな風に告ってきたと思ったら駄目だった……ッ。なんてさまになるの? 飛んだ騎士王様だぜ……! 最高かよ。エクストリームウルトラサンキューだわ」
「何て??」
「というかさ……一つ言って良い?」
「はい、何でしょう?」
「何でさっきからそんな即興に強いの皆……ッ。凄くない? 普通即興で此処まで喋れないって」
「マジ其れな」
 今更のツッコミ感満載であったが、確かに其れは事実であった。対応力高過ぎか。サーヴァント故に適応力の高さは必然であれど、其れに対抗出来る彼女は一体何者かとなってくる。まぁ、何者かと仮に問われれば、崩壊した世界で生き残った数少ないマスター権を持つ一人に過ぎない……とだけしか答えられないが。
 閑話休題。
 アルトリアの告白タイムに対する評価が一段落するなり、今度は須桜の番である。彼女は咳払いを挟んだのちに攻撃に出た。
「アルトリア……私の大切な騎士王、私の剣は貴女だけだと思っておりますわ。麗しき花園にて咲く一輪の気高き青い薔薇よ、どうかその命散る時は私もお側に置いてくださいませ……。我が魂は貴女と共に。愛しておりますわ、我がセイバー、アルトリア」
「そんな風に思って頂けたなんて、光栄な限りです……!」
「アルトリア……」
「須桜……」
「ストップストォーップ!! 二人共其処までぇーっ!!」
「ハッ……! いけないいけない……っ、危うく百合の園に頭までどっぷり浸かり切っちゃうところだった……!!」
「乙女の密談に水を差すだなんて、失敬しちゃうなぁ〜?」
「いやいや、そもそもがコレ、ただのゲームだから!! 何処が密談よ!? 完っ全野次馬という群衆を目の前にしての公開告白だったでしょうが!?」
「細かい事は気にしなぁ〜いっ!」
 結論を述べると、今回の勝負は引き分けに終わったのであった。何故ならば、何方共ダメージを負うどころか逆に互いを認め合う結果となったからである。いっそ、新たな扉さえ開きかけたくらいだ。
 何とも引き出しの多い事で、中々落ちてはくれない須桜であった。
 さて、次に餌食となる哀れな子羊は誰となるか――?
 答えは、Next soon☆

エミヤママンの骨を拾うのは、やはりセイバーことアルトリア(剣)でしょう……!という事で、今回のお相手はセイバーに務めてもらいました。彼女とガチで告白大会開いたら、何だかナチュラルに百合っぽい空気になりそうだなと思ってのお話構成でした。セイバーに真なるマスターと認められたら嬉しくない筈がないよね(断言)。次回もお楽しみに――☆


執筆日:2023.05.29
加筆修正日:2024.01.29
公開日:2024.01.29