悪しき夢の残滓と、守刀対恋刀
夢を見た。悪い夢の類で、嫌な夢の方だ。
途端、ハッと目が覚めて、真っ暗闇の中、目を見開く。悪夢の尾を引いて酷く乱れた呼吸を落ち着かせようと、枕元に置いていた御守りを手繰り寄せ両手で握り込み、脳裏に頼りの相手を思い浮かべ祈った。蜘蛛の糸にも縋る思いであった。
しかし、真っ先に思い浮かべた相手が、夢の残滓を引き摺ってか、ずるりと恐ろしい姿で嗤い、妖しく手招く。“こっちへおいで”と誘い囁く其れは、今の自分には悪夢の其れと等しきものとして映り、慌てて閉じていた目蓋をばちりと開く。真っ先に思い浮かべた相手に頼れないならば、頼みの綱である者に縋る他無い。
厭に速く鳴り響く鼓動の音を煩わしく思いながらも、手に握り込んだ御守りを強く握り締めて
布団の中は温いが、夢の残滓が残っているようで嫌気が差した審神者は、徐ろに布団の中から抜け出ていった。そうして、寝間着という着の身着のままの薄着姿で部屋を飛び出し、外と通じる縁側の先まで転がり出る。其処で、糸が切れたように敷居を跨いだ中途半端な場所でへたり込み、障子戸の端へ縋るように凭れ掛かった。そのまま、くるりと膝を抱えて蹲る。
其れから少しばかりが経った後。自室で寝ていたのだろう男が気配も消さず、夜も深き頃にも関わらずわざわざ母屋から歩いてくる音を僅かに立てて近付いてきた。程無くしてすぐ傍らの側にやって来た存在に、審神者は申し訳なさそうな表情を貼り付けた顔で見上げる。
「寝てただろうところに呼び付けるような形ですまん……っ」
「やけに憔悴してねぇか? またぞろ悪い夢でも見たのかよ」
「お察しの通りッス……。夢の内容的には、単に“嫌いな物を見た”というだけだったから大した事はない筈だったんだけど…………問題は、その後で……」
「何か変なモンでも見たか」
「………………」
無言は肯定を示していた。男は苦虫を噛み潰したような顔になったのちに、深々とした溜め息を吐き出して蹲る彼女と視線を合わせるべく腰を屈めて言う。
「十中八九、そんなこったろうと思ったぜ……。で、俺は何すりゃ良いんだよ、
まるで取って付けたみたいな呼称に、冗談めかした空気を読んで、苦く小さな笑みを吐息と共に漏らした審神者は答える。
「気分が落ち着くまで側に付いていてもらっても良いかな……? 泣く程までは行かなかったが、妙にリアルで現実味を帯び過ぎていた気がして……久々にちょっと取り乱した。すぐに眠る気も起きんから、寝直すのは諦めて……少しばかり話に付き合っちゃくれねぇかい? 丁度、この冬の寒さも相俟って人肌の温もりが恋しかったところなんだ」
「俺は別に構わねぇし、そもそも名を交わし合った仲故に求められれば其れに応じる甲斐性ぐれぇあるけど……あんた、既に相手を定めちまった後だろう。恋刀たる彼奴じゃなくて良いのかよ……?」
「そりゃあ、真っ先に頼る相手に思い浮かべはしたさ。けどもなぁ……その際に、ちっと……夢の残滓を引き摺ってなのかは分からんが、精神衛生上大変宜しくない気を感じて避けざるを得なかったんだ。選択肢としては、ちゃんと上位に上げてたんだよ? でも、敢えて其方の選択を取る事をやめるに至った経緯は察しておくんなせぇ…………っ」
「はぁ? つまりはアレか……あんたの危機管理能力が働いての選択って事かよ?」
コクリ、無言の頷きを返した審神者に、男は渋面を作って彼女の顔を覗き込む。
「大丈夫なのかよ、其れ……」
「正直、現段階では何とも言えんが……たぶん、ダイジョブだと、思い、たい……っ」
