どうしてか、俺に歳上の彼女が出来た。
其れも、一回りくらい歳上の、成人してから暫く経つような、立派な大人の女と来た。
そんな相手と出会った経緯は、まぁ、よくある話で。雨の日に傘も持たずして雨に打たれながら、道端で拾った捨て猫を庇うように制服の上着を箱の上へ被せていたら。通りすがりの彼女が気付いて、不意に自分の方へ傘を差し出してきたのが切っ掛けだ。その後、怪人による災害で走り回っていた最中に再会し、また更にその後にも何やかんやの出来事を経て、今に至る。
俺みたいな奴相手に、彼女みたいな大人の女が恋人となるなんて、少し前までは全く想像もしていなかったが。実際問題、本当に恋人関係となっているのだから、我ながら未だ信じられないと思っているし、驚いてもいる。けれど、事実は事実であって、何も変わらないのだから、色々と考える事はあれど先の事は成るように成るだけだ。
先も述べた通り、俺の彼女は、現役学生の俺とは違って、完全なる大人の社会人である。よって、社会の歯車の一員として、また、自身の生活の為に、毎日会社で働いては地道にお金を稼いでいる。
まぁ、彼女の勤め先が、偶々リモートワークを主としている会社だったとかで、特別重要な会議でも無い限りは自宅で仕事をこなしている。
学校が休みだった事と、ヒーロー協会からの呼び出しも無い完全フリーな日であったから。別に、妹のゼンコから積極的にアピールする絶好のチャンスだと、半ば急かすように強引に家を押し出された事が偶然にも重なった訳では無いと、内心言い訳をして訪れた彼女の自宅。此れまでにも既に何度か訪ねた事はあったが、己から異性の……しかも、自分より一回りも歳上な女性の自宅へ上がるという行為は、何度経験しても慣れなかった。そうして、緊張しつつも、備え付けインターホンを鳴らすと、彼女は急な来訪にも関わらず笑顔で俺を迎え入れてくれた。
彼女に会いに行くと、必ずしもぶち当たる事なのだが……。学業に勤しむのが仕事な子供の俺とは違い、今日も今日とて仕事な彼女は、相変わらず忙しそうにパソコンと睨めっこしていた。曰く、今急ぎの案件を片付けている最中らしく、手が離せないとの事だ。本当の事を言うと、好きで好きで堪らない相手に構ってもらえないのは正直寂しかったが、個人的な私欲だけで彼女を困らせたりするのは避けたかった。
其処で、俺は仕事に集中する彼女の邪魔にならないよう、すぐ近くの場所で様子を窺いつつ黙って見守った。勿論、ただ側に居るだけなのもつまらないので、何気無い事でも彼女の力になろうと、甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼いたりと、其れとなく彼氏らしい事をこなす。妹のゼンコが居るから、昔から他人の世話を焼くのは苦じゃなかった。その相手が妹でなくても、自分が惚れた相手なら尚更、世話を焼く事への意識には力が入った。
何せ、自分と彼女との間には、出会った時から既に生まれた時間という大きな差があった。故に、どうしても年齢の差には勝てず、定期的に己は彼女と比べてまだ子供なんだと悔しく思う事数回。かと言って、幾ら何を言おうと、年齢の差など埋める事は出来ないのだから。ならば、他の事で彼女に対して自分が如何に格好良い男なのかを示す他無いだろう。そして、俺は、惚れた女の為なら努力を惜しまない男だった。
暫くの間そうした態度で控えていると、ふと彼女が先程からずっと飲み続けている物へ意識が向いた。
「なぁ、琥珀、お前が飲んでる其れって……珈琲だよな?」
「え? あー、うん。そうだけど……何か?」
「珈琲って確か、飲み過ぎると逆に胃を荒らすんじゃなかったっけか……? 単刀直入に聞くけど、今飲んでる其れ、何杯目だ?」
「えーっと……今日だけでも確か、朝食の後から飲み始めて……数えて今ので四、五杯目ぐらい行くんじゃなかったっけかな」
「ウゲェッ! よくんな苦い物を何杯も飲み切れるよな!? もっと他にも沢山飲み物あんだろーがよ!」
「いやぁ〜、だって仕事中は此れじゃなきゃやってらんないんだもーんっ。別に、珈琲以外にもお茶とか紅茶とか飲む時だってあるのよ? でも、珈琲が一番頭冴えるから! 何より、定期的なカフェイン摂取で眠気防止にもなるからね……っ! やっぱ仕事のお供は珈琲に限るわ!!」
「ちょっと待て。今、眠気防止で飲んでるっつったか……? 何か嫌な予感すんだけど……一応聞くけどさ、お前……
ふと気になった彼女の言動に対し問い質せば、彼女はあっけらかんとした調子で答えた。
「え?
