惚れ薬team.アルスラーン

それは、とある買い出しへ出た日である。

偶々、皆の為の食材を買いに来たユニヴァナードとエラムは、大勢の人で賑わう市場に来ていた。

仲間が増えた分、必要となる食材の量も大変な量になるのだ。

本当は彼女一人が担当だったのだが…一人ではとてもじゃないが抱えきれないので、男であるエラムが付いていく事となったのだった。

ちなみに、エラムは潜入捜査をする訳でもないのに可愛らしい女装姿で買い物をしていた。

彼曰く、「此方の格好の方が何かと便利ですし、店の主人が安くまけてくれたりするので。」だそうだ。

まぁ、確かに目立つよりかはマシであるが…。

違和感が仕事しない程に似合い過ぎている為、どう返してやれば良いのか分からず、「…そうっすか。」としか頷けなかったユニヴァナードであった。

少しの間二手に別れて、それぞれ必要な物を買う事にした二人。

偶然、自分の買い出しを早く終えたユニヴァナードは、エラムを待つ間、一人ぶらぶらと店を見て回った。


「ちと、其処な娘よ…。」
『…はい…、私ですか……?』
「…うむ。其処に居わす、可愛らしい御仁じゃ…。その方よ、少し此方へ。」


不意に、老人のような嗄れた低い声に呼び止められ、その人物の方へ振り向いたユニヴァナード。

視線を向けた先には、暗灰色の衣を纏った怪し気な老人が居た。

呼び掛けた老人は小さく手招きし、近くまで来いと動作で示す。

フードを目深く被っている為、老人がどんな顔をしているかは分からなかったが、一応声を掛けられたからには受け答えなければ失礼に当たるだろう。

かなり怪しさ満点の、明らかに不審人物たる人であった。

そう思いつつ、彼女は老人の元へ歩み寄る。


『…えっと、私に一体何のご用でしょうか…?』
「此れを其方にやろう。」
『え……?な、何ですか、この小瓶は…っ。』
「魔法の薬じゃよ…。短きものではあるが、其方に幸せを運ぶ物だ。…ちょっとした果実酒と思えば良い。騙されたと思うて、貰うてくれぬか?」
『はぁ…。よ、よく分かりませんけど、せっかくのお申し出ですし、戴いておきます…。えと、ありがとうございます……?』
「…うむ。ではな、純粋な娘よ。」


得体の知れない何かを、半ば無理矢理受け取る事となった彼女。

謎の液体が入った小瓶を渡すと、用が済んだらしき老人はさっさと人混みの中へと進んで行ってしまい、行方を眩ましてしまった。


『………何だったんだ?あの人…。』


一人その場に取り残されたユニヴァナードは、ぽつりと呟きを零したのだった。

その後、買い物を終えたエラムと合流した彼女は、たくさんの荷物を抱えて仲間の待つ元へと戻った。

そして、買い出しを終えた際に出逢った奇妙なご老人の事や、その老人から貰い受けた謎の液体の入った小瓶の事を話した。


「…ふむ。見るからに怪しいな。」
『うん、私もそう思った。』
「じゃあ、何でこんなものを貰って来たんですか…っ!」
『いや、だって…逢ってイキナリ拒絶したら、失礼過ぎるでしょ…?』
「ユニヴァナード殿は、ちと優し過ぎるな…。」


話を終えると、一番に口を開いたのはナルサスだった。

顎に手を当て、興味深げに小瓶の中身を覗き込んでいる。

その横でエラムが呆れたように批難の声を上げた。

ナルサスと同じようにして小瓶の中身を覗き込んでいたギーヴは、彼女の方を見遣り、苦笑を漏らしていた。


『一体何が入ってるんだろうね…?コレ。』
「まぁ、ロクでもない物が入っているのは確実で間違いないだろうな。」
「もしかしたら、毒やも知れぬ…。安易に口にするべきものではないでじゃろう。」
『ですよねー…。まぁ、分かり切ってるからそうそう飲みませんけど。』
「それにしても…そのご老人は、ユニヴァナードに一体何の用だったのだろうな……?」
『本当、何だったんでしょうねぇ…?』


ダリューンに続き、ファランギースとアルスラーンが、テーブルの上に置かれた小瓶を見つめて思案顔で呟く。

貰い受けた彼女自身も全く分からず、首を傾げて唸った。

敵に追われるような身である者の集まりなので、皆真剣に思案していたのだが。

一人だけそうではない者が、面白げに何かを思い付き、徐に彼女の方を見遣った。


「なぁ、ユニヴァナード殿。そのご老人は、“飲めば幸せになれる”…とのような事を申していたのでしたよね?」
『ふぇ…?う、うん…そうだけど?』
「…ふむ。もしかすると…これは、なかなか面白いものが見れるやもしれませんな……っ!」


