気付かされた恋心にきゅんっ



「おい、娘」
「うわ吃驚したぁ!!朝っぱらからいきなり何!?」
「貴様、朝飯は作れるか?」
「いや、何なん急に…?まぁ、作れない事はないけどさぁ…料理あんま得意じゃないから、作れても簡単な軽食メニューぐらいに留まるけど」
「ならば、目玉焼きを作れ。今すぐにだ」
「めっちゃ唐突…!つか、何で目玉焼きなんすか?」
「俺が食いたいからだが?」
「何で私なんよ…どうせなら料理ウマな虎杖に作ってもらえば良いのに」
「貴様が作った物が食いたいからに決まっておろう?つべこべ言わずにさっさと作れ。然もなくば殺す」
「横暴!!理不尽が過ぎるわ…!!」
「良いからやれ」
「ハイハイ、分かりましたよ、もう〜…私なんかが作るより虎杖が作ったのが絶対上手いししべらぼうに美味しいと思うんだけどなぁ…」


 休日の日、起きて着替えやら洗顔を済ませた後、「さて朝飯作るか買ったの食べるか否か何にしようかな〜」なんて考えていたら。
朝っぱらから部屋へ訪ねてきたと思えばいきなり“目玉焼きを作れ”だなんて命令してきた呪いの王様こと宿儺。
何もかも唐突過ぎて訳ワカメ状態なのだが…こと彼においては通常運転であり日常的犯行なので今更ではある。
 しかし、毎度思うが、その唐突な思い付きみたいなものに付き合わされる私の身にもなって欲しい。
呪いの王たる彼に気に入られたか何だか知らないが、今のところ殺されていないだけマシだとは思うけれども、気が変わったりなんぞした瞬間には飽きた玩具おもちゃをポイッと捨てる如く首をスパンッと胴体と切り離される事になるだろう。
流石に其れは困るので、機嫌を損ねない内に言う通りにしてやるのである。
自棄でも起こされて部屋を散らかされても困るしな。

 ―そんな訳で、絶賛朝から強制的に目玉焼きを作らされている私…。
キッチンに立ってせかせかと動きながらついでに朝飯(二人分の)も作っているのだが、その背後にピッタリとくっ付いて離れぬ宿儺氏が居た。
お前は飼い主に構ってもらいたい猫か何かか!
そんなツッコミを大々的に入れたい気持ちを抑えつつも、作れと言われ作っている作業の邪魔になるので、控えめに“やめろ離れろください”との意思を伝えるべく背後を振り返る事無く告げる。


「宿儺さーん、大変申し訳ないんですがね…?あんまりにもピタッとくっ付かれてると作業の妨げになるので、今暫くだけちょっと離れて頂く事って出来ます?」
「成程、貴様はこの俺に引っ付かれる事が嫌と申すか…いつ、一丁前に俺へ指図して良いと言った?」
「別に引っ付かれる事自体は構わないんすよ。ただ、今火ィ扱ってる最中だし包丁も扱ってる最中なんで、端的に言って危ねぇ、って事が言いたかっただけなんですが…。抱き付くのは後からでも幾らでも出来ますんで、一旦離れてもらっても良いっすかね?」
「俺に凍え死ねと申すか、そうかそうか…」
「え、何、私に引っ付いてたのって暖取る為だったんかい」
「今朝は随分と冷えるからな…貴様も寒かろうと思っての事よ」
「いや、私着込んでるし火元立ってるからそんな寒くないんだけどな…まいっか。宿儺さんでも冬の寒さには堪えるんですねぇ〜」
「ほう、喧嘩を売る気か?買ってやらん事もないぞ?精々貴様はベッドの上で啼き叫ぶ事になるがな」
「おい、コレ一応全年齢対象のヤツやからな?そんな真似させませんよ??」
「メタい話を持ち出すな。興が削がれる」


 そんなこんな冬の寒さから引っ付き虫となった宿儺氏をへばり付かせたまま朝飯を作り上げる羽目となった私。
控えめに言って、滅茶苦茶大変でした。
珍しく変な茶々入れてこなかった代わりにものごっつ引っ付きまくられたせいで、“マジで此奴こいつ邪魔”と心底思う程には…。
(心の中で思うだけで顔には出してなかったからたぶんセーフ。)
 一先ず、ご注文通りの目玉焼きとその他シンプルな朝飯メニューを作り上げ、テーブルの上へと運び、席に着く。


「ハイ、ご注文の目玉焼き出来ましたよ〜。あとついでに付け合わせに白米の御飯とインスタントの味噌汁&焼いただけのウインナーとベーコンに、剥いて洗っただけのレタス添えて、胡瓜の浅漬けも付けました。たぶんだけど、まだ起きて顔洗って着替えただけで朝飯食ってないんでしょ…?」
「よく分かったな。流石は俺が見込んだだけの女ではある」
「お世辞とか良いんで、ちゃっちゃと食って満足したら虎杖に主導権返してやってください。彼奴あいつ今頃混乱してると思うんで…。“何で何も無いのにいきなり主導権奪われたんだ?”って」
「ふんっ…、小僧こやつの事情など知った事か。俺は俺の遣りたいようにするだけだ。誰の指図など受けるものか」
「出た、宿儺様の俺様節…ッ」
「――だがしかし、せっかく作ってもらった物だ、俺への捧げ物として食ってやらねばなぁ」
「目玉焼きもとい朝飯が供物かよ」
「俺がどういった存在かは、その狭小な脳味噌でも理解しておろう…?」
「ハイハイ、御託は良いから冷めない内に食ってくだせぇ。私も腹減ってるんで」
「うむ…まぁ、今の発言はこの目玉焼きに免じて許してやろう」
「ハイハイ。頂きまーす」