「だからかよ! そんな風にギンギンにガン決まったみてぇーな目してたのはっ……!! 珈琲飲む前に一遍寝ろ!!」
「だが、私はまだ眠れないのだ!! せめて、今やってる仕事が終わらない限り、私は安心して寝れないのよ……っ!! だから、今すぐ私は此れを飲み上げて、次のもう一杯を新しく淹れて来なければ……ッ!」
「まだ飲む気かよ!? 一旦珈琲飲むの止めて寝ろ!!
「止めるな、バッド君……!! 私はまだ終われないのよぅ!!」
「止めるわ、馬鹿ッ!! マジで体壊す気か!! 仕事大事なのは分かるけど、先ずは体が資本だろーが!! そんなん学生の俺だって分かるし、馬鹿でも分かるわァッ!! ……一先ず、区切りの良いとこまで仕上げたら、数時間でも何でも良い! 一遍脳味噌休ませる為にも仮眠入れろ! んで、其れから続きすれば良いだろ!? どっちみち、昨日からずっと起きたままってんなら、集中力も切れてるだろうし。徹夜で働き詰めなら、効率も落ちてんだろ?」
「ぐぬッ……仰る通りでぐうの音も出ません……っ」
「俺の事はどうでも良いから、早く区切り良いとこまで終わらせろ。んで、さっさと寝ろ、この馬鹿野郎」
「ド正論過ぎて何も言えねぇっすわ……」
彼女の言う通り、ごく一般的な正論を叩き付けただけのつもりだったのだが、どうやら功は奏したらしい。
渋々、途中ながらも仕事に見切りを付ける事にしたのか、キリの良いところまで行くとデータに保存を掛け、愛用であるパソコンの画面を閉じる。そして、すっかり空になってしまったマグカップを台所のシンクへと片付け、ソファーへと横になった。何で寝室のベッドで寝ないのかを問えば、ちゃんとした布団で寝たら確実に爆睡して起きれなくなるからだそうだ。其れでは、仕事の期限に間に合わなくなるから困るらしい。どんだけ仕事熱心なのか。否、些か熱心過ぎて心配になってきたところである。
全く、目の下を縁取る隈からしても、
シンクに置かれた、何度も珈琲ばかりを注いで茶渋が染み付き汚れたカップを見て、思う。
「……あんま無茶すんなよ、琥珀。俺と違って、お前ェは女なんだから……体、大事にしねぇーと承知しねぇからな」
疲労感からぐったりと横になる彼女は、ふにゃりと力無い笑みを浮かべてこう返す。
「その言葉……君こそ特大ブーメランなんだからね? いつもヒーロー業頑張ってるのは知ってるけれど、君だってまだ現役の高校生なんだから……あんま無茶しちゃ駄目だよ」
「俺は男だから良いんだよ……っ」
「じゃあ、私も、大人だから許されるって事で」
「っ、お前なぁ……っ」
「ふふっ……心配してくれて有難う、バッド君。君は皆のヒーローなのに、こんな私一人を気にかけてくれて……嬉しい。そんな、皆のヒーローとしても頑張る“金属バット”君の、負担になってないと良いのだけども…………。いつも、仕事忙しくて、あんま構えてなくて……寂しい思いさせちゃって、御免ね……。今急ぎの案件が終われば……少しは時間が空くと思うから……その時は、めいっぱいイチャラブしようね…………」
言葉尻の最後の方は眠気に勝てなかったのか、うつらうつらとしながらの呟きで。結局抗えずに、最後は寝落ちるみたく眠ってしまった。
そんな疲れの見える彼女の頬へ手を伸ばし、労るように撫ぜて。どうせ既に聞こえてはいないだろうが、今しがた零された言葉に対しての返事を返した。
「……お前ェが元気で居てくれさえすれば、俺は其れだけで十分なんだよ、バーカ」
姉御肌を気取って、精一杯大人の恋人を演じようと頑張る彼女に、お疲れ様のご褒美にと優しくブランケットを掛け、眠る彼女の米神へそっと口付けを贈る。本音を言うと、起きている間の、彼女の唇に出来たら良かったのだが……。まだまだウブで恥ずかしさの勝る自分では、此れくらいの事が限界で精一杯だった。
好きで好きで仕方ない、愛しい彼女が早く元気になりますようにと願って。彼女を守る男として、恋人として、彼女が目覚めるまでの時間ずっと側で見守っていようと思う。
「ったく、無警戒にも程があんだろ……っ。仮にも、俺も男だってのによ……」
生憎、今は疲れから可愛らしいとは程遠い顔付きではあったが。其れでも、好いた男の目の前で無防備にも寝顔を晒すのだから。いつか襲われてしまっても文句は言えないぞ、と……暗に言い聞かせるように呟く。
