※当作品の夢主は、拙宅ではお馴染みの“一人称俺っ娘でノンバイナリーの方言ちゃんぽんな癖強女審神者”設定となっております。
※自本丸設定山盛り+原作への独自解釈や捏造設定等多く含みます。
※尚、作中の一部にて、怪異ネタの描写があったりと、所謂“とうらぶホラー”ネタを含みます。苦手な方はご注意くださいませ。
※その他、友人モデルの他所本丸の女審神者(見習い)さんや、その初期刀及び所持刀の鯰尾藤四郎が友情出演しております。物語構成上、かなり出張るので、予めご留意くださいませ。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 師走も残り一週間余りを残すだけとなった、年の瀬迫る年末の事である。
 陸奥国に所属するとある本丸の審神者は、背景に<ズゴゴゴゴ……ッ>と言わんばかりの擬音を背負いながら暗い顔をしてゲンドウポーズを組み、思い悩んでいた。
 そんな審神者の様子に気が付いた通りすがりの暇刃な鶯丸は、内心面白いものでも見付けた顔をして、世話を焼く事に決め、声をかける。
「どうした、主よ。物凄い顔付きをして唸っているが、何やらお困り事か? 悩み事ならば、聞いてやらん事もないが……どうだ? 此処は一つ、俺に話してみるというのは」
「うぐか…………。同派の身内相手だし、お前に相談しても良いとは思うが……笑わないか?」
「事と次第にもよるが、まぁ、まずは話してみてくれなきゃ何も分からんからな。何でも話してみると良い。俺は茶でも淹れながら聞いてやろう」
「リクエスト可能なら、体が芯からあったまるようなあったかい飲み物が飲みたいです……。ここ最近、末端の冷えがやば過ぎてよぉ……」
「なら、紅茶のが良さそうだな。俺はあまり紅茶を淹れるのは得意ではないんだが……まぁ、良いか」
「いや待って。俺渋いの飲めんから、一旦踏み留まろうか」
「何だ。そんなに俺の淹れた紅茶は飲みたくないか? まぁ、確かに俺はいつも茶ばかりしか淹れんものだから、勝手の違う紅茶を淹れると渋い仕上がりとなるが……。ふむ、そうなると八丁の奴でも呼ぶとしよう。彼奴は、俺と違って紅茶を淹れるのが上手い。呼べばすぐ来る場所に居た筈だから、呼んでやるとするか」
「えっ、待って、其れはつまり八丁君にも相談内容が筒抜けになるという事になるんだが!? 流石に同派の半数に知られるのは気まず過ぎるから嫌なんだが……っ!」
「大方、大包平の事で悩んでいる事は既に丸分かりだから、安心すると良い」
「何も安心出来ないのよ、鶯お爺ちゃんッッッ!! 頼むから俺の話聞いて!?」
 審神者の意思は見事スルーされ、鶯丸の予想した通り呼べばすぐに駆け付けれる場所に居たらしい八丁念仏は、古備前派の祖たる長兄の呼び声であっさり召喚されてしまった。途端、審神者はローテーブルの卓上に<ドグシャアッ!!>という思い切りの良さしかない音を立てて顔面をのめり込ませた。
 こういう時ばかり話を聞いてくれなくなるのは、平安刀の悪いところだ。大方、身内に纏わる面白い話のネタを聞き付けたとでも思って愉快に思っているのだろう。親切心の裏に隠れた下心の見え透きように、審神者はギリリッ、と乙女らしからぬ顔付きを向けた。
 一方、そんな顔で睨まれようとも飄々と普段通りの空気を崩さない鶯丸は、呼び付けた八丁へ。
「疲れた様子の主が紅茶をご所望との事だ。悪いが、手が空いているのならば、俺の代わりに淹れてやってくれないか? 俺が淹れるとどうやっても渋くなってしまうのでな」
 とか何とか言いながら、ちゃっかり自分もご相伴に与る形でそのまま弟の淹れた紅茶を啜った。
 丁度、非番で特別遣る事も無くて暇だったらしい八丁は、兄の鶯丸に言われるがまま審神者の悩み相談とやらに乗る事になった。
「其れで……鶯の兄さん曰く、雇い主が包平の兄さんの事で何か悩んでるって聞いたけど……ぶっちゃけ、俺が聞いても大丈夫な話だったりするっ? そうじゃなかったなら、一応プライバシーとかの件もあるし、お口チャックしとくけど?」
「八丁君が対称的に良い子過ぎて泣けてくるんだが……」
「まぁ、事実八丁の奴は良い奴だからな。其れはさておくとして……今は本題に入るとしようか。主は、何をそんなに思い悩んでいるんだ? 言ってみろ」
「俺の意思よ」
「どうせその内知れる事なら、今知れたとて同じ事だろう? 良いから話してみろ」
「ちょっ……鶯の兄さん、雇い主への扱いが雑過ぎるって……! もうちょい気持ち優しめに行こっ! ねっ!? じゃなきゃ、雇い主泣いちゃうからっ!!」
「安心しろ、もう泣いてる」
「もぉ〜っ!! 鶯の兄さんの馬鹿ァッ!! 雇い主泣いちゃったじゃん!! コレ、後から包平の兄さんにどやされたらどう責任取ってくれんのっ!?」
「馬鹿と言った奴の方が馬鹿なんだ、とは彼奴の口癖だったか……。まぁ、成るように成る、としか言えんな。そう気にせずとも、どうにかなるだろう。細かい事は気にするな」
「全っ然細かくないから!! もうっ、ちょっとの間鶯の兄さん黙ってて!! 俺が代わりに雇い主の話聞くから……っ!!」
 そんなこんな、話を聞いてやると言い出した兄が余計な事ばかり言う為、出来た弟の八丁が代打として話を聞く流れとなってしまった。審神者は、どう足掻いても古備前包囲網から逃れる事は出来ない。此処は大人しく腹を括って口を割る他無さそうだ。そう早々に判断した審神者は、深々とした溜め息を吐き出しつつ、丁寧にもソーサーの上に乗っけられたティーカップの中の赤い液体が揺らぐのを見つめながら訥々とつとつと話し始めた。
「某月某日より、時の政府様という公式から正装発表の知らせがあった事は知っているな……?」
「うん……。雇い主が、うっかり噎せて過呼吸起こしかけちゃうくらいには動揺したっていう、あの一件ね。其れがどうしたのっ?」
「年を跨いだ来月、とうとう大本丸博展を記念してのあの正装の全身図が公開、及び運良ければ軽装と同様に各刀剣男士へと仕立てる事が可能となるかもしれんのだ……。其れで、その来たる日までの下準備と称してだな……クリスマスに、推しに何かプレゼントの一つでも贈ろうと考えているところなんだが。君達、身内の者としてどう思う……?」
「どうって……其れは、つまり、“何をプレゼントしたら良いと思う?”って質問されてるという事の解釈でオッケーです?」
「流石は八丁君。頭の回転が速く察しも良くて助かるよ」
「はははっ……えっと、これくらい俺じゃなくても別に誰でも察しが付くと思うから、大袈裟だよ〜っ! 其れで? 雇い主は包平の兄さんに何かプレゼントしたいって事らしいけど……何か具体的案は浮かんでるの?」
「正装にちなんで、ネクタイピン辺りでもどうかな……って思ったんだけど、アリかナシかで言うならどっちだと思う……? 率直な意見でヨロ」
「おや。思ったよりも随分と控えめに出るな。君の事だから、もっと大胆に出るかとも思ったんだが」
「取り敢えず、鶯の兄さんは黙ってよっか!」
 笑顔で己の兄へ遠回しの圧を掛けて黙らせた八丁。何処までも出来る男過ぎて、さっきから彼への好感度なる株が爆上がり中である。反対に、兄への好感度は右肩下がりで下降中だが。
 話の軸を戻した八丁は、ついでに淹れた自分の分の紅茶に口を付けて喉を潤しつつ、話を続けた。
「鶯の兄さんの言った事は一旦忘れて……! 俺的な意見としては、雇い主の考えはアリだと思うなっ! だって、何かしらの贈り物をしたいって思う程相手の事を想ってる証拠でしょ? 包平の兄さん、そこら辺鈍くないし、どっちかと言うと聡い方だから、すぐに気付いてくれると思うし、雇い主からのプレゼントってだけですっごく喜ぶと思うっ!!」
「そっか……良かった……。いや、至極個人的な話……俺、ぶっちゃけこの手の話には自信無かったからさ。同派且つ身内の君等に相談して良かったよ。俺も、悩むがあまりに踏ん切り付けれずに悶々悩みまくって頭抱えるだけで居たから……凄く助かった。話聞いてくれて有難うね」
「ううんっ。俺なんかで良ければ、何時いつでも相談に乗るし! また困ってる事とか悩んでる事とかあれば、気兼ねなく言って! 雇い主の力になれるなら、俺頑張っちゃいますしっ?」
「はははっ、八丁君は本当良い子で出来た子だなぁ。うぐとは大違いだ」
「心外な事を言われたものだ。そもが、俺が気付いて声をかけてやらねば、こうも話は纏まっていなかっただろうに……。俺の主は冷たい事を言う」
「いけしゃあしゃあと、どの口が言うんじゃ……」
「ふふふっ。君の鶯だな」
 そう言って戯けてみせた鶯丸は、「ホーホケキョッ♪」と季節の先取りのつもりか、鳥の鶯の鳴き真似をしてみせた。まだ冬も本番に入ったばかりだというのに、春を呼ぶ鳥を真似るとは、風刺を利かせたつもりだろうか。
 ジトリとした目を向けるも、何も意に介した風などなく、うっそりとした笑みを浮かべて笑い返す。
「まぁ、何であれ……結局のところ、君からの直接的な贈り物をされる彼奴は果報者だな、という話さ。少し羨ましいくらいには」
「にゃんだ、一丁前にヤキモチか? そんな事しても可愛いだけだぞ、うぐや」
「そうか。俺が悋気を抱こうと、君からしたら可愛いの内に入るのか。ははっ、此れは一本取られてしまったな。流石は俺達の主を勤め上げるだけはある」
「ふふんッ。我、六年と半年余りも経つ審神者ぞ。今や三桁をも超える数の刀達を相手にしてりゃあ、些細な事には動じんくらいには慣れるというものぞ」
「その割には、大包平が関わる事になった途端凄まじい動揺っぷりを見せてくれるが?」
「ゔぅ゙〜っ! 五月蝿うるさい五月蝿い!! 惚れた弱みじゃ!! 弄ってくれるにゃあ〜っ!!」
「ふふふっ、何とも初々し過ぎて、つい揶揄からかってしまいたくなるな。此れは観察しようの甲斐がある」
「ちょっと待って?? 鶯の兄さん、何時いつから雇い主の記録まで付けるようになったん??」
