昼下がりの空の下




『一応、一人暮らししてる身だし、簡単なものなら作れるよ?』

「マジかよ…。おい悠、大丈夫か?」

「花村先輩…。」



完二が心配した直後、俺の拳が花村の腹にめり込んだ。



「ごふっっっ!!」

『…ざまぁ。』

「夢衣先輩スゴイ…っ。」

「けど、今のは花村が悪いよ。」

「そうだね。」



女子全員が花村の言動に対し、批難した。



「えっと、俺は嬉しいけど…夢衣は良いのか?」

『うん、良いよー。おにぎりだったらね。言っとくけど、それなりのものは作れるからな、花村?』

「ハイ、スミマセンデシタ…。」

『分かれば良し。』



青い顔で腹を押さえる花村に、ピシッと言い付ける。


番長は隣で苦笑いしていた。


―帰宅後、今日の夜は堂島さん宅と晩御飯を共にせず、自宅で自分で作り、綾時と一緒に食事をした。


夜寝る前にメールにて、「明日のお昼は自分が持っていく。」と連絡しておいた。


その際、男の子の食べる量も考え、一応、番長が何かおかずになる物を作って持ってきておいて欲しい、とも付け加えておく。


よし、これで良し。


―翌日、予定通り、おにぎりを自分の分と番長の分に加え、少し多めに作り、登校した。


昼下がりの午後、お昼。


昨日と同じく、いつものメンバーで屋上に集まった。



『はいっ、ちゃんと作って持ってきたよ!』

「ありがとう。」

「うお…とうとう来たか、この時が…。」

『おいそこ、うるさいぞ花村。』



弁当袋に詰めてきたおにぎり達を丁寧に出す。



『おにぎりはおにぎりだけど、単なるおにぎりじゃないから、お楽しみに!』

「へぇ〜…それは楽しみだっ。」

『お口に合えば良いけど…。』

「つか、丸くね?おにぎりっつったら、三角だろ?」



控えめにそっと差し出すと、優しく受け取る番長に、ちょっと緊張する。



「気になるッスね。」

「完二は自分のあるじゃん。」

「うるせぇっ!」



そわそわとする完二に、スパッと言ったりせちーは怒られた。



「いただきます。」

『どぞ。』



どきどきしながら、反応を伺う。


ぱくり、もぐもぐ…。



「あっ、美味しい。」

『っ!』

「ええ!?嘘だろ!?」



番長の言葉にぴこっと反応した横で、花村がマジに驚いていた。



「おい悠!本当に美味いのか?」

「うん、美味しいよ?」

「お世辞じゃなくて!?」

『オイ花村。それ以上ぬかすと殴んぞ。』

「ひぃ…っ!」



軽く睨んでやると、怯えたように隣の完二にしがみ付いた花村。


しがみつ付かれた完二は、渋い顔だ。



「いや、普通に美味しいよ…?お世辞とかじゃなくて。」

『そう…?良かった〜…っ。不味いとか言われたら、どうしようかと思った…。』

「夢衣がいつもより早起きして、一生懸命に作ってくれたものだろう…?不味いとか言わないよ。」



美味しそうに食べ、笑ってくれた番長に、ほっと胸を撫で下ろした。



「う〜んっと。これ、唐揚げ、かな…?」

『そだよ。』

「へぇ〜、唐揚げかぁ!肉!肉は旨いよ!!」

「ふふっ、千枝ったら。」

『“ばくだんおにぎり”なのであります!』



ちょっとキリッ、とした顔で言ってみる。


肉関連の言葉に反応した千枝は、目を輝かせた。



「…ん、こっちは照りマヨ系の味が…。」

『当たり!照りマヨハンバーグなど、色々詰めましたっ!』

「ふ〜ん…なんか旨そうに見えてきた…。」

「手作りッスか?」

『いや〜…ほぼ冷凍モノデス。』

「何で目ェ反らすんスか…。」

『いえ、なんとなく…。』



