巴形薙刀は、何やらその手にお盆を持って何処かへと向かっていた。方角的に、目的地は審神者が居る離れの方のようだ。政府開催の催物である『戦力拡充計画』が始まって以来、周回の為に部屋に籠もり切りの審神者を
審神者は、本丸では紅一点の女人である故、部屋へ立ち入る際は必ず入室前にワンクッションとして一声かける事が暗黙の鉄則とされている。本丸に顕現してそれなりに経つ巴形は、その暗黙のルールを律儀に守って障子戸へと手を掛ける前に――入口前で佇み入室の是非を問う。
「主よ、主の誉れ高き初薙刀の巴形だ。差し入れの茶菓子を持って来た故、入っても良いだろうか?」
審神者は基本忙しくしている為、応答までに時間を要す事もある。ので、試しに寸分から数分程待ってみて、其れでも応答が返ってくる様子がない場合に限り、もう一度中へと届く声量で再度同じ文言を繰り返す。仕事に集中し過ぎている時や疲労でうっかり寝落ちている事も有り得るので、その時のパターンも頭に入れて応答を待つが返事は無く、二度目の声かけをしてみるも中からの応答は一切無い。どうやら、自身の声が届かぬ程集中しているか、もしくは厠に立つ為に離席中であったか、はたまた疲労による寝落ちかという三択の可能性が出て来た。最悪、執務中に体調不良を起こして倒れ込んでいるかもしれないとの場合も考えられたが、其れは万が一の億が一という確率に過ぎないので、一瞬過った悪い予想は振り払い、口早に入室の断りを入れて目の前の戸を開ける。
「主、入るぞ」
スッと横へと障子をスライドさせて入口から見て正面奥側を窺うと、仕事机前に審神者と思しき塊があるのが確認出来た。一先ず、無事を確認してホッと安堵し、なるべく足音を立てぬように静かに審神者の背後へと近寄る。そうして、彼女の真後ろを位置取ってから真上より彼女の様子を覗き込んでみた。自身が差し入れに来る手前までは仕事に集中していたのだろう。その証拠に、電源の落とされていないままのデスクトップ型パソコンのディスプレイが明々と点いていた。
取り敢えず、彼女の為と持って来た差し入れを乗せたお盆を持ったままなのはあまりに危ない。何かの拍子に落っことしてしまっては大変だ。これまでの催物出陣の記録を記したファイルや編成別資料に及び開催都度に変更されてきた敵レベルの統計等を記した資料諸々で散らかった机上の隅へと下ろし、乱雑に置かれた資料の束を一箇所に纏め置いておく。
改めて彼女の様子を窺うと、集中力が切れてしまったのか、出陣の指示を出すスマホ端末を手元に握ったまま変な体勢で寝落ちていた。成程、此れでは応答の返事が無い訳だ。今一度状況を理解し、巴形は無言で一人頷く。
そういえば、今年は昨年と違って秋の花粉症とやらに罹患してアレルギーを抑える薬を服用し始めたと言っていた。おまけに、月のものも重なった上に血の道症の期間に睡眠が浅く十分な睡眠が取れぬ日が続いていたとも零していた。更には、二週間期間限定のイベント周回奔走の為に脳死周回を続けていた。全てはノルマ達成の為だ。積み重なる睡眠負債に疲労も蓄積すれば、執務中と言えども睡魔に襲われるなんて事は当然であり、自然の摂理と言えた。
「お疲れな主には休息が必要だな……。だが、このまま休ませるというのも些か問題があるな。まずは、早急に主の体勢をどうにかした方が良さそうだ。でないと、体を痛め兼ねん」
指摘した通り、仕事途中での寝落ちであった為、中途半端な体勢で寝落ちていたのだ。言葉で表すならば、“ぐんにゃり”といった風だろうか。兎に角、姿勢は座ったままで、且つ体は前傾方向に倒れ、頭は重みに耐え切れなかったのか重力に従って机上に乗せられた彼女自身の片腕の上に乗っかるように落ちている状況であった。明らかに体の線が歪んだ状態では、休まるものも休まらまい。起こしてしまうかもしれないが後で体を痛めてしまうよりはマシだろうと、一度彼女の体を起こそうと審神者の体へと触れた。この時、巴形は出来る刀剣であるので、女体へと触れる際のお約束として前置きの一言を挟んでから触れる。
