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子供と見るな



『伽羅ちゃんって、どうしても子供に見えちゃうんだよねぇ〜。』
「は……?」


それは、近侍として、彼奴の仕事を手伝っている時に唐突に言われた言葉だった。


「…どういう意味だ。」
『えぇっと…特に深い意味は無いんだけどね。何か見た目的年齢が、大人っていうより、その手前の学生さんって感じに見えるんだよ。例えで言うなら、高校生ぐらいに。』
「確かに、俺達刀剣男士は、アンタ達人間と違って比較的若い見た目をしているが…実質年齢は、アンタ達なんかより遥かに上だぞ。」
『いや、それは解っているんだけどね?うーん…なんとなく、そう思っちゃうんだよ。』
「………。」
『ん〜…アレじゃないかな?伽羅ちゃん、学ラン着てるから。そのせいで余計に学生っぽく見えるんだよ!』


その言葉に、無意識にも深く眉間の皺を寄せた俺は悪くないと思う。

それ以来、奴が言ってきた言葉が気になって仕方がなくなり、見た目を気にするようになってしまった。

クソ…ッ、何で俺が…!

あまりに気になるようになってしまった為、何か策はないかと同室の光忠に訊いてみる事にした。


「なぁ、光忠…。」
「うん?なぁに、伽羅ちゃん?」
「俺は、子供染みたように見えるか?」
「え…?どうしたの、急に。」
「いや…実は、先日彼奴に言われた事なんだが…。」


取り敢えず、俺よりもそういう事に長けた奴の判断を仰ぐ為、事の話をかいつまんで話す。

光忠は、「うんうん…。」と相槌を打ちながら、ちゃんと最後まで聞いてくれた。

国永の奴だったら、そもそもが真面目に聞いてくれる事は無いだろうし、ふざけた解答しか返さないだろう。

やはり、光忠に相談して正解だった。


「成る程…それで、最近伽羅ちゃんは見た目を気にしてたんだね。」
「嗚呼…。」
「ふむ。要は、主に、子供としてではなく、ちゃんと大人として見てもらいたいんだよね…?」
「嗚呼、そうだ。」
「なら、話は簡単だよ!主は、多分、伽羅ちゃんの着てる服装でそういう風に見ちゃってるだけだろうからね。いつも着てる戦衣装や内番服じゃなく、伽羅ちゃんに似合う且つ大人っぽく見える、お洒落で格好良い服を着たら、きっと印象はガラリと変わるよ?早速着替えてみよう!僕の持ってる中から幾つか見繕ってあげる…!コーディネートなら、僕に任せて!!めいっぱい格好良くしてあげるから!!」
「いや、そこまで張り切らなくても良い…、」
「善は急げ、だよね!!」


相談に乗ってくれた光忠は、何故か、めちゃくちゃやる気に満ち溢れた顔をしてクローゼットや押入れの中身を漁り出した。

そうして、何着かの服を着せ替えられた後、ある一着のコーディネートで落ち着いた。


「うん…良いね。凄く格好良いし、伽羅ちゃんの魅力がビシバシ伝わってくるよ。」
「そ、そうか…?」
「うん。これなら、主も一発コロッといっちゃうんじゃないかな?普段の伽羅ちゃんからは想像も出来ないくらいの色気を感じるよ。」
「それは、どうなんだろうか…。」
「大丈夫、自信を持って。今の伽羅ちゃん、最高に格好良いよ…!伽羅ちゃんの魅力がこれでもかっていう程溢れてるし、下手したら、僕も惚れちゃうくらい格好良いよ!!」
「それはやめろ…っ!」


一先ず、問題は解決しそうという事で、光忠に礼を述べた。

光忠らしく、「別に、僕は大した事はしてないよ。これくらい、なんて事ないさ!」とにこやかに返してきた。

礼に、今度何か、此奴が欲しがりそうな物でも買ってやるとするか。


「そういえば、明日は俺が近侍の日だったな…。」
「なら、丁度良いじゃないか…!主に見直してもらえるチャンスだよ!準備は万端だね…っ!!」
「嗚呼…まぁ、結果がどうなるかは解らんがな…。」


画して、翌日の近侍に備えた俺は、その用意した衣装を以て、近侍へと挑んだのだった。


「おい…入るぞ。」
『はーい、どうぞ〜。』


光忠の協力を得て、準備をした衣装。

其れを身に纏って、近侍として彼奴の仕事を補佐するべく、審神者部屋へと入室する。


『今日の近侍は伽羅ちゃんだったね。今日一日、宜しくね!』
「嗚呼…。で、俺が遣るべき仕事は何なんだ…?」
『えっとね、今日伽羅ちゃんにやってもらうのは、この書類仕分け、で…。』


