ふと、外を出歩いていて、川が目に付いた。
偶々、己が居る場所が、橋の架かる場所に差し掛かっていたからだろうか。
何気無しにそのまま橋の真ん中辺りまで歩き、より川へと近付いて、ふと良からぬ思考を過らせた。
(こんなに大きくて広い川なら、きっと海と近いだろうな……。たぶん、其れなりの深さがあるし……飛び込んでみても、大丈夫かな……っ)
気紛れによる思い付きだった。
私は暫し、欄干に手を掛け、どうするかを考えた。
仮に飛び込んだとして、どうなるだろうか。泳ぎの下手な私では、すぐに力尽き、沈んでしまうだろうか。はたまた、其れ以前の問題で、飛び込んですぐに誰ぞに見付かり、救出されてしまうだろうか。
そんな事よりも、何だか飛び込んだ先に得られるものに非道く興味をそそられた。
入水という事を試す場所には、此処は絶好の場所であると言えるだろう。
(そうだ、試しに入水してみよう。今日は天気が良くてお日柄も良いのだから……絶好の機会だろう)
そう思考に見切りを付けると、徐に身を乗り出し、欄干へ足を引っ掛け、誘われるまま柵を乗り越えた向こう側へ行こうとした。
すると、不意にすぐ近くの距離から声をかけられた。
「おい、お前何やってる? 危ないから、其処に登るの止めた方が良いぞ」
振り返ると、其処には、見事綺麗に禿げた頭部を光らせる男の人が立っていた。その人は、此れまで一度も会った事の無い、完全に赤の他人な見知らぬ筈の人間であった。
そんな人間が、尚も欄干に足を掛ける私へ、再び言葉を投げ掛ける。
「別に、此れからアンタが何しようが勝手だし、通りすがりの俺には全くの無関係で知ったこっちゃない事だから、敢えて変に邪魔するような事は言わないけどさ。一応、後悔無いよう言っとくと……其処の川、思ったよりも汚いらしいから絶対止めた方が良いと思う。うん。色からして見ても、何か臭そうだし。つーか、海近いから、どう考えても磯臭くなると思うぞ。まぁ、アンタが決める事だし、別に俺は下手に止めようとも思わないけどさ。……でも、アンタにまだ少しでも迷いとかがあるなら、一旦其処から飛び降りるの止めて、俺と話でもしないか? というか、本当に自殺しようとしてた……? もし違ってたなら、物凄い俺の勘違いだし、早とちりだったな。悪い。気にしないでくれ」
通りすがりで声をかけてきた男は、何故かそのまま私へ話しかけてきた。しかも、謎に平然としており、淡々とした態度である。
よって、彼の第一印象は、“変な奴”だった。
買い出しからの帰り道なのか、近くのスーパーのビニール袋を両手に提げている。
欄干に掛けた片足はそのままに、呆然と彼の方を観察するように見つめていれば、また彼が口を開いて言葉を紡ぎ始める。
「なぁ、アンタさえ良ければなんだけどさぁ……もし、この後予定空いてんなら、どっかでお茶でもしねぇ? 丁度、この近くに新しい店が出来たとかでさ。何か比較的安くて美味いモン食えるって噂聞いて、ちょっと気になってたんだよなー。でも、俺一人で入るのも気が引けて、いつも通りすがりに外から眺めるだけで諦めてたんだけど……此処で会ったのも何かの縁だし、暇なら今からでも一緒に行かない? あっ……でも、いきなり初対面の人間にお茶誘われても困るだけだよな……っ。どうしよ……けど、もう言っちゃったし、変に無かった事にするのも失礼だよな」
一方的に喋りかけてきたかと思えば、何やらぶつぶつと一人で呟き始める。
今彼から言われた言葉を要約するに、どうやら私なんかと一緒にお茶がしてみたいらしい。
飛んだ変わり者だ。
私は暫し思考を傾け、考えた。
そして、考えを改める事にし、今すぐ此処から飛び降り入水を試みようとしていた事を中断する。理由なんてものは、そう、何となくだ。強いて挙げるとしたら……其れは、彼の言う噂のお店とやらが気になったからに過ぎない。
(其れに……今日はよく晴れた日故に、洗濯物がよく乾くだろう。綺麗に乾いた、柔軟剤とお日様の匂いのする洗濯物の香りは、とても魅力的で素敵な物だろう。そんな匂いに包まれた暁には、きっと何とも言えない幸福感に満たされる事間違い無しだ。また、更に言い募れば、こんな気持ちの良い日を、ほんの気の迷い如きで台無しにしてしまうには惜しい。だからじゃないけど……今日のところは、一旦止しておく事にしよう)
私は欄干に掛けていた足を下ろし、改めて彼と向き直って初めて口を利く。
「――別に、この後の予定なんて何にも無いから……君からのお誘い、受けても良いよ」
「おっ? マジで? サンキューな。でも、本当に良かったのか……? 俺なんかが声かけたせいで邪魔したとかなってない? もし逆に迷惑になってたりとかしたら御免なぁー。マジで迷惑に思う時は遠慮無く言ってくれて良いから。俺相手に我慢する事とか必要無いからなーっ」
「端に気が変わっただけだから、気にしなくて良いよ。ところで……君は、何処の誰かな? たぶんだけど、今日初めて会った人だよね?」