勿論、そんな人物はこのギーヴしか居らず、一人だけ怪しげな笑みを浮かべて何やら企んでいるようであった。

明らかに嫌な予感のしたアルスラーンは、ギーヴから距離を取る。

その企み顔に、彼の女神官はあからさまに眉を顰めた。


「おぬし…もしやじゃが、今良からぬ事を考えたのではあるまいな?」
「何を仰いますやら…。私はただ、この妙ちきりんな飲み物を誰か試飲して、液体の正体が何であるのかを確かめてみる必要があると思っただけですよ、ファランギース殿。」
『お前がやれよ。』
「言い出しっぺはギーヴ殿ですからね。」
「エラムは分かるが…ユニヴァナード殿まで……ッ!」


良からぬ事を企むギーヴに対し、辛辣な言葉を放つエラムとユニヴァナード。

彼女にまでそんな態度を取られるとは思っていなかったのか、軽くショックを受けるギーヴ。

皆、冷めた視線で彼から距離を置き、ジト目で見遣った。


「何故、俺にだけ皆そんなに冷たいのか…っ!?」
「…おぬしが信用に欠けるからではないか?」
「全く同感だ。」
「ナルサス卿にダリューン卿まで…っ!!酷いです!!」
『取り敢えず、其処の女たらしは放っておいて…。コレをどう処理するか考えましょうよ!』
「うむ、そうだな!」
「え…っ!ちょっ、殿下も冷たい…!?そして、ユニヴァナード殿ぉ!?俺はたらしではございませぬぞ…っ!!」


喚くギーヴを放り、再びテーブルを囲む彼女達。

相手にされなくなったギーヴは一人落ち込み、せめてもと彼女の隣へと立った。

置かれた小瓶へつい…っ、と腕を伸ばすと、光に翳し、中身を揺らし見た。

よく見れば、中の液体は、透明で微かに薄い桃色をしているようだった。

これはもしや…、と思い至ったギーヴは、徐に小瓶の蓋を開け中身の匂いを嗅いだ。


「…?何をしておるのだ、ギーヴ?」
「匂いを嗅いでいるのですよ、殿下。液体の色からして…少し心当たりがあったものですから、一応確認を。」
「中身が何か分かったのか…!?」
「で、一体何なのだ?」
「俺は嫌な予感しかせぬのだが…。」


問い掛けてくるナルサスに、ギーヴは少し勿体ぶった言い回しで、「まぁ〜そう慌てずとも、大した代物ではございません。」と言った。

その口調に不信感を拭えないダリューンは、顰めっ面でギーヴを睨む。

「殿下に変な真似をしたら即刻斬る…っ!」とでも言いたげな視線である。

一方ギーヴは、それをものともせずに涼しげな顔で、不意に彼女の肩を持つと…。


―何の前置きも無しに、イキナリ小瓶の口を彼女の口へと突っ込んだのだった。




『ッ、んぐ…っ!?』
「「あああああーっ!!?」」
「な…っ!?」


不意討ちで反応出来なかったユニヴァナードは、突然口の中に流れ込んできた液体を喉に詰まらせ、噎せる。

少年組は、それと同時に大声を上げて反応した。

ダリューンも同じく驚愕の声を上げ、ギーヴの仕出かした行為に目を剥いた。


「…まさかやるかも、とは思っていたが…本当にやってくれるとはな……っ。この阿呆め…!」


ナルサスは、予想はしていたのだろう最悪な成り行きの結果に呆れた溜め息を吐き、顔を覆った。


「ギーヴ…っ!何をやっているのだ、おぬしは……ッ!?」
「うわぁあっ、大変だ…!は、早く水か何かを用意せねば…っ!!」
「なぁに、そう慌てる必要はない。これは毒なんて大層な物ではござらんからな…っ!」
「そうでなくとも、女性である御方に何という事をしておるのじゃ…っ!!いつもはまだ甘く見逃しておったが、今日という今日は許さぬ!!覚悟せよ…っ!!」
「あ、ああ…っ、ユニヴァナード…!だ、大丈夫か…ッ!?」


ダリューンとファランギースはギーヴに詰め寄り、エラムは万が一の為に水を用意しに台所へ。

アルスラーンは慌てて彼女へと駆け寄った。

ナルサスは未だ顔を覆い隠したまま、沈没している。

その傍らで、ギーヴが黒衣の騎士と美女に胸倉を掴まれ、殴られたり足蹴にされ、床に転がる。

そんな光景を背景に、アルスラーンは不安げに急に無言になった彼女の顔を覗き込んだ。

すると、ゆらりとした緩慢な動きで頭を上げたユニヴァナード。

彼女の目に留まった人物が、いつにない色で瞳に映り込んだ。

さて、その人物とは…?


