まっちろお化け



夏と言えば、決まってホラーというのが定番というものであろう。

そして、ホラーの代名詞とも言える作品「貞子」は、子供からお年寄りまでの誰しもが知る有名作品である。

ホラーと言えば、お化け。

お化けと言ったら、貞子だろう。

其れくらいメジャーで有名なお化けだ。

そんでもって、その貞子というお化けは、テレビといった画面の中から出てくるお化けである。

おっかな吃驚、真っ黒で長い髪を顔の前に垂らして、画面の中から這い摺り出て来て人々を襲う…貞子のお決まり登場パターンだった。

そんな夏の風物詩とも言えるホラーの代名詞が、今自宅のPCで起きた。

ちょっとトイレに行きたくなったからと画面を離れ、戻ってきてみたらこうなっていた。

白い愛用マイPCから、まっちろいお化けが生えてきている。

どうやって出てきた。

どうしてそうなった。

まっちろお化けは、服も髪も頭に被るフードも真っ白いお化けであった。

で、そのお化けは、前述した貞子みたいな状態で固まっていた。

何か必死に藻掻いているところを見ると、どうやら上着が嵩張って引っ掛かり出て来れないでいるらしい。

飛んでも現象な癖して鈍くさい奴だ。

一応前置きしておくが、俺は別にホラーは得意ではない。

断固拒否する程嫌いという訳ではないが、好き好んで自ら進んで見るタイプではない。

よって、まっちろな鈍くさ貞子さんには即刻帰って頂きたい。

此処まで、呆然と部屋の入口付近に突っ立ち眺め続けて0.5秒。

取り敢えず、未だ突っかえて出て来れないでいるまっちろお化けの頭を掴んで、グッ。

力を込めて画面へ押し込んでやったら、まっちろお化けは盛大な悲鳴を上げた。


「痛い痛い痛い…ッ!!頼むから、無理矢理押し込もうとするのは止してくれ…!!もげるッッッ!!」
『何だ、お前喋れたのか。』
「逢って第一声が其れか!?…ちょッ、すまんが、腕を引っ張り出してくれ!腹が抜けないんだ…っ!!」
『いや、即刻帰ってくんないかな?ウチにはお前を養うような金なんて無ぇんだよ。』
「逢って二の次の台詞が其れとは、幾ら何でも酷過ぎやしないかッ!?」
『うるさい、黙れお化け。こちとら動画見てる最中だったんだ。鈍くさ貞子は、とっとと画面の中に帰れ。』
「俺は、お化けでも貞子でもない…!鶴丸国永だ!あと、貞子は女で長い黒髪のお化けだろう…!俺は刀で且つ男で白髪だ…っ!!」
『じゃあ、貞夫。ゾンビ染みた貞子の爺版。』
「そ、其れはそれでどうなんだ…ッ!?いや、そんなのは今はどうでも良いから早くこっから出してくれ…!狭っ苦しくて叶わん!!」
『知るかよ。お前が勝手に生えてきたんだろ…?自分で何とかしろよ。』
「理不尽…ッ!!帰ってやるから、とにかく今は出してくれ…っ!着物が嵌まって動けないんだ!此処から抜け出る事が出来れば、元の処に帰ってやるから…!頼む…っ!!」
『チ…ッ、面倒くせぇお化けだな…。』


自分から生えてきた癖に、嵌まって動けないとギャーギャー喚くお化け。

仕方がないので、鷲掴みにしていた頭を離し、バタバタと無意味に暴れていた手を掴んで思いっ切り引っ張ってやる。

すると、そのお化けは今度は「手がもげるッッッ!!」などと文句を口に叫びながら、ずるりと画面の中から出て来た。

もう一度言おう。

即刻帰れ。

迷惑だ。

そもそものところ、此方は暇な時間を動画を見る事で楽しんでたんだ。

邪魔してくれるな。

そんな意を込めて、出て来たまっちろお化けを睨み付けてやる。

…が、当人は、そんな視線に全く気付かないどころか、全く意に介しておらず、呑気に躰を伸ばして伸びなんかしていた。

此奴、マジでシバくぞ…。


「ふぅ〜…っ、やっとこさ出られたぜ…。まさか、出逢って即頭を鷲掴まれて押し込められるとは思わなかったなぁ〜。こいつは驚きだぜ…!」
『ほら、出してやったんだから…今すぐお帰りください。』
「引っ張り出してくれてありがとな!改めまして、俺は鶴丸国永と言う。鶴みたいに真っ白な鞘の姿をしているから、そう名付けられたんだ。宜しくな…っ!」
『誰が宜しくするか。聞いちゃいねぇんだよ、んな事。どうでも良いから、さっさと帰ってくれ。ウチはお化け屋敷じゃないんだ。』
「ちょいちょい思ってたんだが…君、女だよな?随分と勇ましい口調で話すから、最初第一声を聞いた時は男かと思ったんだが…。まぁ、男にしては声音が高過ぎるから、たぶん女だろうな〜とは思っていたが。本当に女だったんだな?いやはや、此れは驚きだぜ…!」
『聞けよ、人の話。』


