キスしないと出られない部屋with同田貫正国・極
※お題:キスしないと出られない部屋に閉じ込められました。60分以内に実行してください。
※参考元:『〇〇しないと出られない部屋』(創作系お題より。)
※尚、以前掲載していた同文データは2023/03/24時点より閲覧不可or復旧出来ない状態にある為、バックアップが残っていた分として軽く加筆修正の手を加えて再掲載の形を取ったお話になります。
演練帰りに、ふと見慣れない建物があるなと気になって立ち寄ってみたら、見事嵌められた。
何かの一室に閉じ込められたと認識して、初めて部屋の一角に在る垂れ幕に気付いてげんなりする。
垂れ幕には、こう記されていた。
――“おめでとうございます。あなたは、時の政府管轄の実験対象に選ばれました。此処は、一緒に入った相手とキスをしなければ出られない部屋です。制限時間は60分。其れ以内に実行してください。”
何とも簡潔且つ分かりやすい文章であった。
「おめでとうとか、この際皮肉でしかないわ……。ふざけんなよ、政府。どんだけ暇なんだよ。こんな下らねぇ事考える暇あったら働け糞野郎」
「いきなり凄ェブチ切れてんな、アンタ……っ」
「もう此れ支部とか支部とかで何万回も見たネタだよ。何たって今更俺んとこまで巻き込まれるの……っ。最早見飽きたレベルでしょ、どんだけ暇なの政府。マジで勘弁してくれよ、頼むからぁ〜……っ」
「おーおー、いきなりブチ切れたと思ったら今度は泣き崩れんのかよ、アンタ……忙しいなァ」
「マジ泣きしてる訳ではないから悪しからず……というか、何でお前はそんな平然として居られんの。さっきからめっちゃ冷静やな?」
「あ? だって、んな騒ぎ立てる程の事でもねぇだろ。見るからに怪しさ満点かと思いきや、用意したのが政府だってんなら尚更な。其処まで気にする必要は無ェんじゃねーの……?」
何か色々と遣る瀬無くて、行き場の無い感情を抑えて顔を覆い項垂れていたら、意外にも平素と変わらない彼がそう呟いた。
うん……まぁ、確かにそうなんだけどね。安全面から言っても、確かにそんな慌てふためく必要性は無いんだろうけども、問題は其処じゃないんだ。
「にしても……政府は何考えてんだろうなァ〜」
「本当其れねぇ〜。こんな事やってる暇あったら、ウチ等審神者の為になる事遣るか、さっさと新たな敵の情報洗ってこいってぇーの……っ」
「まぁ、敵に囲まれるとかって訳じゃない辺り、一応は配慮してるってところか?」
「あら、意外……。てっきりお前さんの事だから、戦じゃなくてガッカリしたぁーとかって言い出すのかと思った」
「今はアンタが居るんだ……そういうのは出来るだけ避けてぇだろ」
「おやまぁ、意外も意外だ事。一応、俺の事気遣ってくれんのね?」
「そりゃ当然のこったろ……? アンタは俺の主で、大事な奴なんだからさ。あとは、まぁ……出陣先で資材マスに行き当たっちまった時と同じ感覚だ。敵じゃねーからってガッカリしちゃいけねぇよなって」
「成程、そういう事でしたか……っ。いやはや、たぬさんも極めて成長しましたねぇ〜。たぬさんが以前にも増して立派になってくれたようで、審神者嬉しい!」
「ありがとサンクス。……っと、どうでも良いが、此れどうすんだ?」
何だかんだ言いつつ、謎の部屋に閉じ込められて数分は経った。その間、お題とばかりに称された事には一切触れていない。……うん、そろそろ現実と向き合うとしようか。
仕方なくといった体で目の前の垂れ幕と向き合うと、改めて指示の内容に目を通した。
「ねぇー……此れ、絶対にやらなきゃ駄目なの?」
「まぁ、この部屋から出る為にはやらなきゃならねぇーんだろうな」
「えー……やだよ、こんな如何にもなヤラセでキスとかぁー……っ。風情もへったくれも無いじゃん……」
「アンタみたいなのでも、一応そういうのは気にするんだな?」
「あ゛……? 何、喧嘩売ってんの? 今、俺ムカついてて苛々してっから怒りの沸点低いよ。やるってぇーなら、おら来てみぃや。相手してやらぁ」
「何でそうなんだよ。一旦落ち着けよ、アンタ。……ほら、一回深呼吸してみろって。んで、其れでも気が収まらねぇようなら壁殴ってみな。そしたら少しはスッとするぜ」
「何だよ、お前も俺と一緒で結構キテんじゃねーかよ。やはり結局は物理で解決してみようとするところは変わってねぇのな? ま、其れでこそたぬさんって感じで安心するけど」
変なとこで納得してしまったところで、脱線していた話題を元に戻す。
ちょっと視点をずらしてみたら何か変わるかな、って希望抱いてみるもやっぱり駄目だった。何一つ変わる事無く垂れ幕は其処に鎮座していた。しょうがない……此処は諦めて腹を括るかァ。
「……と、言いつつも、やっぱ諦め切れないので……一回くらいは物理試してみても良いですか?」
「何が“と言いつつも”なのかは知らねぇが、好きにしたら良いんでねーの? 俺的にも、一回と言わず数回くらいは試しておきたいと思ってたところだからなァ」