 聞き捨てならない台詞を耳にした気がして、思わず訊ねた八丁。すると、古備前派の祖は、平安刀らしくあっけらかんとした口調であっさり口を割る。
「ん? 言っていなかったか? 主が大包平の奴と良い感じな空気になり始めた辺りから、既に対大包平限定にしか見せん主の様子を観察した日記は付けているぞ」
「いや、初耳ィ〜〜〜ッ!! つか、んなモンお前作っとったんか!? 出せ!! 今すぐに出っせェー!!」
「出したら、主の事だから燃やすか何かして無かった事にするだろう?」
「当たり前ェだろ。分かったなら、今すぐそのよく分からん観察日記とやらを出しなさい、今すぐにッ……!!」
「い、一旦落ち着こう雇い主!? ほら、折角せっかく淹れた紅茶も冷めちゃうしさ!! 冷めない内に飲んで欲しいなぁ〜! なんて……っ」
 ドスを利かせた声音で以ておのが兄に迫る審神者の物騒が過ぎるあまりに、一抹の危機感を覚えた八丁は慌ててその場を取り繕う言葉を紡いだ。その言葉に絆された訳ではないが、鶯丸の胸倉を掴んでいた手を離すなり元の席まで戻って腰を落ち着けた審神者は、再びソーサーに手を付けた。そして、何事も無かったかのようにミルクと砂糖の存在を要求してきたのだった。
「すまんが、ミルクと砂糖も貰えるだろうか? 俺氏、ストレートでの紅茶は苦手な者故……」
「あっ、気が利かなくて御免ね! ハイ! ミルクポーションと角砂糖ですっ! 好きなだけどうぞ!」
「有難う〜。猫舌なのも相俟って、淹れ立て熱々なの飲めんくてすまんやで」
「あ、その点は全然気にしてないのでお構いなく〜っ!」
 小休憩とばかしに一度ブレイクタイムが挟まった事で審神者も落ち着きを取り戻す。其れを逃さなかった八丁は、相談に乗ったついでとばかしに話を聞き出す姿勢を見せた。
「そういえば、包平の兄さんへ贈る予定のプレゼントは何時いつ買いに行くの?」
「今度のイブの日、昼過ぎにちょこっとの時間本丸から抜ける形で友達と買いに行く予定で考えてる」
「ちなみに訊くけど……そのお友達さんって男だったりしないよね?」
「しないけど……。普通に女友達。現世に居る頃からの友人で、俺が高校ん時の先輩に当たる人なんだけど……この度、目出度めでたく見習い審神者の研修生な身分から正式な新米審神者へと昇格出来そうって事で、前祝いも兼ねてお茶するついでにね。通称・先輩なるその人、今はまだ審神者養成学校に通ってる身でさ。来年の春卒業予定なんだ」
「そうなんだ〜! 其れは是非水入らずで楽しんで来てねっ!!」
「審神者としては後輩となるが、知り合いという立場からすれば先輩となる訳か……。呼ぶ時にややこしくなりそうな話だ」
「まぁ、先輩が本丸持ったら、その内どっかで交流する機会も巡ってくると思うから、その時に本人から直接呼び方聞けば良いんじゃないかな? たぶん、先輩呼びは対俺からの限定的呼び方で、それ以外が呼ぶと立場的に紛らわしくなっちゃうだろうから、十中八九審神者名の方を呼ぶ流れになるだろうけども」
「成程。主からしてみれば、立場はどうあれ、その友人とやらが“先輩”という事に変わりはないという事か」
「そりゃあね。俺は、飽く迄も“先輩”の“後輩”的立場ですから。其れはこれからも変わらないよ。十年以上経っても縁の繋がった大事な縁だもの。未だに連絡を取り合えているという意味でも、引き続き大切にしていきたいと思ってるよ。だって、今時、人との縁なんてあっさり無くなっちゃう程希薄になってしまったからねぇ。連絡が途絶えたら其れっきりなんてザラな世の中。寂しいけど、それぞれの人生があるんだもんよ。家庭を持つ人も居れば、独身貴族を謳歌しつつ仕事に明け暮れている人も居る。人の数があるだけ、その過ごし方も十人十色。俺みたいなのが兎や角言えた事じゃないさね」
「雇い主って、偶に悟ったみたいな事語り出すよね〜っ。普段とのギャップも相俟って、ちょっと意外に思っちゃった」
「俺、不定期で悟り開くよ? それなりに色々経験してきてる訳だし。人との縁なんざ、特にその代表格よ。大事にすれば、ずっと繋がったままで居られるし、そうでなければ、何方からともなく音沙汰無くなって途切れて其処で終わり。後者の場合、切っ掛けがどっちからとかは関係無い。相手がそれまでだと見切り付ければ、その先は赤の他人という関係性に戻るだけだ。所詮、そんなモンよ、今の世の中はな。だから、俺みたいに未だにアナログな文通や年賀状という手段で繋がってる縁を持つ人間も数少なくなってるって事。まぁ、だからこそ、きちんと想いを返してくれる人には、其れ相応の真心込めた姿勢で以て応え続けていきたい限りなんだけどさ。現実は色々な事で溢れてるから、時に難しくなる事も多々ある訳よ。例えば、今、俺がすこぶる体調を崩してる事とかな」
 そう言って、苦々しくも笑った審神者は、半ば諦めた風な乾いた笑みを零して、その先を濁すようにミルクと角砂糖を混ぜた紅茶を口に含んだ。
 苦い思い出も何もかも引っ括めて審神者となった彼女が大事にするは、自分の居場所である。その場所こそが、おのが手で一から築いた此処、本丸という場所であった。
 審神者であるからには、過去の歴史を改竄する事は大罪と心得ている。もし、そのような大罪に手を染めれば、敵対している歴史修正主義者勢力と同じ身となってしまうからだ。仮にそのような事になってしまえば、審神者はその時点で敵へ寝返ったものとして、処分が言い渡される事が決まっている。良くて残りの一生を時の政府の隷属と化して過ごすか、悪くて見付かり次第その場で処刑されるか。二つに一つ、道は有るようで無いものなのだ。
 我々本丸に属する者達は皆、一様に戦争を有利に進める為の駒に過ぎない。審神者は、時の政府御上の兵であり、刀剣男士はその手足となって敵を屠る為の武器だ。だから、嘗て悪しき風習を前制度として敷いていた古き時代こそ、強制的に審神者となる者達を掻き集めていた頃の制度を“徴兵制度”などと揶揄して裏で噂されていた歴史がある。
 今や、その前時代的期間を“暗黒期”と呼び、忌まわしき悪習を、人権を無視したような制度を敷いていた過ちを二度と繰り返す事が無いように、時の政府も生まれ変わり、ブラックであった体制を見直し、新人審神者にも優しいホワイト体制へと変わった。けれども、そんな黒体制の終末期に審神者へと就いた彼女は、暗黒期のほんの一握りをその身で経験して知っている。故の戒めでもあった。
 彼女が審神者となった時は、まだ前時代的制度が色濃く残っていた所為もあり、審神者を育成する為のまともな公的制度など一切無かった。審神者養成学校などの設備が整ったのは、だいぶ後の事で、比較的近年の事である。なので、彼女が審神者になった頃の審神者になる方法は、おもに志願制か、時の政府側に目を付けられ拉致も同然に強制的に審神者にさせられるかの何方かであった。幸運と言えるのか、彼女は後者ではなく前者であった為、比較的マシな立場であると言えよう。其れでも、暗黒期を知っているだけに、審神者という職の重荷がどれだけのものか、痛い程理解している。
 尚、審神者という立場に縋り続けるのは、本丸という居場所を失いたくはないが為だ。例え、現世との現実と板挟みで精神をすり減らし、その身を滅ぼさんとしていようとも。死ぬ事を選ばず、生き続ける事を選択した以上は、審神者として、本丸に住まう神様彼等と共に在りたい。其れが、彼女の抱く、審神者就任から変わらぬ信念である。決して、一振りとて欠かさず、全員で生き残る。一振りとて折れる事は、審神者である彼女が許さない。此れは、この本丸に居る者なら誰もが知っている、信条なのだ。
 ――話は戻って、クリスマスイブの日に久しく顔を会わせる友人との茶会という予定が入っている事を聞き及んだ二振りは、一瞬だけ目配せするように視線を交わし、それとなくテコ入れを行った。
「その“先輩”さん(?)とやらのお友達さんと一緒にお茶するついでにお買い物するのは分かったけど……当日の御伴というか護衛役は誰とか、もう決めてあるの?」
「今のところ、初期刀の清光に頼もうと思ってるけども……。相手は先輩だし、先輩はまだ見習い審神者で、且つ正式な審神者扱いじゃないのもあって、連れて来れるのは唯一手持ちの初期刀だって校則で決められてるし。其れなら、こっちも配慮すべきかなって。下手に本丸に居る色んな刀見せびらかすみたいになってトラブルに発展するのも避けたいしさ。だって、此ればっかりは運によるものだからなぁ〜。来るも来ないも運次第……。〇〇難民なんてのは、審神者になれば誰しもが経験する事よ。ウチも、知らず知らず国行難民であった事を審神者一年目過ぎた辺りで初めて気が付いたくらいだし」
「其れは雇い主が鈍過ぎるだけでは??」
「まぁ、主も中々に大概細かい事は気にしないタチだからな。“来る者拒まず、去る者追わず”というヤツさ」
「なぁ〜るほどぉ〜?? 何となく雇い主の生態を把握しましたっ!」
 思わぬところで審神者の性質を垣間見た気がして、曖昧な笑みを浮かべて納得した八丁であった。この際、兄の鶯丸ではないが、細かい事は気にしない方が吉である。
 一方、己の発言で内心戸惑っている者が居る事など気付いていない様子の審神者は、徐ろに言葉を続けた。
「あっ。でも、一つ大事な事項を言いそびれちゃってたけど、俺の先輩、実は特殊な訳アリ持ちの人でもあってさ。“迷い家マヨヒガ本丸”って怪異の話知ってる?」
「唐突なネタ振りで吃驚〜っ。俺は知らないけど、兄さんは? 何か知ってる?」
「知ってるも何も、その件については、ウチの本丸がガッツリ関わった話じゃないか」
「えッ」
「という事は、主が言っている友人という娘御は、あの訳アリ娘の事か。成程、であれば“特殊な訳アリ”と称しても間違いはないな。某怪異の作り出した特異点なる空間に喚ばれた・・・・奴は、皆のちに総じて特殊扱いされる事になる。何せ、審神者かどうかなど関係無しにランダムで喚ばれて・・・・は、其処に居る刀達の願いを叶える羽目になるんだからな。まぁ、ごく稀に転送エラーなどで刀剣男士も巻き込まれるケースもあるそうだが……彼処は、確か、人の子でなければ願いを叶えてやれないんだったか?」
