偶々来ちゃった天下五剣様が何か親に気に入られてそのまま俺の嫁になっちゃうお話
とある夏の黄昏時である。
日も暮れて西陽も和らぎ涼しくなった頃合いの刻、外では蜩の涼しげな声が鳴いていた。
実に、夏らしい景色が古き日本家屋の外で広がっていた。
そんな古き良き日本家屋で暮らす一人の娘が、自宅から持ってきた愛用PCを開き、電源を入れ起ち上げようとしていた。
其処で、ふと尿意を催したのか、作業前に済ませておこうと席を立った娘は、起ち上げ途中のPCを置いて部屋を出て行ってしまった。
そうして持ち主である娘が居なくなった途端、画面がノイズが走ったように歪み、その中心点から何やら人の手のようなものが生えて出てくる。
端から見て、ホラー物ではよく見る光景であった。
その手は黒っぽく、にゅるり、と手を伸ばし出てくると、何かを探すような仕草を見せ右往左往した。
そんな場へ戻ってきた、冒頭の娘。
当然、自身の愛用PCからそんなホラー現象が起きていれば悲鳴を上げるのは必然で、予想通り驚き恐怖に恐れ慄いた娘は慌てふためき、焦った節に開きっ放しにしていた画面を閉じるという暴挙に出た。
画面から手が生えたまま其れを閉じるという事は、イコールその手をバチーンッ!!と思い切り挟み付けるという行為だった。
挟まれた主は、忽ち痛みを感じて悶え苦しみ、手を挟む画面を開けろと藻掻くだろう。
しかし、ホラーと虫が大の苦手な娘は、藻掻き苦しみ蠢く謎の手にただただ恐怖し、悲鳴を上げながらその場から飛んで逃げてしまった。
挟まれた主は、仕方なく痛みが引くのを待ってからずるずると画面の外へと出していた手を引っ込める。
そして、何故か挟まれてしまった掌を見つめて、ハテ、と首を傾げる。
「―画面の向こうに手を入れれば別の空間へと出られると聞いて試してみたのだが…俺は何か間違ってしまったのだろうか?手を入れてみたら、何かに思い切り挟まれるような痛みを感じたのだが…一体何だったのだろうなぁ?」
蒼い衣に身を包んだ彼は、痛む片手を擦りつつ呑気に独り言を漏らした。
一方その頃…件の事件が起きたPCの持ち主である娘は、謎現象もといホラー現象が起こった件を自身の妹に報告しているところであった。
「聞いてよ、璃子…っ!!さっき私のPCからにゅって手が生えてたんだけど…!!めっちゃ吃驚したし、怖くてどうしたら良いのか分かんないよぉ〜っ!!お願い、ちょっとだけで良いから見てきてぇ…っ!アンタ、少しだけホラーに耐性あるでしょ!?お願いだから、私のPCがどうなったか見てきてよぉ〜…っ!」
『あ…?PCから手が生えてきた…?そりゃどのPCからよ…。』
「え…?私の何時も使ってる赤と黒のメタリックカラーのPCからだけど……。」
『あれ、俺のからじゃないんだ。俺のだったら、その現象よくある事だから別に驚かないんだけど。寧ろ、“あー…またか。”程度にしか思わないんだけど。』
「アンタのPCどうなってんのよ!?というか、よく其れで普通に使えてるわね!?壊れたりしないの!?」
『いや、其れが俺も謎でさ…今んとこ一度として壊れた事無いのよ。凄ぇだろ?』
「いや、確かに凄いかもだけど、問題は其処じゃないのよ…っ!!つーか、この家どうなってんの!?何で普通に画面から手ぇ生えてくんのよ!!お祓いした方が良いんじゃないの!?もうやだ、この家…っ!!怖くて今日の夜眠れないじゃないのよ馬鹿ぁーっっっ!!」
『あーもー仕方ないなぁ…はいはい分かったよ、見てくりゃ良いんでしょ見てくりゃあ?ったく、ちょっと手が生えてきただけで大袈裟な…。』
「アンタのその変な慣れの方が異常よ…っ!!何でそんな平気で居られんのよ!?普通はもっとビビったり怖がったりするもんなんじゃないの!?」
『え…?だって、最早日常茶飯事的に手が生えるどころか、画面の向こうから何処ぞの付喪神様がこんにちはしてくるから…恐怖も何も今更だよねって感じなんすわ。』
