腹の探り合い
彼の初顕現時の口上が偉く饒舌で長めに感じた事と言い、言い回しやら口調やらが切っ掛けでふと思った事があった事を思い出した。
「ねぇ、孫六さんや」
「ん? 何だい主人」
「孫六さんって、生粋の江戸っ子タイプだったりする?」
「藪から棒に何を言い出すのかと思えば……どうした?」
「いやさ、孫六さんて初めて顕現した時、結構饒舌に話してたじゃない? 少なくとも、俺が顕現させてきた刀ん中じゃ随一を誇る長さの口上を述べてたと思う」
「他の奴等は違ったのか?」
「皆基本的には端的に手短にって感じの台詞が多かったかな……? 八丁君だけは別やが。あの子はマジでリリース八周年記念の期間限定でお喚びした子だったから。あのノリで顕現出来たの、彼以外に居ないでしょ……」
「“八丁”というと、俺より先に来たっていう先輩の一振りである八丁念仏の事か……。ちなみに、どんなノリだったんだい?」
「八周年で末広がりだから、八繫がりで八丁念仏って事を理解した上で空気を読んだはっちゃけ方やったな。分かりやすく言うと、こう、ギャルピースってのをぶちかましてくれまして。俺が同じ事したら、たぶん確実に手首イカれるくらいの角度だったよ……。俺、両手首共腱鞘炎患ってる人間やから、あんな角度に曲げた暁には骨やらかす自信有るわ……。政府も政府だよ……どんな実装の仕方してんだか。駄洒落は稲葉さんだけにしといてあげなよってつくづく思ったね。まぁ、大喜利みたいでオモロイからええけど」
「良いのかい。というか、アンタ、手首どうしたんだ?」
「学生の頃に部活でちょっとやらかしましてな。当時は軽くやっただけで大した事はなかったんやけど……その後、就職した先で無理して痛めたせいで癖になった感じやな。まぁ、関節系弱いんは血筋じゃね。ので、“将来リウマチにだけはならんすなよ”って親に口酸っぱく言われとる」
「人間てのはつくづく脆いからなぁ……それでいて一生も短いと来るんだから、儚いもんだよ。主人も体は大事にしな。特に、アンタは女の身なんだから」
特段変わった事は言われていない。しかし、今しがたの発言にちょっと思う事がなくもなかったので、訂正させて頂く事にした。
「今時性別なんて記号は多様化しつつあるので、生まれが女だからと括るのはよろしくないぞ。まぁ、俺は其処まで気にするタイプではないけれど……ある種グレーな面を持つ身でもあるから、性別関連の発言には気を付けた方が良い。生まれた時代が幕末故に、性の捉え方にギャップを感じるのは無理もないけどな」
「へぇ……じゃあ、仮に主人はどういう風に表してるんだい?」
「そうさな……。端的に言えば、生まれた性は女だが、心の性も振る舞う性も中性的とした方が腑に落ちるな。故に、一人称を“俺”なんて使っとるんだが……時と場合によって使い分けてはいる。一般的に使うのは何方の性でも使いやすい“私”の方だが。まぁ、此ればっかりは難しい話だわな。未だに理解が進んでない話題であり、日本は他所の国と比べてその辺遅れてっから。ついでに言うと、俺みたいなのを“ノンバイナリー”って言うらしい事をつい最近知ったっけな……。偶々行き着いたセクシャリティー診断とやらをやってみて分かった話なんだが。でも、自分の事を本当に理解してなかった今までは、荒っぽい言葉遣いする度にオカンに注意されて育ったからなぁ。“アンタは女なんだからそんな言葉遣いするんじゃないの”って……其れこそ性というものの考えを狭める言葉であり、その人の個性を否定し殺す事になる言葉であったんだけども。知らないって事は、つくづく罪深いって教訓だねぇ」
「すまない……俺が迂闊な発言をしたばっかりに気を悪くしたかね?」
「いんにゃ。今くらいので早々気分を悪くしたりはせんよ。柔な精神なんかで審神者なんぞ勤まらんからな。自慢じゃないが、精神的耐久性だけは其れなりにあるんだ。我慢強いと言えば聞こえは良いが、その代わりと言っちゃなんだが、メンタルの弱さはゴミクズレベルでなぁ〜……っ。たぶん、打たれ弱いって事なんだろうけども……。あぁ、メンタルってのは意味的に精神的な事を指す言葉だよ。横文字苦手な癖して無意識に使ってたりする単語もあるから、分かりづらかったらすまん」