※ここから、分岐ルートです。
エンドは、それぞれのルートに分かれてお話が進みます。
ルートは全部で五人分。
順に…アルスラーン、エラム、ナルサス、ギーヴ、ダリューンの分岐となります。
各ルートはスクロール、もしくはページジャンプにてお進み下さい。
では、続きをどうぞ!↓



【第一ルート:アルスラーン殿下】


「ユニヴァナード、大丈夫か…?何処か可笑しなところや変わったところはあるか…っ?」


顔を上げた彼女の目の前で、慌てふためく彼が居た。


『……………。』


彼女の瞳に、彼の姿がはっきりと映り込む。

次の瞬間、彼女はアルスラーンに正面から抱き付いたのだった。


「…、え……っ!?」


突然勢い良く抱き付かれた彼は、驚きつつも倒れ込まないように足に力を入れ、踏ん張る。


『殿下、好き好きぃ〜っ!』
「……………へっ?」
「は………?」
「………えッッッ!?」


抱き付いたユニヴァナードは、ふにゃんと酒に酔ったような顔でイキナリ告白をぶちまけた。

当然の事ながら真っ赤になるアルスラーンは、遅れて反応し言葉を発した。

先程までギーヴを嬲っていたダリューンは呆気に取られ、呆然と口を開いている。

水を取りに行っていたエラムは、その場に遅れてやって来て状況を見遣ると、間を空けて顔を顰めた。


『殿下可愛い〜…っっっ!もうマジ天使!!my angel…!!』
「え…っ!?あ、あのっ、ユニヴァナード!?き、急に一体どうしたのだ……っっっ!?」
『ふにゃぁ〜んっ、髪の毛サラサラ〜!気持ちぃ〜〜〜っ♪』
「えっ!?ちょ、あの………っ!ダ、ダリューン!助けてくれ…っ!!」


ユニヴァナードはアルスラーンに抱き付いたまま擦り寄り、むぎゅぅ〜!とした状態のまま彼の髪に頬擦りをした。

密着した柔らかい身体にアワアワと顔を真っ赤に染めたアルスラーンは、テンパった様子でダリューンに助けを求めた。


「これは、一体………っ?」
「惚れ薬の効果だよ、アレは。」
「惚れ薬だと…?」
「あぁ、そうだとも。やたら甘ったるい匂いがしたし、薄桃色の液体だったからな。もしやと思っていたが…やはり正解だったようだ!」


エラムまでもが呆然と立ち尽くす中、いつの間にやら復活したギーヴが彼女の飲んだ謎の液体の正体について明かす。


「惚れ薬なんてものがあったのか…?」
「はい、噂には聞いておりましたので。何やらソレは、飲んだ者を恋の虜としてしまうとか…。確か一説では、一番最初に目にした人物を好いてしまう、とかいう話だったかと。…まぁ、俗な代物でありますな。」
「何でそんな得体の知れぬ物をユニヴァナードなぞに…っ!」
「さぁ…?それは俺も知る由の無い事だ。この液体の入った小瓶を渡してきたご老人は、“誰ぞ好いている者が居れば試してみろ”、とでも言いたかったんですかねぇ…?」
「…中身の正体は分かりましたが、その惚れ薬とやらの効果はいつまで効くのでしょうか…?」
「恐らく、マチマチだろうなぁ…。ちゃんとした調合で作られた物かも分からぬ故…はっきりとした時間は分からん。…嗚呼、それにしても羨ましいですぞ、殿下…っ!」
『殿下可愛い…!殿下らぁ〜ぶ!』
「早く元に戻って欲しい…っ!」
『ん〜っ!好き好き大好き〜っ!めっちゃ可愛ぇ〜…♪』


すりすりと甘えたように彼へと抱き付くユニヴァナードは、普段彼女が抑えているオタク成分がはっちゃけてしまったようだった。


―30分後…。

薬の効果が切れた彼女に先程までの事を話すと、彼女は慌てて勢い良く土下座して彼に謝った。


『すみませんすみません、本当に申し訳ございません…っ!!軽々しく殿下に抱き付くなんて、なんて畏れ多い事を……ッ!!飛んだご無礼をお許しくださいませ、殿下ぁーッッッ!!』
「も、もう良い、ユニヴァナード…。頭を上げてくれ…っ。アレは不慮の事故であったのだから……。」
『しかし、大変失礼極まりない事をしてしまったのは事実…!頬擦りまでしてしまっていただなんて…、幾ら薬の効果で理性がぶっ飛んでいたとは言え、殿下ファンにぶった斬られる…ッ!!』
「私は、寧ろおぬしに抱き付かれてちょっと嬉しかったから、別に良いのだ…っ!」
『え………っ?』