「はあ!?其れが日常茶飯事ってのも可笑しいけど、そんなホラー現象起きてて動揺しなくなってるアンタの頭も可笑しくなってきてるんじゃない!?本当大丈夫なのアンタ!?」
『おい、コラ。そらどういう意味じゃい。人が仕方なく確認しに行ってやろうとしてんのに、人ん頭が可笑しいとか言うたぁどういうこった、ぁ゙あ゙ん?テメェ、其れが他人に物を頼む態度かよ。んな態度返すなら見に行ったりも何もしてやらねぇーぞ?ただでさえ面倒事しか起きなさそうな予感しかしないのに。』
「やだごめん謝るから頼むからお願い確認してきてぇーっ!!このままだとお姉ちゃん怖くて夜眠れないからぁ〜っ!!」
『わぁーかった、分かったよ…。見に行ってやるから…そう騒ぐなうっさい。』
「うえぇ〜…っ、だってホラー大嫌いなんだもん…怖いの苦手なんだもん…っ!」
怖がって縋り付いて喚き立ててくる姉に、しょうがなく重い腰を上げた妹は件のPCが置いてあるという部屋へと向かった。
ちなみに、彼女が妙に手慣れた空気を醸し出しているのは、先程彼女が口にした彼等のせいである。
何がどうしてか、彼女が自身の白い愛用PCで某にっかり動画を見ていると、何処かの次元と繋がり、何処かの本丸に所属しているんだろう付喪神様が画面を通して現れるのだ。
彼女からしてみれば、其れは最早日常茶飯事化してしまった飛んでも超情現象であるので、今更な事なのである。
しかし、普段この家に居ない彼女の姉は初めて知った事であるし、チキンでビビり性且つホラーが大の苦手な為、思わず助けを求めてしまったのだった。
まぁ、確かに普通じゃ起きない事が起きているのは事実だし、其れを日常化するまで受け入れてしまった彼女も普通ではなくなってしまっているのかもしれない。
其れはさておき。
いざ、言われた通りに例のPCがある部屋へとやって来てみれば、何のその。
何事も無かったかのように静寂そのもので、変わった点など一つも見当たらなかった。
その事に妹である璃子は首を捻った。
『ねぇ、何も起きてないし、何も居ないんだけど…?』
「えっ!?嘘だ…!もっとちゃんと確認してよぉ…っ!!」
『だから、なぁんも居ないって。てっきりまた誰かしら来てんのかと思ったけども、誰も居ないみたいだし。大丈夫なんじゃない…?』
「本当に…?本当に何も居ない?大丈夫?」
『本当だって…。嘘だと思うなら自分の目でも確かめてみりゃ良いでしょ?』
怖がりながらも彼女の後を付いてきていた姉が、柱にしがみ付くようにして部屋の中を覗き込んだ。
そしたら、彼女の言う通り慌てて適当に置いてきたPCがある事以外、特に何も変わっていない様子が広がっているだけであった。
その事に安堵した姉は胸を撫で下ろし、盛大な溜め息を吐いた。
「はあぁ〜っ、良かったぁ〜…っ!本当に何も居なくて安心したわ…っ。もし、何か居たら怖さのあまりに卒倒してたかもしんない…!」
『ちなみに、生えてきた手ってどんな手だった…?』
「えぇっと…怖いのと吃驚したあまりに一瞬しか見てなかったけども、確か黒っぽい色した手だったと思うよ…?」
『ふーん…って事は、悪の元凶引き起こした光忠の野郎だったのかな?ちなみにもう一つ聞くけど、その手が生えてきて吃驚した後どうしたの?』
「え…?怖さのあまりに開いてた画面勢い良く閉じちゃった。」
『ぶっふぁ…wwwザマァねーな彼奴…っ!調子こいてるバチが当たったんだよ、やーいやーい!!』
「えーっと、取り敢えず…もう大丈夫なんだよね?此れ以上何にも起こらないんだよね?」
『んー、まぁ確実に断言出来る訳ではないけど…今のところ何も起こってないor誰も来てないとこ見たら大丈夫なんじゃない?』
「え………っ、其れって安心して良いヤツなの…?何か全然安心出来ない返事なんですけど。」
妹の軽い雑なあしらいに、姉は困惑しながらも取り敢えずは安堵する事にしたらしく己のPCに触れるのだった。