「いや、其れこそ気にしなくて良いさ。一応、本霊から分かれる前に予備知識は与えられてるんでね。心配はご無用だ」
「成程……英霊が召喚に馳せ参じる時に聖杯から知識を得るのと同じ仕組みか……。でなきゃ、今頃何処の本丸も人間の体の仕組み諸々についての教育からやんなきゃいけなくて、てんてこ舞いになってるだろうもんなぁ。にゃるほど把握」
話を戻して、彼が顕現する上での成り立ちについて改めて話してみる。審神者の中に存在する分析班的者達が言うには、この度実装と相成った孫六兼元という刀剣男士は、刀工・孫六兼元が打った刀の集合体の線が濃厚らしい。故に、自身を名乗る際に刀工名を名乗っているのではないかと。自身を打った刀工の名前を名乗っている刀は、他を挙げれば南海太郎朝尊などが例として挙げられるだろう。しかし、それぞれに成り立ちが異なる為、一括りにするのは不適切と言えよう。
明らかに“貴方に興味が有ります”といった風に絡んだのは、気まぐれからだ。深い意図は無い。ただ、己の刀となったからには、所有者として理解しておきたいという心持ちからだったかもしれない。だから、己の事を少しだけ開示したのだ。ほんの好奇心に過ぎない。故に、それ以上の感情は何も無い。
幕末の志士を元の主に持つ所以か、だんだら模様の刀と縁深い事に加えて、些かその気が強い傾向に思える事を伝えれば、“そういう風に在れと顕現したからなのかもしれない”と零された。兼定の義兄弟=親戚みたいな成り立ちである点や、やたら人斬りの刀に惹かれがちな点を例として挙げる彼。其れ等を総合するに、ひょっとしたら自分はこの刀を喚ぶ際に知らず知らずの内に全く思ってもみなかったものを鍛刀祈願の触媒にしてしまったのかもしれぬと気付いた。
その事をうっかりそのまま口にしてしまえば、興味津々とばかりに「ほぉ、」と相槌を打って此方の瞳を覗き込まんとしてきた。明らかに墓穴を掘ったと察するも時既に遅し。相手の興味を惹いてしまった上に、早々逃してはもらえなさそうな目で以て射竦められては逃げる算段を考える事は疎か、逃げる事そのもの自体叶わぬだろう。彼の目が物語っていた。全てを白状し尽くすまで逃しはしない、と……。ので、素直に諦めて諸手を上げての降参を示した。でないと、一瞬でも逃げようとした(もしくは考えた)事を咎められ兼ねないと思ったからだ。
此方にその気は無いと示してみれば、頭から足先まで真っ黒な装いの男は不意を突かれた如くキョトンとした。次いで、片眉を意味有りげに吊り上げて苦笑混じりに呟く。
「別に今ので獲って喰らおうなんざ思ってやしないさ。変なところで警戒を露わにするとは、警戒心が薄いんだかそうじゃないんだか……つくづく曖昧だな、アンタって奴は」
「そりゃ悪う御座んしたね」
「別にアンタは何も悪かないし、悪い事とも思ってないさ。本音と建前を上手く使いこなして、本当に言いたい事は奥深く隠しちまう奴の遣り口とよく似たやつだなぁ……と、思っただけさね」
「いや、俺のはただの卑屈に捻くれちまったが故の事だと思うが?」
「まぁ、確かにアンタの口振りからするに、今代の主人は大層捻くれた者なんだなって事くらい分かるさ。あと、女にしては思っていた以上に荒っぽい事も」
「ご期待に添えず申し訳ないねぇ。まっ、鞍替えをお望みなら、俺がおっ死んだ後にしてくれや。職業柄、どうせ碌な死に方しねぇだろうしな。年齢に構わず早死にするだろうから、俺よか別嬪で品のあるナイスバディなお姉様をお望みならそうしてくれ。その方が後腐れ無くて良いし」
「今の主人に不満は何も無いさ。寧ろ、アンタみたいな胆力のある女の元に顕現出来て感謝してるくらいだ。その辺に歩いている如何にもな慎ましい女よりも扱いやすく気安いしな。まぁ、要するに……蝶よ花よと大事に育てられたお嬢さんよりかは、余っ程マシという話だよ」
「成程。孫六さんの好みの女性はご令嬢タイプとは真逆、と」
