Week end crazy Night!!

ダリューンの元へ歩み寄っていけば、心なしか疲れた表情の彼がげんなりしたように零した。


「……全く…っ、阿奴は何がしたかったのだ?」
『日頃溜めている恨みをぶつけたかったそうです(笑)。』
「はぁ…っ。しかし、おぬしも人が悪いな…。すぐに助け舟を出してくれるものかと思っていたのに。」
『それじゃあ、悪戯になりませんので♪』
「…仕返しされたいのか?」
『え。』


「あはは〜っ!」と他人事のように笑っていると、その頭上で聞き捨てならない言葉が彼の喉奥深くから低く発せられたのである。

思わずピタリと笑うのを止め、恐る恐る頭上にある彼の顔を見遣った。

すれば、案の定、予想通りの悪い笑みを浮かべたダリューンが此方を見下ろしていた。

「これはヤバイ…っ!」と直感的に感じたユニヴァナードは、その場から一歩退き、口許を引くつかせた。

ダリューンは逃がす気は無いとばかりに退いた分の距離を詰めて、彼女へ近寄る。

段々と焦り始めた彼女は、じりじりと更に後退していく。

彼は、それに対抗してにじりにじりと歩を進める。


『えっと、ダリューン……ッ?何でそんな笑みを浮かべて近付いてくるのかな…??』
「さぁ…?何故であろうな?自分の胸に訊いてみると良い。」
『ええぇ…っ。まっ、まさか…悪戯仕返すなんて事しないよね…!ね…っ!?ま、待て…待てよ?早まるな、ダリューン??落ち着け……ッ!?』
「先程の時も俺は似たような事を申した筈だが、おぬしは止めなかったであろう…?その頼み、丁重にお断りする。」
『ウソん…っ!?』
「嘘を申しているように見えるか?」
『あああ…っ!な、何をする気なのですか、ダリューン様…っ!?』


混乱して変な言葉遣いになってしまっているユニヴァナード。

ダリューンは至って冷静に返してきた。


「勿論、決まっておるだろう…?」


不敵な笑みで言い放った。

今やダリューンは、先程までナルサスに弄られていた時とは打って変わって余裕綽々なのであった。

逆に、彼女の方は立場が逆転してしまい、完全に余裕の無い状況である。

彼女は必死な表情でナルサスの方を見遣った。

勿論、「助けてくれ!」という意味を込めての視線である。

ナルサスはというと、再びニヤついた笑みを浮かべて二人の行く末を傍観するに決め込んでいる。

ちょっとばかしカチンッ、ときたユニヴァナードは、苛ついたが助けを求めて縋りの声を上げた。


『助けてナルサス…ッ!!』
「ん〜?この俺がか…?」
「どうする、ナルサス…?健気に助けを乞うておるようだが。応じるのか、応じないのか…何方を選ぶのだ?」
「…ふぅむ、そうさなぁ〜…。」
『え!?そこで悩んじゃうのかお前…!?』
「何だ、助けないのか?おぬしなら、てっきりすぐに助けるかと思っていたのだが…。」
「う〜ん、まぁ…俺も最初はダリューンと同じ目に遭っておるからなぁ…。助ける義理も無いかと。更に言うなれば、彼女を助けたところで俺には何の得も無い…っ!」


ズバァンッ!!と効果音が付きそうな程心無い見捨てた言葉をドヤ顔で言い放ったナルサス。

軽くショックを受けたユニヴァナードは、開いた口をおっ広げたまま顔色をサァ…ッ、と青くさせた。


『こっっっんの裏切り者がぁあああアアアアア…ッッッ!!』


必死の抵抗は虚しく、ダリューンの腕によって往なされる。

そして、とうとう追い詰められるのである。

目前に迫り来る彼から遠ざかろうとして、両腕を突き出していたのが仇となったのだ。

追い詰めたダリューンは、その細い手首を掴み、動きを封じに出た。

おかげで、ユニヴァナードは困惑した表情で彼の顔を見遣る事となる。

それは、必然的にも上目遣いとなって彼を見つめる。

しかも、何をされるのか怯えた表情の為、何処か支配欲を煽るようなものだった。

ダリューンは、悪戯な笑みを浮かべて、彼女へと仕返しの言葉を返す。


「覚悟するのだな、ユニヴァナード…?」
『うぅ〜…っ!ナルサスめぇ………ッ!!』
「もう逃げられぬぞ?」
『くっそー!!もうこうなったらヤケだ…!やるならやれ!!好きにすれば良いさ…っ!!』


