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しょうがない



皆が食べた食器の片付けも済ませ、風呂も済ませた清光は、部屋に戻っていなかった主を探しに居間の部屋へと廊下を進んだ。

冬支度に早々と用意された炬燵のある居間は、寒くなったこの時期、寒さに弱い者達の集い場である。

その中に、我が本丸の主も含まれており、どうかすると、心地の良い温もりに眠りこけている事もあった。

そして、今夜は酷く冷え込んでいて、身体を温めるには絶好の場所だった。

スタスタと迷わず突き進むと、障子の戸をシャッと開け放つ。


「やっぱり此処に居た…。こーら、あーるじっ!もう寝る時間!」
『ん〜…きよみつぅ…?』
「あぁ、もうっ。また此処で寝かけてたでしょ?寝るならお布団で寝てっ。」
『おこた温ぅ〜い……。』
「だからって、こんな所で寝ちゃダメ!風邪引いちゃうよ!?ほぉらっ、起きて…っ!」
『寒いよぉ〜…。』


ぐいぐいと服の袖を引っ張る清光に、主である璃子は渋り、眠たげに唸りを上げる。

本日近侍を務める清光は、既に寝惚けている主に呆れて溜め息を吐いた。


「ちょっと、俺が呼びに来たんだから、早く部屋行くよ…っ。」
『ん゙ぅ゙…主様は眠いのです…。あったかいおこたから動きたくありません…。』
「だぁっもう…っ!起きて!!風邪引いちゃう!!俺のせいで風邪なんか引かせたら、歌仙が黙ってないから!!」
『むぅ〜…。なら、清光…運んでくだしゃい。』
「はぁ…!?」


ずりずりと炬燵から引き摺り出すが、地味に抵抗する璃子はあろう事か、部屋まで運べと申し付けてきたのだ。

当然驚く清光は、声を上げ、綺麗で可愛い顔の眉間を寄せた。

次いで、反論しようと口を開きかけたが言い淀み、顔を俯かせ息を吐き出し、微妙な表情を浮かべて主を見やった。


「ったくもぉ…。俺が近侍だからって、頼り過ぎじゃない?確かに俺は、この本丸の初期刀だけどさぁ…。」
『清光だから頼むのですよ〜…。』
「…可愛い事言ってくれちゃってさ…。しょうがないなぁ…っ!それじゃ、俺の大事な主の頼みだし、運んで上げるとしますか!」
『お〜、助かるぜ…。ありがたや〜…。』
「どうせ放っておいても、寝ちゃうだけだし。可愛くおねだりされちゃ、仕方ないよね!」
『うむ…。てな訳で任せたぁ〜。』


顔を仄かに赤くして照れたように口にする清光は、所謂ツンデレだ。

語尾を伸ばし切った璃子は、完全やる気モードOFFで、だら〜んと腕を伸ばして運ばれる気満々である。


「今日の近侍が俺で良かったね。歌仙や燭台切なんかが近侍だったら、主今頃怒られてたとこだよ?」
『そうだねぇ〜。ホンマ、清光でよかたわ〜…。』
「ハイハイ。ほら、お布団まで運んで上げるから、掴まって。」
『お姫様抱っこは嫌ですぅ〜…。』
「我が儘だなぁ…。んじゃあ、おんぶしてあげるから。ほら、早く肩に掴まる。」


のそのそと炬燵から這い出てきた璃子の前に後ろ向きで屈み込むと、早くしろと急かす。

でないと、もうすぐ日付が変わってしまうからだ。

明日も仕事はあるし、朝も早い。

寝るのは早いに越した事はないのだ。

璃子をおぶると、重さを感じさせぬ動きですっくと立ち上がり、主専用部屋へと向かった。


『ん〜…。清光の背中はあったかいねぇ…。』
「俺の背中で寝ないでよね?主の部屋まで、そんなに離れてないんだから。」
『にぃ〜…。清光の体温丁度良いにゃぁ…。落ち着くお…。』
「……あんまり可愛い事言ってると、襲っちゃうよ…?」
『あはは…っ。それは困るなぁ…。でも、清光になら襲われても良いかな…。』
「え?」


うとうとするあまりの爆弾発言に、思わず足を止めてしまった清光。

心なしか、顔も赤い。


「あ、るじ…?言ってる意味分かってる…?」
『んー、分かってるよ〜。あふぁ…っ、ねむねむ…。』


欠伸を堪え切れなかった璃子は、面を上げ欠伸をかます。

そして、ぽふりと清光の肩へと戻る。


「……っ!そんな事言って…っ、いつかどうなっても知らないからね!」


プンッ!と怒ったように告げると、再び歩き始める清光。

部屋へ辿り着くと、璃子をしっかりと布団に寝かせ、掛け布団もちゃんと肩まで掛けてあげた。

もうほとんど夢の淵にいる璃子が、「寒いから一緒に寝よ。」とせがんできた為、清光はそのまま主とお布団の中へ。

―翌日、主を起こしに来た安定に、清光が主と仲良くおねむに就いていた所を目撃され、盛大なブーイングを食らうのであった。


「清光だけズルイ!!僕だって主と一緒に寝たかったのに…っ!!」
『むにゃ…。やっさだ、おはよぉ〜…。』
「ちょっと、朝っぱら煩いんだけど…。」
「主、おはよう!清光テメェさっさとそこ退けよ。主と気安く一緒に寝るとか、首落ちて死ねば良いよ。」
「俺への挨拶はそれかよ…っ!!」


執筆日:2016.11.13