おてんば娘!



入口で待っていたマーリン達と合流すると、見知らぬ少女と一緒だった事から、変な目で見られてしまった。


「アーサー。どうしたのだ…?その者は。」
「あぁ。彼女は、エミル殿といって、城下を見て回っている時、偶然出逢った方なんだ!彼女のご厚意で、案内してくださると言われてね。案内されながら、一緒に城下を見て回っていたんだ。」
「そうか…。」
「この度は、本当にありがとうございました…!それでは、これから国王陛下に用事がございますので、これで…。」
『あれ…?王様に用があったの…?だったら、最初から言ってくれればら私、お城の中も案内したんだけど…。』
「え…?」
『私、実はお城に出入りする人だから、結構詳しいんだよ。』
「そ、そうだったのですか…!?」


思いもよらぬ展開に、目を見開く。

失礼だとは思うが、彼女の見た目や行動からは、そんな雰囲気を全く感じなかったので、純粋に驚いた。

というか、城に出入り出来るって、それなりの職業の人なんじゃ…?

ポカン…ッとして放心していると、気付けば、彼女は気軽に友人の家を訪ねるが如く、城の入口の門を開こうとしていた。

流石の事態、慌てて止めようと彼女に手を伸ばした時だった。


「〜♪…ッ!?お、お嬢様…っ!?ど、どどどうされたのですかっっっ!!?」
『ただいまぁ、ミシェル…!』
「そっ、そちらの方々は…!!」
『ん…?あぁ、こちらの方々は、散歩してたら城下で逢った方と、そのお仲間さん…(?)かな。何やらお父様に用があるとかって…。』
「すっ、すぐに知らせて参りますので…っ!暫しお待ちをーっっっ!!」
『………え?』


彼女が、庭の花を整備していた女性に話し掛けると…。

相手は丁寧な敬語を遣い、二言三言交わすと、血相を変えて城の中へと消えていってしまった。

その時、相手の女性が言った言葉が何故か心の内に引っ掛かり、気になる。


「“お父様”って………?」
「今、彼女…“お嬢様”と呼ばれていなかったか…?」
「えっと、よく分からな…、」
「お、お待たせ致しました…!!準備が出来ましたので、どうぞ、お入りくださいっ!」
『ありがとう。さっ、入ろうか!』
「お嬢様は、その前に、きちんとした衣服にお着替えくださいませ…!」
『えぇ…っ!?別に大丈夫でしょう、これでも…!』
「何を仰いますか…っ!!キャメロットの新王の御膳でございますよ!?姫の立場でしたら、当然の事にございますっっっ!!」
『え…?キャメロットって、あの…?』


ピタリと固まったエミル殿は、私の方を振り返り、ぎこちない笑みを浮かべる。

そこで初めて気付く事実…。


「え…。姫…って事は、エミル殿って、王女様だったんですか…っ!?」
「あぁ、思い出した…。確か、この国の国王には、一人娘がいると聞いていたな。成る程…それが彼女だったのか。聞いた話では、とても愛らしく、歌が好きな見目麗しい姫君だと聞いていたが…。」
「ぇ…、えぇぇえええーっっっ!!?」
「そんなに驚かなくても…。」


驚かずにはいられないのに、むしろ、自分の師匠は何故そうも落ち着けるのか…。

未だポカンとしていたら、いつの間にか城の中へ消えてしまっていたエミル殿。

マーリンへと訊けば、どうやらきちんとした正装に着替える為、強制回収されたらしい。

色々と疑問はあったが、今は、とにかく此処に来た本来の目的を果たす為。

国王陛下と会見を行う為、遣いに現れた方の案内より、謁見の間まで進んで行った。


「―遥々我が国まで足をお運び下さいまして、ありがとうございます。キャメロットの新王、アーサー王よ。」
「いえいえ、なんの…!隣国とも手を取り合い、助け合っていくのは、当然の事ですから。」
「はっはっは…っ、元気が良くてよろしい事だ。お元気なのは、若さ故ですな…?貴方のような方が王とあれば、国は安定しそうですな。そういえば…ウチの娘とは、既にお逢いになったとか…?」
「はい…っ!大変愛らしいお嬢様で、聞きしに勝る程の美しい御方で吃驚致しました!!それに、初めて出逢ったというにも関わらず、私に親切に城下を案内してくださったりと…。とても心優しい御方だと分かりました。」
「そうですか…。それはそれは、安心致しました。いやはや、あの子はとても自由気ままなところがあり、庶民と同じように振る舞ったり、姫らしくない子なものでして…。大切なお客人と一緒だと訊いて、粗相をしていないか、心配だったのです。あんな自由な子ではありますが、どうか嫌いにならないでやってくださいね。あれでも、素晴らしい歌声を持った娘なのですよ。」
「えぇ。彼女の歌声は、とても澄んだ美しい歌声でした…っ!思わず、聞き惚れてしまう程…!!」
「そう言って頂けるとは…、父親の私としては、誠に嬉しいばかりです。」


