偶々、本丸全体を覆っていた結界に綻びが生じて、本丸の守りが一時的に緩んでしまった或る日、俺達は敵の襲撃を受けた。

運の良い事に、襲撃してきた敵の錬度は然程高くなく、おまけに手数も少なかった為、大して苦労する事もなく殲滅する事が出来た。

冷静に場の状況を分析した主曰く、「偶然、本丸の近くを彷徨いていた少数隊の敵が此方の守りが緩んでる事に気付いてしめしめと乗り込んできたクチだろう。」との事。

確かに、言われてみれば、敵の錬度も弱かった上に数も少なければ、敵増援が来る事も無くあっさりと片が付いた。

俺達の本丸が在る座標を特定されての周到的な襲撃ではない事が分かって安堵したところで、早々と周りの奴と連携を取って負傷者の確認や各自指定位置に付かせていた隊と合流して報告を受ける主の元へと近寄った。

その時、初めて主の右頬に走る赤い筋を認めて、咄嗟に手を伸ばし触れた。

急に顔へ触れられた感触に吃驚した主が変に言葉を発する前に先に口を開いて事を教える。


『ぅわ、何…ッ、』
「顔…右頬のとこ、切れてんぞ。」
『え、嘘、本当に?』
「ああ。傷は浅ぇだろうが、今丁度俺が触ってる辺りに一本赤い筋が出来てる。」
『うお、マジか…!うわ本当だ、血が付いてるし。あらぁー、いつの間に切れたのかしら…全っ然気付かなかったわ。』


敵に切られてた事も自覚して無かったらしい主は、そう言って俺が触れた頬に手を伸ばし、直に傷口に触れて確かめた。

己の指に付いた赤色に、初めて顔に怪我を負っていた事に気付いた主は、半ば他人事のようにそう呟く。


『もしかして、アレかね?急な襲撃でめっちゃ緊張してたし、凄ぇアドレナリン出てたから痛みに鈍くなってたとかってヤツ?ほんま何時切られたんかねぇ〜…。俺、ぶっちゃけメチャクソ焦ってた上に脳内テンパってたからな、何かよく分からん内に事態収束した感あって覚えてない…っ!』
「あ゙ー…たぶん、俺が一匹打ち漏らしちまった時にやられちまったのかもしんねぇなァ…。数匹やたら速ぇ短刀が居たし。ありゃ、恐らく苦無のヤツだな…とにかく目の前に居る敵全部ぶった斬る勢いで戦ってただけだったから、あんまよく見てなかったなァ。幾ら俺がステータス値も最大且つ錬度も上限に達してる身だっつっても、刀種別の特性には敵わねぇわ…っ。流石に、あの短刀の速さにゃ追い付けねぇ。」
『ははは…っ、そりゃまあしょうがないよ。たぬさんにはたぬさんの強みがあんだから、そう落ち込みなさんなっ。』
「いや、逆にそう慰められるみたいに言われんのも腹が立つからやめろ。」
『すまん。』


思ったよりも重くない空気に、からからと笑って軽口を叩けるくらいには大丈夫そうだと、内心気に病んでいた事が杞憂に晴れて安堵した。

次いで、さっさと自分の傷の手当てを優先してもらう為に背中を押して促してやった。


「後の事は俺に任せて、アンタは早く薬研のとこ行って傷の手当てしてもらってこい。報告なら俺が後で纏めて教えてやっから。」
『え、でも、此れくらい大した事ないし…言うて掠り傷程度やし、俺なんかよりも皆の怪我手入れすんの優先した方が……っ、』
「大将に就いてる奴が何言ってやがんだ。アンタは大将で本丸の要だろ?んな奴が自分の怪我ほったらかして良い訳ねェだろーが!」
『ひぇ…っ、す、すみませんっ、御免なさいぃ……!』
「ったく…俺達の事が大事なのも分かるけどよ、俺達にとっちゃ何よりもアンタの事が大事だっつー事は前にも話しただろ?アンタは俺達の主なんだから、その主が負傷したまんまじゃ元も子もねぇじゃねーか。もっと自覚を持て、自覚を…っ!」
『あゔぅ゙…っ、すんません分かりました、もっとしっかり致しますぅ…!!だから堪忍して!頭握り潰さないでぇ〜…っ!!』


