其れは、とても穏やかで平和な一時の一幕であった。

何ともなしに縁側に腰掛け、茶菓子を片手にお茶を飲みながら落ち着いている彼を通りすがりに見掛け、手持ち無沙汰だったのもあって何の気無しに彼の元へとお邪魔してみた。


『や、お爺ちゃん。お隣ヨロシ…?』
「おぉ、主か。仕事の方は良いのか?」
『うん、今日はもう全部終わらせてきたから。』
「そうかそうか。其れは偉いな。机に向かってばかりで疲れたろう、爺とまったりと茶でも飲まぬか?」
『是非とも、ご一緒させてく〜ださい…っ!』
「うむ、丁度鶯丸から貰った美味い茶があるのだ。此れと一緒に茶菓子でも食べて休むが良かろう。」
『わぁ〜いっ、美味しいお菓子付きだ〜!しかも、葛餅とはまた風流ですなぁ…!』
「今日のは燭台切が作った物だそうだ。夏に合わせて、少し塩気を効かせた葛餅に中の餡が絶妙に甘くてなかなかに美味いぞ…!」
『ほぉ、其れは楽しみですなぁ…っ。みっちゃんお手製とは、絶対に美味しいに決まってるじゃないすか!んふふ…っ、早速頂きまぁ〜す!』


三日月お爺ちゃんから貰った葛餅に早速食らい付くと、何とも言えない旨味と幸福感が口の中に広がって、忽ち蕩けた顔になった。

その横で、私の様子を嬉しそうに眺めるお爺ちゃん。

此れでは、単なる孫とそのお爺ちゃんとの和やかな日常みたいな構図になってしまう。

違う、違うぞ…っ。

私は決して彼の孫なんかではないし、彼に至ってはこの世で最も美しいと称される天下五剣の一つとされる刀だ。

今は人の器を得ている為に人の姿をしているが、幾ら彼が千年と生きていようとただのお爺ちゃんではないのである。

其れを忘れてはならないのだと己を律しようとするも、彼の元へ行けば顔を合わせる度、孫を相手するが如く甘やかされてしまうのだ。

そんな彼にあの手この手で甘やかされ続けた結果、今ではすっかり世間一般のお爺ちゃんと孫の其れで、甘やかされるのがテンプレという感じに定着してしまった。

しかし、彼自身が楽しんでやっている事ならば、まぁしょうがないかと半ば諦めている。

そうこうまた彼のお爺ちゃんっぷりに絆されてしまっている事を内心でぼやいていると、彼から声をかけられた。


「どうだ?美味いか…?」
『そりゃもう、当たり前の事だし分かり切ってた事だけど、べらぼうに美味過ぎて頬っぺた落ちそうっす…!生地の塩味と餡子の甘さが絶妙にマッチしてて、夏にぴったりの味だわぁ!んん〜…っ、疲れた脳味噌に糖分が染み渡っていくにゃあ〜……っ。』
「そうかそうか、其れは良かったなぁ。ほれ、茶菓子を食った後は茶でも飲んで口直ししてはどうだ?」
『あ、有難う〜お爺ちゃん。…ふぅ〜っ、甘い和菓子の後の緑茶は最高だねぇ…っ。はぁ、癒されるぅ〜。』


まさにほのぼのといった空気そのものであった。

のんびりほけほけとした彼の雰囲気に呑まれ、何時しか自分もほわわ〜んとした空気となる。

最早日常と化した事であるが、不思議なものである。

此れが戦の最中の一幕であるとは思えない光景だ。

しかし、現在進行形で今も歴史修正主義者との戦いは続いているのだ。

其れを微塵も感じさせない空気であり、今は仕事を終えた休憩時だからこそ一時的に忘れさせてくれているのだろう、何気ない彼の気遣いをひしひしと感じる。

敢えて口にする事はしないが、恐らくきっと此方を気遣ってくれての事なのだろう。

故に、甘んじて彼からの施しも受けるのである。

流石に、四六時中戦争の事ばかりを考えるのは疲れてしまうというもの。

其処へ、彼の気遣いは純粋に嬉しかったのもあった。

彼から与えられる穏やかな一時を満喫しながら、お茶を片手に他愛ない話に花を咲かせる。

こういった光景も安全な本丸に居るからこその事であった。

其処で、ふと遠くを眺めて遠い目をした彼がぽつり、と呟いた。


「こんなにも穏やかで平和な時間が、永遠にずっと続けば良いのになぁ。そしたら、主も皆も幸せなまま平穏に暮らしていけるだろうに……。まぁ、でも、此れは土台無理な話であったか…ははっ、すまぬな。つい可笑しな事を口走ってしまった。爺の悪い癖だな。忘れてくれ。」