「既に希望的観測述べてる時点で絶望的じゃねぇーか。どうすんだよ……彼奴、見るからに嫉妬深そうだぞ? 俺かて馬に蹴られる趣味は無ェぞ」
「う゛ぅ゙っ……面目無い……ッ。もしかしたら、あの
「そういや、あの刀……人と物との境界を上手く引いてる割には何処か人間臭ェし。単なる持ち主と其れに
「控えめに言ってぴえん……っ。孫六さんみたく初めから妙に距離が近い子は今まであんまり居なかったから、何か未だ慣れてないのかも……」
「あー……そういや、彼奴が初めてか……鍛刀キャンペで打ち始めて初日のすぐに来た奴とかって」
「そう。しかも、縁結びの神様の力働いての事かもしれんと分かって以来、ガチめな態度で迫って来る事も度々あるから……。初めての事尽くしで内心てんやわんやよ」
話をしていく内に落ち着きを取り戻し始めたのか、体の力を抜いてコツン、と凭れ掛かった障子戸の端っこに頭を預けた。其れを見遣りながら、今更だろうと思いつつも手を伸ばし、冷えて白けた頬を曝す彼女に触れる。武骨で刀を握ってばかりの
慰めのつもりだろうか。優しいその触れ合いに、擽ったく思いながらも嫌な気はしないからと許し、そのままを受け入れた審神者。労りの
「……傷が付いちまったなァ」
「ぇ……、」
脈略無く落とされた言葉に、一瞬何の事を言われたかが分からず、聞き返すような声を返してしまった。すると、男の金の二ツ目が額側から彼女の瞳の方へ真っ直ぐと視線が合わさる。その視線は、やけに和らげられたものだった。
審神者と名を交わしてからそれなりに経つ男――同田貫正国は、ひたと視線を交えて呟いた。
「
「……あぁっ、左眉の近くに残った痕の事言ってたのね……! 此ればっかりはしょうがないよ。だって、俺達戦してんだもん。戦してる以上、襲撃に巻き込まれる事は承知の上だし、多少なりとも怪我を負う事も覚悟の上さね。今更悔いる事は何も無いよ。五体満足で生きてさえ居られれば万々歳。そもが、こちとら自殺志願者且つ自殺未遂やらかした前科持ちだぞ……? 今更んなちっこい傷拵えたくれぇで騒ぎゃしねぇさわ」
「自分の主傷物にされて、
「ははっ……物騒かよ」
あと少しズレていたら目をやられていた近さに残る傷痕をなぞる指先に、審神者は苦笑を漏らしつつも彼の気の済むようにさせた。黙して瞑目し、静かに労りの温もりを受け止める。
時には恐れを抱きながらも、何もかもを抱え込んで背負ってしまいがちな彼女を憐れんだか。ふと、彼が距離を詰めたのを、顔に落ちる影の濃さで認識する。このまま額でも突き合わせるのか。其れもまた良しとして、完全に身を委ねた状態で居れば、またもや不意を突くように耳へ飛び込んできた第三者であろう新たな声にぱちりと閉じていた目蓋を開いた。すると、予想してはいたが、鼻先が触れ合いそうな程の近さに彼の顔があり、そのあまりの近さに内心ちょびっとだけ吃驚した。
気配に聡い彼の事だ、第三者がこの場に近付いて来ていた事には気付いていたのだろう。落ち着き払った様子で、声のした方角へゆっくりと横目で以て一瞥を寄越す。しかし、審神者との距離はそのままであった。
同田貫は、少しばかり険を滲ませた声を発して問う。
「何の用だよ」
「其れはこっちの台詞だぞ……っ。あんた、今しがた主人に何をしようとしていた?」
「何って……別に何もしちゃいねぇけども?」
「しらばっくれるなよ。傍から見たら、どう考えても口吸いでもするような距離感だったぞ。ただの刀にしては些か主人と距離が近過ぎやしないかね? 主人は
第三者たる刀とは、先まで話していた話題の中心
