※当作品は、ニワカ知識にて執筆した作品となります。
※且つ、企画に則った作品という事で“書きかけ状態”の作品になります。終わりまで完結していない事につきまして、予めご理解頂いた上でご閲覧くださいませ。
※尚、作者はアニメのみ(第一期・第二期共に全話)履修済みです。
※所謂何でも許せる方向けです。
※この時点で少しでも苦手意識持たれた方は、回避願います。自衛は大事。無理な閲覧はお控えください。
※全て自己責任です。読むも否も貴方次第です。
※以上を踏まえた上で閲覧どうぞ。


 とある流離さすらいの蟲師なる方が言った。私は、“鬼子”とやらであるのだと――。

 ――私の母は、その昔、折角せっかく好いた人と一緒になれたのになかなか子が出来ぬまま幾年が過ぎ、周囲の者達より大層嘆かれたらしい。子が出来ぬ事を身内からもあまりよく思われていなかった故に、随分と気を揉んだそうな。父は、「例え子が出来ぬとも、お前の事を愛している」と変わらずに寄り添ってくれたと言う。けれど、尚も周りの声が若き頃の母の心を押し潰しかけていた或日、母は人里離れた山深くのむろへと半ば逃げるように閉じ籠った。そんな折だ。この世のものとは思えない、不思議で美しい光景の広がる世界を見付けたのは……。
 其処は、嘗てはその地を守る土地神様を祀っていた土地だったそうなのだが、その土地に住む人口が減るにつれて祀られていた神様や伝承についての事は人々の記憶より忘れ去られていき、次第に廃れていったらしい。だが、その土地に巣食う生き物達は絶えず其処で生き、命を繋いでその土地に生き続けていた。母が見たと言う美しき光景もその一部に過ぎず、また、その美しさに一目見ただけで魅入られた母は疲弊した心を癒す為、其処で一月ひとつき程過ごしたと言う。そうして、その土地の神様より賜りし命の輝きにて、私を授かったのだと語った。
 美しき輝きを纏った赤子を腕に抱えて山を下りてきたのは、母が父の前から姿を消して丁度一月ひとつき後の事だった。ふらりと戻ってきた母の無事を確認すべく駆け寄れば、母は自身を心配する言葉を聴くよりも先に我が腕に抱く存在を自慢気に見せてきたそうな。その時の様子は、其れはもう大層嬉しそうにこう告げたのだと言う。
『見て、私達の子よ。長らく待った、待望の私達の第一子よ。可愛いでしょう……? 廃れてしまったと云われていた、土地神様より授かった大切な私達の可愛い子……っ。此れで屹度きっと、もう誰にも疎まれるような事を言われなくなるわよね! だって、こんなにも美しくて可愛い子供が居るのですから……っ!』
 戻ってくるなり開口一番でそんな事を言われた父は、暫し困惑したそうだが、母の嬉しそうな声と表情に一月ひとつきもの間何処で何をしていたのかを深く問い質す事もせず、ただただ母の無事と自らの子と称して紹介された赤子の私を抱き締めて迎えたのだそうだ。
 その後、父は落ち着きを取り戻した母に不在の間の詳細を聞いた。曰く、嘗ては人が立ち入る事を禁じられていたと云う禁地――“かみむろ”にずっと籠って過ごしていたのだと言う。
 ――其処は、年がら年中溶けずに残った雪が氷となってむろの中をひんやり冷やし続けているらしい。ただ其れだけではない。その場所には、今まで生きてきた中で見た事の無いような美しき世界と光景が広がっているのだとも……。
 雪の結晶だろうか、透明に光り輝く其れ等は時折空中を浮遊し、むろの中を明るく照らした。篝火など必要無いくらいに明るく、また、美しい光景に母は時間も忘れて眺め続けたのだそう。
 そうして何日か経つ内に、ふと大きな結晶が母の元へ舞い降りてきたと言う。其れは、暫く受け止めた母の両の手の上で漂っていたが、不意に手から降りたかと思うと母の腹の内へ溶けて消えるように居なくなってしまった。初めは何とも思っていなかったらしいが、暫くして子を宿したような変化を感じたそうな。
 其れから更に時を経て大きくなっていった腹に、念願の子を宿したのだと気付いたのだと言う。通常、人の子は母親のお腹の中で、凡そ十月十日とつきとおかの月日を過ごした上で産まれてくるものだ。しかし、私はそうではなく、異形の子と囃されるに相応しく、たったの一月ひとつきで母の腹より産まれ出て来たと言う。
 産まれてきた私は、意外にもただの人の子と変わらぬ姿形で産まれてきたのだそう。産まれるまでの経緯はどう考えても普通ではないが、其れでも漸く授かった念願の自分達の子供だった。若き夫婦は、この赤子を神様より賜りしものとして、大事に大事に育てた。
 そうして、沢山の愛情を受けて育った娘は、白雪の如く白い肌をした美しい娘となった。其れが、私――名前をゆきと言った。
 皆に“お雪”と呼ばれ、慈しみたっぷりに育てられた私は、誰とも違う見た目をしていた。まず、髪の色。色素が薄いのか、皆は大抵黒か茶の色合いをしているのに、私一人だけ淡い輝きを放つ白銀の雪のような色合いをしていた。次に、目の色。此方も、髪と同様に可笑しくて、森の緑を映したかのような翡翠色をしていた。最後に、肌と体温。まだ、肌の色は、ただ色白に生まれただけの真白のように思えたけれども、体温ばかりは何とも言い難かった。私の通常の体温は、其れは其れは大層冷たく冷え切っているのだと言う。自分は何とも思っていないのに、まるで荒れ狂う吹雪の嵐の最中に取り残されたかの如く温度だと言う人も居れば、此れは死人の温度だと不気味そうになじる人も居た。
 どうも、周りの人間から見た私は普通ではないらしい。ただ少し見た目の色が違うのと、ちょっと体温が低いくらいで、他は何も変わらないとしか思わないのに……。次第に、村の者達と通りすがりにすれ違う度に“異形の子”と囃され始めるのは、想像に難くない話だった。
 人は皆、周りと同じじゃないと気に障るらしく、少しでも違うと不気味だ異形だと口にして、疎み恐れて遠ざけたがる生き物だ。そんなだったからか、皆と同じように自由に生きれぬ私を憐れんだ両親は、村から少し離れた山奥に居を構え直し、其処で暮らすようになった。私自身はあまり気にしなかったけれど、両親二人は私が悪く言われる事に酷く心を痛めているらしかった。というのも、私が漸く授かった一人娘だから、人一倍大事に大事に育てたいのだろう。
 周りの人間達は彼是あれこれと好き勝手に囃し立てたが、両親二人の愛を一心に受けた私は、何不自由無く生き、嘗て二人が出逢った頃のような年頃にまで大きく成長するのだった。