「そうそう。やっぱ印象に残る事件だっただけに覚えてたか」
「早々に忘れられるものか。あんなに焦燥感に駆られた顔をして、必死にあの手この手で被害に遭った者を救おうと躍起になる主の姿など……。本丸史上でも稀な出来事として強く印象に残っている出来事だぞ」
「え……御免けど、ちょっと一旦待って待って! 俺だけ何か一人置いてけぼりになってるんですけどっ!? 話の腰折っちゃって非っ常〜に申し訳ないんだけどさ、俺全く知らないし話に付いて行けてないので、事の説明を一から求めます……っ!」
「あぁ……そういえば、あの事件が起きた時、まだお前は顕現していないどころか実装すらしていななんだったか」
「すまん。ついうっかりしておったの。今ザックリとだが説明してやるから、機嫌直してちょ」
 当時まだ本丸に顕現していなかった者からすれば何のこっちゃという話である。よって、八丁は、「自分だけ知らないのは不公平だと思いますっ!」と分かりやすく不満を訴え、挙手をした上で説明を求めた。此れに、二人して今更ながらに「そういえばそうだった」と思い返して、事のあらましを掻い摘んで話した。


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 其れは、とある日の昼下がりの事である。
 まだ今と異なり元気そのものだった審神者が、友人と会う約束があると言って、その時間になったら初期刀の加州清光を伴って出掛けてくると宣言したのが、その日の朝の事である。
 そして、約束の時間近くになった頃、久々に会う友人との時間に浮かれた審神者が、浮足立った様子を隠しもせずに初期刀へ何処のお店へ寄ろうかなどを相談している折の事だ。
 偶々、ここ近辺の怪異に対する情報収集がてら開いていたままになっていた、怪異被害に遭った者達専用の相談掲示板に、とある話が舞い込んで来る。
『何か、転送装置のエラーで変な処に飛ばされたっぽいんだけど、誰か助けて。一緒に居た筈の初期刀の加州君も、いつの間にか居なくなってて一人ぼっちでめちゃ怖い。ちなみに、自分はまだ正式な審神者になる前の審神者養成学校在学中の一生徒です。つまり、見習い審神者です。辿り着いたのは、たぶん、学校の授業で聞いた感じの……所謂初期の頃のタイプのものと思われる無人の本丸みたいな場所。怖いのとまだ現実を受け止め切れてなくて、今転送装置の側から動けてないんだけど、エラーで飛ばされた筈の転送装置は何でか壊れててウンともスンとも言わなくて動かない。完全に詰んだ。電波も死んでて、唯一繋がったのが此処だけだったから助けを求めた次第。高校の時の後輩ちゃんからこの板の存在知らされてなかったら、たぶんマジで詰んでた。余談だけど、その後輩ちゃんは審神者としては古参勢らしい大先輩な方です! 尚、一応その後輩ちゃんにも連絡してみたけど、さっきも言った通り電波死んでるので案の定繋がりませんでした、乙(泣)!! 取り敢えず、誰でも良いから何か情報ください!! お願いします!!(土下座)』
 実は、この相談主こそが、これから審神者が会う予定であった、友人その人なのである。
 時を同じくして、審神者の元へ、くだんの友人の初期刀から緊急の連絡が入った。
『もしもし!? 見習い審神者の■■って子の初期刀の加州清光なんだけど、ウチの主ソッチに来てない!? 転送装置のエラーが起こったみたいで、主と約束の場所に向かってる最中の途中ではぐれたんだ!! 最近、怪異の類の噂であんまり良い噂聞かないし、警戒はしてたんだけど……っ、俺もいきなりの事でまだ混乱してて……! 兎に角、主が行方不明になっちゃったの!! お願い、助けて!! 今、頼れんの、主の唯一の審神者友達であるあんたしか居ないんだよ!! 頼むから、主探すの手伝って……ッ!!』
 其れは、悲痛な叫びだったと、その場で端末越しに声を聞いた者は語っている。
 この連絡を受けて、この本丸の審神者は顔色を変えて、急遽自分の担当やこんのすけへと連絡や式を飛ばした。加えて、何か手掛かりになるものはないかと、怪異に纏わる掲示板を隈無く虱潰しに調べた。そして、該当する板を見付け、助けに応じるべく本丸一丸となって動き出す。
 彼女の友人が飛ばされた先は、予てより度々情報の挙がっていた、“迷い家マヨヒガ本丸”という怪異の領域であった。其処は、見た目こそ無人の、比較的綺麗な形で残る、初期型モデルの平屋形式の廃本丸のように思われた。しかし、実際は完全なる無人ではなく、無尽蔵に彼方此方あちこちに顕現の解かれた刀が転がっているのだ。おまけに、厭なくらいの静けさで風音一つすらしないのだ。物音は、基本、辿り着いた者が立てる息衝く物音ぐらいである。SAN値チェックのお時間です。
 “迷い家マヨヒガ本丸”とは、行き場を失った刀剣男士等が暫しの休息に就く為の憩いの場所であり、怪異性生物が何らかの意思を持って作り出した異空間である。この場所へは、本来怪異そのものが招かない限り辿り着けないものとされている。その証拠に、転送エラーという形で喚ばれた者の証言の一つとして、転送装置が本来表示するべき座標だったコードが、飛ばされる一瞬手前にて突然文字化けして読み取れなくなったと証言している。恐らく、この時の彼女の友人も同様の形で招かれてしまったのだろう。
 危険性は低いが、かと言って封じる事も不可能とされている、何時いつから存在するのかも知れない、怪異が作り出した異空間だ。怪異の領域に足を踏み入れた時点で、対象者は怪異に従う他脱出する術は無い。一先ず、転送装置が回復するまで、或いは、怪異かその領域に囚われた者達のいずれかが満足するまで、対象者は脱出する方法を探るべく領域内を探索する以外に選択肢は無かった。
 安全性観点から言えば比較的安全である事を踏まえて、気休め程度の安堵を覚えた審神者は、その旨を友人の初期刀たる加州清光へと伝える。この時点で、学校の訓練の賜物か、彼は時の政府本部へと保護及び救出依頼を願い出ていたようで、本部の専門家部隊が既に応援に動き出しているとも連絡を寄越してきた。流石は、初期刀として選ばれただけはある。その判断力や良し。此れが、審神者になる為の公的な養成設備など整っていなかった頃に起こった事故であれば、もう目も当てられない事態となっていたであろう。
 結果的に言えば、友人は無事“迷い家マヨヒガ本丸”より生還する事が叶い、自身の初期刀とも、元々会う約束のあった審神者とも再会する事が出来た。但し、“迷い家マヨヒガ本丸”に喚ばれた・・・・者の宿命として、とある置土産を手に戻ってくる事となった。其れが、友人がのちに“迷い家マヨヒガ本丸”に招かれた対象者として“特殊な訳アリ”扱いとされる原因である。
 尚、この置土産とやらこそが、特例措置として所持を許された、鯰尾藤四郎であったりする。彼は、“迷い家マヨヒガ本丸”に居た刀剣男士の一個体に過ぎないが、彼が居なければ、友人は怪異の領域内より脱出する事は不可能だっただろう。何故ならば、怪異領域内に存在する刀剣男士の誰かしらが“外へ出たい”と願わない限り、ゲートは開かれない仕組みとなっているからである。
 現在、当該鯰尾藤四郎は、顕現を解いた状態で友人が正式に審神者就任するまでを楽しみに待っているらしい。意識を眠らせている以外は、時折刀の状態のまま会話に応じたりと、それなりに今の生活を謳歌している模様だ。刀のまま喋る姿は、さながら、大侵寇の折に見た三日月宗近のようで、笑っちゃいけないんだけども笑ってしまいそうになる光景である。
 ちなみに、此れは余談となるが、“迷い家マヨヒガ本丸”より持ち帰った刀剣達は、彼等の意思を尊重する事が優先事項とされ、基本的には持ち主となる対象者が所持・管理する事が推奨されている。其れ故の特別扱いの特例措置という訳なのである。此れは、審神者養成学校への生徒・職員等全員に周知される事項である為、外野が口を挟むべき事ではないと認知されている。よって、この業界では儘ある話だとして、程々に知られているのだ。閑話休題。


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 ――以上が、ザックリ掻い摘んだ、弊本丸で起こった珍事件の一つの内訳であり、彼女の友人が“特殊な訳アリ持ち”とされる理由であった。
 己が実装する前とは言え、大変な事故及び事件に巻き込まれていたとは思いもしなかったのだろう。神妙な顔付きで以てポツリ呟きを落とす。
「雇い主って……実は、結構な確率で厄介事に巻き込まれるタイプの体質??」
「今更気付いたのか、お前」
「えっ……雇い主、これからその先輩(?)さんと会う訳なんだよね? 控えめに言ってもやばくない? というか、普通に理性を持った刀剣男士なら絶対止めるでしょ。何で鶯の兄さん止めないの? どう考えても危なくない?」
「別に、何の危険性も無い事は、既に以前その娘と会う際に伴として同行した加州から確認済みだ。仮に何かしらしようものなら、御上が黙っていないさ。勿論、何の処置も施されていない訳がないだろう? 例の鯰尾藤四郎の本体には、来たる日まで襲撃時等緊急性のある時を除いて顕現出来ないよう、術式が施された札を貼られているそうだ。よって、対話は基本刀のままとなるぞ。それ以外は大体寝ているそうだが、あの手の刀はお喋りなタチだからな。暇潰し相手には持ってこいだろう。まぁ、特殊な訳アリ持ち且つ特例措置とは言え、正式な審神者でもないのに初期刀以外の刀を所持している事へのやっかみは付き物だろうが……其れも次の春までだ。順調に行けば、ストレートでの卒業予定なんだろう?」
