惚れ薬team.アルスラーン

【第三ルート:ナルサス】


彼女の瞳に映り込んだのは、まだグロッキー状態に陥っている軍師の存在であった。

目の前に居たアルスラーンは目に入らなかったのか、横を擦り抜けて駆け出す。

そして、ナルサスの元に辿り着くと、勢い良く抱き付いたのだった。

その光景に、その場に居た誰もが驚き唖然となり、開いた口が塞がらなかった。

ショックを受けて項垂れていたナルサスは、突然抱き付かれた事に驚き、抱き付いて来た本人である人物を呆けた顔で見遣る。


「…え、あ…ユニヴァナード………?」
『ナルサス…っ、好き……!』
「「「ぇええええーッッッ!?」」」
「いや、無い…!!それは無いだろう!?ユニヴァナード…ッッッ!?」


彼女が突如発した言葉に、楽士と少年等が驚きの声を上げ、友であるダリューンが異議有りと異を唱えた。


「……………は?」


しかし、言われた本人であるナルサスは言葉の意味が理解出来なかったとばかりに首を傾げた。

心なしか、冷や汗が垂れている気がするが、気のせいだろう。


「な…何故、俺なのだ…?」
『私はナルサスが好きなの…!ナルサスが良いの…!!』
「……すまんが、エラム…俺は頭でも打ったのだろうか?」
「ナルサス様、しっかりしてくださいませ…ッ!!」
『ナルサスが好き…!その綺麗で美しい淡い金の髪に、細く伸びた繊細な指先。そして、鋭く先を見通す澄んだ紫紺の瞳…!何よりも素晴らしいのは、稀なき才のある芸術的魅力だよ!!』
「よし、私の恋人に相応しいのはおぬしだ。」
「「ナルサスゥゥゥ(/様ァァァ)…ッッッ!!」」


彼女が、彼のこの世における最も最悪な欠点を素晴らしき才だと褒めると、彼は彼女の両肩に手を置いて真顔で納得したように頷いた。

それに対して、アルスラーンとダリューン・エラム等が声を揃えて叫んだ。

楽士・ギーヴは、魂が抜けたように精魂尽き果てた顔をして立ち尽くした。

ファランギースは、少し離れた所で皆の様子を静かに見守って(傍観して)いる。


「おぬしは、俺の事をそんな風に思ってくれていたのだな…っ。ありがとう。御礼に、おぬしをモデルに絵を描いてやろう…!何、遠慮はいらん。喜んで受け取るが良い!」
『わぁい!ナルサスったら素敵♪一生付いていくよ…っ!!』
「そうか。なら、ユニヴァナードよ。これからおぬしは俺の伴侶だ。…うむ、最高の妻であるな!」
『ナルサス…!!』
「ユニヴァナード…っ!」
「ちょ…っ!お二人共、ちょっと待ってくださぁああああいッッッ!!」


最早、ユニヴァナードが誰おま状態に陥っている隣で、混乱も他所にキラキラとした紳士オーラで彼女に微笑む某・軍師。

その侍童・エラムが、制止の為に二人の間に割って入る。


「ナルサス様…!!婚姻を結ぶには、きちんとした順序を踏まねばなりません!!それに、ユニヴァナード様は惚れ薬の影響で一時的にナルサス様に惚れてしまっているのであって…!本当はどうお思いか、分からないではありませんか……っ!?」
「…エラム、主人が取られるとあって嫉妬か…?安心せよ、おぬしの事は、成人するまでは俺がきちんと責任を持って見守るつもりだ。」
「そういう事ではなくてですね…っ!ユニヴァナード様も、まだ付き合ってもいないのにくっつき過ぎです…!!少し離れてくださいっっっ!!」
『え〜…っ、やだ。ナルサス暖かいんだもん…っ。』
「ユニヴァナード様ぁ…っ!!」
『ねぇ〜、ナルサス♪』


満足気に頷いたナルサスは傍らで早速筆を握ると、隣でふにゃんと微笑む彼女を描き始めた。

もう誰も付いていけない空気であった。


―30分後…。

薬の効果が切れた彼女が、彼女の為にとナルサスの描いた絵を見て悲鳴を上げたのは言うまでもない…。


『ぬぅわんじゃこりゃぁあああーッッッ!?』
「おぬしを描いてやったのだ。なかなかの出来だろう?」
『分かるかぁ…ッ!!つか、これが私なのか…!?最早誰おま訳ワカメ状態だろ!?こりゃピカソも吃驚だわ…ッッッ!!』
「うん…?ピカソ?誰だ、それは…。俺より凄い画家か、誰かか…?」