「よし。じゃあ……たぬさんの本体借りてもヨロシ?」
「俺がするんじゃなくてアンタがやんのかよ……。まぁ、別に構わねぇけどさ。使うのは良いが、怪我だけはすんなよ?」
「了解〜。心得ておきますよ……っ、てぇい!」
取り敢えず、鬱憤発散バリに適当に目に付いた箇所をタコ殴りに斬り付けたり殴打してみたが、何かの術か結界が張られているのかビクともせず。壁は一ミリの傷も入る事無く綺麗さっぱり無傷を保っていた。攻撃の全てを吸収しているかのような感覚を覚え、こりゃ無駄な悪足掻きだなと早々に諦める事にした。
ただでさえ重たい刀身を思い切りぶんぶんと振り回したせいか、柄を握っていた手がジンジンと痺れてしまった。地味なダメージである。
「ほい、返すわ。貸してくれてありがとさん」
「もう良いのか?」
「うん。だって、此れ以上試したって、こっちが与える衝撃全部吸収されていくんだもん。こんままやったって無駄に労力消費するだけだわ」
「そうかい。まっ、俺としちゃあ、滅多に無い機会でアンタに直接振るわれて気分が良いけどな……!」
「あっそう。そら良うござんしたわ」
結局は振り出しに戻るって訳かい。其れにしても、俺も無駄な抵抗するよねぇ。ぶっちゃけヤラセと言えども、さっさと指示通りの事済ましゃこっから出られんのによ。
そんなこんな考えていたら、隣に居るたぬさんから話しかけられた。
「なぁ……キスってぇーと、やっぱアレの事だよなァ?」
「うん……まぁーそうねぇ〜……。俗に言う、接吻だとか口吸いだとか、そういう……ね」
「やっぱそういう事で合ってんのか……」
「そうだよ……。はぁ〜……っ、こんなんでやるキスとか雰囲気も何もゼロじゃん……? 何が悲しくてお伽噺な口付けごっこしなきゃなんないんだよ。そんなんは他所に当たってくれ、他所に。ウチは専門外なんだよ。頼み込む事務所間違ってません? ウチはそういうのお断りしてるんです、閉店ガラガラ一昨日来やがれだよマジで……! あーっもぉ、帰ったら絶対ネタにされるよ、やだぁ〜……っ!!」
「こんだけ無視っといて何も起こんねぇんなら、さっさとやっちまえば良かったかァ……。つか、うだうだしてねぇで最初っからこうしてりゃ良かったんだよな。俺とした事が、性に合わねぇ事したわ……。ちゃっちゃかこなしてりゃあ、面倒な事もあっという間に片付いてたってもんだ。――つー訳で、ちっとばかし大人しくしてろよ。間違っても噛み付いたりすんじゃねーぞ?」
「は? 何言って――、」
全然意識してない時に不意打ちかましてくるとか、本当良い度胸してると思うよ。
恥じらう女心故に最後の最後まで無駄な抵抗を見せていたら、あっという間の刹那に彼より唇を奪われて、サラッと条件を満たしてしまった。
思わぬ流れに呆然としている内に扉のロックは解除され、あんなにも出す事を拒んでいたような部屋はあっさりと開いた。な……何か悔しいぞ、おい……ッ。
「おっ、条件満たしたら早速出口のお出ましかァ……! 勝手に閉ざされた後無くなっちまってた扉が、こんないとも簡単に出て来るんだったら、最初から余計な事考えてないでさっさとやっちまえば良かったな。そしたら、アンタも変に意識する事無かったろ?」
「なんっ……何で、そな……っ、あ、ああっさりと出来ちゃうんだよお前はァ……ッ!」
「ぁあ? こんなん、
「仮にそうであったとしても、もうちょっと抵抗とか見せても良かったんじゃありません……ッ!?」
「何だよ……今のじゃ不満ってか? なら、本丸帰ったら幾らでもやってやるからよ。とっととこんなとこ出ちまおうぜ? 何も無いだけのだだっ広い空間なんざ、息が詰まるだけで閉塞感以外の何物でもねぇーだろ」
「其れはそうですけど……っ!! そんなサラッと人の唇掻っ攫って行かないでよ、馬鹿ァ……ッッッ!!」
「わぁーった、わぁーったよ……ったく。んじゃ、本丸帰る手前に在る休憩処で一発、
「もっと結構だわ、ド阿呆!! この盛ったお馬鹿さんめぇッッッ!!」
取り敢えずは、政府管轄の実験場から脱出する事が叶って一件落着。
後日、実験に協力してくれた御礼の報酬にたんまりの資材と御札を貰った。色んな意味で損した気分だったので、嬉しい筈の報酬も全く嬉しくないのであった。
取り敢えず、後日、今回の実験のデータを纏める人等に逢ったらば、一発かまさないと気が済まないので覚悟しておいて欲しいと骨を鳴らす。怒りゲージは、其れまでに溜めておいてやるから安心して食らうがヨロシね。
そういえば……謎の部屋から脱出して直後、彼に担がれてったけど、その後はどうなったのかって……? 其れは聞くだけ野暮ってもんさ。まぁ、敢えて語らずご想像にお任せするとするよ――とだけでも答えておくとするかね。
(死んでもその後食われた云々とか語るつもりは無い。)
再掲載日:2023.04.02