「そうだな……何方かと言えば、アンタみたいな強気な女の方が好みだな」
「あぁー……まぁ、俺みたいな奴なら、やれ喧嘩だ切り合いだっつっても引かねぇーだろうし、寧ろノリに乗ってやんややんや盛り上げちまう側かもしんないしな。リアルに実際にそうなった場合、流石に問答無用で止めるけども……暴れた奴等両成敗の
「まぁ、そういう事だな。主人は元よりやれ見てくれがどうのとか気にしない質のようだし、武器は何方かと言えば強いのがお好みらしいしなぁ。そういう意味では、非常に俺と似通ったご趣味であると見た」
「折れず曲がらず斬れやすい上に、扱いやすく頑丈さもあれば尚の事だろうな」
「いやはや、俺の主人は見る目があって良いねぇ〜。俺を扱うならそうこなくっちゃつまらない」
まただ。
この男、恐らくだが、腹に一物どころか何持も抱え込んでいるだろう。今はまだお互いの距離感やらを探り合っている段階だからチラリとも見せるつもりはないのだろうが。こうも距離近めに迫られて覗き込まれると、何も後ろめたい事など無いのにドキリと心臓が嫌に誤作動を起こすから良くない。端的に言って、心臓に悪い気がした。湯呑みに口を付ける流れで自然さを装って然り気無く視線を逸らさせてもらう。でないと、其れこそ何かを絡め取られてしまいそうだと思ったからだ。まぁ、何を根拠にと問われたら、何の根拠も無いのだが……。
他人に鑑賞され慣れている刀剣達と違って、此方は何の経歴も持たない人の子だ。そんなまじまじと見つめられる事も少ない所為で、嫌な汗すらかいてきた。
すわ腹の探り合いと来たか。ならば、此方も其れ相応に虚勢を張って応じてみるとしようか。其は本丸の主たる者こそなれば、百余りもの刀等を束ねる大将首ぞ、と。歌でも
さてはて、どう仕掛けたものか……。思案している間に湯呑みの中身が空になってしまった。どうも茶の味を味わう余裕も無い内に飲み干してしまったらしい。平素を装って、実のところ
嘘は苦手だ。故に、本音は隠してしまいがちだ。代わりに、当たり障りのない言葉を選ぶ。世渡りが下手な自身が身に付けた、謂わばその場限りの防衛術然りだった。
――閑話休題。話を戻そう。
「……さっきの話に戻るけども。君の元の主の一人、斎藤一は俺の推しでもあってね……。無敵を誇る剣術を駆使して生き抜いた志士としては、まぁ皆がよく識るところだが……俺は、彼という人間性に一時期救われた事があったのだよ。…………媒体違いだけども」
誤解の無いように言葉尻に小声で付け足したのは敢えての事である。事実は小説よりも奇なり。違うか。
兎に角はそういう事が言いたかっただけなのだ。別に隠す気は無かったのだが、推しの愛刀へ語るにはちと気恥ずかしい内容だと踏んで言い出しづらかっただけだ。だって、そうだろう。元の主を推していたなんて知れたら、自分に好意的印象を向けていると白状しているも同然だ。別に告白しようってんじゃない。ただ、何となく照れが勝って敢えて避けてしまった話題なだけだ。
「ほぉ……そりゃ思ってもみない事だな。こうして話してみなけりゃ、知る由も無かった事だろう。話してくれて感謝するよ」
「いや……俺、話すの嫌いじゃないけど、話し下手だから、変に脱線する事とかあったりするんだよね。そんなだから、俺と話しててわかりづらかったら御免……」
「謝られる程の事は何もされてないぞ? もしかして、主人は自己評価が低い質かい……?」
「ははっ……今の会話で其れを読み取ったなら流石だな。ご明察だよ。俺は大概自己評価が低いタイプの人間らしい。……まぁ、原因は分かっちゃいるけどもね。自信無くした理由も同じだし。
不意にハタと気付く。あれ……何で自分こんな話してるんだろう、と。新刃風情に語るには重過ぎやしないか。初対面から時が立ってない人間相手にする話としては普通に重いし、自分がされた立場なら軽く引く。態度には出さずに内心で、だけども。
一先ず、軽く謝罪の言葉を入れておこう。後から気まずくなっても困るし。そう思って、空になった湯呑みを置いて、おかわりでも淹れてこようかと腰を浮かせて席を立ちかけた時だった。