 ――或日、山を下りてすぐの麓の村に、流れ者の蟲師がやって来たのだと聞いた。蟲師とやらがどういう職業なのか、詳しく聞いた事は無い為よく知らないが、大雑把に言うと医者と大して変わらない事を生業とした者をそう呼ぶらしい。薬売りのような事もしていて物々交換の上で薬を売ってくれるとの話も耳にした私は、此れは幸いと人目を忍んでこっそり山を下りていった。万が一、人目に付いて騒がれないように広めの布を被って髪色と目を隠すといった手間まで掛けて。山奥に引っ越してから度々、両親の目を盗んでは人里へ下りて来ていた私は、なるべく人目を避けるようにするのも慣れたものだった。
 このところ、母が体調を崩しがちで心配していたのだ。医者でもあって薬も売ってくれるというならば、此れ以上に良い相手は居ない。私は人目を盗むように蟲師とやらをやっている人を探した。そうして見付けて、私は気付く。――あっ、この人も私と同じ・・・・だ、と……。
 その人は、浮世離れした見た目をしていた。其れも、私と似たような髪色と目の色をしていた。私は、寸分程、物陰に隠れるようにしてその人の事を観察してみた。どう見ても、周りに居る人間達と変わりない、普通の人のように見えた。彼の周りに集まる村人達も、彼を異端の目で避けたりせずに普通と変わらず接していた。この村には医者も薬師も居なかったからだろう。医者と同じく体の具合を診てくれる人が来れば此れ幸いと感謝し、薬を売ってくれると聞けば有難いと拝んで進んで声をかけに行った。
 少しだけ様子を窺い見て、私のような人間相手でも普通に接してくれるかもしれないと思った。意を決して、私は蟲師なる男の元へ姿を現して口を開く。
「あの……っ! 突然すみません! どうか、私にも薬を売ってくれないでしょうか? ここのところ、母の体調が優れぬので、薬が必要なんです! ですから、どうか……どうか何卒っ……!!」
 突然目の前へ飛び出してくるなりそう言った私に、蟲師を名乗る彼は大層驚いた様子だったが、私の言葉を聞くなり二つ返事で頷いてくれた。
「薬くらいなら別に構わんが……病状次第で出せる薬も変わってくる。良ければ、一度診させてもらっても良いかね?」
 色好い返事に、私は気持ちの昂りを抑え切れずに嬉しさを乗せた声を発して頭を下げた。
「有難う御座います!! 蟲師の御方、この御恩はどう返したら……っ」
「いや、俺は職業柄医者紛いの事もやってるってだけだ。そんな頭を下げられるような事は何も無いんで、頭上げてくれ。あと、俺の名前はギンコって言う。早速で悪いが……あんたん家、案内してくれるかい?」
「はいっ……! あ、私の家は此処から少し離れてますが、どうぞ此方です! それから、申し遅れました。私は、雪と申します。母や父には、“お雪”と呼ばれています。どうぞ、良しなに」
 そう言って、振り返り様に陽の光を受けた時だった。背後を付いて来ようとしていた彼が大きく目を見開いたのである。そして、咥え煙草をポロリ落とすように呟きを落とした。
「……あんた、その目に、その髪も……一体どうした?」
「え、っと……やっぱり、普通には見えない、ですよね……っ。まぁ、そういう風に見られるのには別に慣れてますけど……」
「あぁ、いや、すまん……っ。別に悪気があって言った訳でも、物珍し気に思ったから言った訳でもなかったんだ。気に障ったんなら悪かったな。だが、その見た目になった理由……もしかしたら、俺の本業の方で解決出来るかもしれん」
「えっ……?」
「良ければ、親御さんの具合を診るついでに、あんたの話も聞かせてくれんかね……?」
 ギンコと名乗った蟲師は、落としかけた煙草を咥え直して、そう意味深げに笑って言ったのだった。