そうして、後ろから鷲掴んでいた頭を離し、解放してやる。

こういう時、ウチの主様はとんと自分の事に疎いから困る。

もう少し主としての自覚やら何やらを持って欲しいところだが…言ったところで、この人はすこんと抜け落ちたみたいに忘れ去るから繰り返し言い聞かせるしかない。

全く、心配するこっちの身にもなって欲しいもんだ。

時折危うさを滲ませる主の悪癖には、ほとほと困らされる。

かと言って、もっと自分の身を大事にしろ、つったところで然して変わる事もない事は目に見えてる。

だから、俺達が目を光らせとかなきゃならねぇんだ。

嘗てに…一度自ら死のうとして死に場所を探して生きていた主を守る為に、一度は敵の襲撃にて本気で死にかけたぐらいの主を生かす為に。

どんなに奴の傷が増えようたって、其れは変わらない。

俺は…俺だけは、絶対に主を見捨てたりなんてしない、守り通してみせるんだ、ってな…。

渋々自分の傷の手当てに動いた主の背を見送って、胸の内で思う。


―政府へ敵襲撃を受けた事の報告を終えた主の元へ、息抜き用の茶と菓子を持って訪れる。


「茶ァ持ってきたぜ。部屋、入るぞー。」
『あい。どうぞ、たぬさん。入ってきても構わんよー。』


一応の許可を貰ってから、主の部屋である審神者部屋の中へと入る。

中へ入ると、机に向かったままでいる主が目に映った。

その頬には、先程の襲撃で受けた傷が痛々しく乗っかっていた。


「報告、終わったんだろ?なら、もう今日の仕事は終いだな。ほらよ、茶と菓子持ってきてやったから休め。アンタ、今日働き詰めだろ。」
『あはは…っ、気遣ってくれて有難うたぬさん。近侍だからって色々頼っちゃってすまんね。お言葉に甘えて、休ませてもらおうかな…!っはぁー、今日は色んな意味で疲れたにゃぁ〜……っ!』


俺が入室してくると共に、僅かに張り詰めていた空気を和らげて格好を崩した主が、盛大な息を吐きながら気伸びをして凝り固まったんだろう躰を伸ばした。

その傍らに腰を落として持ってきた茶を差し出してやれば、笑みを浮かべて受け取った。


「今回の件で、上は何か言ってきたか…?」
『うーん、特に此れと言っては…。大体が予測してた感じの事のみで、取り敢えず今回の敵の動きについての報告を他と共有、及び以後への対策を練るor措置を取ってくれるとか、そんな感じ。一応、念の為に分析班呼んでこっちに送るらしいから、今後近い内に臨時監査的に政府調査員が来るかもです。ま、別に疚しい事ある訳じゃないから、今回の件を踏まえてしっかりチェックしてもらっとけば良いだけの話っすね〜。あと、念には念を入れて、ウチの本丸の座標を別地点へ移すそうだよ。まぁ、万が一今回ので向こう側に漏れてちゃ不味いかんね。その方が得策と言えば得策でしょ。』
「そうか…。」
『結界についても、綻びのあった箇所の修復はもう済ませたしね。ついでに強化も施しといたし。暫くは安心して良いと思うよ。まぁ、今後も警備は怠らないけどね!』