「うん。先輩自身は、そう言ってたよ。だから、先輩の場合、卒業前の実習先での研修期間が無事終われば、残るは後は卒業試験をクリアするのみで、其れも終われば晴れて卒業ってな訳。で、卒業した暁には、目出度めでたく自分の本丸を持って審神者ライフの始まり始まり〜って流れになる筈だよ。新人審神者向けの指南書にそう書かれてた。いや〜、俺が新人の頃はそんなん何一つ無かったから、先駆者から知恵を借りる他無くて苦労したぜ〜。指南書や説明書とかはあるけど其れだけで、詳しい手解きは一切無し。右も左も分からず半年程取り敢えず何となくで運営してたな…………ハハハッ。今じゃ忘れたいくらいの黒歴史だぜ」
「見ろ、此れが審神者業界の界隈じゃよく見られる闇の一部だ。覚えておけ」
「アッハイ。何か軽率に話聞いちゃってすみませんでした。思ったよりも重たい話出て来て、吃驚通り越して宇宙猫スペキャ状態だわ、今の俺」
 半ば茫然自失としている間に、席を外していた真ん中の兄が戻ってきたのか、審神者が自分達の部屋に居る事に驚いたような顔を見せて口を開いた。
「むっ? 何故、主が俺達の部屋でお茶をしているんだ? 来ていたなら、茶菓子の一つでも振る舞ってやろうと思っていた故に、呼んでくれれば良いものを……」
「おや。噂をすれば何とやらか」
「何だ、俺の噂話でもしていたのか?」
「まぁ……当たらずも遠からずっ? みたいな!」
「ふぅん? まぁ、別に何を話そうと勝手だし、好きにすれば良いとは思うが。茶請けも無いままも物寂しかろう。先日、万屋の買い出しついでに買ってきた餡餅を出してやるから、食べると良い。ただでさえ、今のお前は痩せ過ぎの身だからな。食欲がある内に何かしら腹に入れておけ」
「今飲んでるの紅茶だけど大丈夫?」
「安心しろ。茶菓子を出せば自然と此奴が茶を淹れる。何も言わずとも勝手に出してくるから心配は要らん」
「ははぁ〜。随分と信頼されたものだな?」
「分からいでか。どれだけの付き合いがあると思っている」
「包平の兄さんからお菓子貰えるって。良かったね、雇い主っ!」
「餡餅地味に好きだから嬉しい」
「お前が好むと知っている上で買ってきたものだからな。お前が、度々仕事の疲れを癒しに憩いの場として俺達古備前部屋へ入り浸っている事は知っているし。茶菓子の一つで喜ばれるなら、幾らでも買ってやるぞ」
「こうして“もてあた”精神は長船の系譜へも受け継がれていった訳だね……把握」
「其れは、もしや、山姥切長義の事を指して言っているか?」
「それ以外に誰が居りましょうか?」
 実に分かりやすく甘やかされている事を理解した上で甘えている審神者は、貢ごうと思っている推しから逆に貢がれ、何とも言えない顔をしてその場を濁した。
 取り敢えず、今は照れ隠しついでに差し出された餡餅に食らい付く事で、当刃が来るまでの会話を無かった事にした。
 その傍らで、期待を裏切らない形で別個茶を用意した鶯丸は、満足そうに同じく舌鼓を打つ。
 勿論、空気を読んで、審神者の真隣の席は大包平が戻ってきた時の為に空けたままにしていたので、必然的に大包平は審神者の隣空いたスペースへと腰を下ろした。其れも、飽く迄も自然体で。
 そして、餡餅を美味しそうに頬張る審神者の口元に付いた餅粉に気付いた大包平は、ナチュラルな手付きで手を伸ばし、指先で拭い去った。
「口元、付いているぞ」
「む゙っ? んぐっ……御免、有難う。こういうの食べる時って、どうしても口端に付いちゃうんだよねぇ〜。俺が食べるの下手くそ過ぎるだけなんだけど」
「いや。気にするな。そうやって夢中に何かを食しているお前を眺めるというのも、一興で退屈はせんから、そのままで居てくれて構わん」
「いや……そんなあからさまガン見されてたら、食うのも食いづらいって……」
「すまん。気に障ったか?」
「此奴、無自覚か? 飛んだ野郎だな……果たしてこのまま俺は生き残れるのか??」
「うん? 待て、一体何の話をしているんだ、お前は?」
「主の内なる心が爆発四散するかしないかの瀬戸際に迫られている、という話だ」
「いや本当に何の話だ!? 脈略も無く意味が分からなさ過ぎて付いて行けんぞ!!」
「うわぁ〜。身内の対恋人を前にした甘過ぎる対応に“甘ぁーいッッッ!!”て叫ぶ前に砂糖吐き出しそう。マジで甘過ぎん?? 視線からしてもうガチじゃん。やっばぁ(笑)。完全ロックオンされてる雇い主ご愁傷様っ!」
「おのれ、他人事だと割り切りおって……!」
「実際、身内の事とは言え、他人事には変わりないしっ?」
「お前ェも道連れにしてやろうか、お゙ぉ゙ん゙??」
「雇い主の照れ隠し方が分かりやす過ぎて草なんですけどっ!」
「にゃにおぅ……っ!!」
「こら、仮にも食事中の奴が途中で席を立つな。何なら、俺手ずから食べさせてやろうか?」
「いえ、色々と間に合ってるんで結構です。お気持ちだけ頂いておきますね」
「ふッ……相変わらず、分かりやすい奴め」
 照れ隠しにモグリとまた一口がっついていたらば、餅の外側に付いている餅粉が口に入り切らなかった餡と一緒に再び口端に付着してしまった。別段何もせずとも、その内自分で舐め取るので放っておいてくれて良かったのだが。どうしても放っておけなかったらしい大包平の手により、「しょうがない奴め」と言わんばかりの愛しげな視線で以て、本日二度目の拭い去る行為が流れるような手付きで行われた。指先で拭われたものの行き先は、勿論大包平の口元であるのもお約束である。
 ぺろり、舌先を覗かせて指先に付いた其れを舐め取った大包平は、満足そうに頷いた。
「うん。主が好むだけに美味いな。やはり買ってきて正解だったようだ」
「おまっ……おんっま…………!」
「うん……? どうした? 食べないのか?」
「そういうのやる時は、せめて周りに誰も居ない時とかにしてくれ……っ! 外野の視線が五月蝿うるさくて敵わんからァッッッ!!」
「す、すまんっ……以後、気を付ける」
「何、俺達の事は気にせず、そのまま続けてくれ」
「そうそうっ! 今の俺達は空気とでも思って、ご存分にどうぞ〜っ!」
「お前等、俺を辱めたいってか!? 軽率に泣くぞ!! 良いのか!?」
「どうどう、少しは落ち着け……っ。俺が悪かったから、そう喚くな。お前があまりに可愛い反応をするからと少し揶揄からかい過ぎた。後でたっぷり包んでやるから、今は其れで機嫌を直せ。なっ?」
「これだから古備前は一度沼るとやべぇんだってばよぉ゙〜〜〜ッッッ!!」
 そう言って、半ば崩れるように畳の上へと身を伏せた倒れ込んだ審神者に、向かい側の席から再び揶揄からかい混じりの発言が降ってきた。
「ふふふっ。精々俺達に可愛がられておくと良い。将来的に大包平の嫁御となるなら、俺達の身内も同然だしな。今の内に慣れておくのが良いだろうさ」
「ちょっと待って!! 勝手に話を進めないで!? まだ其処まで行ってないから!??」
「だが、いずれそう遠くない内にそうなる予定なんだろう?」
「ッッッぐ……! ッ〜〜〜!!!!」
「あはっ、鶯の兄さんがあんまり弄るから、雇い主が真っ赤になっちゃった! かんっわい〜っ! まぁ、鶯の兄さんに続く訳じゃないけど。もし、雇い主が本当に包平の兄さんと結婚したら、俺、雇い主の事“義姉ねえさん”って呼ぶねっ!」
「くッッッ、いっそ殺せぇ゙……!!」
「いや、何で“くっ殺女騎士”みたくなってんの! ウケる〜!」
「ええい! 俺は見世物ちゃうぞ!! 見るな見るに゙ゃ゙あ゙ーっ!!」
「ありゃ、隠れちゃった。包平の兄さんの服も赤いから、お揃いみたいだねっ!」
「み゙ぃ゙ーッッッ!!」
「こら、八丁。もうその辺にしておいてやれ。此奴が本気で機嫌を損ねたら、それこそ俺にとばっちりが来かねんのでな。其れだけは勘弁してくれ」
「はぁーいっ、御免なさぁーい! 雇い主も、御免ねっ?」
 素直に遣り過ぎた事への謝罪を口にすれば、のそり、大包平の背より目元を赤らめた顔を覗かせた審神者は、ボソリ呟く。
「……罰として、今度刀猫とうにゃん男士みたく猫耳の刑に処する。其れを一日受け入れてくれるのなら、許す……」
「へっ? そんだけ?」
「嫌なら別に構わん……俺が暫く不貞腐れて終わるだけよ」
「丸一日猫耳の刑食らうだけで済むんだったら、制裁としては甘いし軽い方なんじゃない? ねっ、兄さん方!」
「まぁ、確かに……制裁としては甘過ぎる程に甘いが。其れで主の溜飲が下がると言うのなら、やぶさかでもないか。なぁ、大包平?」
「大方、本部の広報課に属する奴等の何かしらを見て思い付いたんだろう。猫耳を付ける程度で済む話なら、大人しく受けるさ。其れで主の機嫌が直るのならな」
「言ったな……? 言質取ったからな。絶対古備前の面子に猫化する呪いを掛けてやる……!」
 言質を取れた瞬間、勢い良くその身を起こした審神者は、予想の斜め上を行く発言を口にする。途端、打てば響くように面白い反応を返してくれる大包平が、目を剥いて言葉を返した。
「待て! 何だ、その話は!? さっきと言っている事が違うではないか!!」
「喧しい!! 男に二言は無ェッッッ!! 大人しく腹括って俺の猫になるが良い!! 俺は今、猛烈にお猫様要素を求めているのだ!! 吸わせろ!! 癒しのお猫様を吸わせろ!!!!」
「どうやら、主は連隊戦周回でお疲れのようだな。ノルマを終わらせているのなら、このまま回収してしまうぞ。今がその回収のチャンスだ」
「アイアイサー! 了解でありますっ!」
「お猫様が吸いたいんだ……!! ええいっ、邪魔をしてくれるな!!」
「代わりに五虎退の虎か、南泉一文字か、大包平を吸わせてやるから、好きなのを選ぶと良い」
「んっ!? 今、可笑しなものが混じってなかったか!? 途中までは理解出来たが、明らかに最後変なのが混じってなかったか!?」
「さて、何の事やら」
「鶯丸! お前適当な事を抜かして、この俺を誤魔化せると思うなよ!!」
「其れで? 主はどれを選ぶんだ?」