さっきからずっと思っていたが、此奴、人の話を全く聞きやがらねぇ。

其れどころか、ペラペラと一人で勝手に喋り出す始末だ。

良い加減、うるさくて叶わない…。

いっその事、ティッシュでも丸めて詰めて口塞いどくか。

いや、口を塞ぐなら布の方が良いか。

どっかに要らないタオルあったろ…アレ使お。


「なぁ…君、名前は何て言うんだ?」
『お化けに名乗る名前はありません。』
「つれないなぁ…俺と君の仲じゃないか!」
『お前と仲良くなった覚えなんて此れっぽっちも無ぇよ。とっとと帰ってくれ。こちとら忙しいんだ。』
「そういえば、君、さっきまで動画を見てたって言わなかったか?」
『仮に言ってたとしても、テメェには関係無ぇだろ。さっさと帰れ。』
「君…さっきから喋ってたら、二言目には“帰れ”ばかりだなァ…。」
『当たり前だろ。帰るっつったから、わざわざ俺の手貸して引っ張り出してやったんだ。さっさと帰ってくれ。』
「こんなに退屈しなさそうな君に逢えたんだ。早々、俺は帰らないぜ?」
『は?ふざけんなよ、テメェ。さっきと言ってる事が違うじゃねーか。いてこますぞ、我。』
「君は、本当に口が悪いんだなぁ…。何処ぞのチンピラみたいだぜ?」
『ほっとけ。自覚済みだ、馬鹿野郎。』


本当、何なんだ、一体…。

俺のPC、どうしちゃったの。

何で平気で超情現象起きてんの。

何でこんな奴出て来ても壊れないの。

普通壊れるだろ…一回くらい。

マジで何なの。

何で某にっかり動画でMMD動画見てたら、画面の中から付喪神生えてくんの。

コレ、前もあったよね…?

どんなデジャヴだよ。

こんなデジャヴ要らないよ。


「おー、やっぱり動画見てたんだな!画面の中に俺が映ってるぞ…!」
『何なんだよ、一体…。マジでお前等何なの?』
「嗚呼、そういえば光坊も以前言ってたなぁ…。突然、或る時、仕事を手伝ってる最中でのーとぱそこん?とか言う端末を弄ってたら、画面に手が吸い込まれたって。」
『お前、彼奴の知り合いかよ。』
「嗚呼…!もし、一度画面の世界を越えられる燭台切光忠に逢ったとしたら、そりゃウチの光坊だっ!」
『ソイツは一度だけじゃないな…二度も三度も、ウチに不法侵入してきてるよ。』
「じゃあ…っ、やっぱり君が光坊のお気に入りと言われた“璃子ちゃん”か…!」
『バッチリ他の奴にまで人の名前教えてる、彼奴…今度シバく。』
「ははは…っ!こいつは、確かに見ていて飽きないな…っ!!」


何処の鈍くさ貞子のまっちろお化けかと思ったら、恐ろしく美人で変態なあの野郎の知り合いでした。

本当マジで帰ってくれ。


『つかぬ事をお聞きしますが…ちなみに帰る方法は分かっておいでで?』
「うん?画面の中へ頭から突っ込めば良いんだろう…?」
『お前も彼奴と同じ方法で帰んのかよ。もっとマシな帰り方無いのかよ…?』


其れから暫く、まっちろお化けは家に居候(不法滞在)した。


「やぁ、ウチの鶴さんが遊びに来てるって主に聞いたから、遊びに来ちゃった。」
『ギャア…ッ!!悪の根元…!!』
「はは…っ、酷いなぁ。」
「おお、光坊、お前さんも遊びに来たのかい?」
「うんっ。鶴さんだけ逢いに行ってるなんて狡いからね!璃子ちゃんは、僕の女の子だよ!」
『何仲良さげに会話してんだよ…っ。頼むから、早くこの悪戯大好きな吃驚爺を連れて帰ってくれ…っ!そして、もう二度と来ないでくれ…ッ!!』
「またまたそんな事言っちゃって…!本当は照れてるんだろう?僕には分かってるよ?」
「おいおい、光坊…俺も居るんだぜ?見せ付けないでくれよ。」
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーッッッ!!』


発狂寸前。

マジで此奴等ぶっ殺したい、五秒前。

帰らせる方法…?

んなのとっくに諦めた。


執筆日:2018.08.25

加筆修正日:2020.07.02

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