後から彼女が呟くに曰く…。
『俺のPCだけじゃなく、アンタのPCでまで出て来るようになったんだとしたら…もしかしたら、この家のネット回線を通して向こう側の世界と繋がっちまってんのかもしんないね〜。』
だそうである。
謎は深まるばかりである…。
―数日後の事だ。
先日の事はすっかりさっぱり忘れたように自身の愛用PCで動画を見ていた姉は、またまた吃驚超情現象に出くわす羽目となる。
先日見たのと同じ光景で画面から手が生えてきたのだ。
其れも、どうやら同じ手のようである。
更に付け加えれば、その手は机を掴むと奥から更に身を引き摺り出そうと出てきていた。
「ギャアーッ!!また出たァー!?嫌ァーッ!!誰か助けてぇーッッッ!!」
忽ち盛大な悲鳴を上げる姉。
その場から飛び上がって急いで妹の元へと駆けていく。
凄まじい悲鳴を聞いた璃子は、何だ何だと二階の部屋から顔を覗かせた。
『ぁ゙あ゙…?今度は何だよ、騒々しいなぁ…。』
「出たんだよ、また手がぁ…ッ!!また私のPCの画面から例の手が生えてきたの…ッッッ!!うわぁ〜ん、お願いだから助けて!怖くて何も出来ない、一人じゃ怖いから一緒に居てぇ〜っっっ!!」
『あーも、はいはい…一緒に居てやるから…。ちょっと現場確認させて。』
「うゔぅ゙…っ、私のPCどうしちゃったのよ〜…っ。」
『はいはい、俺が付いてやっから泣かないの〜。』
怖さのあまりに泣き出してしまった姉を宥めつつ、一階の居間の部屋へと降りてきてみると…。
何と何時ぞやに見た光景の如く画面の枠に嵌まってつっかえてしまったらしい付喪神様が、某お化けな貞子の如く画面から這い出て固まっていた。
その見覚えのある光景と出てきた意外な人物に、璃子はキョトンとした顔付きで見遣った。
『おやまぁ。画面から生えてきたと言っても、今回はお爺ちゃん違いなお爺ちゃんが出てきてたのか。何か前にも見た事ある光景だなぁ…コレ。』
「え…何?アレ、アンタの知り合いか何かなの?」
『んーっと、まぁ…あのお爺ちゃんとは直接的知り合いではないのだけども、彼の関係者とは知り合いの仲、という事で遠回しな知り合いという感じかなぁ…一応。』
「じゃあ、取り敢えずこの場はアンタに任せた…っ!!私怖いから、離れたとこから見守ってるね!!」
『はいはい…んじゃ、ちょっくら嵌まっちまってる蒼い方のお爺ちゃん救出してくるねぇ〜。』
トントン拍子な流れで早々とその場を妹に任せた姉は、「グッドラック!(=`・ω・)b」と告げて部屋の隅へと引っ込んでしまった。
その場を任された璃子は、溜め息を吐きながら件のPCへと近寄り、中途半端に這い出た後固まってしまったらしいお爺ちゃんへ声をかけた。
『もしもーし、生きてますかぁー…?』
「あなや…簡単に出れると思ったら、衣が引っ掛かって動くに動けなくなってしまった…。」
『あ、一応生きてた…生きる屍みたいになってるけど。』
「おぉ…誰ぞ其処に居るのなら手を貸してはもらえぬか…?どうやら嵌まってしまって動けなんだ…っ。」
『あー、やっぱりそうでしたかぁー…。何となくそうなんじゃないかと思いました。何時ぞやに同じように嵌まって動けなくなっていたまっちろお化けが居たので…。お爺ちゃん、たぶんそのまっちろお化けのお知り合いですよね…?』
「うん…?その“まっちろお化け”とやらが誰なのかは知らぬが…白い衣で俺と同じような和装の者が居れば、其れは鶴丸国永ではないか?俺の本丸にも居るぞ。」
『あ、やっぱりこの人、彼奴等と同じ本丸の人だわ…。正確に言ったら人じゃなく刀だけど。』
「うむ、どうでも良いが早く此処から出しておくれ。腹が圧迫されて気持ち悪いのだ…っ。」
『わぁーっ!!お爺ちゃんしっかりぃーっ!!』
「おえ…っ、」と今にも吐きそうなぐったりとした様子に、慌てて彼の腕を掴み勢い良く引き抜いてやれば、思いの外スポーンッと出てきた天下五剣。