不意に、斜め横から手が伸びてきて、其れが卓に付いた手の上へ置かれたのだ。たぶん、正確には、己の掌を相手の手の甲へ重ねるように触れた――の方が合っている。何故そんな事をされたかの意図が分からなくて顔を上げた。すると、黒き前髪から覗く浅葱の二ツ目が先程とは異なる複雑な色を乗せて此方を見ていた。思わず、此方がキョトンとしてしまい、目を瞬かせる。何と言えば良いのか分からずにかける言葉を考えあぐねていれば、先に口を割った彼が言葉を発した。
「アンタは、アンタのまま居れば良いんじゃないか? 少なくとも、今の会話で俺はそう思った」
「……其れは、自分らしく居れば良いのでは、という事かな?」
「俺は俺らしく在れば其れで満足だ。どんな経緯で顕現していようが、後は自分次第でどうとでもなる。主人も、自分らしく在る為に“俺”と口にしているんだろう? ならば、其れを咎めはしないさ。好きにしたら良いと思う。そもが、元を辿れば俺はただの刀に過ぎない。今でこそ人の器を戴いちゃあいるがね。其れも所詮は仮初の器……。だがしかし、其れは其れとして、お役目を果たすまでは謳歌させてもらうさ。アンタも、そんなしみったれた顔なんかしないで、素直に笑えば良い。俺は、アンタの笑った顔が見てみたい」
ぱちくりと目を瞬く。突然の口説き文句に予想を裏切られて、口を衝いて出る筈だった謝罪の言葉が何処かへと飛んで行ってしまったではないか。斜め上過ぎるだろう。まさかそんな事を言われるだなんて思いもしなかったから、再度心臓がドクリと変な音を立てた。頼むから、余計な感情など寄せて来ないでくれ。
「……つかぬ事をお訊きしますが、この手は一体何なのでしょう?」
「うん? 此れはアンタを引き留める為に触れたものだ。
「えっと……取り敢えず君の言いたい事は分かったけれども、ぶっちゃけ掠りもしてないからご愁傷様です……っ」
「あれ、外れたか。てっきり俺を避けようとしたのかと思って引き留めたんだが……」
「誤解の無いように言っておくけど、断じて違います。テーブルに手を付いたのは、空になったお茶のおかわりでも淹れてこようと移動しようとしただけで、孫六さんを嫌うとかそんなん全く無いですから……っ。俺の求めに応じて来てくれた刀は例外無く皆大事で、かけがえのない物だと思ってるから……仮に好きとまでは行かずとも、嫌いになる事なんて一ミリも無いから。俺、基本的には箱推し勢だし」
「そうか。其れを聞いて安心したよ」
流れを理解したなら離すのかと思えば、そうではなかったらしい。変わらず重ねられたままの掌の意味が分からなくて、困惑気味に見た。
「あの……分かったなら、どうして離してくれないのでしょう?」
「俺がアンタの柔肌に触れてみたいと思ったからだが……嫌だったかい?」
「え……嫌、とかでは全くないけども……訳が分からんくて混乱する」
「理由を話しても良いが、現在進行形で気付く様子の無いところを見るに、アンタ鈍そうだからなぁ……言っても伝わらない内は敢えて黙っておく事にするよ」
「えぇ……何じゃそら。余計意味分からんヤツ……っ」
「分からなくても良いさ。今はまだ、な?」
クツリ、と喉奥を鳴らして含み笑んだ彼の目に、何処となくどろりとした何かを見た気がした。物故に抱く執着心か、はたまた独占欲か。
どうやら、今回の新刃刀はかなりの癖者らしい。扱いを間違えば、此方の首が取って代わるかもしれない。末恐ろしい刀だ。流石は、
「何か……孫六さんて粘着質そうだね」
「おや、そりゃまた何で?」
「大体の事は目が語ってるよ」
「ふふっ……なら、今考えている事まで分かりそうなものなんだがな」
「世の中言葉にしなきゃ分かんない事もあるからね。特に、俺って察しの悪い人間なもんで」
「時と場合によっては、きちんと言葉にするさ。でも、まぁ……今は
「何となく物騒な感じを漂わせてる事だけは理解した。……とりま、このお手々離しちゃもらえませんかね? こんままじゃ動こうにも動けないので」