慈悲深き殿下の美しいスマイルが炸裂したのだった。


【殿下ルート:END】


【第二ルート:エラム】


彼女が顔を上げた時、丁度エラムが水を手に戻ってきて、視界に入るところだった。


『………エラム…、』
「…ユニヴァナード?」


ボソリ、と小さく呟くと突然駆け出し、何故かエラムへと勢い良く抱き付いた。


『エラムゥ〜っ!!』
「わ…っ!?ユニヴァナード様…っ、ど、どどどどうされたのです……ッッッ!!?」


慣れぬ事に、エラムは盛大に言葉をどもらせた。


「何が起きているのだ…?」
「惚れ薬の効果ですよ、軍師殿!」
「は…?惚れ薬?」


漸く事のショックから立ち直ったナルサスが、現状況を目にして呆然となる。

其処へ、俊足でナルサスの元へ現れたのは先程までボコられていた筈のギーヴだった。

いつの間に復活したのか…。


「は、離れてください、ユニヴァナード様…っ!!恥ずかしいですよ!!」
『やだ…!!エラムは私の天使だもん!!絶対離さなぁ〜い!』
「ナルサス様ぁ〜!!お助けくださいぃ…っ!!」


心の内では好いている者に抱き付かれては堪ったもんじゃないと彼女の身体を引き離そうとするが、なかなか離れてくれない。

慌てた末に、持って来ていた水の入ったコップは手から落ちていた。

エラムは今までにないくらい顔を真っ赤に染め、己の主人へ助けを求めた。


「何故、ユニヴァナードはああなってしまったのだ…?」
「それは、惚れ薬を飲んだからでしょう…。惚れ薬の効能は、飲んだ者を虜にし、一番最初に目にした者を好いてしまうというものです。あぁ、羨ましい…っ。」
「成程…。では、薬の効果が切れるまではあのままであると…?」
「左様。その通りでござる。」
「そんなぁ…っ!では、私は薬が切れるまでこのままという事ですか!?」
「そういう事になるな。まぁ、それまでの辛抱だ、エラムよ。」
「うぅ…っ!仕方ないですね………ッ!!」
『エラム、好きぃ〜!』


冷静に返したナルサスに、エラムは溜め息を吐き、抵抗を止める。

その様子を、ギーヴは羨ましそうに眺めていた。

アルスラーンとダリューンは互いに顔を見合わせ、どうしたものかと苦笑いを浮かべた。

正気を失っている彼女は、そんな周りの空気など知らん顔で、ふにゃんとした表情で嬉しそうにエラムに抱き付いている。

恥ずかしがっている彼を見て、不意にユニヴァナードは彼の頬へと口付けた。


ちぅっ♪


「おや、大胆な事じゃな。」


ファランギースが微笑ましそうに事の成り行きを眺めた。


「ぅわぁああ………ッッッ!!!??ユニヴァナード様、何を…ッ!?」
『ん…?今、ほっぺちゅうしたの。エラムったら照れちゃって可愛い!』
「ッ…!!(地獄だ………ッッッ!!)」


年頃の少年には刺激の強い攻めである。

ユニヴァナードはひたすら楽しそうに笑っている。

宛ら、小悪魔女子のようだ。

エラムは、皆に見られているという状況に、羞恥で爆発しそうになっていたのだった。


―30分後…。

惚れ薬の効果が切れた彼女は、ナルサスや殿下達から事を聞くと、顔を赤らめて焦りエラムへ謝った。


『ごごご、ごめん、エラム…っ!!薬の効果だったとは言え、抱き付いたりなんかしちゃって……っ!!』
「いえ…、お気になさらず………っ。」
『しかも、ほっぺにちゅうまでしちゃうなんて…!!うわぁーっ、自分は何やらかしてんだぁー!?』
「その…、私は、もう気にしておりませんから…っ。非常に申し上げづらいのですが…っ、それ以上は何も言わないでくださると嬉しいです……ッ!!」
『ご、ごめんね!オタクの部分が暴走しかけて…!!』
「まぁ、そう気に病む事でもないかもしれぬぞ、ユニヴァナードよ。」
「うむ、ナルサス卿の言う通りじゃ。エラムも、おぬしに抱き付かれたという事に満更ではなさそうであったからな。」
『…え?』


大人二人の視線が何故かやたら温かなものなのであった。


【エラムルート:END】