観念した彼女はやけっぱちになり、してやられたとばかりに悔しげに大声で叫んだ。

彼女はプイッ!と顔を背けて、近過ぎる距離に赤くなりつつあるのを誤魔化した。

だがしかし、そんな事をしても彼等にはバレバレなのである。

ナルサスが口許を押さえ、笑いを堪えているのが分かる。

もう笑いたきゃ笑うが良いよ…。

彼女の心境は、そんな感じの空気であった。

彼の黒衣の騎士は、吸血鬼に見合う牙をちらつかせて笑っている。


「さて、どう仕返ししてやろうか?」
『お好きにドウゾ。』
「随分と従順なのだな…。」
『いや、もうこれ逃げらんないし…。終わるものならさっさと終わらせて帰りたい。』
「まさかのお家帰りたい発言…っ!!(爆笑)」
『黙れへぼ画家っ!』
「何だと…っ!?今、何と申したおぬし!?もう一回言ってみよ…!!」


泥沼の戦い(という名のくだらない口喧嘩)が始まる前に、ダリューンは咳払いを挟み、中断させる。

せっかくの雰囲気がぶち壊しor台無しである。

気を取り直して、ダリューンは彼女へと向き合い、真っ直ぐに見つめた。

少しずつ緊張し始めていく彼女の空気がひしひしと感じられる。

固くなりつつある彼女の耳元へ顔を寄せると、よく響く低い声で囁いた。


「それでは…俺からも言わせてもらおう。」
『う、うん…っ、どぞ……!』


近過ぎるが故に耳や首筋にかかる吐息に、思わずぎゅっと目を瞑るユニヴァナード。

クスリ…ッ、と小さく含み笑い、今にも血を欲して噛み付きそうな吸血鬼が囁いた。


「“trick or trick”だ、ユニヴァナード。」
『……………………、っえ?』
「ぶふ…っ!!……くくく…っ!あっはははははっ!!」


ダリューンの口にした発言に、一瞬間を空けて反応したユニヴァナード。

その後ろでは、何故か大爆笑に陥ってしまったナルサスが腹を抱えて笑っていた。

盛大に吹き出したナルサスは、彼の発言の何がそんなに面白かったのか。

腹を抱えて、笑い転げている。

当然の事ながら、言った張本人であるダリューンも「何が可笑しいのだ…?」と言いたげな視線で彼を見遣った。


「…一体、何がそんなに面白いのだ…?俺は普通に言っただけなのだが…。」
「ダリューン…!おぬし、言葉を間違えておるぞ……っ!!正しくは、“trick or treat”であろう…っ、ぷ…!くくく……っ!!」
「そう、なのか…?というか、おぬしはいつまで笑っているのだ…っ!!」
「あっはっはっはっは…っ!!…はぁ〜あっ!面白かった…っ。」


漸く笑いの治まったナルサスであった。

一方、彼女の方はというと…。

先の言葉の意味を知っているが為に、再び硬直していた。

思考停止(フリーズ)状態である。

口からは、譫言のような言葉が漏れていた。


『なんと…悪戯しか選択肢が無い、だと………ッ?』


ズガァンッ!という効果音を背景に鳴らすユニヴァナード。

心なしか、プルプルと身体を震わせているように見える。


「おや…?ユニヴァナード、どうしたのだ?今度は顔が青いぞ。忙しい奴だな、おぬしは…。」
「ユニヴァナード…ッ!?だ、大丈夫か!?」
『“trick or trick”…つまりは…“悪戯してください”、という意味の言葉しか選べねぇじゃねぇか………ッッッ!』
「あ、そういう事だったのか…。驚かせるな…。」