眠ってしまった審神者を起こさないように慎重に体を机上へ伏せるような体勢から起こしてから、ふと其処で目に入ったスマホ端末の画面の点滅に気付く。よく見ると、現在出陣中の部隊からの通信が入っていたようである。会敵した敵部隊との戦闘が終了したので、この先へ行軍を続けて良いのかの是非を問いたいのだろう。その為の連絡で通信を繋げたものの、一向に応答が帰って来ずのまま現在に至り、その場での待機を強いられている事が余裕で推測出来た。
しかし、今この場で進軍するか否かの判断を下す審神者は寝落ち中で応答不可である。出陣中の部隊の者達を思うなら、此処で審神者を起こす方が賢明な判断であろう……。しかしながら、連日睡眠負債と疲労を蓄積させた審神者を労る方を巴形は優先させた。何故ならば、現在審神者が出陣の指示を出している戦場は演習・普の面であり、夜戦且つ池田屋の記憶を模した合戦場である。出現する敵の練度と現在出陣中の部隊練度を鑑みても、本陣ボスの高速槍で多少手傷を負う事を加味したとて余裕で勝利を収めての帰城が可能だった。更に付け加えるならば、現在出陣中部隊が待機しているポイントは、本陣から数えて手前二つ程の位置であった。既に完走済みの演習・易の面にて練度60Lv.代まで急成長を遂げた特の孫六兼元を極部隊と共に組んでいるとは言え、全員遠戦刀装をガン乗せ搭載で以て臨んでいるし、念には念を入れての御守りを部隊全員に持たせるという手厚い加護付与付きだ。余程の事が無い限りは無事の帰城が確定されていた。仮に、高速槍を食らっても一振りが掠り傷を負うくらいで、所詮程度は軽傷に過ぎない。よって、完全無傷とは行かないものの、基本的には刀装も無事での帰城が約束されたようなものだった。
此処までの結論をものの数分程で叩き出した巴形は、審神者の手元より失敬してスマホ端末の操作を行う方向で動いた。此方の応答を待機状態で繋がれたままの通信を再開するべく、スマホ端末の音声出力をスピーカーへ切り替えて応答に出る。
「――長らく待たせてしまってすまなかった。主の自慢の初薙刀たる俺、巴形薙刀が主に代わって代理での応答に応じさせてもらった。本来ならば主本人が応答するべきところなのだろうが、連日の脳死周回と睡眠負債の蓄積で疲労がピークに達したのか、現在進行形で執務中にも関わらず寝落ちてしまっている状況でな……。お疲れな主に差し入れをと部屋へ入室した際、偶々近侍殿も席を外していて主以外誰も居なかったので、俺が代理で応答に応じたのだ。一先ず、部隊の現在の状態を知りたい。一応、データで一通りの状態は把握出来ているが、念の為に直接聞いておきたい。今、お前達はどのようにあるか手短に教えてもらえるか?」
『随分長い事応答を待っても何の返答も返ってこなかった理由はそういう事だったのか……っ。まぁ、通信を繋げてから其れ程の時間は経過してはいないから然程心配はしていなかったが、本当に主人は大丈夫なのか?』
応答ボタンをプッシュするなり通信が再開した事に即時反応した、レベリング対策で現在部隊長を務める孫六からの声がスピーカーを通して聞こえてくる。巴形は其れに淡々と答えながら改めて状況説明を加える。
「問題無い。ただ、発見時のままでは体勢が辛そうだと判断した故、一度楽な体勢へと変えさせてもらった。勿論、出来る限り起こさないように注力してな。よって、主は未だ健やかな寝息を立てて眠ったままだ」
『えぇっと……この場合、起こすのが普通なのでは……? え、俺が間違っているのか??』
『いや、他所の本丸の奴なら起こしてるところだろうな。ウチでは、イベント期間中脳死周回すると定期で発生するイベントだから慣れてっけどよ。イベント周回中ではあるあるのよくあるネタで、別にウチだけに限らず他所でもよくあるって話だぜ?』
『へ、へぇー……よくある事、なのか……。ははっ……今物凄い想像と現実との差にギャップを感じて戸惑いを隠せないなぁ……っ。そうか……よくある、ねぇ…………っ』
