Cry for the moon




『…ところで、今の姿はファルロスだけど…流れからいくと、察するに、綾時くんの姿にもなれちゃう感じなのかな…?』

「うん、そうだけど…どうかした?」

『いや、ちょっと気になっただけで…。そうなると当然、綾時くんの時の記憶も保持してるのかなって…。』

「もちろんだよ。もしかして、この姿気に入らなかったかな…?」



少ししょんぼりと落ち込んだ表情で問うてきたファルロス。


控えめに上目遣いで訊いてきた。



『ふぇ…っ!?そっ、そんな事ないよ!?むしろ、可愛過ぎてGJだよ!!』

「そ、そうなの…?それなら良かったぁ…。一瞬、嫌われちゃったのかと思ったよ。」



肩を竦めて笑う彼。


謙虚な彼はそう言うが…元々、夢衣はP3のキャラを見た時から、ファルロスもとい綾時が大好きだったのだ。


そんな彼が、今自分の目の前で笑っている…。


あまりの感激ぶりに感極まり、思わず彼を抱き締めてしまった彼女。


当然の事ながら、ファルロスこと綾時は彼女の唐突な行動に驚いた。


「ぅわあ…っ!?ど、どうしたの夢衣ちゃん…?」

『ごめん…っ!!だけど許してね!どうも、今あるこの衝動は抑えられそうにないので…!』



彼の胸に、思いっきり抱き付いている夢衣。


その顔はにへらとしていて、口許がゆるゆるに緩みきり、情けない顔になっている。


抱き付かれてしまった彼はというと、勢いで倒れないように彼女の身体を支え、目をぱちくり瞬かせていた。


だが、満更ではないのか、嬉しそうに微笑んでいた。


ガタンゴトンッ、と走っていた列車がトンネルを抜けた。


それまで薄暗かった車内が急に明るくなり、外からの光が窓から射し込む。


薄闇に慣れていた視界が眩み、眩しさに目を細めた夢衣。


明るみを帯びた事により、抱き付いていた彼女は何だか恥ずかしくなったのか。


パッと身を離し、ずっと見つめてきたままの彼から視線を逸らした。



『えっと、何か暗かったのが、明るくなったね…っ。』

「そうだね。あっ、目的地に着く前に、これを渡しておくよ。」

『ん…?何…?』



周囲が明るくなると、何やらポケットの中を探り出したファルロス。


かさり、と出てきた物は、真っ白の封筒。


それを「はい、どうぞ。」と、一言添えられて手渡される。


よく分からぬまま受け取り、封筒を開けると、中には少し大きめの紙を折り畳んだ物が入っていた。


中に入っていた紙を取り出し、開く。



『あの、これは…?』

「それは、君が目的地に着いてから向かわなければならない場所を書いた地図だよ。」

『地図…。向かわなければならない場所…?』

「そう…。着いたら、きっと分かるよ。」



窓の外を掠めた、青い蝶。



「―…すぐにね。」



不意に「キキィーッ!!」と耳障りな音がして、車内が大きく揺れた。



『わぁ…っ!?』

「っとと、大丈夫…?」

『あ、うん、平気…。ちょっと吃驚しちゃっただけだから…。』



バランスを崩した夢衣が彼の方へ倒れ込み、それを優しく受け止め、支えたファルロス。


ガクン…ッ、と大きく揺れたのは、列車が強くブレーキを掛けた為であったようだ。


礼を述べて窓の外を窺うと、どうやら列車はもうすぐ目的地に着くようで、ゆっくりとした動きで到着駅へと向かう。



<―間もなく、終着駅の八十稲羽…八十稲羽に着きます。お降りの際は、お手元のお荷物をお忘れなきよう、ご注意下さい…。>

『あ、そろそろ着くね…。』



車内に、駅への到着を示すアナウンスが流れる。


降りる用意をするべく、最初に自分が座っていた側の席に置いていたバッグを手に取り、ゆるりと立ち上がり、肩に背負った。



「あ。言い忘れてたけど、降りたら、君一人だからね。」

『えぇっ!?何で…!?』

「だって、僕普通の人じゃないし、他の人に見られる訳にはいかないでしょう…?」

『そんなぁ〜!うぅ…、やっぱりそういう存在なんですね。マジっすか…寂しい…っ!』



ガタンッ、と再び列車が大きく揺れ、目的地である駅に着いたようだ。


ドアが開き、列車の外の景色が見える。



「―さぁ、始まるよ…。」



ファルロスが瞼を伏せ、ドアの外の世界へ導くが如く、手のひらで指し示した。


すぅ…っ、と一度深く息を吸う。


ホームへと踏み出した一歩。


開けた視界。


ホームに両足が着き、歩き始める。


背後で閉まったドア。



<―ご乗車、ありがとうございます。終着駅の八十稲羽でございます。お降りの際は、足元にお気をつけてお降り下さい…。>



聞こえたアナウンス。



(―“焼きそば”駅…?って、んな訳ねぇか。そんな駅あったら、逆に可笑しいわ。)



空耳で聞いた駅名に、自分で自分に呆れる夢衣。


澄んだ空気が、彼女を心地良く包み込む。



―この時を始め、彼女の…篠原夢衣の新しい運命が、ゆっくりと動き出したのだった…。



*To be continued...

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