一瞬、かなり焦ってしまっていたダリューンは、彼女が何ともない事を知ると安堵の溜め息を吐いた。

もしや、自分のせいではないのかと思ってしまったからである。

取り敢えず、心を落ち着け直すと、改めて彼女を見つめ、その細い腰を引き寄せる。

滅多にない密着感に、感情が昂るダリューン。

反対に、火が出る程顔を真っ赤に染めた彼女は、吸血鬼という雰囲気に普段以上の大人の色気を感じて、息を詰まらせた。

彼は、先刻己が告げた言葉の通りにする為、手始めに腰を引き寄せたまま彼女の肩に手を置き、片耳に息を吹きかけた。


『ひぎぃあ…っ!』


擽ったさに甲高い声を上げてしまったユニヴァナード。

恥ずかしさで爆発しそうだと顔を俯かせて、彼からの悪戯に必死に耐えた。

彼女のあまり聞いた事の無い声を聞き、内心驚いたダリューンは動揺を悟られぬよう理性を抑えつつ、先程までの仕返しだと言わんばかりに彼女の白い肌の首筋に牙を立てた。


『い………っ!?…っふ、ン…ッ!』


まさか本当に吸血鬼の如く噛み付かれるとは思っていなかった彼女は、痛みに声を上げるも、それとは別の感覚を感じて小さく甘い吐息を漏らした。

最早、遠目から見れば、吸血鬼に襲われている狼な図である。

「これは面白いぞ…っ!!」と少し離れた場所である意味天才的な画家が、彼等を止める事もせずに筆を走らせていた。


『ふえぇぇ…………っ!(誰か助けてぇ〜っっっ!!)』


羞恥心MAXで脳内振り切れそうな程の恥ずかしさから、ユニヴァナードは心の底から願ったのであった。


◆END



↓おまけ


―あまりにも帰りの遅い彼女を心配して迎えに来てやったヒルメスとその部下一行は、馬に跨がったまま視線の先に捉えた光景を目の当たりにして、顔を青ざめさせていた。

近い内に彼女の夫となろう者であるヒルメスは、怒りに額に青筋を浮かべて馬から勢い良く飛び降りると、そのまま黒衣の騎士へと駆けていく。


「ぉおおのれダリューン…ッッッ!!」


勿論の事ながら、腰に携えられていた長剣は既に鞘から引き抜かれ、白刃を鋭く光らせて標的へと振り下ろされていた。


「ッ!?ヒ、ヒルメス王子…!?」
『ふわわ…っ!?わぷっ!!』
「貴様…っ!よくも俺のラルに手を出してくれたな…っ!!今すぐ斬り殺してくれる!!」


ラルこと彼女の元へ辿り着いた瞬間、忌々しきダリューンから彼女の身体を引き離し、己の胸へ引き寄せたヒルメス。

遅れてきたサームとザンデが、慌てた様子で一触即発な三人の元へ駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか、ラル殿ぉーっ!!」
「ご無事ですか…っ!?」
『サームさんっ、ザンデ…っ!皆来てくれたんだ!!帰るの遅くなっちゃってごめんね…っ!』
「いえっ、お迎え致すのは当然の事でございます!何れはヒルメス殿下の妃と相成る御方ですから…!!」
「ん…?ラル様、その首元の傷痕は…どうされたので?」
「ッ…!チィ…ッ!!裏切り者の分際で、忌々しい奴め…っ!!」
『あぁー…これは、そこに居る吸血鬼さんに今しがた噛み付かれた痕です。』
「ダリューン貴様ァアア……ッッッ!!!!」
『今気付いたけど、何でお前も狼コス…?』
「おぬしに合わせてだ。そんな事より、此奴を血祭りに上げてやる…ッッッ!!」
「どうもおぬしは相変わらず短気というか、癇癪が激しいようだな?(不敵な笑みでニヤリ)」
「(ブチィッ!!)絶対に許さぬ…っ!!今此処でその息の根、絶ち切ってくれるッッッ!!」
『ちょちょちょ…っ!?殺しちゃダメだって!気持ちは分かるが抑えろヒルメスーッッッ!!』


収拾が着かなくなりました(笑)。


◆終われっ!
加筆修正日:2019.07.09