「あぁ、審神者が部隊の出陣中に寝落ちる事はよくある事だ。これまでも幾度となく経験している。その都度、気付いた近侍が対応しているが……。まぁ、主の場合、寝落ちても時間にして数分間といった短時間しか寝落ちないから、すぐに起きる。――が、今回に限り、俺の独断で体調の方を優先したまでだ。先程も報告した通り、主は連日の脳死周回と睡眠負債の蓄積で疲労がピークに達して寝落ちという状態にある。ただの疲労だけならまだしも、主は現在秋の花粉症とやらに罹患している所為でただでさえしんどいところに、月のものも重なっていて二重苦どころの話ではない状態だ。そんな疲弊し切った主をこのまま働かせ続けるのは、俺を含めた皆も望まぬ事だろう? よって、俺の独断で主には休息を、また、出陣中のお前達には行軍の指示を出した……という経緯だ」
もしかしたら、新参者故に新刃教育が行き届いていないかもしれないと考慮して包み隠さずに審神者の現状を伝えれば、把握し切れていない点が幾つかあったのだろう。数十秒程スピーカーの向こうが沈黙した。
まぁ、刀剣男士は“男士”との名称からして分かるように、例外を除いて皆男神としてこの世に降ろされる。一応、本霊から分かれる前に予備知識は与えられているものの、実際に知るまではよく理解出来ていない事は数多く存在する。審神者が人間で女人である場合、特に其れは該当する。人間の女には、その肉体の構造上、一定年齢を経たら月のものというものを必ず迎える。所謂、“赤ちゃんを産める準備が整いましたよ”とのサインなのだが、此れが頻度にして毎月一定期で来るので、男には分からぬ事かもしれないが思っている以上にしんどいものなのだ。勿論、個人差で重い軽いの差はあれど、一般認識としては男には無く女にしか無い性質であり、想像以上に心身的にも辛くしんどいものなのだと思ってくれれば良い。そして、当該本丸の審神者は現在進行形でその月のもの期間中であった。其れも、一番辛いとされる、生理が来て初日〜三日目という間であった。おまけに、上記で挙げた状態異常も加算される。身体的なステータスを端的に述べたならば、“詰んでいる”も同然である。
だが、彼女とて伊達に審神者を勤めていない。審神者に就任してから、かれこれ五年と半年は経過しようという中堅どころである。ある程度の引き際は理解している。今回も多少のしんどさはあれど、通常通り動けると踏んでの周回であった。落ち度があるとすれば、睡眠確保時間と睡眠の質が足りなかった事だろう。此れに関しては、後日反省点を活かして改善を目指せば良い事だ。その事をよくよく分かっている巴形は、敢えて其処までは触れずに待機状態のままであった現状を打破する事のみを優先した。
「見たところ、本陣手前二つの地点まで来ているし、部隊共に刀装も無傷の状態であればこのまま最終地点まで行軍出来ると思うが……?」
『確かにその通りではあるが……審神者である主人の指示を仰がずに行軍を続けるのも懸念があったんでな。念には念をと思って、交戦終了後の状態確認及び無事の連絡を含めての通信を入れたんだ』
「成程、孫六の意見も一理ある。その心遣いは主の為になる。どうか引き続き今後も続けていって欲しいところだ」
『えっ、あぁ……ど、どうも……? それで、俺達はこのまま行軍を続けてしまって本当に良いのかい?』
「同部隊である同田貫達も異論が無ければ、俺は行軍して良いと思うが」
『一応、近侍殿のお窺いも立てておきたいんだが……近侍殿は何処へ?』
「長谷部ならば、俺が部屋へ来た時から不在のまま戻ってきていないが……まぁ、彼奴は何かと掛け持ちしている故に度々所用で席を外す事は多々ある。今回も其れで離席したままなのだろう。心配せずとも、お前達の練度と装備ならば問題無く勝利出来る筈だ。一応全員分の御守りを主が持たせているしな。加えて、近侍殿である長谷部が戻るまでは引き続き俺がモニタリングしていよう。もし、途中主が起きても対応可能な状態であった方が良かろう」
『了解。他部隊員にも意見を聞いたところ、異論は無いそうだ。よって、我々部隊はこのまま行軍を続ける事にする。会敵した場合は、これまで通り戦闘終了後の都度通信を入れる。では、また後程』
「あぁ。武運を祈る」
