意地悪な仕返し



※長編未完での更新凍結による補完ネタ。
※昴さん=赤井さんだと知った後軸設定。
※以上を踏まえてどうぞ。


昴さんの顔を暫く見惚れた如くじー…っ、と見つめて観察していると。


「…あの、私の顔に何か付いてますか?」


あんまりにも見られるからか、読んでいた本から視線を上げた昴さんに気まずげながらも平静を装って訊ねられた。


『いえ…、ちょっと気になってたんですけど…その変装って、肌の質感とかもちゃんと人間らしいものなんですか…?』
「…気になりますか?」
『はい、物凄く。』


まじまじと興味津々に見つめる私。

クスリ、と笑みを浮かべた彼は栞を挟んで本を閉じ、此方に向き直った。


「では、触ってみてくださって結構ですよ。」
『え……っ、い、良いんですか…?』
「はい、構いませんよ。」
『ほ、本当ですか…?冗談とか抜きで?』


すんなり了承してくれるとは思っていなかった私は、そうぎこちなく言葉を返す。

赤井さんは、正体がバレてからも悪まで“沖矢昴”としての演技を続けるようで、そのままの調子で以て受け答えた。

ならば、此方もそれ相応の態度で返してやろうと思うが…。


「ええ、本当に構いません。どうぞ、好きなだけ気の済むまで確かめてみてください。」


にっこりと謎の微笑みを浮かべる昴さん――もとい、赤井さん。

その意図は全く読めない。


『…で、では、ちょっとだけ…失礼致します……っ。』
「はい、どうぞ。」


了承を得たので、おずおずと手を伸ばし、そっと触れるように彼の頬をタッチする。


『あれ…っ、意外と普通だ…。変装とか言うから、もっと材質がマスクっぽいのかと思ってたのに…。へぇ〜、いつもこんなの付けて過ごしてたんですね…っ。常にマスク付けてメイクして変装してなきゃいけないなんて、大変じゃないですか?』
「慣れれば然程気になりませんよ。」
『流石はプロ、スパイもこなせちゃえば変装もお手の物ですか。』
「変装で言えば、それは君もでしょう…?」
『確かに、そりゃそうだ。でも、貴方には負けますよ、たぶん色々と。』


会話を交えながらも我が手は絶えず彼の顔を物色中。

マスク的感触かと思いきや、意外にも人肌の温もりに人肌の感触…。

「多少は化粧も施しているのでは…?」と思っていたので、そっちの感触もあると思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

これなら、万が一顔を触られたとしても、一目では容易に気付けないだろう。

流石、の大女優、工藤有希子さんの手腕である。

まぁ、元はその師である変装の達人から受けた技ではあるが。

そんな風に考えながら触っていると、知らぬ間にかなりベタベタと触りまくっていたようで…。


「…随分と積極的な接触ですね。」
『へ……っ?』


昴さんからそう声をかけられた。

改めて自分の行動を振り返れば、それはそれはもう大層大胆な真似をしていた。


『ふわわ…っ!?す、すすすすみません!あんまりにもベタベタと触っちゃって…っ!!』


気付けば、ソファーの上で膝立ちしており、両の手で昴さんの顔を挟んでいた。

慌てて手を離し、姿勢を正すと、顔を俯かせた。

自分は、なんて大胆な事をしてしまったんだ…っ!

今更恥ずかしくなってきてしまい、顔に熱が集中してくる感覚を感じる。

絶対赤くなっている気がして、面を上げられない。

そんな様子など容易に読めるのか、隣に座る昴さんの小さく笑う声が聞こえた。


「珍しく大胆な行動を取られていたので、少々観察させて頂きました。気を悪くされたのなら申し訳ない…っ。」
『……………。』
「…どうしたんですか?先程までの覇気がありませんよ?」
『………赤井さんのイジワル。』
「――ふっ…、君が自分から訊いてきた事だろう?俺からは何もしていないぞ。」


だから、そのいきなりの昴さんからの赤井さんボイスになるのが意地悪なんだってば…。

姿は昴さんなのに、声と纏う空気が赤井さんに戻ってるのは、何処か違和感がある。


執筆日:2021.09.08

PREV
BACKTOP