「おーおー、こうも分かりやすく嫉妬の塊みてぇなモンをぶつけやがってご苦労なこったな。主が言ってた通り、大層粘着質極まりないようで。熱烈なのは構わねぇけど、嫉妬も過ぎれば人には毒だぜ。あんまり此奴を縛り付けてやるなよ。既に分かっちゃいると思うが、俺達の主は繊細且つ脆い。容易く壊す気なら、先にテメェを壊す事も厭わねぇぞ」
「あんたは主人の愛刀なだけで、其れ以上を求められた訳じゃないんだろう……? 確かに、俺は後から来た身の上故に、今此処であんたに勝負を挑んだところで勝ち目など無い事は百も承知だが。俺にも俺なりの矜持がある。……主人の名前を預かる大層なお役目を引き受けられて浮かれる気持ちも分からんでもないが、主人が本当の意味で選んだ相手はこの俺だ。悪いが、この場は引き下がっちゃくれないか?」
「面倒臭ェな、あんたって奴は」
「何……?」
カチン、と来る言葉に、煽り耐性が高そうに見えて実は低かったらしい孫六が、冷静を装ったつもりで其れを崩した風に眉を潜めて険を飛ばす。一連の流れを完全に傍観者として見守る審神者は、ピリピリと肌を刺すような緊張感に固唾を呑みつつ、極力存在感を薄くして同田貫の陰に身を潜める如く体を小さくした。押し問答はまだ続くらしい。
ゆるりと立ち上がった同田貫は、背後の足元に蹲る彼女を庇うようにして立ち塞がる。
「大体こんな夜半の刻に離れなんて場所に向かう誰ぞの足音を聞いて起き出てきたんだろうが、今回に限ってはお前はお呼びじゃねェーんだよ。呼ばれたのは俺の方だ。よって、部外者はさっさと部屋に寝に返りな」
二人称が普段『あんた』である筈の同田貫が『お前』と口にする時は、其れだけ本気である事を示す。態度に応じて言葉の言い回しを変えるのは、持ち主たる審神者と似通うところであった。其れがまた彼の癪に障ったのだろう。剣呑さを増した視線が同田貫を射抜く。
「其れは一体どういう意味か、説明してもらおうか」
「説明する程の事でもねぇだろ。主が必要と呼んだのは俺で、俺は其れに応じたまでだ。あんたも知っての通り、俺達は主の刀で主の
「ただ求めに応じるだけなら、必要以上に距離を詰める事は要らんだろう?」
「俺はただ主に求められたから其れに応じようとしたまでで、其れ以上も其れ以下でもねぇよ。今回は求めすらされてねぇ癖に、勝手に首突っ込もうとしてくんなや。此奴が迷惑するって事も分かんねぇのかよ?」
「ちょッ、たぬさん……!?」
突然自分に対して火の粉が飛んでくるような発言をされて、思わず口を挟んでしまった審神者。直後、剣呑さを帯びた浅葱の二ツ目が此方へと向けられて、つい大仰にビクリと肩を揺らしてしまい、凭れ掛かっていた障子戸がガタリと音を鳴らした。
何やら会話の流れが段々と不穏な流れへと向かいつつあるような気がしてならなかったが、同田貫のあからさまな挑発に煽られるだけというのも珍しい。恐れを抱きながらも、同田貫の寝間着の裾を縋るように掴んで視線を交わらせる。すると、苦しげに表情を歪めた彼が、絞り出すような声で言った。
「元より、あんたの愛刀は其奴である事は承知の上だったが……あんたは、やはり、俺ではなく其奴を選ぶのか?」
「えぇっと……一先ず、誤解の無いように言っておくけど、今回の件はマジで俺の個人的私情からお呼び立てしてしまった事が切っ掛けですので……っ、たぬさん自身は何も悪くないよ。強いて言うなら、俺の軟弱な精神が悪いんですわ……っ。だから、あんまりいがみ合うのはやめて欲しいなぁ〜? なぁんて……」
「主人が自ら呼んだという点は、本当の事だったのか……」
