何処にでも居るような
私達のその後の話


 あの後、帰宅してから色々とゴタゴタがあって、結局連絡するのを忘れてしまっていた。
 翌日の朝、起きて朝飯を食べている時の事である。
 朝飯よりも先に洗濯の用意に取り掛かっていた母が、ふと声をかけてきたのだ。
「あら。このハンカチ洗濯するところに出されちょったけど、誰の?」
「うん? あー、其れ……私が昨日ハロワから帰ってきてから出したヤツやね」
「え、アンタのなん。でも、アンタ、こんなハンカチ持っちょったっけ?」
「其れな、昨日偶々逢った通りすがりの人が親切にしてくれた時に、“使ってください”言うて貸してくれた物なんよ」
「あらまぁ。そら良い人やったんやなぁ。こんな良いハンカチ貸してくれるなんて、気前良い人やわ」
「えっ、どゆ事……?」
「あら、アンタ分からんかったんな? このハンカチ、生地も良いヤツで綺麗な刺繍もされちょるヤツやから、どっかお店に売っちょるブランド品か何かのハンカチよ?」
「うっそぉ……」
「嘘やないて。ほら、よく見てみぃ。ちゃんとした作りした物やろ? 此れはやっすいとこで買ったんヤツと違うで」
「マジで……? 私、昨日、このハンカチ貸してくれた人に“百均とかで買ったやっすいヤツなんで、良かったらそんまま貰ってってください!”とかって感じに言われて渡されたんやけど……」
「そら、わざわざ返す手間とか作るんが面倒やったけんの方便やな」
「ほあ……マジかぁー…………っ」
 どんだけ良い人やねん。私は全く思い至らなかった事に気付かされて頭を抱えた。
 母はそんな私を視界に入れ、「ちゃんと御礼しなね、その人に」と告げて、洗濯する為の準備に戻っていった。ハンカチは、ご丁寧にも手洗いで洗ってくれるとの事らしい。
 乾いたら丁寧にアイロンを掛けて畳み、何か丁度良い感じの袋に入れて保管しておこう。


後書き
※原文は此方より。
初出日:2022.06.26/加筆修正日:2024.05.08