『百年経ったら忘れるくせに。』
俺の言葉に、主はそう返してきた。
まるで信じていないとばかりに淡々と。
全て本心だと言うのに…。
この人は、何れだけ周りの者が愛を告げようと、己は其れを受け取るに値しない、もしくは上辺だけのその時限りの言葉だと思い込んでいる。
まぁ、だとしても、本人が自覚するか本当に首を縦に振ってくれるかしてくれるまでは言い続けるし、反応を窺い続けるんだがな。
主は律儀な人だから、喩え同じ文言を呟いたとて、その都度返してくれる言葉は違うものだ。
其れが俺にとってはとても好ましく映っているとは知らないだろう。
『人間にとっての百年はとてつもなく長い時間だけども、刀であり物であるたぬさん達にとってはあっという間な時間でしょ?其れに、私家系的に百年まで生きるとか絶対に無理だと思うし、イケても精々が七十そこらだろうし。反対に、たぬさんは百年以上とか余裕で普通に生きれるでしょ。おまけに、たぬさんが同田貫の集合体という身で顕現している以上、既に此れ迄の同田貫を所持してきた持ち主の記憶が膨大な量存在する訳なんだから…私という人間一人の記憶なんて早々に忘れちゃって片隅にも残らないって。』
主は、まるでそうだと信じて疑わない節で口にした。
本当にそうだろうか。
否、俺は違うと思う。
「アンタが何を言おうと、俺は決してアンタの事は忘れないし、喩えこの先アンタが死んで百年、二百年経とうと、俺は必ずアンタを見付け出して再び愛の言葉とやらを囁いてやるよ。」
どんなに姿形が変わろうとも、絶対にアンタの事を見付け出してみせれる自信がある。
其れ程にまで心底アンタという人の魂に惚れ込み溺れてるんだって事、きっと思いもしないんだろうな。
この人は、この手の話に関しては何処まで行っても疎く鈍いから。
自分が誰かに愛される事は無いと思い込んでいるから。
そんな寂しい人であるアンタを――俺は心底好き慕っている。
幾ら伝えたところで真意は伝わらずとも。
今は其れで良いさ。
何時か本当の意味で解し受け取って貰える日は来ると分かっているから。
其れが百年、二百年後の事となろうと…。
「俺は決して忘れなんてしてやらねぇよ。仮にアンタが望んだとしてもな。アンタが死んでも、輪廻し再びこの世に戻ってくるまで待ち続けると誓うさ。俺は何処まで行ってもアンタの刀…アンタの物だ。喩え俺が刀でなくなっていたとしても、必ずアンタを迎えに行く。その時は覚悟してろよ…?“もう絶対に離したりなんてしない”ってくらいにその身抱き締めて腕ん中閉じ込めてやるからな。」
『いや、でも、私死んだらたぬさんの事とか前世審神者だった事も含めて全部忘れちゃってるというか、一切合切憶えてないと思うんだけど…其れでも強行行くの?』
「行くさ。アンタが俺を憶えていようとなかろうと構わずにやる。その身に心の芯に再び愛を囁いてやる為にな。」
『おやまぁ、健気だねぇ〜。愛を伝えたその後はどうするつもりなの?』
「最終的には抱く。此れでもかって程に抱き潰す。」
『わあ、大胆…熱烈アピールだね。』
「別に今抱いたって良いんだぜ?」
『ん〜、申し出は嬉しいんだけども丁重にお断りしておくよ。私、この後もまだまだお仕事あるからさ。気持ちだけ受け取っておくね。』
ひらり、と躱してすぐにこの手から逃れ様とする身を引き留めて告げる。
「今告げた事全て冗談でも何でもない本気の言葉だからな。其れだけは忘れんなよ。」
『はいはい、分かりましたよ〜。素敵な愛の告白ありがとね。』
そう笑って返した主は、恐らく本気で捉えてはいないだろう。
仮にも神の末席である者から本気で告白されているという自覚が無いのが丸分かりである。
神の末席とは言えど、付喪神から心底好かれたらどうなるか――なんて、一ミリも考えもしないんだろうな。
じきに分かるさ、身を以て。
物の百年などあっという間だと言ったのは果たして何方だったか、後にその魂に問いかけてやろう。
―そうして思い募らせる事数十年、言っていた通りに主は死んだ。
安らかなものだった。
其れから更に時は流れた。
愛しい人が亡くなって百年後、その頃には戦も片が付いていて、俺は一欠片の記憶を抱いて人となった。
約束を果たしに彼の人の元へと赴く。
生前のものとは姿形は違っていたが、やはりその根源である魂を見間違う事はなかったのである。
愛しいものが愛しいまま在り続けていた事に感謝を捧げつつ、今再び愛を募ろうと俺は口を開く。
「―“百年経っても忘れない”…誓いは違えなかったぞ、主。いや、――李鞠。俺に心底愛される覚悟は出来たか?」
呆然と此方を見遣る彼女に向かって、俺はそう不敵な笑みを以て百年越しの愛を告げた。
執筆日:2020.10.21
【後書き】
今回の企画作品を執筆して思ったのですが…私、筆の進みにムラがあるので、速筆多産な時もあれば、のんびり作品と向き合う感じな時もある模様です。今回は後者に当たりますね。
“指定した一文から始まる、またはその一文で終わるお話”というテーマにチャレンジしたのが初めてだったのもありますが、書いていてなかなかに面白い物でした。
個人的に、テーマに沿いつつすっきり簡潔にお話を書き切る事が出来たので良かったと思っています。
「百年経ったら忘れるくせに」という一文から始まり、結果相手は忘れずに憶えててくれた、ちょっとロマンティックなお話とか素敵ですよね。
そんな思いを込めたお話として仕上がっていたら重畳です。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった荒木様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。
今回の企画作品を執筆して思ったのですが…私、筆の進みにムラがあるので、速筆多産な時もあれば、のんびり作品と向き合う感じな時もある模様です。今回は後者に当たりますね。
“指定した一文から始まる、またはその一文で終わるお話”というテーマにチャレンジしたのが初めてだったのもありますが、書いていてなかなかに面白い物でした。
個人的に、テーマに沿いつつすっきり簡潔にお話を書き切る事が出来たので良かったと思っています。
「百年経ったら忘れるくせに」という一文から始まり、結果相手は忘れずに憶えててくれた、ちょっとロマンティックなお話とか素敵ですよね。
そんな思いを込めたお話として仕上がっていたら重畳です。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった荒木様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。