「あっ、そうだった。すっかり忘れてたけど、そういや自己紹介とかまだだったな……。初対面の人間に対して、一番大事な初歩的な事を忘れるとか、結構不味いよな。控えめに言って、頭の可笑しな人とか変人扱いされそう。其れは流石に嫌だから、今更ながらで遅いけど、ちゃんと自己紹介するな。――初めまして。俺は、サイタマ。趣味でヒーローをやっている者だ。改めて、宜しくな」
「私は、琥珀。今日は偶々、気紛れに入水でもしてみようかと思って飛び込もうとしていた馬鹿だよ。此方こそ、宜しく」
「えっ。気紛れの思い付きで入水しようとか考えるか、普通……? つーか、やっぱリアルに自殺しようとしてた感じだったんだな? 何か、滅茶苦茶ナチュラルに打ち明けられちゃった感じで地味に吃驚したけど。普通、んな軽々しく飛び降り自殺なんてするもんじゃないだろー……っ。何かするなら、もっとマシな事やったらどうだ? 例えば、特に遣る事無いなら、趣味に打ち込んでみるとか。そうじゃなければ、今みたいに外に出てるなら、適当にぶらついて散歩しながら好みの店無いか散策してみるとかさ。挙げれば意外と沢山の事が出来るぜ? 夜まで時間はたっぷりあるんだからさ。せっかくの機会だ、お茶行った後ゲーセンとか行かねぇ? 暇なら俺の暇潰しに付き合ってくれよ。……あっ、でも、怪人が出たら、俺ヒーローとして出向かなきゃいけないから、もし途中で怪人が出て来たらそっち優先で動くかも……っ。そん時はマジで御免な。先に謝っとく」
「ふふっ……君ってやっぱり凄く変わった人だね。こんな私をお茶に誘おうと思った事自体が、とっても可笑しくて、クレイジーだ」
そう言いつつも、此方へと差し伸べてきた彼の手を取って歩き出す。その足取りは、自分が思っているよりも軽いものだった。
執筆日:2023.02.25
公開日:2023.02.28
公開日:2023.02.28
【後書き】
企画サイト様側からすれば、番号被りネタとなってはしまうのですが……ずっと気になっていたネタ祭り枠に参加する事が出来、また、書いてみたかったネタを書けて楽しかったです。
ついでに、推しを布教出来たら幸いなり……!(寧ろ、其れが目的だったり(笑)。)
ちなみに、今回のお話を書くに至った経緯は……何となくですが、正義のヒーローなら、目の前で入水なんてしようとしている人間を見掛けたら、経緯はどうあれ、何かしら声をかけてきそうだと思ったのが切っ掛けです。基本的に、終始俺得で自己満な内容なのは、いつも通りではありますが(笑)。
何気無く誰かの支えとなっているような、ヒーローの日常たる雰囲気が伝わっていたら嬉しいです。
※尚、最後の補足として明記致しますと……。今回私が執筆致しました【No.11】のネタですが、原文内容をご紹介すると、『ふと気まぐれに入水でもしようしていた夢主に声をかけてきた相手がそれを止めて、最終的に夢主の心に変化が訪れる。(晴れているから今日は死ぬのはやめよう、)みたいな。その後相手にお茶に誘われて手をとる。』――といったものでした。
素敵なお題且つネタを投稿してくださった何処かの誰か改め匿名の方様、どうも有難うございました。
お陰様で、素敵なお話をまた一つ書けた気がします。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
企画サイト様側からすれば、番号被りネタとなってはしまうのですが……ずっと気になっていたネタ祭り枠に参加する事が出来、また、書いてみたかったネタを書けて楽しかったです。
ついでに、推しを布教出来たら幸いなり……!(寧ろ、其れが目的だったり(笑)。)
ちなみに、今回のお話を書くに至った経緯は……何となくですが、正義のヒーローなら、目の前で入水なんてしようとしている人間を見掛けたら、経緯はどうあれ、何かしら声をかけてきそうだと思ったのが切っ掛けです。基本的に、終始俺得で自己満な内容なのは、いつも通りではありますが(笑)。
何気無く誰かの支えとなっているような、ヒーローの日常たる雰囲気が伝わっていたら嬉しいです。
※尚、最後の補足として明記致しますと……。今回私が執筆致しました【No.11】のネタですが、原文内容をご紹介すると、『ふと気まぐれに入水でもしようしていた夢主に声をかけてきた相手がそれを止めて、最終的に夢主の心に変化が訪れる。(晴れているから今日は死ぬのはやめよう、)みたいな。その後相手にお茶に誘われて手をとる。』――といったものでした。
素敵なお題且つネタを投稿してくださった何処かの誰か改め匿名の方様、どうも有難うございました。
お陰様で、素敵なお話をまた一つ書けた気がします。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