進軍するか否かの是非の確認が取れ、安全も確保出来ているとの確証が取れているとの判断を下したのだろう。行軍する旨を告げた部隊長は、次の会敵に備えて通信を切った。画面上では常にモニタリングされている故に、出陣部隊の進行具合は把握出来ている。元々審神者が指示する予定だった通りに事は進み、部隊は無事に本陣まて辿り着き、ボスと交戦。遠戦を躱して生き残った高速槍の一撃を極短刀の太鼓鐘貞宗が受けるも、速さだけなら彼も負けていない。部隊編成内なら最速を誇る機動に馬装備で加速を重ねて突っ込んだ彼の一撃で、あっという間に高速槍は沈む。その他残り数体の敵も、仲間の刃員が瞬く間も与えずに屠った。戦闘結果は予想通りの勝利Aを飾った。
その後、帰城を果たした部隊はそれぞれ審神者の指示があるまで待機となった。次いで、本陣ボスとの交戦で軽傷なれども負傷した太鼓鐘は、帰城するなり自ら手入れ部屋へと直行した。丁度、『手入れ時間0キャンペーン』開催中であった事もあり、手入れは一瞬で終わった。資材に関しては、カンストする程潤沢に貯蓄していたお陰もあって然程消費せずに済んでいるし、何なら毎日欠かさず真面目に日課をこなしているからか消費した分は報酬分で元の状態に戻るくらいである。
秒で手入れを済ませた太鼓鐘も含め、出陣していた部隊一行は揃って審神者の様子を見に行った。無事に帰城を果たした旨を直接伝える目的と、彼女の無事を確認する意図であった。防具等装備を解かぬまま足早に部屋を覗き込めば、部屋の守番をしていたのだろう巴形が執務室仕事机前の席に鎮座している。審神者はというと、その膝上に幼子のように抱えられたまま未だスヤスヤと寝息を立てて眠りこけていた。疲労具合が滲む目元の隈と顔色を見ては、誰も怒れまい。元より、誰も今回の事を怒ったり責めたりする気など初めから無かったのだが。
部隊長こと本丸に顕現して日の浅い孫六は事情を聞いて心底心配だったらしく、彼女の実に健やかに寝落ちた様子を見て安堵の溜め息を吐き出していた。他の者達は既知の事であり、経験上慣れていた事もあって何事も無いとは分かっておりながらも、新刃がどのような態度を取るかを陰より見守っていたのだ。まぁ、結果は予想の範疇で、皆揃って内心ホッと胸を撫で下ろしたのは此処だけの話である。
ふわりと浮上した意識を覚醒するなりバチリッと目蓋を開いた審神者は、寝落ちから目覚めて一瞬混乱した。正しくは、現状把握をしようとして上手く理解出来ずに思考が一時停止し、一寸ばかり宇宙の彼方へと旅しかけただけである。其れを寸でで引き留め、何度か瞬きをする事で現実へと自ら引き戻した。
次いで、彼女は軽く身動いだ。何やら椅子に座っていたにしては随分と柔らかい気がするが、まぁまだ何となく寝惚けている気もしないからそんな気がするのだろう。そんな風に自己分析して、もにょもにょと体を動かし、猫のような欠伸を漏らしつつ気伸びして両腕を伸び伸びと上へと伸ばした。そうして、上を向いた事で淡く美しいルビー色の二ツ目と合った。途端、盛大にビクリッと肩を揺らして硬直した。其れと同時に審神者が目を覚ました事を確認した巴形が呟く。
「おはよう主。短い時間ながらも、幾分かは休息が取れただろうか……? 足りなければ、遠慮せず寝直してくれて構わない。存分に休息を取ってくれ。主は普段無理をしているくらい働き過ぎなのだから、少しくらい休息を取ったところで足りないくらいだ。何なら、床を用意させてこよう。その方が主もよく休めるだろう」
「……え゛っ……なん、で……巴さんが此処に……? というか、この体勢と状況is何……??」
「主が疲労から寝落ちてしまっている間に差し入れを持って来たんだが、寝るには相応しくない体勢で寝落ちていた為に勝手ながら俺が体勢を整えさせてもらった。気付いた時には、既に仕事机の前でぐんにゃりとした形で崩れ落ちていたからな……。痛いところなどがあれば言ってくれ。整体によく効くというマッサージとやらを施してやろう」
「いや待ってちょっと待って頼むから待ってくれ」
「分かった、待とう」
「ス〜〜〜ッ………………再度、もう一度訊く…………。何故、俺が寝落ちてから現在の状態に陥っているのかの流れを教えて欲しい……っ」