もう何ともないみたいな顔をして平気そうに笑う主の右頬に、俺はそっと手を伸ばして触れた。


「…傷、痛むか?」
『えっ、いや…そんなには……。触るとちょっとピリッと痛むぐらいで、今のところ傷口が疼いたりなんてのは無いよ。幸いにも、本当に傷が浅かったみたいで、出血した量も少なかったみたいだし。仮に痕が残ったとしても、うっすら細い線が残るくらいだろうって薬研に言われたしね。大丈夫大丈夫…!此れくらいなら、昔子供の頃にもやらかした事あるから!女の顔に傷が付いたとかって気にする事無いぜ!』
「けど…その傷が出来た原因は、俺が敵を取り逃がした事によるもんだろ。あの時、俺が敵短刀に苦無が紛れてるって気付いてりゃ、優先的に倒してた。……すまねぇ。大将であるアンタに傷を負わしちまって。」
『ええぇっ、良いって本当…!マジで此れくらい大した事無いから…っ!!俺の方こそ、切られた事に気付いてなかったくらい抜けてたんだから、お互い様だって!大丈夫、俺もお前ももっと色々学んで強くなれば良いんだから…そう自分の事責めないであげて?俺は元よりお前の事責めるつもりなんて無いんだから。今回のは、ただ俺がまだ弱くて敵の攻撃を防ぎ切れなかっただけ。結界の件だって、事が起こる前に気付けてたら敵の襲撃は防げたかもしれない。ほら、挙げていけば反省点は尽きないよ?だから、俺もお前と一緒。な…っ?』
「………アンタって奴は、本当敵わねぇなァ…。」
『えへへ…っ、お褒めに与り光栄なり〜!』
「別に褒めてねぇよ。」


改めて、傷を作っちまった原因を謝罪すれば、主は慌てて言葉を捲し立てた。

臣下が失態を冒したと言っても、この人は其れを認めつつも責める事はせずに、何時も自分の非を謝った上でお相子様だと言った。

正直、戦場で指揮を執る将としては甘い考えだったが、逆にその優しさがあるから俺達が付いていっているようなもんだった。

主は、変に優し過ぎるが故に、その裏で傷付いている事も多い。

表面上、平気な振りを装っといて、その実、本当は全然平気なんかじゃなくて。

何時だって、主は自身の弱い部分を俺達の前には見せようとしなかった。

だが…初期刀を始めとした、初期の初期の頃に顕現した古参の奴等が修行へと出ていった時、初めて弱さを晒け出した。

寂しさや不安に押し潰されそうになっている事を自ら打ち明けて、涙を見せてくれた。

だから、俺はその時に誓ったんだ。

主が折れそうになっちまったら、必ず俺が支えてやるって。

もし、また死のうとなんてしやがったら、断固として止めてやるって。

此れ以上、無駄に主が傷付いちまわねぇように…って。

でも、心の奥の何処かでは、全く逆の事も考えていた。


―今より、もっと傷付いちまったら…主は俺の元へと落ちてくれんのかな、って。


傷だらけで見てくれが悪い俺なんかを大事にしてくれる主だから、きっと今以上に心がズタボロになっちまっても、俺だけは主の視界に入れてもらえるんじゃないかって、至極最低な考えが渦を巻き始める。

勿論、どんなに主が傷だらけになろうと、俺は主を愛しく思うし慈しみたいと思ってる。

でも、だからこそ、同時に大事にしたいとも思うんだ。

真逆である二つの思惑を抱いている俺は、果たして正常な精神であると言えるのか。

歴史を改変したいだとか、主を自分の神域に連れ去りたいだとかの意思は無いから、まだセーフのラインだろうか。

少なくとも、闇堕ちするまでにはいっていない筈だ。

流石の俺だって、其処まで馬鹿じゃない。

なら…この感情は、どう解したら良いんだろうか。


『……たぬさん?どうかしたの…?』


一人黙りこくっていたら、心配した主が俺の顔を覗き込んできていた。

一瞬頭に過った不穏そのものの思考を振り払って、「大丈夫だ…何でもない。」と短く告げる。

そう、まだ何でもない内だ。

もしそうでなくなった時は、この感情が表へと出てきてしまった時が何でもなくなった時となる。

だから、今はまだ大丈夫…。


『あの…この傷の事は、本当に気にしないで良いんだからね?此れは、たぬさんのせいで出来た訳じゃないんだから。強いて言うなら、俺のせいだから。たぬさんは悪くないんだよ…?だから、変に思い詰めたりなんてしないでね?もし、たぬさんが責任感じて自分の事責めちゃったりしてたら、俺が悲しくなっちゃうから…。だから、やめてね?』
「…嗚呼、分かってるよ。まぁ、そう心配すんな。何も其処まで考え込んじまってた訳じゃねーから。…勘違いさせるような真似して悪かったよ。」
『ううん。わざわざ謝らなくても良いよ。ただ俺が勝手に心配しちゃっただけだから。そんなに気にしてないんだったら良いんだ。変な事言って御免。』
「何でアンタが謝んだよ…。」
『あれ、本当だね?何か御免。俺ってば変なとこで謝る癖あるから…っ。』