勢いのあまりどしゃりと後ろへ尻餅を付くと、その上に覆い被さるようにしてべちゃっと落ちてきた彼の身。
思わず「ぐえ…ッ、」と蛙が潰れたような色気も無い声が捻り出てしまった。
太刀故に自身よりも大柄且つ成人男性の身が乗っかれば、当然の如き反応である。
まぁ、取り敢えず無事に画面枠から救出出来たらしい彼の様子を見て安堵する。
『取り敢えず…どうもこんにちは、お爺ちゃん。たぶんだけど、お爺ちゃん違いでまっちろな驚き大好き吃驚爺の居る本丸からやって来た
刀だよね…?』
「おぉ…っ、もしや御主が、あの“退屈凌ぎには丁度良い、なかなかに見ていて飽きぬ面白い娘”か…!」
『彼奴そんな紹介の仕方してたのかよ…つか、俺は単なる退屈凌ぎにされてたんかい。今度来たらいっぺんシメたろ。』
「はっはっは…っ、うむ、実に男勝りな口振りだな!噂に違わず何とも凛々しい
女子よ。」
『お褒めに与り光栄で〜す…。…して、彼の天下五剣でいらっしゃいます三日月お爺ちゃんがどうして此方に?というか、何故にウチの姉のPCから生えてきたんです…?』
「あなや…今出てきたのは御主の姉君の物からであったか。何時もは御主の物から行き来していると聞いておったが…はて、どうしてだろうか?」
『うーん…こりゃまた話が通じなさそうな空気だなぁー…。何のデジャヴよ、コレ…。』
何時ぞやにもしたような感覚に、早々と何かを悟った璃子は遠い目をした。
其処へ、ビビって其れまで部屋の隅に隠れて様子を窺っていた姉がそろりそろりと出てきた。
妹である彼女が平気そうに会話していたから警戒を緩めたのだろう。
恐る恐る姿を見せた姉は彼女に近寄って小声で問いかけてきた。
「……ねぇ、その人本当に大丈夫なの?お化けとか幽霊とかじゃないの?」
『おや、お姉やん。出てきたんかいな。このお爺ちゃんやったら大丈夫やで。そう心配せずとも安心しぃや。あと、この人お化けでも幽霊でもないで。強いて言うなら神様や。刀に宿った付喪神が人の器を模して顕現した、刀剣男士って存在やんな。』
「如何にも、俺は刀より生まれし者…三日月宗近と申す。打ち除けが多い故にその名が付いた。改めて、宜しく頼む。」
「あ、此方こそどうも…先日は、吃驚したあまりに手ぇ挟んじゃってすみませんでした。私は、この子の姉の
耀子と申します。其方とは妹がお世話になっているようで…。」
「あなや…あの時、手が挟まれた気がしたのは御主のせいであったか。」
「本当、その節は誠に申し訳ございませんでした…っ!」
「いや、何、気にするな。掠り傷にもならん事だったからな。顔を上げておくれ。」
『マジか…お前、天下五剣の手ぇ挟んじゃったのかよ…ある意味凄ぇ勇者だな。』
「え…っ!何、この人そんなに凄い人だったの!?」
「はっはっは…っ、其れはただの称号に過ぎんさ。そう持ち上げんでくれ。俺の事は、ただの爺と思ってくれて構わん。数奇なる縁ではあるが…せっかくこうして巡り逢えたのだ、仲良くしようではないか。」
「うわ、確かに何か存在感凄いね、この人…!三日月さん…って言ったっけ?全然お爺ちゃんな見た目してないし、逆にめっちゃ若々しい上にテライケメソやないか…ッ!?マジで神様っぽくて畏れ多いんですけど…ッッッ!?」
『まぁ、三日月お爺ちゃんだからな。当然の反応だわな。』
姉のごく一般的な反応に愉快に思っていると、台所で用をしていた母が部屋へと戻ってきてしまい、この場に遭遇してしまった。
ちなみに、某不法侵入してきていた付喪神様こと光忠+鶴丸の事に関して、彼女は詳細を告げていない。
おまけに、今までで一度と彼等と母が遭遇した事は無かった。
故に、娘達はこの飛んでも現象の場に出くわしてしまった己の母に凍り付いてしまった。
しかし、この娘等の母、変なところで天然というか抜けている為、いざ刀の付喪神様である彼を見ても、驚くというよりは斜め上な方向での反応を返してくるのだった。
