カルデアママンの本気


【Chapter.2_Class:Archers_Emiya(エミヤ/赤弓)】


 其れは、カルデア内に在る食堂の一角で行われている勝負事であった。
 自分達だけではやはり歯が立たないと悟った双子姉弟は、ふと目が合ったサーヴァントへと目を付け、名指しで頼み込んだ。
「エミヤママ、君に決めたァ!!」
「はっ!? え、ち、ちょっと待ってくれ……!」
「今の流れ、一部始終漏らさず見てたでしょ!? 俺達を助けると思って、今だけ力貸して! お願い……っ!!」
「もし断るつもりなら、令呪を切ってでも力付くで従わせるのみ……っ!!」
「そんな事で令呪を使うんじゃない! 全く……っ」
「ねぇ、頼むよママァ〜!!」
「俺は君達のママじゃないんだが……仕方ない。我等がマスターのお願いとあらば、聞かない訳にも行くまい」
「という事は……?」
「次のお相手は、私が致すとしよう……っ」
「ヨッシャア!! CV:諏訪部が味方に付いたならコッチのもんじゃい!!」
「こらこら……っ、メタ発言は控えなさい。言いたい事は分からなくもないがな」
 斯くして、第一被害者ならぬ餌食となった哀れな子羊は、エミヤとなったのである。
 苦笑いを隠さない彼は、しかし、マスターからの頼みとあっては満更でもない様子で、改めて口を開いた。
「赤弓のアーチャーがお相手と来たか……。うーん、ぶっちゃけ手強くない? 急にハードル上げられた感半端無いんだけど」
「私が相手ではご不満かね?」
「いんにゃ。寧ろ、上等以上の事だよ。私には過ぎた相手なれど……手を抜くつもりは無いから、そのつもりで宜しく」
「心得た。では、何方から先に行く……?」
「アーチャー相手とあらば、私が先攻で頼みたい。よろしいかな?」
「構わない。其れで行こう」
「では〜? Ready fight……ッ!!」
 審判を務める双子の掛け声を合図に、本格的な告白バトル開始のゴングは打ち鳴らされた。火蓋を切った闘いは、如何なるものとなるか。野次馬として集まった者達は、皆固唾を飲んで勝負の行く末を見守った。
 今回の先攻は須桜である。彼へ挑むが為の戦法を決めたらしい彼女が臨む。
「エミヤ……私は貴方と対等の関係で居たいと思っているわ。どうか、私だけの弓兵アーチャーになってくれる……? 愛しているわ、エミヤ」
 先程までとは違い、一変して纏う空気を変えて真剣な告白をしてきた彼女に、一瞬だけ目を見開いたエミヤ。しかし、冷静沈着な態度を崩す事無く受け止めたようだ。
「……ふむ」
「その手の事には詳しそうだと勝手な偏見を抱いているのだけれど……アーチャーから見て、今のは如何でしたかね?」
「悪くはないと思う。先程の二人に対しての時もそうだが……普段の呼び方とは異なる呼称で呼ばれるというのは、何とも不思議なものだ。思わず、私もドキリとしてしまったよ」
「しかし、陥落はしない、という事か……っ」
「まぁ、まだ自分が攻撃に出る前に落ちるというのは、些か男が廃るというものだからな。耐えさせてもらったよ。……それでは、次は私の番だな」
 コホンッ、軽い咳払いを挟んだのちに、彼女と同様に纏う空気を改めた彼が口火を切る。
「……須桜、率直に述べて、君の事は非常に魅力的な女性だと思っている。だが、其れと同時に、引く手数多あまたである事も理解している……。己の立場諸々全てを承知の上で、告げよう。俺は、君の事を愛してしまっている……。叶わぬものと知っていながら手を伸ばす事を止めれぬ俺を、滑稽だと笑ってくれても構わない。だが……どうか、君を想う事を許して欲しい。……君が好きだ、須桜。愛している」
「ッ……!」
 カルデアキッチンを預かるママの本気だと、共に息を飲んで見守っていた双子は、自分達が言われている訳でもないのに顔を赤らめて聞いていた。
 一方、ゲームとは言え、ガチめの告白を受けた本人である須桜は、先程のエミヤ同様に一瞬目を見開いた後に、グッと堪えるように表情を歪めた。此れには、あからさまに揶揄からかいのモードを全開にした視線が刺さる。
「おっと……?」
「今のは流石に堪えましたか? 須桜さん??」
「ッぶねぇ〜……! 今のはちょっちやばかったわ……! CV:諏訪部は侮れんね……っ。声の良さも加味して落としに掛かって来るとは……流石はアーチャー、やるねぇっ!」
「いや、私は決してそういうつもりは無かったのだが……っ」
「だがしかし、私は耐えたぞ……!!」
「えーっ、其処は落ちてくれて良かったのにぃ〜!」
「残念でしたァ〜! アーチャー相手だろうと、そう簡単に負けたくはないんでね! 耐えさせて頂きました!」
「えーっと……結局、今の勝負はどっちに軍配が上がるの……? 引き分け?」
「いや……今回のは、私が負けだろうな。その……こう言っては何だが、後からじわじわと来て、だね……っ」
「あら、意外。リアクション的判定からなら、確実に私の方が負け判定食らってただろうに……。何で?」
 思っていたよりもすんなりあっさりと負けを認めた事が純粋に気になって問えば、彼は些か気恥ずかしげに答えた。
「私の告白よりも、君の“愛している”の言葉の力の方が強かったから……というのは、答えになっていないかな?」
「ふふっ……そうだったなら、嬉しい限りね。じゃあ、今回も私が勝ちという事で! 三連無敗の勝利〜! お相手してくれたアーチャーを称えて拍手……っ!」
「あぁ。此方こそ、君と闘えて光栄だったよ」
 互いを称え合う意味で握手を交わした二人。何だかゲーム関係無しに良い雰囲気漂う空気に、結果再び負け記録を更新した事が面白くない双子はブーイングを飛ばした。
「っちぇ〜! エミヤママンの本気の“愛してる”には勝てないと思ったのになぁ〜っ……読みが外れたか!」
「斯くなる上は……っ!!」
「まぁ、ゲームという事だから戯れ事とは分かっているが……君達が相手しているそのほとんどが、神霊等々高位なる人為らざる者である事を忘れないようにな? 偶々私の場合は、元人間なだけの英霊に過ぎないが故に何事も起きなかったが、他もそうとは限らない事をくれぐれも肝に銘じておくように。……分かったかね?」
「はぁーい!! エミヤママン!!」
 本当に分かっているのか分からない返事を元気に返して、次の候補へとターゲットを定めに行く双子に、エミヤは溜め息をきつつも、まぁ彼女が付いているからには大事にはなるまいと踏んで持ち場へと戻っていく。
 はてさて、彼女の次のお相手となる哀れな子羊や、如何に――?
 答えは、Next soon☆

赤弓のアーチャーことエミヤママンなら、真面目に口説いたら時間差でジワジワ来るんじゃないかと思いました……!鉄壁の鉄仮面かと思いきや、意外と感情表現豊かな彼の事なので、今回は勝ちを譲って貰いました(笑)。でも、たぶん本気で告白勝負仕掛けられたら勝てる気がしないのは気の所為ではないですな。次回もお楽しみに――☆


執筆日:2023.05.28
加筆修正日:2024.01.29
公開日:2024.01.29