そう言って彼は朗らかに笑って誤魔化し、別の話題を出す事で今ある微妙な空気を変える事にしたようだ。

何処までも食えない爺然としているが、今ばかりは何も返せる気がしなかったから助かった。

私はその流れに乗っかって、彼の言葉に相槌を打った。


「そういえば…正国とは、あれからどうある?先日、口喧嘩をしたと愚痴を聞かされた時は焦ったが…。」
『あー…っ、アレ?ちゃんと仲直りしたよ。元々しょうもない事から発展した喧嘩だったしねぇ〜。お互いに何であんな事で喧嘩してたのか後から可笑しくなってきちゃって、つくづく馬鹿らしいやって笑い合って御免なさいして、そのまま仲直りな流れだったよ。…っていうか、私達二人の関係の話を一々聞くなんて野暮じゃない?』
「はっはっは、まぁ良いではないか。御主等がくっ付くまでの間を見守っていたのもあって、ついその後も気になって仕方がないのだ。俺は爺だからな、爺というのは総じて世話を焼きたがるものさ。此れくらいのお節介は許されるであろう…?」
『全くもう…茶目っ気多いお爺ちゃんだことっ。…でも、話を聞いてもらえるのは嫌じゃないから、全然良いよ。』
「そうか、其れを聞いて安心した。では、此れからも変わらず御主等の行く末を見守るとしよう。」


くふくふと口許に手を当てて微笑む彼は美しい。

彼の笑みに釣られるように私も笑い返して、また別の話題へと話は飛ぶ。

だが、その心の奥底では、彼の言った一言が何時までも蟠りのように燻り渦巻いていた。

彼の言う“永遠”というものが続けば、何れだけ良い事か。

誰だって願わずには居られない事である。

時間遡行軍との戦が終われば、この本丸での穏やかな時間も、戦の為に生み出された彼等ともおさらばしなければならなくなる。

其れは、初めから必然的に決まっていた事なのだ。

始まりがあれば、終わりが来るのは当然の事。

まだ其れは先の事かもしれなければ、すぐの事かもしれない。

故に、何時大好きな彼等と別れる事になるのか、心の底で怯えているのだ。

其れが何時になる事とも分からないのに…。

情けなくて、いっそ悲しくなってしまいそうだ。

其れ程に、彼等の存在は私の中に定着してしまっていた。

彼等を失うのは、今の私の中ではとてつもない喪失として襲ってくるだろう。

穏やかな日常の陰に潜むその事実を、私は知っていながら尚も藻掻き喘いでいる。


―嗚呼、私は…貴方の呟く永遠が、永久の安寧が手に入るのならば、今すぐにでも欲しいと願う。


執筆日:2020.08.25

【後書き】
テーマが「永遠」という事、且つ選んだお題が「貴方の呟く永遠が欲しい」というものでしたので、真っ先に思い付いたネタをさらさらと描いてみました。
お題そのものを見た時にとても素敵なタイトルだと思ったので、是非ともその素敵なタイトルをそのまま活かせる文章になるよう努力致しました。
朝谷様がテーマ毎に選出されるお題は、何れも素敵なものばかりなので、お話を書かせて頂く度に感嘆しております。何時も素敵な企画を設けてくださり、有難うございます。
書き手として、此れ程の創作の機会はございません。
ちなみに余談ですが、今回は敢えて簡潔に仕上げる事を意識し、全体的に短めなお話として纏め上げてみました。故に、此れまで書いた企画夢の中では最も短文なお話と相成りました。
内容的にはあまり明るくない内容ではありますが、書いていて非常に楽しかったです。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。