「あらっ!随分とイケメンで可愛らしい人が来てるじゃない…っ!どうしたの、この人?何処の誰なの?」
「あ、あー…っ、この人はあの、璃子の知り合いの知り合いで…っ。あと何か凄い人で…!」
『えっと、この人は前言ってた付喪神様のお仲間さんで…っ、三日月宗近さんっていう刀でね…っ!』
「三日月さんっていうの…!あらぁ〜、何とまぁイケメンで美人な方ねぇ!目の保養になるくらい格好良い人じゃない…っ!」
「はっはっは…っ。そうかそうか…俺は格好良いのか、なかなかに照れるなぁ。まぁ、俺も男だからな。そう褒められるのは悪くはないものだ。うむ、苦しゅうないぞ。もっと褒めてくれて構わぬ。…なんてな、はっはっは。冗談だ。爺の戯れ言と思って流しておくれ。」
この場においてもマイペースさを崩さない二人の空気に、彼女等は頭を抱えた。
駄目だ、この人等。
本来一緒にしちゃ駄目なタイプの人等だ。
早く引き離さないと…っ。
そうこうお互いに思い、アイコンタクトを送って頷き合えば、一致団結したように彼と母親をこの場から引き剥がしに掛かった二人。
まずは、適当に言い訳付けて母親をこの場から退散させる必要がある。
姉の耀子は機転を利かせて母に声をかけた。
「あー、そうだお母さん…!この人、今家に来たばったでまだお茶とか何も用意出来てないんだわ!もし今手が空いてて暇なんだったら、頼んでも良いかなぁ!?ほら、私達は私達でお客さん対応しとくからさ…っ!!」
「あら、そうなの?じゃあ、ちょっと待っててね。今からお茶出しの用意してくるから。せっかくだから、お茶だけっていうのも寂しいわよね〜。確か、お仏壇に御供えしてたお菓子あったから、アレ下ろしましょ!」
「あ、んじゃ其れは私が取ってきてあげるから…っ!お母さんは器とか用意してあげて!!璃子、アンタは座布団出してあげなさい…!」
『はいなっ!任せろ…!』
「おや、別にそんな構ってもらわずとも良いのだが…っ、」
「いえいえ、三日月さんは気にせず寛いでらっしゃってください…!せっかく来てくださったお客様なんですから!!」
「そうか…?では、お言葉に甘えてゆっくりさせて頂こうかな。」
袖口を口許に引き寄せてくふくふと笑む姿や、何と麗しきかな。
流石は天下五剣…何処ぞの吃驚爺とは大違いな佇まいよ、と思った璃子は、素早く用意してきた座布団を客室へ持って行ってやりながら、三日月お爺ちゃんを案内してやる。
何時もやって来る(勝手に不法侵入してくる)二人とは愕然とする程に違うもてなしをする彼女に、彼等から話を聞いていた彼は内心驚きながらも、もてなされる事自体は満更ではなさそうにほわほわと花を飛ばしながら受け入れていた。
「はーい、お待たせしましたぁ〜っ!お茶とお菓子です〜。どうぞ、召し上がってくださいねぇ〜!」
「おぉ、此れは此れは…っ。わざわざすまぬな。せっかく出して頂いた物だ、有難く頂戴するとしよう。」
「どうぞどうぞ、遠慮なさらずに…!其れにしても、三日月さんったらとっても格好良いわねぇ〜…っ。素敵な男性って感じで、良い目の保養だわぁ〜!」
『お母さんや…っ、此処はウチ等だけで対応するから、お母さんは他所に行ってらっしゃいな。』
「何よぅ、つれないわねぇ…っ。あ、もしかして…どっちかの彼氏だったりするの?やっだあ〜!そういう事なら早く言いなさいよ〜っ!!水臭いわねぇ!!」
『いや、何言うてんねんお母さん…っ!?この人が俺の彼氏とか畏れ多いわ!!』
「あら、違うの?残念。じゃあ、アンタのじゃなかったら、耀子の方のかしら?」
「はぁん!?私ですとっ!?」
「だって、アンタ達良い歳してんだから、そろそろ好い人が出来ても可笑しくない歳でしょ?」
一旦その場から剥がす事が出来たと思ったのに、今度はまた更に飛んでもな発言をぶちかましやがった母親。
何て罰当たりな事を言うんだと顔を青ざめさせ、首をブンブンと勢い良く振って全力否定した。