「人の話を聞かんか!!」
「その三択からなら、ごこちゃんの虎君を選択します。大包平も十分魅力的な選択肢と思ったけれども、今じゃないなと思ったので」
「何ィッ!!? 何故、其処で俺じゃない!! 俺を含んだ選択肢を出されたのなら、迷わず俺を選ぶところだろう!?」
「だから、今、切実に俺が求めてるのはお猫様要素だと言ったろう? ので、今回お前はお呼びじゃない。残念だったな」
「うわ。其処で煽るんだ……雇い主ったらつよつよ〜っ」
「……良いだろう。次、二人きりとなった暁に、今回の仕返しの腹いせを思う存分返してやるから、精々今の内に覚悟しておくんだな!!」
「敢えて今後の行動を宣言しておくスタンスを崩さない包平の兄さん、優しいねっ!」
「えっ……今のって死刑宣告とちゃうのん??」
「まさかの死刑宣告ッッッ」
 結局、最後は鶯丸が盛大に吹き出して瀕死と化し、出陣した訳でもないのに重傷となったので、手入部屋へと担ぎ込む事になるのであった。
 尚、審神者はその後、本当に極めた五虎退の大きな虎の腹に埋もれる形で健やかな眠りに就いた。なんて健全的オチとか言わない。スヤピと眠る彼女の側で見守るように寄り添いながらも、大包平のその顔がちょっぴりいじけ気味だったのは、此処だけの話。


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 やって来た約束当日、クリスマス前日のイブの日。
 陸奥国のとある本丸の審神者は、己の初期刀(極個体)を連れて、時の政府本部施設のあるエリアへと訪れていた。何故、陸奥国サーバーエリア内ではなく、わざわざ本部施設近辺エリアまで足を運んだのかと言うと、友人との約束の待ち合わせ場所に指定した場所が其処だったからである。
 というのも、これから会う約束のある友人は、まだ審神者研修期間中の見習いの身で。現在は審神者養成学校の生徒でもある為、規則上、学校の許可が下りているエリア内までしか外出許可が下りなかったりするのだ。なので、普段は学校施設の一部である寮で、共に学ぶ同級生達と寮生活を送っているという感じである。
 稀に、お盆休みや年末年始休暇等で実家に帰省する事は可能らしいが、基本的には学校からの許可が下りていない区画へと足を運ぶ事は禁じられている。仮に、禁止区画エリアへ移動しようものなら、転送ゲートを突破する前に転送装置側から未登録コードという事で弾かれるので、まず無理なのである。一応、此れは、これから未来を担うであろう大事な審神者候補生達の命を敵性勢力より守るという安全面からは、とても理に適った事なのだ。幾ら時の政府お膝元で管理されている場所とは言え、絶賛歴史を守る為の戦争を行っている最中。何時いつ何処で敵の襲撃に遭うかなど分からないし、“絶対的な安全”など保証出来ないのが現状だ。故の対策なのである。
 そんなこんなで、普段は審神者会議などの本部からの召集を受けない限りはあまり足を運ぶ機会の無いエリアへとやって来た一行は、約束の時刻より少し早めの到着を果たした。まだ待ち合わせ場所に約束の相手の姿も見えないところを見るに、どうやら思ったよりも早めに着いてしまったようである。
「ちょっと早めに着き過ぎちゃったかね?」
「まぁ、主、先輩さんと会うの楽しみ過ぎて出掛ける準備めっちゃ張り切ってたもんね〜。審神者会議の時でもあんなに張り切ったりしないのに。やっぱり、昔からお世話になってるっていう先輩さんは、特別?」
「そりゃね。高一ん時からの付き合いだから、かれこれ十年以上の付き合いになるんか。いやはや、時というものは、あっという間に過ぎていくものよのぉ〜」
「人の子で言うところの十年は、そこそこ長い方じゃん。主が人生辞めたいって思った時の支えになってくれるような、本当に良い人なんだから、縁って大切だよね。主が今もこうして生きて居られるのは、先輩さんの助力あってこその事だし。そういう意味では、俺達本丸一同感謝しなきゃな〜」
「ふふっ。そうさなぁ。世界一可愛い初期刀様と一緒に居続けられるのも、ガチで辛くて死んでやろうと思ってた時に先輩が“死んじゃ駄目だよ”って、この世に繋ぎ止めてくれたお陰も大きいかんね。感謝の念が尽きない事尽きない事……っ。それ以外でも、昨年と今年含め計二回も救急搬送されちまったのもあって、沢山の人の手によって生かされた命だ。そう迂闊にも死ねねぇってな」
「そもそもが、ただでさえ人の子の一生は短いんだから、簡単になげうつような真似はしないで欲しいのが俺達本丸に居る皆からの切実な願いなんだけど」
「うははははっ。すまんが、其ればっかしは約束してやれねぇなぁ。俺は、元より自殺志願者且つ自殺念慮の強い人間だ。審神者になる前から抱いてる根強い感情なモンで、そう易々消せたりなんぞ出来ひんちや。出来たら、此処まで苦労しとらんしにゃあ」
「まぁ〜た、そういう事平気な顔して宣うんだから、その都度諌めるコッチの身にもなれってのーっ」
 審神者の彼女が、またぞろ碌でもない事を言い始めたので、分かりやすく不満を訴えた初期刀(極個体)は、お軽くも仕置きとばかりに、ぶにゅりと審神者の口元を両頬から挟んで不細工な顔付きへと変えた。途端、彼女は自身の顔を潰す勢いで鷲掴む彼の手を掴んでモニョモニョと不明瞭な発音で愚痴垂れた。
「んぶっ! ちょっ……清光ひよみふ折角しぇっかく化粧けひょうが剥げるとぅまではいかんくへも、歪むかりゃはにゃひて……」
「やだ。軽々しくも軽率にそういう事言わないって、今だけでも約束出来たら離してあげる」
「むぅ……っ。御主おにゅし、極めへかりゃ強かににゃりおったにょ……」
「当ったり前でしょ。この主にこの俺でなきゃ、守れないって話だろ。分かったなら、返事は……?」
「あぃ……しゅいまへんでひた……。以後、気を付けましゅ……っ」
「よしっ。言ったな? 言質取ったかんな。次、同じような口利いたら、アヒル口の刑に処す程度じゃ済まないから、そのつもりで居るように」
「俺の初期刀様がしっかりし過ぎててマジビビる……っ」
 言質が取れたと見るや、パッと手を離した清光。解放されるなり、掴まれていた顎先もとい潰されていた両頬をもにもにと揉んで形を整える。尚、お洒落へと人一倍気合いを込めるお洒落さんな清光相手だったので、化粧が崩れない程度に力加減されていたのがミソだ。
 ちなみに、この審神者、普段は出不精&面倒臭がりを発揮して最低限の手入れしか行わない、ノーメイクなスッピンスタイルが常である。その為、この日の為にと気合いを入れて化粧を施しメイクアップさせたのは、誰であろうこの初期刀たる清光なのだ。ちょっとのお出掛けにだって気を抜かない、出来る男なのである。
 お陰様で、上辺だけでも少しマシな顔付きに見えるというもの。ノーメイクのスッピンのままであったなら、痩けた頬に染み付いた目の下の隈に加えて血色の悪い白けた顔面で顔を会わせる事になっていただろう。そういう意味では、ちょっぴり感謝している審神者であった。流石に、何も取り繕っていない顔付きで顔を会わせては、相手に心配されてしまう事間違いなしなレベルには、己の顔面が今病弱な其れな状態であるのをよくよく認識していた。
 念の為、友人等が来るまでの僅かな時間の内に、化粧が歪んだり剥げたりしていないかの最終チェックを行う。
「ねぇ、さっきので化粧取れちゃったりしてない? 大丈夫?」
「安心しな。そこら辺はばっちし力加減してやったから。俺を誰だと思ってんの?」
「頼り甲斐しかねぇ、出来る男な世界一可愛い俺の初期刀様でっす……! 可愛いだけじゃない、格好良い要素も兼ね備え持つお洒落番長! そんなところが素敵!! 痺れる!! 憧れるぅ!!」
「ふふんっ。まぁ、主の一番は、どう足掻いても初期刀様ことこの俺だから? ソッチの意味での特別枠は絶対誰にも譲ってなんかやらないんで〜」
「フゥ! イケてるぞ、清光ぅーっ! キャアーッ、こっち向いてファンサくれー!」
 そんなこんなと戯れていると、約束の時間近くなっていたのか、約束の相手がやって来たようで。ガヤガヤと人の多い喧騒の中でも些か目立つ程賑やかに戯れる二人の元へ駆け足気味で近寄り、声をかけてきた。
「ごめぇ〜ん! 待った? 外出許可取んのに手間取っちゃってさぁ。待たせちゃってたら御免な〜!」
「あっ、先輩……! ご無沙汰してまっす! 相変わらずお元気そうで何よりッス!!」
「本当久し振り〜。最後に直接顔会わせたのって、去年の夏頃だっけ?」
「うすうす。記憶違いでなければ、最後に会ったのは、去年の晩夏から初秋にかけての頃ッスかね。先輩のお盆帰省に合わせてご実家の方にお泊まりさせて頂いた、あん時の機会がたぶん最後だったかと。でも、ずっと文通やらSNSの方でちょくちょく連絡は取り合ってたんで、何かそんなに久し振りな感じもあんましないってのが俺個人からの感想ッスかね」
「そう? 私の方は、やっぱ直接顔会わすのとそうじゃないとじゃ感覚違ってくるな〜って思うけど。でも、まぁ、思ったよりも元気そうでちょっと安心した」
 そう言ってニコリと笑顔を見せた女性こそ、今回審神者と会う約束を交わしていた、審神者見習いの友人その人であった。彼女よりも少し背の高い、全体的にマニッシュで中性寄りの印象を受ける、クールで格好良いタイプの女性だ。
 審神者歴だけで言えば、彼女の方が正式な審神者として就任してそれなりに長い古参勢でもある為、まだまだ見習いの域を出ないヒヨッコな立場故に、本来ならば“先輩”と呼ばれるのは彼女の方なのだが……。如何せん、まだ現世で普通に学生生活を送っていた高一の頃に出会った一学年上の先輩である故に、未だに呼び名が“先輩”で固定されているのだ。染み付いた呼び方を今更変える気にもなれないとの事もあって現状維持なのである。
「よっ。ソッチも元気にしてた?」
「元気してたよー。もう毎日主に振り回されっ放し! 鯰尾君鯰尾君ってさ! 偶には俺の事にも構ってくれたって良いと思うんだけどなぁ」