手作りは手作りだが、おにぎりの中身は全て冷凍食品なので、完全なる手作りではない。


しかし、味は美味しいので、大丈夫だと思ったのだが…。



『手抜きとかって、思うかな…?』



ちょっとショボーンとした空気で問うと、番長が顔を上げて微笑んだ。



「ううん。全然思ってないよ…?おにぎりはおにぎりなんだし、ちゃんと作れてるし。何よりも個性が出てて美味いんだから、落ち込む事はないんじゃないか?」

『なら、良いけど…。』



自分も、自身が作ったおにぎりをぱくり、と齧った。



「あ、これは魚のフライだ。タルタルソースの味もする。」

『あぁ、お肉系ばっかじゃ、飽きるだろうなって思って。』

「うん、美味しいっ。」



にこやかに会話していると、隣の花村がプルプルと震え出した。



「ッ〜〜〜!あ゙ーっ!!もう我慢ムリ…っっっ!!なぁ篠原、俺にも一個頂戴っ!!」

『あぁ、うん。いいよっ。』

「悠の食ってるトコ見てたら俺も食いたくなったからぁぁ…って、え……?マジ…?マジで、俺にもくれんの…?」

『うん、あげるって言ったじゃん。』



大声で叫んだ花村に即答で答えると、意外か予想していなかったのか…。


盛大に驚かれ、瞬きを繰り返された。



『たぶん、花村ならそう言うだろうなぁ〜、とか思って。ちゃんと用意してたんだ!』

「ぅえ!?ホントか…!?っしゃあ、ラッキー!!パンだけじゃ足りねぇと思ってたんだよな〜っ!」

『はいな、花村の分!一個で良いよね?』

「おぅっ!サンキュー!!」

「良かったな、相棒。」



嬉しそうに受け取る花村は、早速おにぎりにかぶり付いた。



「うおっ、コレ旨ぇえええっっ!!」

『あー、それね?美味しいでしょ〜っ。』

「何か、俺も食いたくなってきたな…。」

『おっ、完二もいる?』

「ええ!?いやいや、いっスよ別に…っ。」

『遠慮しなくて良いよ。完二の分も、同じく作ってきてたからっ!』

「うおぅっ、ま、マジっスか…!?」

『はい、どぞ〜。』

「完二にもか…っ!」



男子全員分作ってきていた事に、今度は番長が驚いていた。



「完二もズルーイ!!」

『あははっ、りせちーにも今度作ってあげるね!もちろん、雪子と千枝にも直斗くんにもっ♪』

「本当?ありがとう、夢衣ちゃん!」

「あたしの時も肉!肉でお願いします!!」

『はいはいっ。』

「良いんですか?僕の分まで…。」

『他の子OKで、直斗だけ無しって訳にはいかないでしょ?』



笑い合いながら、皆で楽しくお昼を過ごした。


―放課後、皆と別れた後の帰路。


番長と家が近い為、最後はいつも二人きりになる。



『あーっ、今日も楽しかった!』

「そうだな…。お昼、おにぎりありがとう。すごく美味しかったよ。」

『ははっ、ありがと番長!でも、番長の作ってくれたおかずの方が、めちゃくちゃ美味しかったよ〜!』

「そうか…?俺は、夢衣の作ったおにぎりの方が美味しいと思ったけど…。」

『えーっ!?それ、どう考えてもお世辞だろ…。』

「いや、ホント。」

『嘘だぁ〜…っ。』



ずっと前を向いて歩いていると、番長が手を繋いできて、ふと彼の方を見上げると…。



「今晩は、ウチで食べるか?」



なんて、ちょっと大人っぽい雰囲気で訊いてきた。


心の奥で、かっこいいなぁー…、と思ってしまった自分は単純だ。


いつも通りを装って短く「うん。」と一言返事をして、番長の手をぎゅっと握り返す。



―どうか、明日も、平和でありますように。



END

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