「相変わらず疑り深いやっちゃな……っ。そうだよ。たぬさんが言った事は大体本当の事。ただ、最後の余計な部分のみは完全誤解ですんで、何卒ご理解を……っ」
「成程……。まぁ、主人は度々情緒不安定になる御仁だし、実際そういう場面にこれまでも何度かぶち当たってきたが……其れならば、何故俺を頼らなかったんだ? 俺は、あんたが恋刀と定めた相手だろう?」
「周りから取られねぇようにって必死こき過ぎなんだよ、あんたは。余裕無さ過ぎて、此奴の事ちゃんと見れてなかったんじゃねぇか? 今回に対してのみ、あんたには不向きな事だって踏んだから主はあんたを呼ばず俺を頼った。ただ其れだけだろ。初期刀の加州までは行かねぇものの、俺は主から絶対的信頼を預けられた守刀で、主の拠り所だからだ。其れでいて、主から名前を預かってるんで、念でも何でも意思を以て呼ばれりゃ、わざわざ音として口にしなくとも主の気持ちは俺へと届く。だから夜半だろうと何だろうと俺は主の元まで赴いたんだよ。本丸の大将たる主が不安定になれば、他の奴等もぐらつく。そうなったら後が困るだろ? 臣下たる者なら、主を支えんのも仕事だ。其れに……守刀として定められた以上は、相手が鬼だろうが仏だろうが敵は皆ぶった斬ると誓った身なんでな」
「んん……? すまん……途中から話がこんがらがってきた……っ。つまり、どういう事なんだ? 主人が俺ではなく同田貫の事を頼り、呼び付けたという話の流れは一先ず理解した。が、だ。そもが、どうして同田貫をこんな夜半の刻に呼び付けたのかの経緯そのものが分からんのだが……?」
話していて段々と混乱してきたらしい。険を削いだ孫六が一旦話の流れをぶった切り、内容を整理しながら頭を抱え、話の根幹を問うてきた。其れに、あからさまな溜め息を吐き出した同田貫が呆れた調子を隠さずに宣う。
「俺達の
「は……? 其れなら、さっきまでの話は何だったんだ??」
「知らねぇよ。あんたが一方的な喧嘩吹っ掛けてきたから、こっちは其れに応戦してやってただけだろうが。……ったく、此奴の事を本気で大事にしてんだったら、怖がらせるような真似すんなよ。こちとら、嫁入り前の娘を傷物にされた事、まだ許しちゃいないんでなァ……。この
「ッ……、」
黎明期より審神者と在る刀としての重みか、桁違いの威圧感を覚え、孫六は怯み、その身を固くした。其れを察した彼女が、同田貫の陰に控えつつ口を開く。
「御免ね、孫六さん……。君は本来何も悪くない筈なんだけど、俺の弱さが原因で今回の事を引き起こしちゃって、本当にすまん……っ。その…………非常に言い難いんだけども、今回ばかりは孫六さんを頼れない事情があったんだ。ちょっと本刃に対して話すには内容がアレ過ぎて詳細は伏せるけども……悪い夢見た直後の余韻で、たぶん何か悪いものを引き摺っていた所為で孫六さんと正面から向き合う余裕を持てなかったんだ…………。本っ当に御免……!」
「……よく、分からんが……俺の事を嫌っての事ではない、という解釈をして良いんだな?」
「其れは勿論……! たぬさんの事は、俺の精神安定剤という意味合いで切り離す事は出来かねるけども、孫六さんの事も皆と同様に等しく大事なのは変わりないから! ……取り敢えず、今は其れで納得してもらえるかな?」
おずおずと口にされた言葉に、流石に自分の余裕の無さを自覚したのだろう。未だ不満は残るものの、一先ず飲み下して現状を受け入れる事にしたようだ。一つ長い溜め息を