【ナルサスルート:END】


【第四ルート:ギーヴ】


彼女の目にはっきりと映り込んだのは、なんとあの楽士・ギーヴの存在だった。

彼女は、心配して駆け寄ってきたアルスラーン達を素通りして床に転がるギーヴへと駆けて行く。


「あれ…?ユニヴァナード………?」


不思議そうな顔で彼女の方を見遣ったアルスラーン。

ユニヴァナードは床に転がるギーヴの元に辿り着くと、側に居たダリューンにも目もくれずギーヴへと抱き付いた。


「………はっ?」


当然の事ながら訳の分からないギーヴは、目を見開いて抱き付いてきた彼女の方を凝視した。


「え………?ユニヴァナード…?何をやっているのだ…?」


ダリューンでさえも、彼女の奇行に混乱し首を傾げる。


「あ、あの…ユニヴァナード殿……っ?どうなさったのですか、突然…。普段なら、こんな積極的に殿方に抱き付く事などしないでしょう?況してや、俺相手など…天地が引っくり返る程の行為では??」
『………。』
「え…、あの…何故に無言?何か喋ってはくださいませぬか…?」
『…ギーヴ………好きっ!』
「は………?い、今…何と……っ?」
『私、ギーヴの事が好き…!大好き!!格好良いもん…っ♪』
「ッ………!?な、なんと…っ、このギーヴを好いておられると…………?…うぉおおおーっっっ!!嘗て無き喜びです…!!ありがとうございます、ユニヴァナード様ぁあああああああッッッ!!」


告白を受けたギーヴは、感極まって雄叫びを上げた。

他の皆は、この光景にあんぐりと口を開けたまま眺める。


「ユニヴァナード…!おぬし、相手が誰か分かって言っているのか…っ!?相手はあのギーヴだぞ……!?」
『ん…?分かってるよ?間違ったりなんてしてないよ。私が好きなのはぁ…素敵な歌と曲を奏でてくれる、楽士様のギーヴだもん!』
「!!!?」


我に返ったダリューンが焦ったように彼女の肩を掴み、目を覚まさせようと揺さぶる。


「ユニヴァナード殿…っ!!貴女は、私の事をそんな風に思ってくれていたのですね……!!このギーヴ、とても感激でございます!さぁ…っ、今すぐにでも私達の愛を育みに参りましょうっっっ!!」
『いぇっさぁ〜!』
「待て待て待て…ッ!!落ち着いて物事を考えよ、ユニヴァナードッッッ!?早まってはならぬ…!!」
「そうであるぞ、ユニヴァナード…!このような尻軽で気の知れぬスケコマシの者など、ロクでもないだけじゃッ!!」
『ファランギース…。』
「ファランギース殿…、あまりにも酷いです…ッ。」
「事実を述べたまでじゃろう。…さぁ、ユニヴァナード。その汚らわしい男の手など払って、此方へ…!。」
「そうだ!ギーヴなんて奴に近付けば、何をされるか分からぬぞ…っ!?」
「ダリューン殿…っ!!」
「ユニヴァナード様!!正気に戻ってください…っっっ!!」
「私も、ギーヴは反対だ………ッッッ!!」
『殿下…?』
「まさかの殿下まで…っ!!」


結局、全員に否定されて、ギーヴから引き剥がされたユニヴァナード。

哀れ、ギーヴ。


―30分後…。

元に戻った彼女がギーヴにへばり付いていた事実を聞くと、急いで禊をしにファランギースを頼ったのは言うまでもない…(笑)。


【ギーヴルート:END】


【第五ルート:ダリューン】


彼女の瞳に映り込むは、ギーヴをボコスカに殴っていた黒衣の騎士の姿である。

ユニヴァナードは途端に走り出すと、その黒衣の騎士に背中から抱き付いた。


「え………っ?……ユニヴァナード?」


驚きに目を見開いたダリューンは、突然背中に抱き付いてきた彼女を振り返る。

その手には、既に魂の抜けたギーヴの胸倉が掴まれたままである。

隣で足技を極めていたファランギースが何事かとその双眸を丸くする。


「おい、ユニヴァナード?何をしているのだ…?」
『……私、…ダリューンが好き…っ!』
「……………は?」
「え…?この戦いにしか脳のない筋肉馬鹿をか…?」
「おい、ナルサス…っ!」
『うん…!強くて格好良い、逞しいダリューンが好き…っ!!』
「…だ、そうじゃ、ダリューン卿。良かったのう。」
「……………。」


