昼下がりの空の下




鳴上と仲良くなって、己のシャドウの件以降…。


前よりも親しくなってか、鳴上と過ごす時間が増えた。


今日のお昼も屋上の一角で、いつもの皆と集まって昼食タイム。


ここのところの自分のポジションは、鳴上こと番長の隣である。



「はい、お弁当。」

『おーっ、ありがとー。』

「あれ?夢衣ちゃん、鳴上くんに作ってもらったの?」

『うむっ!』



番長が普通な表情で手渡してくれたお弁当を受け取っていると、前方に座る雪子が首を傾げて訊いてきた。


最近だと、平日・休日共に晩御飯を堂島さん宅にて一緒にさせてもらっているので、平然と答える。



「えーっ!夢衣先輩、羨ましいなぁ〜。」

『自分が作るとなると…あんまり料理得意じゃないからなー。相当時間かかっちゃうだろうし…何より、番長の作るご飯美味しいもんな!うんっ!!』

「あはは…っ。そんな大した物、作ってないんだけど、喜んでくれるなら嬉しいかな?」

「けど、“晩飯まで一緒”ってのには、異議アリだな。」

「先輩…そうなんスか?」

『うん。(もぐもぐ)』

「いや、夢衣ちゃん…。それ、いいの?」



羨ましく思うりせちーにつっつかれたり、千枝に突っ込まれたり。


何気に、完二も花村の発言に対して反応を返す。


花村は、番長にぐりぐりと肘を突き付けていた。



―それより、この卵焼きうまーっ♪



会話もそっちのけに、うまうまと番長の手作り弁当に食らいつく。



「…夢衣は、本当に美味しそうな顔をするな。」

『ん…?(もぐもぐごっくん)…そう?フツーだけど。』

「いや、美味い時は“美味い!”って言ってくれるし、ちゃんと感想言ってくれるから、作りがいがあるなって。」

『ふーん…。まぁ、番長の作る物って全部美味しいしなぁ…。俺だったら、こんなの絶対作れないし。あ、この卵焼きめっちゃ美味しかったよ!この野菜も!』

「そう?なら、また作ってあげる。何か希望とかあったら聞くけど…次、何が良い?」

『えー、んーっと…。何が良いかな…?』



箸を口に咥えながら考える。



「…何かお前らの会話おかしくね…?」



横で呆れる花村が、購買で買ったのであろうパンに齧り付きつつ口にする。



『う〜ん…。唐揚げ…?とかかなぁ…?』

「他には…?何かある?」

『んー…。野菜炒めとかぐらい…かな?あとは、おまかせする。』

「うん、分かった。」



残りのウインナーを一口、口に放り込むと完食。


もぐもぐしながら、「ごちでしたーっ。」と手を合わせた。



『今日も美味かったー!ありがとね、いつも。』

「いや、喜ぶ顔が見れるし…いつでも。」

「ずるいー、良いなーっ!夢衣先輩だけぇ〜!」



むくれたりせちーに、「可愛い〜っ♪」とほっぺをつつくと、照れられた。


各自、自分のお昼をゆっくり済ませた頃、昼休み終了のチャイムが鳴った。


教室へ戻り、午後の授業を受け、放課後を迎えると慣れた光景で…再び集まったメンバーと並んで帰路に着く。



『そういえばさー。何か思ったんだけど…。』



呟くように口を開くと、隣で歩く番長が此方を向いた。



『俺の周りの男って…何で、当の女子達よりも女子力高いんだ…?』

「あー…確かに。」

「え、そうかなぁ…?」



素朴な疑問をぶつけると、千枝とりせちーが返してくれた。



「どーいう意味だよ、それ?」

『だってさ…番長とか完二もそうだけど…。普通に料理出来ちゃうし、家事とかもこなせちゃうじゃん?何かそう思うと、女子力高いよなって。』

「あー、そうなるんスかね?けど、女子力って…。」

「完二も料理上手なんだっけ…?」

「あ、ハイ。一応…それなりのもんは出来るッスよ。」

『ね。だから、何となく男の方が女子力上ってなると、ちょっと凹むよねって話。』

「うん…。私も、少し凹んじゃうかも。」

「あー、あーっ!!その話やめよ!ねっ!?ねっ!?」



雪子と二人で凹んでいると、“料理”という言葉に嫌な思い出のある千枝が、強引に話を変えようとした。



「ぶっちゃけ、篠原は何が言いたいんだよ?」

「ちょ…っ!?花村、その話もうやめ!」

『んー、特にどうしたいとかじゃないけど…。』



ちょっと上の方を見ながら歩く。



『何か、番長ばっかに弁当作らせちゃってるみたいで悪いなーって。』

「あぁ、そういうことか。」

「別に、俺は構わないけど…。」

『いやー…俺的には、何だか申し訳なくなってきてるもんで…。おぅふっ。』

「良いんじゃないスか?先輩が、好きで作ってくれてるんですし。」

「何でお前はそうなの…。」



妙なところでズレている完二に、すかさず突っ込む花村。


番長が、ふいに自分と視線を合わせるように覗き込んできた。



「もしかして…夢衣は嫌だった…?」

『え?いや、そうじゃないけど…。』

「そうなのか?じゃあ、どうして…?」

『んーっと…。とりあえず、近い。』

「あ、ごめん。」



至近距離にあった番長の顔を無理やり戻す。



『まぁ、その…。お世話になってるお礼…じゃないけど、たまには、自分が作ろっかなぁーって…。』

「お弁当を…?」

『あー…。お弁当はちょっと時間的に無理だから、おにぎりくらいなら…。』

「なるほど。」

「えっ、篠原、お前料理出来るのか…!?」

『おい、失礼だぞその反応。』



すごくヒドイ顔をされて、ちょっとイラッときた俺。


ムッと眉間に皺を寄せると、花村をジト目で睨んだ。


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