赤い目の君に



云々小さく呻き声を上げるキティの後ろ背に、たった今外から帰ってきたジンは声をかけた。


「おい、テメェ…何唸ってやがる。」
『………ふぇ?』
「ッ!?」


振り向いた彼女の姿に仰天して、双眸を見開いたジン。

珍しく感情を露にしている。


『あぁ…ジン、おかえりぃ。』


その訳は、振り向いた彼女が両目を赤く染めて、ぽろぽろと泣いていたからであった。

慌てて涙を拭おうとする彼女を目にすると、徐に懐へ手を突っ込み、愛用銃を身近な相手に構え、突き付けた。


「誰だ、此奴を泣かせた奴は。今すぐ名乗り出ろ。コイツで頭ぶち抜いてやる。」
「あ、兄貴…っ!?落ち着いてくだせぇ!」
「あ゙…?もしかしてテメェか、バーボン。」
「失礼ですねぇ…変な言い掛かりは止めてくださいよ。」
「テメェぐらいだろう?此奴をイビる奴は。」
「何で僕だけが疑われなくてはならないんです?そもそも、イビってるのは貴方の方じゃありませんか?ジン。」
「何だと、貴様…。」
『あ、あの…っ!これには訳が…っ!!』


いきなり険悪ムードになる場に、その引き金になったキティはわたわたと焦り、慌てて訳を話そうと言葉を切り出す。


「おい、ウォッカ!このいけ好かねぇ野郎を今すぐあの世に送る為の一番威力のあるヤツを持ってこい…!」
「へ…!?いや、だから兄貴早まっちゃいけませんって…ッ!!」
「聞こえなかったのか…?良いから持ってこい!何だったら、テメェが代わりに撃たれるか?」
『ああ、もう…っ!人の話聞けっつってんだろコラァーッ!!』


とうとうぶちギレた彼女が精一杯の大声を張り上げ、物騒極まりない喧嘩を止めた。


『ったくぅ…、こうまでして言わなきゃ止まんないんだから…。』
「あ?何だよキティ。今からこの不届き者の野郎を裁こうとしてんだぞ、邪魔すんな。」
『主旨変わってんよ…!!んな物騒なモン仕舞え!!』
「安心しろ。テメェの仇は俺が取る。」
『何言っちゃってんの!?つか、私死んでないからね!?勝手に殺すな!!』


必死に抗議していると、間違った方向に話を傾けている彼が、そっと濡れた頬に触れ、無駄にカッコイイ台詞を言い放ちやがった。

その台詞を間近で聞いていたキールは、「何コイツ、キモ…ッ。」というような目で見つめていた。


『あのね?こうなった理由は、目を酷使し過ぎたからなの…っ!』
「………は?」
『だぁーかーらー…っ!情報収集の仕事で、ずっとパソコン見過ぎて目が乾いて痛かったの…っ!!私、ドライアイだから…長時間の作業はキツいし。瞬きしたら、乾き過ぎてたせいでものすっごい痛み走ちゃって…。勝手に涙出てきちゃったの!』
「……………。」
『目薬点そうと思ったけど、切れちゃってて…。今、ベルモットに買いに行ってもらってるところなんだけど…。』


真実を話され沈黙したジンは、暫し無言で彼女を見つめたかと思うと、ガチャリと再びバーボンの頭に銃を突き付けた。


「やっぱり此奴は殺す。勘違い起こすような態度を取ったのが悪ぃんだ。」
『え゙…っ。ちょちょちょちょっとぉ…っっっ!?』
「いけませんねぇ、ジン。貴方という人は…間違った事をした時はごめんなさいをするのがマナーでしょう?僕への謝罪はないんですか?」


互いに相手を毛嫌いする為か、バーボンは、敢えて焚き付けるような言葉を選んで言った。


「はっ、上等だ!謝る代わりに、とっておきの鉛玉をお見舞いしてやるよ。」
『おい、テメェ等いい加減にしろ…!って、ぅあ゙…っ!?い、痛…っ、うぇ〜……っ、またキタァ…………ッ。』
「ッ!?どうしたキティ!」


怒っていたと思ったら、急に声を震わせて目を覆ったキティ。

焦ったジンは、直ぐ様彼女の方へ身体を方向転換し、様子を伺う。

すると、目を真っ赤にした彼女が顔を上げ…。


『い、痛い゙ぃ゙…っ!ふぇぇ…っ、瞬きすんのも痛いよぉ〜…っっっ!』
「おっ、おい…大丈夫か?」
『大丈夫な訳ないじゃんかぁー…!うぇぇ…目がぁ……っ、ゔぅ゙………っ!』
「ベルモットはまだなんですかね…?大丈夫ですか、キティ?タオルで応急処置しましょうか?」
「ア゙?何でテメェにキティを任せなきゃいけねぇんだよ。此奴は俺が看るから、テメェはあっちにでも行ってろ。」
「優しさの欠片が1mmも無いような貴方に、どうして任す事が出来ます?」
「んだと、コラ。」


顔を合わせれば、ひたすらいがみ合う二人。

先程のジンなんて完全にメンチ切っていた。

そして、今もまたバーボンを凄い形相で睨み付けている。

そんな状況に、目が痛みながらも、どうにかしなければ大惨事になると頭を悩ませていると…。


「ただいまぁ…っ。買ってきたわよ〜?」
『ベル姐〜!!待ってたよぉ…っっっ!!』


泣きながら出迎えた彼女は、おかえりなさいと共にまるで女神とでも逢ったか離れていた恋人と再会した如くの勢いでベルモットに抱き付いた。

えぐえぐと赤い目を腫らしてしがみ付く。


「ちょっと、さっき診た時よりも更に悪化してるじゃない…っ。何で冷やさなかったの?」
『それどころじゃなかったんだよぉ〜っ!ふぇぇ…っ。』
「あー……何となく察したわ。」


痛みで瞬きすらも儘ならなくなっていたキティは、ベルモットが買ってきた目薬を受け取ると、直ぐ様自室へ直行した。

その背景で、帰宅したベルモットが、二人の険悪ムードに痺れを切らして叱り付けていた。


「ちょっと貴方達、いつまでいがみ合ってるのよ!いい加減にしなさいっ!!」
「ぁあ゙ン゙?悪ぃのは此奴だろうが。探偵気取りのこのいけ好かねぇ奴の。」
「言っておきますが、僕は何もしていませんよ。貴方の方が、いきなり喧嘩を吹っ掛けてきたんでしょう?」
「何だとテメェ…ッ。表に出ろ。今すぐその減らず口叩っ斬ってやる。」
「ジン…ッ!!」


後日、組織のNo.2である“ラム”から、ジンへ“ハウス。”との通達が来たのだった。


執筆日:2016.07.02
加筆修正日:2020.05.15

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