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死んでしまっては元も子もない



 今しがた出陣していた第一部隊のログを端末にて再生しながら、帰還した隊長に対し呟いた。


「日光さんってさぁ、敵本陣に辿り着くたんびに“命捨てるぞ!”って豪語しますけど…アレ、止めません?」
「何故だ?決死の覚悟で挑むのだ、当然の事ではないのか…?」
「いや、其れでマジで死なれても困るし、折れられちゃ意味無いっすから。日光さんが出陣する毎度モニターで見ながら思ってたんだけどね…冗談でも宣言通り死なんでくださいよ。残される一文字の者達も悲しみますし、何より貴方を出陣させると采配した私が悔やみまくりますから。…良いんですか?私が涙の大洪水起こす程泣き暮れても。日光さんが折れたりなんかしたら、私絶対泣きまくりますからね。どんなに不細工な顔付きになろうが泣き叫びますよ」
「其れは…出来れば見たくはないものだな」
「でしょう。だったら、命大事にお願いしますよ」
「主命とあらば、善処しよう」
「是非ともお願いしたいものですね」


 淡々とした遣り取りのみでその時は会話を終えた。

 ―しかし、彼の中で思うところはあったのか、次に出陣する機会が訪れ、再び隊長の任を任され、敵本陣へと辿り着いた時である。


「決戦だ!命捨t…っ、――否、主命だ!必ず生きて帰るぞ!!」


 …と、言ったのである。
先に口を突いて出たのは、いつもの決まり文句であったが、彼は其れをわざわざ途中で言い直した。
先日の私が言った言葉を覚えてくれていたのだろう。
個人的には嬉しく思えたが、共に出陣していた面子からはいつもと違う文言を口にした事で変な空気に思われたらしい。
 無事戦に勝利し、本丸に帰城した後、同じ部隊に組まれていた姫鶴さんから苦情のような報告を受けた。


「ちょっと…主さぁ、日光君に何か言った…?」
「お帰りぃー、姫鶴さん。もしかしてもしかしなくとも、ボス戦開始時のかけ声の台詞についての事でしょうか…?」
「うん、そう。アレ、何なの…?急にあんな事言い出すからさぁ、“どうしたの日光君、何か変な物でも食って可笑しくなっちゃったの?”とかって思ったんだけど…ぶっちゃけいきなりいつもと違う事言うから調子狂ったっつーか、気持ち悪かったっつーか。主が原因っていうんなら、何とかしてよね〜」
「あー、そりゃすまん…。実は先日、日光さんとボス戦開始時のかけ声について話したんだけどさ…彼、いつも“命捨てるぞ!”って言うでしょ?アレ、審神者の身から聞いたらあんまり良くないっていうか、ぶっちゃけ心臓に悪い台詞でね……。其れで、冗談でも“死ぬ”なんて事言わないでってお願いしちゃったのよ…。そしたら、日光さん真面目だから、今回のような流れに至った訳でして…」
「ほんっと頭硬いっつーか、ぶっちゃけ気持ち悪いから止めてって主から言っといてくれる…?俺から言っても良いけど、主が直接言う方が効果あるだろうからさぁ。コレ、マジでお願いね」
「お、おう…っ、そんな拒否反応起こすくらい慣れない感じだったんだな、って事は理解したわ…。とりま、了解っす。後で日光さん呼んで直接伝えとくね」
「ん〜、宜しくねぇ〜」


 用が済むなりさっさか退室し去っていく姫鶴さんの後ろ姿を見送って、改めて先程の出陣データのログを確認がてら見ていたらば、入れ替わりという具合に今度は日光さん本刃ほんにんがやって来て、帰城して初めての姿を見せた。


「只今帰還したぞ、我が主よ」
「あぁ…うん、お帰んなさい日光さん。無事の帰還、何よりです」
「うむ。…して、今しがた姫と擦れ違ったが、何か?」
「ん?いや、まぁ、大した事じゃないんだけどもね…」
「何だ、勿体振らずに言え。俺は何を言われようと覚悟は出来ているぞ」
「いや、重いわ。そんな構える程の事でもないんだわ、マジで」
「では何だと言うんだ…?早く言え」
「先日、私が日光さんに言った事、覚えてる…?」
「勿論、一言一句違わず記憶しているぞ。其れがどうしたと…?」
「その件が影響して、今回ボス戦開始時に口走った台詞が波紋を呼んだらしくてですね…軽く苦情を申された訳なんですなぁ。…まぁ、私もまさか今回みたいな展開になるとは夢にも思っていなかっただけに驚いたんだけど…個人的には嬉しかったっすよ?ちゃんと私の言った事覚えてくれてたんだなぁ〜って分かって。ただ、周りの人…というか、一緒に出陣してた人達からすると不評だったみたいなんで…言い出した人間からして申し訳ないんですけど、やっぱいつも通りの台詞に戻して頂けると助かります……っ。すんません…」
「何故、主が謝る…?主の采配に不備は無く、戦にも勝利した。誰一振りとして欠ける事無く帰還も果たせた。その事に何の不満がある…?俺は主命を果たせた、其れだけで十分である。我が身は主の為に在るもの、ならば、主の命が第一。その他は二の次だ。他人に何と言われようが気にはせぬ。…が、其れで主が気に病むという事であれば、善処しよう」
「…や、そんな糞真面目に受け取らなくても良いから…っ。私は、ただ、皆が望むようにいつも通りの日光さんで居てくれたら良いの。敵本陣前でのかけ声についても、普段通りのものに戻してくれて構わない。でも、気持ちだけは“決して折れずに帰ってくる”って思ってて欲しいの…其れだけ忘れないで居てくれれば、どんなに怪我しまくっていようが重傷の身で帰ってこようが許して“お帰り”って迎えられるからさ。審神者の小さなお願い……頼むね?日光さん。これでも私、それなりに信頼してるんだから」