かと思えば、今度は標的を姉の耀子に変えた母。
何をどうしたらそう思うんだかが謎だ。
そうこう慌てて取り繕っていたら、何を勘違いしたのか、お爺ちゃんの方までソワソワし始めてきてしまう始末。
もうどうにでもなってしまえ、と心の底で思ってしまった璃子は、軽く考える事を放棄した。
其処へ、止まらぬ様子の母の天然な斜め上な発言。
此れには流石の璃子も度肝を抜かれる羽目となるのであった。
「そうだわ…っ!この際、三日月さんをアンタ等のどっちかとくっ付けちゃえば良いんだわ!そしたら、万事解決!!婿問題も結婚問題もすんなり解決になるわぁ…っ!!」
『え、ちょちょちょ、ちょいま、ちょい待って、待って待って待って…ッ?あの天下五剣に向かっていきなり結婚となっっっ!!?え…ッ、あ、あの天下五剣相手を婿……ッ、はぁんッッッ!!??お母さん、自分何言ってっか理解してる!?本気で大丈夫!?つーか、お爺ちゃん相手に何ちゅー事言うてんねん…ッ!!このお爺ちゃんと結婚とか、そんな罰当たりな事無いねんで…ッッッ!!?』
「何言ってんの、お母さんはアンタ達娘二人の将来を心配して言ってやってんのよ?全く…良い歳して未だに彼氏の一人も居なかったんだから、しょうがない子達よね。でも、大丈夫よ!此処はお母さんが引っ張ってあげるから、任せてなさい!」
「全っ然大丈夫じゃないんですけどォっっっ!!?寧ろ、真逆の方向過ぎてウチ等困ってんすけどォ!?」
「三日月さんみたいな可愛くて格好良い素敵な人がお婿さんに来てくれたら、お母さんとしても嬉しいわぁ〜っ!毎日目の保養になっちゃうんですもの!毎日楽しくてお洒落頑張っちゃうわ!!」
「なんと…っ!俺を婿に迎えたいとな…!?あ、あなや……っ、此れは鶴丸ではないが驚いた…ッ。俺で良ければ、その…貰ってくれると嬉しいなぁ…っ。(モジモジ/照)」
『すみませェーんッ!!彼方の方々、早々と此方のお爺ちゃん引き取ってもらえませェーん!?もう既に色々と手一杯なんですけどォーッ!?誰でも良いから回収頼みまァーすッッッ!!』
「やあ、こんにちは璃子ちゃん。僕の事呼んだかい?」
『ギャアーッ!!お前の事は呼んでねぇーッッッ!!』
「相変わらず酷い挨拶だなぁ…。でも、良いよ。其れが君の愛情の裏返しって事は分かってるから!」
『うわァーッ!!全く違ェーし、カオス極まってるからやだもう助けてェーッッッ!!(泣)』
飛んだ混沌を生んだ今回のお騒がせ事件。
取り敢えず、三日月お爺ちゃんは姉の耀子の婿候補(仮)という事で事態は収束し、其れ以来お爺ちゃんは姉の元へせっせと通うようになったとさ。
とある悪の元凶の存在はどうなったのか…?
三日月お爺ちゃんと同様に母の目に留まり、めでたく(ない)親公認の仲と相成るのであった。
『こんな奴が俺の彼氏とか絶対認めないからなァッッッ!?』
「もう、璃子ちゃんたら照れちゃって。全く君は恥ずかしがり屋さんだね?大丈夫、主も許可してくれてるし、君のお母さんからも直々に許可を得たからね。君が望めば何時だって結納出来るよ!」
『本当何言ってんの此奴!?頭可笑しいんじゃない!!?』
「耀子や、今日も爺は来たぞ。今日は此れを土産に持ってきた、受け取ってくれ。」
「ヒィ…ッ!?何て高級そうな物寄越してくるの、この人…!!」
「気に入らなかったか…?」
「いや、そうじゃないそうじゃないです!!凄く嬉しいですめっちゃ嬉しいです!!けども、こんな良い品物毎度毎度貰っちゃうの何か申し訳ないです…ッ!!」
「何、気にする事はないぞ。此れは俺が好きで御主に贈っている物だ。俺は御主に逢えぬ間も御主の事を愛しく思っておるぞ…?」
「ひゃあああぁ…ッ!!目が、目がぁ〜…ッッッ!!」
あまりの輝きと眩しさに目を潰される耀子であった。
執筆日:2020.07.24
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