「普通に一人で座ったまま寝る体勢というものは、かなり体に負担を掛けやすい姿勢であると判断した。故に、せめて俺を椅子にして支えたらどうかと思って、主が寝落ちからすぐに仕事へ戻れるようにと考慮もして、主の仕事用座椅子に俺が座り、その上で主を幼子を抱える要領で抱っこしていた……という訳だ」
「いや、其処は迷わず起こしてくれよ……ッ!!」
「お疲れな様子が漂いまくっている状態なところにも構わず無情に叩き起こすなど、俺には出来なかったのでな……。まぁ、勤務中の怠慢を注意もせず見過ごすような真似をした事を咎めているのなら、次に反省点として活かすとしよう。すまなかった」
「にゃんで巴しゃんが謝るのぉ……っ。謝らなきゃいけないのは俺の方にゃのに゛ぃ゙……ッ!」
「何故主が謝る必要がある? 勤務中に寝落ちてしまった事を気にしているのなら、其れは違うぞ。主は何も悪くないのだ。強いて言うならば、運の悪さが重なっただけだ。主はここのところ、花粉症で辛い思いをしていただろう? 其処に月のものまで重なってしまっては、二重苦どころではあるまい……。あまり無茶をするな。主の体は、一人だけのものではないのだぞ? 連日の脳死周回で疲労が蓄積していた事は分かっているが、睡眠負債もあれば倍にキツいだろう? ノルマを早く達成したい気持ちは分かるが、体が資本な職業な事を忘れてはならんぞ主よ」
「お゛っふ……ド正論過ぎて何も言えにゃい……ッ」
図星を刺されまくって恥ずかしい審神者は、羞恥に顔を赤らめて顔を覆い隠した。――が、すぐに仕事モードへ意識を切り替えると、ハッとした様子でガバリと盛大に巴形の方へ体を捻って振り返った。
「そういえば、出陣中の部隊の皆は……っ!? 無事か!?」
「その事なら、何も問題は無いぞ。主が寝落ちている間に俺が引き継ぎ、代理で対応させてもらった。よって、出陣していた部隊は本陣ボスまで行軍後交戦、太鼓鐘のみが高速槍の攻撃を受けて負傷するも軽傷で、部隊全員揃っての帰城を果たしている。その後、手入れも済ませて、出陣部隊及び待機組も含めた皆は今大広間の方で次の出陣命令が下るまで装備を整えつつ待機している状態だ。心配せずとも、全て万事解決している」
「ほぁっ……ぐう優秀過ぎるやんけ……近侍の
「その長谷部だが……俺が部屋に来た時には席を外して不在だったものでな。全て俺の独断で判断し行わせてもらった事だ。何か不満があったのなら聞き入れよう。此処までで何か質問はあるか?」
「いやちょい待って? マジで長谷部何しとるん??」
「あぁ、説明が不足したな。主がまだ寝落ち中の間に一度戻ってきたのだが、その後長谷部はまた席を外してしまってな。各所の雑務やらで忙しいらしい。まぁ、イベント周回中はちょくちょく起こる事ではあるな。……あぁ、何も掛けぬままでは行かぬと思って、風邪を引かぬようにと主が時折膝掛けなどに使用しているベビー毛布を掛けておいたぞ。俺は主を抱えていて動けなかったから、用意したのは長谷部だが……」
「何から何までお世話かけちゃって御免なさいね……っ。でも、俺の事気遣ってそんまま寝かせてくれて有難う! お陰で少し楽になったかも……! 数分でも休んだお陰で眠気飛んだから、この後の周回が滞り無く進められるわ! 後で長谷部にも御礼言わなきゃ……っ! とりま、部隊の皆に顔出してきといた方が良いよね!! 俺、ちょっと行ってくる……っ!!」
「そんなに急かずとも誰も主を責めたりなどせんぞ。大広間へも俺が運んで連れて行こう。歩くのも体力の消耗に繋がるからな。主の疲労度を考えて、今は俺に運ばれておけ。その方が主にとっても俺にとっても良い事だろう?」
「いやいや其れは流石に過保護やで巴さんや!!?」
「唯一無二の存在である大事な主相手ならば過保護にもなろう。案ずるな、主一人抱えたくらいで然程問題にもならん。主二人分を抱えても軽い程だ」
「やだ力持ち……っ! 此れだから薙刀は強い……!!」
抵抗したところで、彼女のような非力な人間の力など到底敵う訳も無く……。結局、強引にも巴形によって“お姫様抱っこ”という形て以て運ばれる事になるのだった。そして、大広間に居た刀剣達皆に羞恥の姿を見られる羽目となるのであった。