 そう告げて拳を突き出せば、彼は一瞬だけ虚を突かれたようにキョトンとした表情を見せたが…すぐに真面目な顔付きに引き締め、拳を突き返してくれた。


「言われずとも、初めからそのつもりである。――が、言葉足らず故に不安がらせていたのなら謝罪しよう。すまなかった。主の気を揉ませるような発言をした責任は俺にある。しかし、元の通りの文言を口にする事を許可した手前、主は其れで本当に良いのか…?」
「うん…?うん、良いよ。だって、日光さんは今ちゃんと分かってくれた上で受け入れてくれた。その事だけで、私には十分だよ。日光さんにちゃんと私の気持ちは伝わったんだって事は分かったから」
「……そうか。其れ程にまで主に想われていたとは、男が上がるというものだな…」
「はい…?今、何と仰いました…?」
「今後は主に要らぬ杞憂をかけぬよう誠心誠意努めよう。主命は承った。次の戦からは善処する。其れで良いのだな…?」
「え、ア、ハイ…今後とも宜しくお願いしますね…?」
「嗚呼、任せろ。この日光、主の為ならば何だってこなしてみせよう」
「…何か長谷部みたいな事言い出したけど、まぁいっか…」
「つかぬ事を訊くが、主よ…貴女はまだ嫁入り前の生娘であったのは合っていたか?」
「えっ?そう、だけども…其れが何か??」
「ふむ、ならば事を進める前に幾つか事前の準備が必要であるな…。しかし、安心しろ。きちんとした手順を踏んでから事に及ぶ予定で計画を組むからな。心配は不要だ。主は全て俺に任せていれば良い」
「いや、御免、何の話…っ!?」
「そう焦らずとも、近い内に祝言を挙げてやる」
「誰の!?」
「主のだが?」
「いや待って話が読めん…っ!!途中から何かいきなり話変わってて理解が追い付かんのだが!?何で知らん内に私の祝言挙げるだ否の話になってんの!?」
「案ずるな、主の幸せは俺が叶えよう。よって、主は俺の嫁となる準備を整えねばな…」
「誰かァー!一文字頭と御前連れてきてェーッ!!そんでこの左腕止めろォーッッッ!!」


 気付けば飛んでもない話に飛躍していて吃驚した。
驚きのあまり一文字一家の者を召集掛けちゃったけども、その判断は間違っていなかったと思う。
だって、たぶんだけど…あのまま放置してたら、暫定・一文字左翼の嫁扱いされてたところだもの。
どうしてそんな話にぶっ飛んだのかは全く以て理解が及ばないが、取り敢えずは一文字頭のお陰で事態は収束出来たのであった。

 ――しかし、今回の一件を受けて以降、一文字派一行からは“日光さんのお相手”みたいな扱いで接されるようになるのだった。


「やぁ、小鳥よ。我が翼とは上手く行っているかな…?」
「え…?ア、ハイ…最近は特に何事も起きておりませんが…」
「そうか、其れは何よりだ」
「よぉ、主…!確か、明日の近侍は日光の坊主が担当する予定であったな?」
「え?ア、ハイ…そうっすけど、何か…?」
「日光の坊主はコレが好物でなぁ〜、もし休憩時に甘味を出すならコイツを出してやってくれ!僕が言った事は内緒だぞ?良いな!」
「はぁ…有難うございます…?」
「ねぇ、主…日光君の事で何か困ってたりする事とか無い?あったらいつでも相談してね。日光君たら、糞が付く程真面目さんだから…変に堅っ苦しい時あるでしょ?不満でも何でも話くらいは聞いてあげるから、遠慮せず話しなね」
「え、あ、おぅ…?ご心配有難う?でも、今んとこ何にも困ってないから平気よ。気にかけてくれてありがとね」
「ん…何も無いなら良いの。…其れは其れで逆に心配っちゃー心配だけども」
「…日光の兄貴が世話んなってるッス…!ウチの兄貴が迷惑かけてねぇッスか…!」
「えーっと…別に迷惑という迷惑掛けられてる覚え無いから、今のところは大丈夫よ…?よく分かんないけども、心配してくれてありがとね、にゃん泉君」
「いえ…っ!近い将来一文字の姉御たる御方になる人だからにゃ…!!当然の事なんだぜ…っ!!」
「あぁ、うん…まぁ、“姉御”って呼ばれるのも悪かないかァ〜……」
「――主にその気が生まれたならば即日にも祝言を挙げれる準備は整っているが、如何する…?」
「気が早いっすよ、日光さんや………ッ。結婚の前にお付き合いの段階があるでしょうよ…?まずはそっからにしてくださいよ。段階吹っ飛ばすの止めてください。あと、更に言わせてもらえば、お付き合いより先に大事な段階踏んでませんからね、私達…そこんとこ、忘れないでくださいね」
「必要とあらば、直接口にしよう。――この日光、主の事を一人の女人として好き慕っている所存…故に、主とは生涯を共にすると誓いたく」
「…急な大告白で心臓ないなってしもたやないですか、どうしてくれるんすか、もう………ッ」
「となれば、責任を取って主を我が妻として娶ろう。其れで万事解決、そうだろう…?」
「………うん、もう、何か…此処まで来たら好きにしてくれって感じ……」
「御意に」


 そんなこんなで、私審神者は、一文字一家の左腕の花嫁として娶られる事と相成りました。
何がどうしてこうなった。
訳ワカメ〜。


執筆日:2021.09.29