「まぁ、恋人っていう特別枠出来ちゃうと、しょうがないかなぁ〜。ウチも似たようなモンだし」
「確か、ソッチの審神者さんも恋刀居るんだっけ。主からだけど又聞きしてる。さっき離れた処からでも滅茶苦茶親しそうな、其れこそ恋仲って言われても可笑しくないくらいの空気漂ってた風に見えたけど……あんたじゃないんだね?」
「俺は、飽く迄も主の初期刀という枠組みであって、恋人枠じゃないから。主の恋刀は別に居る。相手は、本丸に所属してる刀という意味では気心知れた仲間だから、主の事安心して任せられるくらいには信頼も厚いよ。まっ、其れでも主の事泣かそうモンなら初期刀として黙っちゃいないけどね〜。仮に俺が出なくても、他の奴等が黙ってないから、その辺の心配はしてないかな? 変な男に引っ掛かるよりかは、気心知れた仲間の内の一振りとかのがまだマシだし。此れが他所の本丸の奴とか、政府所属個体とかの話だったら、今頃拗れるわ揉めるわで大わらわよ」
「へぇ〜……何か意外。主独占されて、もっと余裕無くなるモンだと思ってた。……やっぱ、極修行に出た奴は違うよなぁ〜。ちょっとムカつくくらい格好良い事言っちゃってさ」
「修行に出るまでは俺も大体そんな感じだったよ。でも、自分を見つめ直す時間と、主に合わせて研ぎ直す時間を貰って、今の自分を確立させたって訳。そう焦んなくても、いずれあんたにもその時は来るから……そしたら、それまでを後悔させるくらいに見返してやりな。“主の初期刀は俺でしょ”ってさ?」
「うわ……カッケェ〜。同位体なのに極の姿ってだけでこうも違ってくるモンなんだね? やっぱ極めた奴等ってどっか一味違うよなー。何と言うか……ちょっと眩しい感じ? がするかも。飽く迄も俺個刃の意見だけど」
「まぁ、事実、俺極めてだいぶ経つし。主の初期刀という特別枠の座は俺だけのものだから? 自信だって満ち溢れて来ちゃうよね〜。定期的に主から“世界一可愛い俺の清光”って言って可愛がってもらってるしね。其処だけは絶対誰にも譲ってなんかやらないぜ?」
「うわっ。マウント取ってくるとか巫山戯ふざけんなよ、マジで……! 羨ましいとか、ちっとも思ってないからなぁ!!」
 同じく初期刀という者同士、且つ同位体という事も相俟ってか、演練などで会う者達よりかは幾分砕けた雰囲気でお互い挨拶を交わす二振り。
 しかし、挨拶ついでに近況報告をしている内に、極個体の方の清光がマウント発言をして相手を煽る行為に出た。其れに、血の気の多さで言えば、新選組刀の中でも一・二を争う加州清光という刀は、売られた喧嘩は買う気で、うっかり立場も忘れて噛み付いてしまった。
 此れを見兼ねた審神者は、友人との挨拶もそぞろに、程々なところで仲裁の言葉をかけてやる。
「これ、清光や。同位体で気安いからって、先輩んとこの初期刀君をあまり虐めてやるでないぞ。可哀想だろう?」
「ちょっと発破掛けてやっただけだから、イジメには入ってませ〜んっ」
「ほぉ。そんな舐めた口を利くのは、どのお口かな? 俺の初期刀様なら、他所様の前に出てる時の振る舞い方はどうするのが正解か、忘れた訳ではあるまいな……?」
「出過ぎた真似をしました、御免なさいっ!」
「分かってんなら良し。素直に謝れる事は美点よ。良い子だね。けど、次やったら、御前と一緒に畑当番の刑に処すから、そのつもりで」
「げぇッ! あのクソ爺と内番組まされるとか、絶対サボられて仕事ほっぽり出されるの目に見えてるだけに超が付く程嫌なんだけど……! 爪紅剥げるのも嫌だし!」
「なら、大人しく良い子にしてるこったな。お前は聞き分けの良い子だから、ちゃんと俺の言う事聞くよね?」
「此れが歴戦の猛者たるゴリラ審神者やってる者の風格か……。強いなぁ〜」
「あいやぁっ、先輩の前でお見苦しいところをお見せしてしまうとはお恥ずかしい! どうか御免遊ばせ……!」
「怖ッ……あんたんところの審神者さん、控えめに言っても圧やば過ぎて怖いんだけど」
「此れがウチの主です。ちな、此れでもまだ人前且つ他所行きモードだから抑え気味な方よ? 此れが本丸での通常運転全開モードだったら、まだ圧凄いし、何ならドスも利いてて、さながらチンピラみたいな有り様だから」
「……とか何とか言われてるけど、良いのか?」
「全て事実です故、一切否定致しませんわ!」
 胸を張る場面を確実に間違っている審神者である。が、この何とも言えない感じで凸凹コンビを組みつつも数多の死線を乗り越えてきた戦友且つ相棒なのは本当の事であった。
 そんな二人の関係性が、この業界に入って日の浅い審神者のたまごとその初期刀たる未熟な二人からすれば、些か目映く思えたのは此処だけの話。

 話は打って変わって、今回わざわざ約束を取り付けてまで会う事にした本題へと切り込んでいく。
「一応の確認だけど……今回の目的は、お互い恋刀へとこっそり気付かれないようにクリスマスプレゼントを用意する――って目的で合ってる?」
「うっす。その為に、色々気張って来やしたから……!」
「私は何贈ろうかな〜ってのは大体決めてるけど、後輩ちゃんは? 何にするか決まってんの?」
「……一応、例の正装発表を受けまして……あのジャケットとシャツの色味を邪魔しない程度に主張出来そうな物を探して、ネクタイピン辺りを贈ろうかと……。正装実装したら即仕立てる気満々なので、着る機会の出来た時にでも使ってもらえたらなって」
「えっ、思ったよりも控えめで驚いた! もっと大胆に出てみても良いのでは? ちなみに、私の方は、モッチのロンで鯰尾君専用に、例の正装にも合う色味とデザインの髪紐とネクタイを贈る予定。私は鯰尾君一筋なので。後輩ちゃんもネクタイその物も一緒にセットで贈れば良いのに。……もしや、奥手タイプか?」
「ネクタイを贈るのって、イコール“貴方に首ったけです”って意味になるから、直球過ぎやしねぇかと思いやして……っ」
「好きな相手には、とことん素直になろう。変に控えめな物贈って後悔するよかは、しっかりガッツリ相手の心を鷲掴む勢いの物を贈って後悔した方が良いだろ?」
「仰る通りで御座います……! 流石は人生の先輩! そんな先輩の格好良いところが素敵! 痺れる! 憧れるぅ〜っ!!」
「有難う。まぁ、改めて言う必要も無いとは思うけど、恋刀相手にはちょっぴり奥手で自信無くなっちゃう後輩ちゃんへ、私からの激励の言葉を贈るよ……。大丈夫。私の後輩ちゃんは可愛い。私が保証する。安心して。後輩ちゃんが本気で真剣に恋する程惚れた好い男なら、屹度きっと真正面から受け止めてくれるって信じてるから。実際、首ったけなのはリアルな話なんでしょ?」
「ぴぃっっっ……! 顔が燃える勢いで物凄くあちゅい……!!」
「照れるって事は、今言った通りな訳だ。こんな可愛い後輩ちゃんに、こんな乙女な反応させるとか狡いな〜っ。其奴のツラ、一度で良いから拝んでみたい。んで、もし後輩ちゃんの事泣かせようモンなら、私から一発お見舞いしてやるわ」
「嘘でしょ。ソッチの審神者さんのモンペ増えたんじゃない??」
「薄々そんな気はしてたから今更動じはしないかな〜」
 大通りに面した万屋街道をゆったりとした歩みで進みつつ、一行は各恋刀への贈り物を買う為に審神者御用達の大型ショッピングモールへと入って行った。向かう先は、目的の品物を取り扱っている専門店である。
 目的の店は、絶賛正装発表時から大盛況なのか、程々の客入りの多さで、些か会計処レジが混み合っている様子だった。どうやら、皆考える事は同じらしい。聖なる夜というクリスマス本番を目前に、誰も彼もが浮足立っているのだ。花の乙女の端くれたる二人とて、其れは同じなのだ。
 一先ず、目的の商品を探す事を前提とし、会計云々問題は後々考える事にした。
「流石のクリスマス前日とは言え、イブだから中々に混んでるな……。人多いけど、大丈夫そ?」
「先輩も一緒ですし、清光も付いて来てるんで、いざとなったら清光におぶってもらうんで大丈夫ッス」
「てか、一つ思ってたけど……此処まで何気無く普通に歩いて来ちゃったけど、体調の方何ともない? しんどくなったりしたら、すぐに言いな? どっか座れる処探して移動するから」
「すんません……っ、俺が貧弱いあまりに変に気ィ遣わせてしまって」
「其れは言わない約束だろ? 後輩ちゃんの事理解した上で付き合ってる仲なんだから、今更変な遠慮しない」
「うっす……アザッス」
 うっかり悪癖が出て自虐的に己を卑下する発言をした審神者の事をたしなめるついでに、“今更遠慮するな”と言える男気の清々しいまでの潔さよ。思わず感心してしまった清光は、ポロリ、口を衝いたように言葉を吐き出した。
「本当、先輩さんて良い人だよね〜。主が心から信頼するのも頷けるわ」
「ったりめぇーだろ、お前ェ! 俺の先輩ぞ? 見よ、この美しきご尊顔を! そんでもって、この素晴らしきスパダリ力ぞ! こんなに美人で頼り甲斐もあって格好良いとか惚れねぇ訳がねぇだろう……! 男なら更々放っておかねぇに決まっておるわ!! 何なら、俺が性別男だったらうの昔に口説いておるわいッ!!」
 唐突に火を吹く、推しへの愛の言葉が理不尽にも双方へと襲う。此れに、褒められた本人は少しばかり顔を赤らめた様子でボソリと呟いた。
「褒められるのは嬉しいけど……其処まで褒めちぎらなくても良いって……っ。照れるから」
「えっ!? 主が照れてる……!? 珍しい!! いつもはキリッと澄ましてばっかなのに……っ!」
「おん? お前ェさん、今のは勿論褒め言葉なんじゃろうなぁ? ディスりだったらタダじゃおかんからのぉ。例え、先輩の初期刀様相手かて、先輩を傷付けるような事抜かしたら……分かってんよな? 俺が代わりに制裁という名の喝とヤキ入れたるさかい、覚えときや」
「わぁ……コッチもコッチでモンペだったわ……。取り敢えず、ソッチの俺、早々に弁解しといた方が良いよ? 主の目がガチだから」