漸く復活したナルサスは、友人に抱き付いているユニヴァナードへ確認の意を取った。

その横でファランギースは美しい笑みを浮かべ、微笑ましそうに傍らに立つ黒衣の騎士へ言葉を掛けた。

言葉を掛けられた本人は、突然の告白にフリーズしていたのであった。

それも当然であろう。

片や出逢った時から想いを寄せる相手なのである。

驚きのあまり頭が付いていかず、開いた口が塞がらない。

言葉を理解するのに時間が掛かってしまったのであった。


「………ちょ、ちょっと待ってくれないか?少し、頭を整理したい…。それと、少しの間で良いのだが、一度離れてくれると嬉しい……っ。」
『ふぇ…?うん…、分かった。』
「助かる………。」
『ううん。私、ダリューンの事好きだから、いつまでも待つよ…!』


ふにゃんと笑ったユニヴァナードの笑みに、不覚にもときめいたダリューンはドキリと胸を高鳴らせ、顔を赤く染める。

気を誤魔化すように咳払いをすると、彼女から一歩身を引いた位置で頭を整理し始めた。


(―幾ら惚れ薬を飲んでしまった影響とはいえ…此処で彼女の想いを断わっては、何時かは伝える…俺の本当の気持ちも言えなくなってしまうだろう…。何より、彼女を傷付けたくはない……ッ。)


ダリューンは、己の心と今の現状に揺れ迷ったが、常に積み重なってきた想いの丈を思うと、今告げるべきかと考え始める。

その間、彼女はずっと黒衣の騎士をじぃ…っと見つめ、嬉しそうにニコニコと微笑んでいる。

流石にこれには堪え兼ねたダリューンは盛大に息を吐き出すと、彼女へと向き合った。


「ユニヴァナード…今、告げるべきか否か迷ったのたが…。おぬしの事を想い、心に決めた。念の為に問うが…本当に、俺が相手で良いのだな…?後悔は、無いのだな………?」
『…うん!無いよ。私は、ダリューンが大好きなんだもん…っ!』


薬のせいか…口調が些か子供っぽくなっている彼女は、はにかむように笑う。


「…ならば、おぬしへと告げよう…。出逢った頃より胸の内に留めてきた想いを。…俺の想いを、聞いてくれるか?」
『っ…!勿論だよ…!!』
「え…っ。まさか、おぬし…今言うのか?ただ惚れ薬に侵されて申しておる事なのだぞ…?ほんに想っているかは分からぬのに………。おぬしは、本当にそれで良いのか…?」
「うるさいぞ、ナルサス…。これで、良いんだ。…例え、一時的な薬のまやかしであったとしても、俺が彼女を想う気持ちは変わらぬからな……。」
「ダリューン……っ。」
「ダリューン様…。」


何処か切なげに話すダリューンに、アルスラーンとエラムは複雑な面持ちで見つめた。

友人であるナルサスも、この黒衣の騎士がずっと前から想い続けていたのを知っていた為か、これ以上は何も言わぬと諸手を上げた。

ダリューンは彼女の方を真っ直ぐに見据え、向かい合う。


「ユニヴァナード…俺は、おぬしの事が……………―。」


―30分後…。

元に戻った彼女は、何故かいつもよりも温かい眼差しを投げ掛けてくるダリューンに首を傾げながらも、薬の効果を受けていた間の記憶が無い事から普段通りのものとなった。

彼女は、後に薬で酔っていた間の事を聞かされたが、「仲間の内の一人に告白した」という事のみ伝えられたのであった。

それを知った時は、顔を真っ赤に染め、慌てふためいたものの…。

答えをもらう前に薬が切れたという話になっている。

本当の話を知っているのは、彼とその場を見守っていた優しい仲間の者達だけである…。


◇END
加筆修正日:2019.07.11