「つれないご主人様だ。もう少しの間だけでもこうして居たって良いだろう? 俺だってアンタの刀なんだ。偶の一時くらい独占したって罰は当たらんだろう?」
あー言えばこう言う。此れでは、売り言葉に買い言葉で堂々巡りだ。早速面倒な事になって、あからさまな溜め息を
「孫六さんって、突き放されれば突き放される程燃えるタイプだったりします……?」
「まぁ、相手にもよるが……絶賛目の前に居る相手に対して言っているのなら、そうだな」
「敢えて突き放そうとして喜ぶのは亀甲だけにしてくれ、頼む。別に俺にその手の
「癖とは、一体何の事を言っているのやら――、」
「僕を呼んだかい、ご主人様!!」
「お呼びでねぇーから出て来んなド阿呆!! つかどっから湧いたお前ェ!?」
「開口一番に辛辣な返しを有難う!! 僕にはご褒美だな!! 質問にお答えすると、ご主人様が僕の事を呼んだ気がしたから即飛んで来たよ!! さぁ、褒めてくれ!! いや、呼んでもいないのに来た事を罵ってくれても良いよ!! 寧ろ、罵られたいな!?」
「その反応速度は是非とも戦の時に役立ててくれ、頼む。俺の仕事はツッコミではないのよ……っ」
「切実な呟きが主人の口から漏れているが……大丈夫か?」
「大丈夫……個性の闇鍋みたいな君達を相手にしてきて五年以上経つんだ。扱い易さで言えば、亀甲は楽な方だから平気です。とりま、話の腰を盛大に折ってくれた亀甲には、罰としてお茶のおかわりを淹れてくる任務を課す。勿論、拒否は断固認めないんだぞ☆」
「嗚呼ッ……良いね……その冷めた感じの対応の仕方、堪らないなッ!! ご主人様を困らせる僕は悪い子だよね!! だから、お仕置きとしての罰は喜んで引き受けるよ!! すぐに用意してくるから、そのまま待っていてくれ給え……ッ!!」
言うが早いか、嵐のように現れ去って行った通称変態刀の称号を余す事無く発揮した亀甲貞宗。アレはアレで良い刀であるだけに、惜しい。変態部分さえ取り除けば、普通に紳士なだけの刀なのに……。
ある種神出鬼没な亀甲の襲来のお陰で、変な空気はすっかり霧散してくれたようだ。後でこっそり御礼をしておこう。亀甲へと湯呑みを差し出した流れで離れてくれた手にホッと息を
「まさかこうも分かりやすく邪魔が入るとは思わなかったな……。其れだけ、主人は引く手数多という訳か。成程、道理で隅に置けない訳だ」
「何のこっちゃ、ワタクシにはさっぱりですなぁ」
「くくくっ……下手な芝居は打たん方が良い。バレバレだからな」
「左様で……。ほいたら、孫六さんもあんま変な真似せんといてくださいね」
「変とは失礼だな。ただアンタを口説こうとしただけだぞ……?」
「其れが要らんこっちゃ言うてんねん……っ。CV杉田智和で何か其れっぽい事言われても、逆に笑けてきそうやからヤメテ。脳がバグって普通に笑ってまうわ」
「どういう事なんだ、其れは……」
「メタい話。分かりやすく言って、
「どうして其処で大般若長光が出て来るんだ……?」
「何となく声質から近しく思えたから……? みきしんボイスも同様にバグるんだよなぁ、俺の脳味噌……。お陰様で、若さんが口説き文句吐いてきたら確実に吹き出す自信有るもん。無駄に良い声で囁かれても、こちとら中の人問題でどうしても笑っちゃうんだよね〜。孫六さんも同じ部類だから、下手に俺の事口説こうとしても無駄よ? 漏れ無く笑っちゃう病に罹ってるから。残念だったね」
してやったり顔でにんまりと笑えば、ひくりと口端を引き攣らせて言った。
「そういう事は先に言っておいてくれないか、主人……! 飛んだ恥かきじゃないか! 俺の気持ちどうしてくれる!?」
「さぁてね。どうもせんよ。精々他の事に意識切り替えて早々に忘れるこったね。其れくらいしか助言出来んよ」
「こんのッ……飛んだ小悪魔タラシめ!!」
憎たらしげに睨む彼の瞳には、もう先程までの色は無い。良かった。予期せぬ亀甲の来訪で命拾いした。今度ご褒美を弾んだ物にしてやろう。密かにそう心に決めて、彼が戻ってくるまで心穏やかに待った。
公開日:2023.11.16