朱と戯れる



起きて朝御飯を食べに居間へと降りていけば、今日は朝から本来の姿でのご登場であった。

顔を合わせた初日に見た以来の、あの可愛くてちっちゃなアニマル姿の朱である。

シマリスの最大の特徴である、くるりと丸まったもふもふとした愛らしい尻尾。

動く度にぴこぴこと揺れ動く耳と尻尾に大変癒される限りだ。

見るからに癒し度抜群な光景…私は何時楽園パラダイスに足を踏み入れたのかな、と思った程であった。

視界の端に入る小さな姿に、今朝からずっときゅんきゅんモード全開でやばい。

正直言って、もう顔の筋肉が常に緩みっ放しのゆるっゆるで凄い間抜け面晒してる気がしてならない。

でも、引き締めようと試みても変な顔になるだけに終わりそうなので早々に諦めた。

もう今日一日くらいゆるっゆるでも良いや。

このハチャメチャに可愛いキュートさを前にしては、鉄壁のATフィールドだって即落ちの瓦解になるわ。

自然と勝手に緩んでしまう顔と一緒に、心もゆるっゆるに緩んでしまうのはしょうがない。

だって、目の前でぴこぴこと忙しなく動く小さな彼女が可愛過ぎるのがいけない。

まさに、可愛さ余ってギルティー状態であった。

朝御飯を食べた後は、リスとしての本能か、せっせせっせと顔や尻尾の毛繕いをする朱。

いやもう語彙力失うレベルで可愛い。

否、最早言語など必要無い程の愛くるしさに取り敢えず黙って眺めておこうとすら思える。

そんなこんなな思考から、起きてからずっとやたら静かに無言で彼女の事を見つめ続けていると、唐突にハッとしたように動きを止めた彼女が此方を見遣った。


「あ…っ!ご、ごめんね!!つい、何か色々と気になっちゃっていそいそと毛繕いしちゃってて…っ!御飯食べたりする所で毛繕いだなんてお行儀悪かったよね!?本当にごめんなさい〜っ!!」
『うん…いや、良いよ。私、全然気にしてないから。朱も気にしないで、そのままで居て?』
「うぅ〜っ、何だかごめんなさぁ〜い…!」
『ううん…良いの、今の朱可愛かったから……今日は一日そのままでも全然構わないよ。寧ろ、そのままで居てください。』
「へ…っ!?ま、まぁ…未有ちゃんが良いって言うのなら、このままで居ようかな…?偶には元の姿に戻らないと、自分が本当はリスだって事忘れちゃいそうになるから…っ。」


困ったようにシュン…ッ、となる姿も愛らしくて堪らない。

故に、ついつい手指が伸びて彼女の頭を撫でてしまっても仕方ないよね、と誰に言うでもない言い訳を胸中に零した。

うん、今日はダメな日決定だな、こりゃ。

その後も、そんな感じでひたすら朱の事を可愛がっていれば、気付けばあっという間に時間は過ぎ去っており…時計を見た時にはお昼になっていた。

程なくして、お昼が出来上がったんだろう、智己から催促のお声がかかった。

その声にしっかりと返事を返して、彼女を服のポケットに入れてやってから移動する。

両手の上に乗せて運んでも良かったが、それだと何だか不安定な運び方になりそうだったので止めた。

彼女と一緒にリビングのテーブルへと着けば、お茶を注いでくれていた智己がにこやかに笑いかけて口を開いた。


「はは…っ、今日の未有は朝からやけにご機嫌だなぁ〜。」
『そんな分かりやすい程顔に出てる…?』
「嗚呼、見るからに上機嫌だと分かるくらいには表情が穏やかで緩んでたからなぁ。あ、かと言って、それが別に悪い事だとは言ってないぜ?嬢ちゃんの今の姿が心底気に入ったんだろ…?本来の姿に戻った時の嬢ちゃんは確かに愛らしさいっぱいで可愛らしいからなぁ〜、気持ちは分からんでもないさ。俺だって、嬢ちゃんが何時もこんなちっこくてコロコロした姿だったら、ついつい絆されちまうだろうしな。」
「…愛玩系の見た目に騙されたらダメだぞ、お二人さん。ソイツの中身は、本当はおっかない女だって事忘れちゃならねぇぜ。」
『そんな事言ったら可哀想だよ。朱はリスだけど、歴とした女の子なんだから…っ。ねぇ、朱?』
「……何で俺の時だけ毎度辛辣なんだ…解せない。」
「まぁまぁ、コウもそんくらいにして飯食っちまえ。せっかく出来立てホカホカのが冷めちまうぞ。」


不満を隠せないといった顔で小さなリスの姿となった彼女の事を睨む強面お兄さんな慎也であった。

顔が良いだけにガン飛ばすと怖いから止めなよ…。

思うだけに留めて敢えて口には出さなかったけど、そう思った。

今日のお昼は、智己特製の炒飯に餃子と中華スープの中華づくしのメニューだった。

何時も通り美味しくて、あっという間に綺麗に平らげたのは当然の流れである。

朱は勿論今は動物の姿なので、食事も自分専用の物を用意してカリカリもきゅもきゅと美味しそうに食べていた。

食事姿も愛らしいとかやばくないっすか。

こんなの毎日飽きずに拝めるわ…、と思ったのは此所だけの内緒である。


―お昼を食べて少し時間が経ったら、誰しも小腹が減ってきたりするもの。

三時のおやつの時間だ。

自分はこの時間用にと買っていたビスケットやらチョコ菓子を出してきて、それをぱくぱくと口の中へと放り込んでいく。

私にとって、この時間は何とも言えない至福の時間である。

お菓子美味しい…!

朱にも、専用のおやつの木の実やらナッツ類をあげると、もきゅもきゅと美味しそうに顔を綻ばせてホッペへ詰め込んでいった。

その姿が、まさにリス(というか愛玩系小動物)の特性であり、最も可愛らしい姿だった。

元々可愛い物好きな私はすっかりメロメロのきゅんきゅん状態である。

小動物最高。

おやつタイムが終わって、彼女の毛繕いタイムも終わった頃を見計らってお手てを出してみたら素直にぴょこんっ、と乗ってくれた。

手の平にちょこんと乗っかってくれてる感がまた堪らん。

あまりの可愛さに顔の近くまで持ってって見つめてたら、スリスリと甘えるように頬擦りされた。

めちゃくちゃ可愛いし癒し度抜群だったけど、ちょっと擽ったくて笑い声が漏れちゃった。

暫く掌の上で遊んだ後、そのまま私の腕を伝って登ってきた彼女が肩へとやって来る。

そして、其所で落ち着くようにクシクシとまた毛繕いをし始めた。

肩乗り動物とか最高すぐるやろ…。

一種の夢が叶った瞬間でした。

やったね!


執筆日:2020.11.08


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