既に書類と向き合っていた主は、作業をしながら言葉を返し、書類を渡しがてら振り返ると、急に動きを止めた。


「…?どうした…?」
『…いや、お前の方がどうしたよ…!?』
「は…?何の事だ。」
『服装…っ、今着てる服が、いつも着てる服じゃない…っ!』
「嗚呼…コレか。衣装チェンジだ。」
『衣装チェンジ…!?』
「所謂、イメチェンみたいなヤツだな。」
『イメチェン、だと…っ!?あの伽羅ちゃんが…ッ!?』
「おい、それはどういう意味だ。」


先日とは違い、明らかに動揺し、狼狽えた態度を見せる主。

ふ…っ、成る程な。

光忠が言っていたのは、強ち間違ってはいないようだ。

流れは重畳。

あともう一押しだ。


『え…っ、何それやばくないか…?黒シャツに腕捲り、それも鎖骨見せ…。それに、暗めのダメージパンツに、謎の色気まで装備とか…。俺を殺す気かよ。えっ、服変えただけだよね?何か違い過ぎない?ねぇ、ちょっと、おい。』
「何で、アンタ、そんなに混乱してるんだ…。いつも通り普通にしてたら良いだろう?」
『いや、無理じゃね…っ!?』
「何で無理なんだ。」
『だって…っ、だって、そんな謎のお色気ムンムン出されてたら…仕事したくても、チラチラ目に入って、気になって仕事に集中出来る訳ないじゃんんんんん…っっっ!!』


一瞬、きょとりとしてしまい、間が空く。

その間も、主はいつになく狼狽えた様子で顔を赤らませ、視線を右往左往と泳がせていた。

次の瞬間、一寸ばかりの悪戯心が湧き、ニヤリと笑んでみせる。

その笑みが、普段滅多に笑わない俺がたまに見せる、“不意打ちに相手を落とす不敵な笑い(光忠命名)”とは知らない。

いつもは無表情で馴れ合うのを嫌う俺から、主の方へとにじり寄っていく。

今しがたまで文机に向かっていた主は、体勢が正座状態だった為か、突然の事に足を崩して退いたとしても上手く動けず、俺が触れてしまう方が先で。

頬にさわりと触れると、主は中途半端に仰け反った体勢のまま固まってしまった。

そのまま俺を凝視してきて、顔を更に赤らめさせる。

其れが面白く、またもや口許をふ…っ、と緩めて、口角を上げた。


「どうだ…?いつもの俺とは違うだろう?」
『ひょえ…っ!?』
「これなら、子供には見えないだろう…?」
『は…はいぃ…っ!』
「なんなら、こういうのが好みなアンタの為に、これからアンタに遣える時は、こういうのを着てやってやろうか?」


少しばかり苛めてやる気持ちで言ってやれば、すっかりオチた様子の主は、へなへなと力を抜いて俺の膝元に崩れ落ちた。


『オゥ…マイ…ッ。』
「そんなに堪えたか…。」
『そりゃあ、そんな色気ダダ漏れのイケメン伊達男状態に免疫なんてありませんもん…っ。』
「そうか…。で…?返事はどうなんだ?」
『え…?返事、って…?』
「さっきの問いへの返事の事だ。」
『は………っ?』


俺の膝辺りで伏せていた顔を上げる主。

驚きに、目の瞳孔が猫みたいに細くなっていた。


『や…っ、あの、流石に、それは勘弁してください…っ!もう子供だとか学生みたいだとか言いませんからぁ…っ!!』
「何だ…つまらないな。もう少し堪えるかとも思ったんだが…存外、アンタのツボは浅かったんだな。アンタの趣味、好みが、光忠にバレるくらいには。」
『はい…っ!?も、もしかして…っ、それ、光忠の入れ知恵…っ!?』
「だったら、何だって言うんだ…?」
『え、いや、はい、すみません。何でもないです…っ!』
「だったら、さっさと仕事をしろ…。」
『え……まさか、今日はそのまんまでやるんすか…?』
「そうだが…何か問題でもあるのか?」
『大有りだ馬鹿野郎…っっっ!!集中出来ねぇよ、んなのぉー…ッッッ!!』
「はぁ…っ、アンタのメーターラインが解らん…。」


そのままの格好でやると告げれば、堪えられないとうるさいくらいに叫ばれた。

面倒だが、仕事にならないのは仕方がないので、言われた通りにいつもの服に着替えてから仕事に取り掛かった。

ちゃんと着替えてやった俺に感謝しろ。


「これで、もう子供だとは言わせないからな…?」


仕事を進める傍らで、そう呟いてみれば。

彼奴は、向かいで端末の影に隠れるようにしながら言った。


『解ってます…っ、もう子供みたいに見えるだなんて言いませんよぅ…!』
「ふん…っ、解れば良い。」


たまには、こういうのも悪くないと、柄にもなく思った。

気が向いたら、悪戯がてら、またやってやらん事もない。

俺を、一人の男だと見て、意識してくれるのなら…。


執筆日:2018.08.20