「何かよく分かんないけど、誤解だから勘弁して……!! 普通に怖いからっ!! 何なの!? 幾千錬磨のゴリラ審神者って、皆あんたのところみたいに物騒な訳!?? 時間遡行軍相手にした訳でもないのに目ェバッキバキじゃん!! 瞳孔もかっぴらいてるし、急に口調変わって関西弁でオラつき始めるし、おっかない通り越して最早恐怖でしかないんだけどッ!? 頼むから、初期刀なら自分の主に対してもっとセーブ効かせるとか何かしとけよ……っ!!」
「あ〜るじっ。うぶの方の同位体が怯えちゃってるから、一旦殺気仕舞おう? ねっ? 主が先輩さんの事凄く大事に思ってる事は、ちゃんと向こうにも伝わってるから。一旦ステイしよ」
「うぃっす。すまなんだや、先輩の初期刀君や。つい素の一面がうっかり顔を出しかけちまいやして、驚かせてしもうたの。堪忍やで」
 一度懐へと許した身内も同然扱いの友人へ対して不当な扱いをしたものと認定した“推し過激派且つ強火派”な一面を持つ審神者は、一瞬他所行き用に取り繕っていたツラの皮を剥がして素の顔をチラつかせた。其れも、おのが初期刀に諌められるなり、けろっとした調子で返してくるものだから、挙動不審となった初期刀(初個体)は、友人の背に隠れるようにして呟く。
「俺……もうこの人に迂闊な口利かない事にする……“その手の人か?”ってくらいガチで怖いじゃん…………っ」
「か、加州君……っ」
「あ゙ー……まぁ、こう言うたらアレやが……先達者として一つ教えとくとやな。本格的に審神者業始める事になったら、その筋の人と思しき見た目の刀も来るかもしれんので、それまでにその手の刀迎える為の覚悟だけはしておく事をお勧めする――って事について、先んじて伝えとくね」
「えっ……控えめに言っても無理なんだけど…………。つか、其れって“心構えしとけ”という名の脅しだし、トドメ刺しに来てるから……。もうやだ、このゴリラ審神者。怖い…………ッ」
「大丈夫。その時が来たら、私が付いてるから! 加州君一人に任せたりしないって!」
「俺、今日だけでも何か色々と自信無くなってきた……」
「加州君、しっかり……! 私の刀だろ!!」
「あ〜あっ。向こうの同位体自信失くしちゃったじゃん。俺にさっき“あんまり虐めてやるな”って言ったのは、何処のどの口だったっけ〜?」
「すいましぇん……このお口です……」
「ハイ。御用改め入りまーす。力加減してやっから、でこ出しな」
「あ゙ぃ゙……」
 直後、凄まじい音と共に額を弾かれた審神者は、勢いを殺し切れずに後ろへと仰け反った。しかし、此処で万が一体勢を崩してもフォロー出来るように腰元を支えるという事を忘れないのが、極個体の初期刀である。
 軽くデコピンされたにしては手痛い仕打ちを受けた有り様で、仰け反っていた上半身を起こした時には、額から<フシュウゥ〜……ッ>と煙が上がっていた。ただのデコピン一つでなったものとは思えない威力である。尚、此れは、極個体であるからこそ成せる技であり、此れでも一応の手加減はされているレベルなのだ。本気でデコピンされた暁には、その破壊力に耐え切れず、審神者の頭は木っ端微塵に砕け散る事だろう。何処のグロ画像であろうか。そんなものは誰も求めていないし、ジャンル違いだと分かっているので、清光も最低限の力しか込めずのデコピンであった。其れでも、この威力。皆様、お分かり頂けただろうか……?
「今、物凄い勢いで頭吹っ飛んでったように見えたけど、大丈夫?? 頭まだちゃんと付いてるよな??」
「これしきの事で、俺は倒れたりはしませんよ……っ。大抵の事は、“死ななきゃ安い”でどうにかなりますし。つって、めちゃクソ痛ェのは我慢出来ひんけども」
「いや冗談抜きで涙目なってんじゃん。やば……。つか、ソッチの審神者さん、えげつない程の社畜根性持ってるみたいだけど……え、何、マジでリアルな感じで社畜上がり勢だったりする?? あんた等、二人揃ってやばくない??」
「本丸運営してたら、こんなん日常茶飯事になるから。慣れよ、慣れ」
「絶対お手本にしないでおくわ。だって、あまりにバイオレンス過ぎるんだもん……軽く引くわ」
「其処で“軽く”って言っちゃう時点で、もうこの業界に染まりつつあるって自覚しな。初期刀なんて、審神者のストッパー役も兼ねてるから、何処も大体似たようなモンだって」
「だとしても、ウチは絶対あんた等のところみたくバイオレンスな本丸にはならないから……!! 俺がさせないからっ!!」
「すまん。ウチの奴等の血の気の多さは、顕現させた俺の影響が多大にあるんですわ。戦闘狂の気があんのも同じくな」
「もうやだ!! 此奴等……ッ!! 主の友人じゃなかったら絶対関わりたくないタイプの奴等だよ!!」
「ありゃりゃ。振られちゃった」
「……取り敢えず、プレゼント選ぼっか」
 最終的に「わあっ!」と喚いて涙目となった加州(初個体)。盛大に本来の目的を忘れて脱線事故を起こしていたのを察した友人は、そっと促して、本来の目的である恋刀へのプレゼント選びを始めるのだった。
 その後、一行はちゃんと目的を果たしたのちに、ショッピングモール内の喫茶店でちょっとだけお茶をしてから、今回のお茶会兼プレゼント選びはお開きとなり、それぞれの帰路へと着いた。


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 そして、来たる日のクリスマス当日の事。
 審神者は内心ドギマギしながら、くだんの刀を呼び出した。勿論、恋仲である二人きり水入らずで過ごせるようにと、初期刀及び初鍛刀や古備前組の者達の計らいで人払いもバッチリな空間が出来上がっていた。
 其処へ、改まった様子で呼ばれた大包平は、普段通りを装った態度で入室の許可を問う。
「大包平、只今召喚に応じ参上つかまつった。入っても良いだろうか?」
「どうぞ」
「では、失礼する」
 人払いのされた離れの間は、常と異なり静まり返っていた。そんな部屋の中央に、審神者は静々と座して待っていた。
「わざわざ、人払いしてまで呼び付けてしまってすまなんだや」
「いや……その事自体は、別にどうとも気にする事はないが。改まっての声かけであったのでな。何かあったのかと些か気になりはした」
「はははっ。大包平は優しい奴だなぁ。安心せい。お前が心配するような事は何一つありはせん故な。人払いについては……まぁ、お節介焼き共が勝手にした事で、俺自らが頼んだ訳ではない事を先んじて言っておくぞ」
「そうか……。なら、一先ずは安心する事にしよう。……其れで? 俺を呼び出した用件とは何だ?」
「此れを、お前に渡したくて、わざわざ呼び出したのさね」
 言うなり、スッ……と、目の前へ差し出すように包み紙に包まれた細長い箱に重ね置くようにして添えられた小さな小箱。突然の計らいに、審神者の意図を汲めなかった大包平は、動揺した様子で彼女を見返した。
「はっ……? え、なんっ……どうしたんだ、此れは??」
「ふふふっ……驚いたか?」
「そりゃ、突然理由も無く貢ぎ物を贈るみたいに贈り物をされれば、誰だって驚くぐらいするだろう……っ」
「いやぁ〜っ、お前の驚く顔が見たくて密かに用意したんだ。まぁ、王道中も王道、且つベタなところもベタを行くが……クリスマスプレゼントって事で受け取ってくれ。ちなみに、此れは恋刀の特権という事で、お前にだけ特別に用意した物だから、他の子達には内密に頼む」
 片目を瞑って上目遣い気味に御免ねポーズを決めた上で、一言断りを挟んでおく。一部の連中に知れたら、「狡い! 自分にも主からのプレゼント欲しい!!」と強請ねだる刀が続出しかねない。故の口封じであった。
 しかし、意図せず、あざといお願いまでされた上での贈り物をされた本刃は、内心其れどころではなかった。
 あからさまに表情を取り繕おうとして、結果的出来ずに堪え切れずといった調子で口元を覆い隠した大包平は、予想の斜め上を行く反応を見せた。感情的には嬉しいのだろう事は、誉桜がぶわっぶわと舞っている時点で察せる。けれども、無言で打ち震えるだけで何も言葉を発さない事に焦れた審神者は、「おーい……っ、生きてるかー?」と軽率に彼の目の前へと手を翳してヒラヒラと振った。
 直後、ガシリッ、とその手首を思い切り力強く掴まれ、「えっ?」となった。次の瞬間、審神者は大包平の腕の中に居た。其れも、目一杯力の込もった盛大なるハグである。極修行を終えて暫く経つ太刀の彼に、そのような力加減で抱き締められてしまえば、肉の内に詰まった内臓がギュッと押し潰される事は容易に想像が出来た。
 思わず、審神者の口から意図せぬ声が、「ぐえッッッ」と漏れる。色気の欠片も無いとか、この際言ってられない。流石に一抹の危機感を抱いた審神者は、何とか身を捩って回した腕でバシバシと背を叩いて、呼吸が苦しい事を訴えた。若干、命の危機が迫っている事もあったので、その手に力加減をする余裕も遠慮も無かったのは大目に見て欲しい。
 程無くして、無言で解放された審神者は、ホッと安堵しつつ、今しがた一瞬でも力加減を忘れる程に己を抱き締めた刀の顔を覗き込む。
 見遣れば、彼は、実に嬉しそうに蕩けた眼をして、此方に視線を注いでいた。
「此れ等は……お前が、俺の為を想ってくれた物なのだろう?」
「そう、だけど…………な、何だよぅっ……何か言いてぇ事があるならはっきり言いやがれやい!」
「愛している」
「――は……??」
「愛する者からの施しを受けて、喜ばん男が居ると思うのか? 俺へと献上された贈り物は、生涯大事にすると誓おう」
「いや、まだ中身すら開けてないが!? フライングも良いところだぞ、リアクション……!!」
「すまん……嬉しさ余ってついな。改めて、開けてみても良いか?」
「ど、どうぞ……っ」
 改まってそう問われると、途端に照れが顔を覗かせてぎこちなくなる。しかし、其れを理解している大包平は、恋人限定にしか見せない蕩けた甘い顔付きで以て受け入れた。