俺が黙り込んじまってた事を、俺が責任を感じて自分を責めていると勘違いしちまったらしい主は、そう言って俺を励まそうとした。

励まされる側なのはアンタの方だってのに…。

そうこう考えていたら何を思ったのか、主はせっかく貼ってもらった筈の覆いのガーゼを剥いで俺に見せてきた。

其れも、思い切り良くベリッ!と剥いで。

そんな主に、俺は訳も分からず慌てて止めようとした。


「は、アンタ何して……ッ!?」
『ほら、見てみて…!』
「は……っ?」
『ほら。頬に出来た傷、まるでたぬさんの頬にある傷と同じみたいじゃない?たぬさんのは左頬にあるけど…こうして向かい合ったら、鏡合わせみたいにお揃いだよっ!…へへへ…っ、たぬさんとお揃い、不謹慎かもだけど嬉しい…!』


なんて、無駄にガーゼを剥いだせいで痛い癖に、嬉しそうに笑ってんな事を宣ってきやがった。

その瞬間、俺の胸の奥深くに痺れるような感覚が走った。

まるで、心の奥底で思ってた事を肯定されたような気分だった。

無防備にも“俺とお揃い”だなんて口にして嬉しそうに笑う主に、俺は無意識にも気が昂っちまって…。

気付いた時には、俺は主の事を組み敷いていた。

急に視界がくるりと反転した事に驚き、思考が追い付いてきていない主を下にしたまま、俺の意思から離れた躰は勝手に動いて主の露になった頬の赤い線へと舌を這わせた。

舐めた傷口からは、錆びた鉄の味と苦い消毒液の味がした。

その味に頭では不味いと思いながらも、躰は言う事を聞かなくて、血の固まったばかりの傷口を舐り、口付けた。


『ぇ…ちょっ、たぬさん!?…なん、何して……ッ!!』
「…苦ぇ。」
『そりゃさっき消毒されたばっかだから苦いしクソ不味いだろうよ…っ!!てか何でいきなり舐めたの!?舐める必要あった!?というか、今のもしかして舐めて確認してたの!!?嘘でしょぉ!?』


突然の俺の不可解な行動に、主が下から喚き立てて騒ぎ出す。

正直うるさい以外の何物でもなかったが、敢えてその思考には蓋をして、主の右頬を彩る赤い線へ口付け続けた。

…嗚呼、今、どうしようもない程にこの人が愛しい。

いっその事、己の胸に掻き抱いて閉じ込められたらば、どんなに恍惚な感触を味わえるだろうか。

俺が舐めた所為で塞がりかけていた傷口が開いて、新しい血が滲み浮かんでくる。

其れを俺は綺麗に舐め取って全部自分の口の中へと飲み込んだ。

溢れかけた想いと一緒に飲み下すように。

そうして、半分暴走しかけた思考を残っている理性で繋ぎ止める。


『…ゃ…っ、ちょっと…、たぬさ…ッ。痛いって、…沁みて痛いってぇ………ッ。』


変わらず下に居るままの主が、痛みに顔を歪めて声を上げる。

しかし、緩い抵抗に俺は良しとして、そのまま寸分主の頬に乗る傷口を舐り続けた。

そして、主の目が半分涙目となってきた辺りで顔から離れ、上体を起こす。

起き上がって改めて上から眺めてみたら、なかなかに凄い絵面となっていた。

半分泣きかけの主を組み強いたまま、その主を痛ぶるみたいに傷のある頬を舐り続けるなんて…。

凄いというか、悪い意味で理性にクる絵面だった。


『…もう、何で傷口見せたら舐めてくんの……地味に沁みて痛かったじゃんか…っ。……あと、体勢が体勢で無駄に恥ずかしかったんですけど…もぉ…っ。色々いきなり過ぎて吃驚したわ…。』


俺が今仕出かした行為に対しての愚痴を漏らしながらゆっくりと躰を起こした主。

着眼点が些か可笑しい事には気付いてないらしい事に、俺の方が溜め息を吐きたくなった。


「……色々仕出かした後の俺が言えた口じゃねーけどさァ、もっと貞操観念の方に意識向けといてくれねぇかなァ…?じゃねーと、色んな意味で心配になってくるわ…アンタの事。」
『ぇえ…?』