執筆日:2022.09.05
加筆修正日:2024.07.04
公開日:2024.07.23

【後書き】
一昨年の晩夏頃に書いてからそのまま長らく放置していた作品になります。『GYAO!(※2023年の三月末にてサ終)』より配信されていたアニメ『蟲師』第一期+第二期一挙配信を見た折に、脳内にてひっそり考えていた鬼子ネタなお話です。
このネタを思い付いた当初は、「大好きなturbとクロスオーバーさせて書いたら面白いんじゃない?」という考えから書き始めたお話でした。
最初は脳内だけに留めて燻らせていたネタだったのですが、“読みたいからには書くしかない”との謎の使命感と自己生産への意欲に火を点けられた感じです。
ぶっちゃけ完全俺得でしかないですし、クロスオーバーと言いつつturb要素は終盤ちょこっと出す予定で居たところ結局は其処へ辿り着く前に筆が止まってお蔵入りしかけておりました故……。
このままお蔵入りして日の目を見ないくらいなら、供養として『かきかけギャラリー』企画に投稿してしまおうと思い至りました。
尚、言い訳として当初考えていたオチを申しますと……。最終的には、当作品の夢主は、“半分人だけど半分人外という存在だからこそ量質共に高霊力”という理由から審神者として時の政府よりスカウトされ、本丸を持ち、その内出会う刀剣男士の一振りと結ばれて幸せになり、数年後またふらりと近くへ立ち寄ったギンコへ報告する〜……なんて展開を書く予定だったのです。turb要素と言ったら其れぐらいで、ほぼほぼ無いにも等しく、クロスオーバー要素皆無と言っても過言ではないかもしれません……。
あと、もう少し『蟲師』という作品をゆっくりじっくり落とし込む時間があれば書けたかもしれないだけに惜しい思いです……。
途中で頓挫してしまったお話ではありますが、誰かしらに刺さるものがあり、また、尚且つお気に召す方が一人でもいらっしゃるのであれば幸いなり。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださったpixiv様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。