「この度は、分を弁えず無礼極まりない真似をした非礼を詫びよう。すまなかった。……怖がらせるつもりは無かったんだ。だが、結果的にそうなってしまったのなら、俺の落ち度だ。傷物にしてしまった責も、安易に許してもらおうとなんざ思っちゃいないさ。今在る命が続く限りは一生背負っていく覚悟だ」
「……だとよ。この後はどうする? 一人になりたいか、なりたくないか。はたまた、俺に居て欲しいか居て欲しくないのか。あんたが決めろよ」
孫六の応えに、同田貫が先を促す。神妙な顔付きで以て齎されたその言葉に、審神者は一つの決断を下した。
「…………何方かだけを選ぶのは、今の俺には難しいから……今は何方共に居て欲しい、という感じかな……っ。御免、どっち付かずな曖昧な返事しか出来なくて」
「いや……少なくとも、今の主人の返答に俺は心底ホッとしたよ。差し支えなくば、傍に行っても良いかい……?」
「……うぃ」
頭の奥で、先程見た夢の残滓の光景が脳裏をチラついて、思わず身が固くなりかけるも、其処は傍らの同田貫の存在をクッションに腰が引けそうになるのを堪えた。そうして、離れていた距離を埋めた孫六が、未だ中途半端な処で蹲ったままで居る審神者と視線を合わせるように背中を丸める。
「敢えて深く訊くのは、今の主人には負担になるだろうからやめておくが……主人は、人斬りである俺が怖いか?」
「たぶん……人斬りが、というよりは……もっと別の部分が怖いんだと思う。何せ、初めての事だらけだからね、君は。鍛刀キャンペで本丸始まって以来史上初の爆速で来てくれた事もそうだし。
「彼氏居ない歴
「うん……ッ、たぬさんの指摘が地味に響く……」
「事実だからしょうがねぇ」
「其れはそうなんだけども〜……っ」
同田貫と軽口を言い合えるくらいには平常心を取り戻したようで。硬い表情を崩し始めた審神者に何方ともなくホッとして笑みを浮かべた。
戯れに同田貫が彼女の頭へ手を伸ばせば、素直に受け入れ、ゆるゆると撫でられるがままである。審神者へのお触り的接触は許し難かったのか、明確な拒否反応を示した孫六が、彼女の頭を撫でていた彼の手を引っ掴む。そして、分かりやすく目の笑っていない笑顔で以てギリギリと力を込めて握られた。
「何だよ」
「恋仲でない以上、主人へのお触りは控えてもらおうか」
「今のくらいで嫉妬するとは……ちっせぇ器してんのな、あんた」
「俺とて分別くらいはあれども、ただの一人の男としては其れなりの嫉妬を抱くさ。特に、あんたみたいな主人より特別視されている相手は油断ならないからな。必要以上の接触はお断りさせてもらおう」
「なぁ、主。此奴、七面倒臭ェ奴だぞ」
「誰が七面倒臭いだと……っ!?」
「うわ。孫六さんの事そう言う
「おい、今の話はどういう事だ? うん??」
「あ、やっべ。此れ黙っとかんといけんヤツやったんやわ。御免、御前」
「主人や。怒らないから今の話の詳細を教えてくれないか? あと、そういう言い方をするという事は、少なくとも主人の中でもそう思っていると受け取ってしまうが良いのか?」
「そういうところが面倒臭ェと思われる原因だぞ、あんた……」
掴まれていた手を強引に力ずくで引き剥がした同田貫が呟く。反対に、力任せの物理的に剥がされた手が痛んだ孫六は、ボソリと「この脳筋の馬鹿力めが……っ」とぼやいた。
夜明けまではまだ先が長い。少しでも眠気が戻ってくるようにと室内へ移動した三人は、夜半も相俟って潜めた小声で囁き合う。夢の恐怖より冷え切っていた身も心も、すっかり熱を取り戻してぽっかぽかになった審神者は、小競り合いを起こして軽く睨み合う二人にクスクスと笑みを漏らすのだった。
公開日:2024.01.10