剥ぎ取られて畳の上に転がったガーゼを拾い上げて言う。

真っ白い色をしていた筈のガーゼは、主の血で染まって赤く汚れていた。

其れを見て、俺は思った。


(…流石に、物理的に傷が増えてもらっても困るなァ……大事な存在の奴が朱に染まる姿は、あんま見たくねぇもんだし。やっぱ俺自身がもっとしっかりして、強くなって支えていくしかねぇのか…。)


そうとなれば、やはり己も修行に出るという選択肢を取らざるを得ないのか。

寂しがりの主の側から離れんのは、まだ気掛かりだったんだが…既に極めて帰ってきた奴等の数も増えて戦力は上がってきてる。

主の一番の心の支えである初期刀の清光が側に付いてる限りは、心配は少ねぇか。

選ぶなら、今が頃合いという具合なのだろうか。

改めて主の右頬に踊る赤い筋を見つめて思う。


「…もうちっとだけ、時間を置いて待つとするかなァ…。其れで心が決まったら……、にするか…。」
『え…?御免、今何て言った?よく分かんなかったや。』
「…こっちだけの話だ。独り言だから気にすんな。」


やっぱり、今すぐ修行に出るのは止めにしよう。

せめて、主の頬の傷が治り切ってしまうまで。

主の気持ちや精神的な部分が落ち着いてくるまでは。

其れまで、もう一度、自分の中で気持ちを整理してからでも遅くはない筈だ。


「取り敢えず…その傷、また塞がねぇとな。せっかく手当てしてもらってたの剥いじまったし。剥いじまったコイツも、もう汚ねぇし。もっかい薬研とこ行ってガーゼ貼ってもらうか。」
『え…っ、其れはちょぉっと不味くないっすか…?何ですぐ剥いだんだとか、今あった色々な事情を話さなきゃいけなくなるよぉ〜な気が……っ。』
「…あ゙ー、ソイツは確かに面倒だなぁ…。代わりに、俺が手当てし直してやろうか?そんくらいの軽い怪我なら、俺も手慣れてっし。」
『あ、んじゃ俺、救急箱取ってくるね。そん中にも確かガーゼあったと思うから…!持ってきたら再びの手当て宜しくぅ!』


そう言って、主は俺とお揃いと宣った傷を晒したまま、俺の前から一度捌ける。

例え、傷だらけになったとしても愛してやる、とは思ったけども…アンタが目の前で赤く染まっていく様は見たくないから、やっぱり守る事に徹すると誓う。

俺がこんな事を考えてるとは、一ミリも知らねぇだろうが。

そのまま、気付かないままで良い。

こんな醜く歪んだ人為らざる者としての思考なんざ、穢れを知らないアンタは知らなくて良い。


―でも、もし知っちまったり気付いちまったりした時は、引かないで、嫌わないで、変わらず俺の事も見て欲しい。

捨てずに、俺を側に置いていてくれたらば…そしたら、俺は何処までもアンタに尽くすから。

アンタの傷さえも愛してやるから。

だから、どうか俺を側に置いていてくれ。

其れが、アンタの刀として選ばれた俺の願いだ。


執筆日:2020.06.02

【後書き】
今回参加した企画のテーマが「傷」という事でしたので、真っ先に思い浮かんだのが彼でした(単純脳)。
ただ、ひとえに「傷」と言ってもどんな風に書いていくのかと考えた時に、本丸が敵の襲撃を受けた際のパターンを思い浮かべました。
そっからどんどん話を掘り下げていって、最終的に夢主ちゃんに頬を怪我してもらいました。
怪我した場所を顔(頬)に決めたのは、彼の第一印象が顔の傷だったからです。
敢えて位置は左右逆にしましたけどね…!
まぁ、展開的にはタイトル通りな感じに持っていきたかったので、途中アレな雰囲気な描写を描きました。
別にヤンデレという訳ではありませんが、付喪神故のちょっと仄暗い思考的な感じです。
ヤンデレた彼も其れは其れで美味しいかもですけどね?(笑)
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった宮様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。