 丁寧にも慎重な手付きで包装を解けば、中から出て来たのは、前日の昨日友人と一緒になって購入した、恋刀の纏う色味に合わせた暗めのワインレッドカラーの色合いをしたネクタイと、其れを結んだ際に留める為のネクタイピンだった。ネクタイピンに至っては、彼の刀紋を象徴とする蝶を模したデザインの物である。完全に大包平仕様な代物に、此れを贈られた本刃は大層ご満悦な様子で恋人たる審神者を腕の中へと囲った。
「まさか、お前からこのような贈り物を受けるとはな……。完敗だ。実に良いセンスをしている」
「お、おぉ……あ、有難う御座ェます……??」
「何処からどう見ても俺宛てと分かる品物で、これ以上に無い喜びに打ち震えているぞ。そういえば、昨日の昼過ぎに人と会う約束があると告げて、加州を伴に連れて何処かへと出掛けていたが……もしや、此れはその時に買った物か?」
「すんごい観察眼。ご明察ですわよ。……お察しの通り、昨日某先輩と一緒に選んできた物になります。お互い恋仲の相手が居て、折角せっかくだからクリスマスという季節の行事イベントに乗っかって、日頃の感謝を伝えるついでに大好きだよ〜って気持ちを改めて伝えよう……という話になって。其れで、プレゼント贈る事にしたって訳さね。……思い付き当初は、ネクタイピンだけ贈る予定だったんだけど、其れだけだとあまりに味気無いかなって事になって……結果的にネクタイ本体とセットで贈る事にした次第です」
「成程な。ちなみに、ネクタイなどを贈る際に添えられる意味の事は、知っているのか……?」
「その手のネタに事欠かない人間が知らないでか……っ」
「つまりは、知っている上で敢えて贈ってきた、と捉えて良いんだな?」
「あーもうっ、そうだよ! どうせ俺はもうだいぶ前というずっと前からお前一筋の首ったけ状態ですよぅっ!! 此れで満足か!?」
「ふふっ……嗚呼、これ以上に無い程に満足だ」
 羞恥が振り切れて、とうとう自棄っぱちを起こして半ば喚き立てるように告白すれば、返事として返ってきた答えは、何とも甘く蕩けた熱の込もったものだった。此れに、一瞬にして言葉を失った審神者は、分かりやすく視線を明後日な方向へと逸らしつつも、もうこの際だからと諸々ぶちまける事にしたのか、モニョモニョとその場を取り繕うように呟き始める。
「えっと……一応述べておくと……其れ、年明けに実装するであろう正装に先駆けて前準備的に用意した物ですんで……」
「些か気が早い気もしなくもないが……そうか。そんなにも俺の正装姿が楽しみで仕方がないか?」
「そりゃあ……っ、推しの特別仕様な正装姿となる訳ですから……? 楽しみで仕方ないのもしょうがないって話ですよねっ」
「ふふっ。其れは其れは……光栄極まりない事だな。ならば、来たる日が来た暁には、恋人たるお前自ら結んでもらう事にしようか」
「えっ……俺、ネクタイとか結ぶ機会無かった人間やから、結べへんのやけど…………っ」
「何、俺が手取り足取り教えてやるから、安心するが良い」
「ひぇッッッ!? そ、そこら辺でどうか勘弁してやってくだせぇ……!! 控えめに言っても、俺の心臓が保たんて……っ!!」
「今日くらいは柄にもなく浮かれる事を許せ。其れだけ、今回お前から物を贈られたという事が嬉しかったんだ。もう暫しの間だけ、この喜びの余韻に浸らせてくれ……」
「余韻に浸るだけなら、俺側に居なくとも良くない?? ねぇ」
「何を言う。愛する者が居てこそ初めて成り立つ事だろうが。少しは耐性を付けるという意味でも、睦事に慣れる努力をしろ」
「あぇぁ……ッ、もう色々と無理ぽ…………!」
「相変わらずい奴め」
 早くも語彙力を溶かして限界を訴える彼女へ追い打ちを掛けるが如く、大包平はおのが腕の中に囲った審神者の米神こめかみへと口付けを贈るのだった。途端、審神者の脳味噌はスパークして、思考なぞ遥か彼方の宇宙の空へと旅立ち、審神者のヲタク精神こと魂は清々しくも天に召されるのであった。勿論、うっかり本当に魂が抜け出る前に大包平の手により回収済みであるが。


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 ――後日、正装実装まで少し早いが、戦装束のジャケットを脱いだワイシャツ姿の首元に、微妙に歪んだ形のネクタイを結わえた大包平と記念に撮ったツーショット写真を、友人と個人で遣り取りするSNSのメッセージ上に送り付ければ。即既読が付き、“GJグッジョブ”との意味のスタンプが返ってきた。次いで、友人の方も同様にサプライズプレゼントが成功したのだろう。日を同じくして、クリスマスに贈ったとされる品物を括り付けられた鯰尾藤四郎(本体)と自撮り形式で写り込む友人の写真がメッセージと共に送られてきた。
 友人の所持する鯰尾藤四郎は、特例措置によって所持を許されているが、顕現については一部例外を除いて基本的に禁じられている。なので、顕現は解いたままの本体姿のまま着飾られた模様である。其れでも、当人達は満足そうな様子であったので、傍から見て明らか完全にお笑いそのものな光景であったが、敢えて突っ込まないでおく事にした。
 オマケと称して、某鯰尾藤四郎が、恋人からの贈り物で飾り付けされるまでの一部始終の流れがショート動画として添付されていた。其れを見てみると、光沢のある赤色の髪紐は刀の顔の位置となるであろう柄の辺りへ可愛くリボン結びで結び付けられ、黒色のネクタイは下げ緒飾りのように鞘へ定番なネクタイ結びで以て括り付けられていく。何ともシュールでしかない絵面だったが、当人達がとても和気藹々と楽しそう且つ幸せそうにしている雰囲気が、短い動画の中での会話内容からも見て取れたので。審神者からの返事も、サプライズ大成功の旨と併せて、この度企画した『ドッキリ! クリスマスサプライズ☆』へ協力してくれた事についての感謝を綴ったメッセージをお返しするのであった。


執筆日:2024.12.25
加筆修正日:2024.12.28
公開日:2024.12.28

【後書き】
支部開催の小説企画『pixiv小説子どもチャリティー企画〜ブックサンタ2024〜』へ投稿出来るよう合わせて書いたお話になります。
今回のテーマは『クリスマス』です。
参加タグは『ブックサンタ2024』となっております。
実は、昨年も参加した事のある所謂チャリティー企画。折角せっかくだったので、企画開催発表を知った時から抱いていた「今年も参加したいな」という気持ちの強さに従う形で執筆した次第です。
ちなみに、当該企画は、投稿された作品数×500円をピクシブ株式会社からNPO法人チャリティーサンタへ寄付する企画となっております。寄付されたお金は、ブックサンタの運営や実際に子供達へ贈る本の購入費として使われるとの事です。己の作品が未来ある子供達の一助となれるのなら、こんなに喜ばしい事はありませんね。
尚、ブックサンタとは、「厳しい状況に置かれている日本の子供達に本を届ける事」を目的に2017年スタートした、NPO法人チャリティーサンタが主催し、全国のNPOと書店が連携したプロジェクトで。パートナー書店で子供達に贈りたい本を購入、レジでその本を寄付すると、日本全国の子どもたちに「サンタクロースから本が届く」というチャリティープログラムです。書店に足を運ぶのが難しい方の為に、専用オンライン書店とクラウドファンディングでも寄付が可能なんだそうで。ご興味のある方は、是非とも検索してみてください。
話は後書き本題へと移り変わりまして……。
表題タイトル『待たせたな、俺達(審神者という名のヲタク共)の死が来たぞ。』……とか何とか、俺の脳内に住まうイマジナリーちょぎ君が言ってるけど、当作品の作中に彼の出番は一切御座いません(笑)。代わりに、長船の系譜たる古備前派の美の結晶且つ刀剣の横綱がご登場。その他、友人モデルの他所本丸の女審神者さん(見習い)と、その手持ちの鯰尾藤四郎や初期刀も友情出演致しました。
途中、書きたい事を色々詰め込んでいたら、本軸から脱線事故を起こしたりなど御座いましたが、概ね書きたい事は書けたのではないかと思います。脱線事故というか、あれもこれもと詰め込む内に、本当に書きたいシーンまでの導入部分がとてつもなく長くなってしまうのは、最早毎度の事ながらの悪癖ですな!
尚、作中に出て来た怪異ネタは、連載途中の書き途中で放置している“たぬさに×とうらぶホラー”ネタな同田貫中編『微睡みの夢籠』にも一部関わってくるお話だったりするので。後日、余裕のある際にまた何処かで続きに手を付けられたらなと考えております。もし無事完成させる事が出来ましたら、某小説頁へと掲載する予定ですので、気長にお待ち頂ければ幸いです。
また、今回、作中にて思わぬ登場を果たした怪異ネタにつきましても、後日改めて一本のお話として纏められたらな〜と思っております。考えるだけならタダ、思うだけならタダです(笑)。
ぶっちゃけ、支部小説投稿企画のクリスマスネタに間に合わせる為、ギリギリ何とか滑り込みで仕上げた作品故に、各所至らぬ点がある事は否めませんが、お気に召して頂ければ幸いなり。
年の瀬も迫りつつある今年一年、辰年だけに元旦初日からまことに荒ぶる一年で、“一難去ってはまた一難”という難の尽きない年ではありましたが、皆様に幸多からん事を祈って。良い聖なる夜をお過ごしください。Merry Christmas☆
(※言い訳:中々時間取れなくて此方に上げるのが遅くなってしまいましたが、この際もう気にしない方向でシフトチェンジして行きます……!)
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださったpixiv様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。