成人まであと数年。己が成人した暁には、其れまで我慢していた分、目一杯抱き潰してやるから覚悟してろ……っ。
けど、嫌われたくはないから……今だけは、盛んな年頃としての理性を抑えて、側に居る事だけに徹するのだった。
――ちなみに、彼女を起こしたのは、其れからたっぷり一、二時間が経過しての事である。その間、俺は何をしていたのかと言うと……眠る恋人の寝顔をじっくり観察しつつ堪能し、起こさないようこっそり携帯で写真に収めたりなどしていた。
今回密かに撮影した可愛い写真は、暫く待ち受けにでもしようかと思う。妹や本人にバレたら小っ恥ずかしい事この上無いが。ひっそり一人で楽しむ分には、別に構わないだろう。そう、胸の内で言い訳を零して、取り敢えずは開き直っておこう。
執筆日:2023.02.24
公開日:2023.02.28
公開日:2023.02.28
【後書き】
今回投稿致しましたお話……実は、初めて書いたキャラクターのお話となります(笑)。
というのも、『一撃男』という作品にハマったばかりで、まだまだ色々ニワカレベルなんですよね。
其れでも、創作意欲が疼いた為、勢いと熱量のみで仕上げました!
ちなみに、この度私が書きましたお題は、「年の差」になります。
元々は、普通の短編夢として上げる予定だった為、特別意識したという訳では全然無く、偶然の産物になります。
今時、“年の差カップル”という言葉はありふれたものとなってしまいましたが、個人的、“年の差”という響きには沢山の夢とロマンが詰まっているものと思っております……!
年の差故に生じる初々しさや甘酸っぱさ漂う空気は、同年代とは異なる新鮮さを味わえますよね!
素敵な企画があった事に、とても感謝なのです!
ちなみに、何で金属バット君のお話を書くに至ったのかを申しますと……何か、金属バット君が大活躍する回を視聴してから、彼の良い奴さ加減が刺さっておりまして……。
唐突に金属バット夢を書きたい衝動に駆られたが故というのが経緯です。
そして、思い付く勢いのまま書き殴ったのが当作品となる訳ですな!
最後に、後書きとして一つ補足しておきますと。
作中、個人的な拘りから、彼を呼ぶ際はヒーロー名の“金属バット”ではなく、本名の“バッド”の方を呼ばせて頂きました。一応、変換ミスor打ち間違えでない事を此処に明言しておきますね(笑)。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
今回投稿致しましたお話……実は、初めて書いたキャラクターのお話となります(笑)。
というのも、『一撃男』という作品にハマったばかりで、まだまだ色々ニワカレベルなんですよね。
其れでも、創作意欲が疼いた為、勢いと熱量のみで仕上げました!
ちなみに、この度私が書きましたお題は、「年の差」になります。
元々は、普通の短編夢として上げる予定だった為、特別意識したという訳では全然無く、偶然の産物になります。
今時、“年の差カップル”という言葉はありふれたものとなってしまいましたが、個人的、“年の差”という響きには沢山の夢とロマンが詰まっているものと思っております……!
年の差故に生じる初々しさや甘酸っぱさ漂う空気は、同年代とは異なる新鮮さを味わえますよね!
素敵な企画があった事に、とても感謝なのです!
ちなみに、何で金属バット君のお話を書くに至ったのかを申しますと……何か、金属バット君が大活躍する回を視聴してから、彼の良い奴さ加減が刺さっておりまして……。
唐突に金属バット夢を書きたい衝動に駆られたが故というのが経緯です。
そして、思い付く勢いのまま書き殴ったのが当作品となる訳ですな!
最後に、後書きとして一つ補足しておきますと。
作中、個人的な拘りから、彼を呼ぶ際はヒーロー名の“金属バット”ではなく、本名の“バッド”の方を呼ばせて頂きました。一応、変換ミスor打ち間違えでない事を此処に明言しておきますね(笑)。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださった朝谷様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