 せっかく作った朝飯が冷めぬ内にと促し、きちんと手を合わせて食事を始める。
何だかんだ言いつつも、あの宿儺でさえ私が手を合わせたら倣うように手を合わせて食べ始めるのだから面白い。
たぶん、普段虎杖が何かを食べる前に必ずやってるから、癖みたいに移ってやっちゃっただけなんだろうけど。
せっかく行儀良い事やってるんだから、下手な事は言いまいとその時ばかりは敢えて何も言わず温かく見守るに徹した。
いやはや、呪いとて長い事人間の真似事やってりゃ身に付くものよなぁ〜。
 意外にも綺麗な所作で箸を使い、ぱくり、と目玉焼きを口にした宿儺氏。
彼の好みとかいまいち知らないから、焼き加減とか適当に自分の好みに合わせて作ったけど、どうだろう…。
不合格じゃなければ良いなぁ。
そんな事を思いつつ、無言で咀嚼する彼の反応を見守る。
黄身の部分に食らい付いたところで、彼は口を開いた。


「…まぁ、及第点と言ったところだな。特別美味くもなければ不味くもない」
「だから言ったじゃないすか〜。虎杖が作ったのが絶対美味しいって。嫌なら無理して食わなくても良いんで。私が全部食べますから」
「しかし、食えなくはないと言っておるではないか。話は最後まできちんと聞け」
「いや、宿儺さんの反応分かりづらいっす…」
「ところで、娘よ。何故、俺が目玉焼きを食いたいと申したか、その真意は分かっておるか…?」
「は…?単純に食いたいからだったんじゃないんすか?」
「其れも大いにあるが、真の理由は別にある。…お前、目玉焼きと言われて、“黄身”と“白身”どっちが好きだと思う?」
「え…其れって私の好みの話してんの?それとも、宿儺の好み当てゲームか何か?」
「戯け。貴様の好みを聞いておるのだ」
「えぇ…何か理不尽に怒られたんだけど」
「良いから言え」
「はぁ、何やよう分からんけども、取り敢えずどっちか答えろという事ね。うーん…目玉焼きで好きな方かぁ〜……あんまり意識して考える事無かったけど、“黄身”か“白身”かって訊かれたら…“黄身”の方かなぁ?だって、目玉焼きのメインというか主役の部分って“黄身”じゃない?だから、私は“黄身”の方が好きかな」
「ほぉ、奇遇だな?俺も貴様の事は好きだぞ。他と違ってなかなかに遊び甲斐のある奴だからな。骨のある奴は好きだ」
「………は?」


 一瞬、何て返されたのかが理解出来ずに呆けてしまった。
ついでに箸の手も止まって呆然と彼の方を見遣る。
すると、彼は悪戯が成功したみたいなしたり顔で愉快そうに笑った。


「ふむ、なかなかに良い反応だ。其れ見たさに、わざわざ此方から申して作らせた甲斐があったというものよ」
「え…は、何、どゆ事…??」
「先程申した俺の問いを覚えておるか?」
「“黄身”が好きか“白身”が好きか…ってヤツだよね?」
「うむ。その問いには、実は“黄身”という部分に貴様へ対する“君”というもう一つ別の意味が掛けられていた訳よ。此れで分かったであろう…?俺が貴様へわざわざ“コレ”を作らせた真意が」


 何とも憎たらしい表情を浮かべて笑う男だ。
しかし、その愉悦に一役買う反応を返したのが自分というのもあって何とも言い難いところである。
しかも、さっきから妙にじわじわと来て顔が熱いし。
其れを真正面に居る彼にマジマジと見られるのが気恥ずかしくなってきて、徐に俯き視線を皿の上へ落とした。
 視線の先では、自分の作った目玉焼きと付け合わせの物達が食べかけの状態で並んでいた。
お口直しにと口へ放り込んだ胡瓜の浅漬けがよく染みていてちょっと塩っ辛かった。
でも、米とマッチしていて美味い。
彼も居たからと何気に頑張って作った分、普段よりもちゃんとした朝飯が出来ているのだから、また何とも言えない気持ちになる。
 というか、私は宿儺に好かれていたのか。
だから、あんなにしつこく引っ付かれたり、ちょくちょくエロ発言を耳にしていたりしたのか。
そうかそうか…。


「どうした?顔がやけに赤らんでおるが?」
「…いやぁー、一体誰のせいでしょうねぇー…?」
い奴よ。そう焦れずとも、飯が済んだ後にでも可愛がってやる」
「うん、飯が済んだら私は食器洗うので席立つし、お前は虎杖に主導権を返してやれ」
「そう恥ずかしがらずとも良い良い。じきに慣れる。…これから毎朝御主に囁いてやろうなぁ、御主が他の男共にうつつを抜かさぬよう、分かりやすく耳元にでも。…ケヒッ!」
「わあ、凄い愉悦そうな顔」


 …まぁ、言うて私も彼の事そんな嫌ってる訳でもないし、好かれて困る事も無いから本気で拒絶する事も無いのだけど。
其れ故に色んな意味で困ってるんですがね。
実は呪いの王たる彼から寵愛を受けていた事とか、その内俺の嫁発言してくるんじゃないかとか諸々で。
しかし、其れでも本気で拒もうとは思わないから参っちゃうなぁ、もう。

 取り敢えず、後で虎杖には御免って謝っとこう。


執筆日:2021.11.26