面と逢って話すのは初めてであったが、この国の国王は、随分と腰の低い人だった。

娘のエミル殿の事を大層可愛がっておられるようだ。

一人娘とあれば、当然の事なのだろう。


「ふぅ…。あの跳ねっ返り娘に、良い貰い先はあるのか…?」
「なはは…っ!ご心配なさらずとも、彼女ならきっと良いお相手が…、」
「失礼致します、陛下。お嬢様のご準備が整いましたので、此方に。」
「うむ、了解した。此方へ呼びなさい。」
「畏まりました。」


噂をすれば何とやら…。

彼女の話で盛り上がっていると、臣下であると思しき者がやって来て、国王に頭を下げた。

必要な事だけを述べると、すぐに出て行き…。

数秒待たずに、話の中心人物であったエミル殿を引き連れて来た。

見ると、彼女は、淡い紫色の落ち着いた雰囲気のドレスに着替えていた。

此方へ歩み寄る姿も、先程顔を合わせていた時とは違い、姫らしく気品に満ちている。

きちんとした正装の身なりであるエミル殿は、別の意味でまた一段と魅力的で、先程以上に鼓動が早まった。

役目を終えた臣下は、用が済むと、静かに退室していく。


『お待たせ致しました、お父様。そして、ようこそ。キャメロットの新王、アーサー王様…。先程は、お見苦しい姿をお見せしてしまい、大変失礼致しました。申し訳御座いません。』
「うむ…よくぞ来てくれた。さぁ、エミル、此方にお座りなさい。」
『はい、お父様。』
「ほ、本当に…エミル殿なのですか…?」
『あら、そんなに見違えまして…?』
「はっはっは…っ!やはりまだお若いですな、アーサー王よ。うちの娘の姫らしい姿に、見惚れてしまわれたようだ。」
「いっ、いえ…っ!そんな事は…っ!!」


自然に赤くなってくる顔に恥ずかしくなり、つい、と視線を外す自分。

彼女に失礼な気もしたが、今はそんな事を気にする程の余裕は無かった。


「どうですかな、アーサー王?今度、近いうちに我が国との交流五周年を祝して、舞踏会を開こうと思うのですが…如何でしょうか…?なぁ、エミル?」
『え…?それは…私ではなく、アーサー様にお聞きした方が良いのでは…。というか、既に、私は出席しろとの事で…?』
「勿論だとも。折角の記念の舞踏会に、姫であるお前が居なくてどうするのだ…?せっかくの祝典だろう、華が無くてどうする。」
「私は別に構いませんよ?自国へ帰り次第、臣下達と話を付けておきます故、ご安心下さい。今後とも、貴国とは友好的関係を結べる事を期待しておりますね。」
「これは、これは…っ。若きたりとも、王たる姿はご立派にございますな!貴方のような御方なら、エミルを安心して任せられそうだっ!」
「ええ…っ!?」
『ちょっ、お父様…!?もうっ、気が早過ぎます…っ!!』


国王自ら、思わぬお言葉をもらってしまった…。

まさか、父親である国王に認められてしまうとは、嬉しい思いだが…まだ、何一つ始まっていないのである。

ふと、彼女の方を見やると、頬を赤く染めて恥ずかしがっていた。


―これは…、期待しても良いのだろうか…。


僅かに抱いた希望に胸を膨らませながら、今後の先の未来を夢見る私なのであった。

―アーサーside・end―

こうして、華々しくも初々しい関係が始まり、二人は徐々に距離を近付けていくのであろう。

エミルが、アーサーに落ちる日も近いのでは…?

そんな期待が叶った何時の日か…。

楽し気に寄り添って歩む二人の姿が見られていたとか、何とか。

この小さな国に、ふらりと訪れた七つの大罪が呟いていたのだとか…。


END