お星様にお願いしましょ



―今日は、七月七日…。

七夕の日である。

七夕の日は…織姫と彦星が年に一度、夜空に架かった天の川を通して逢える日でもある。

人々は、短冊に想い想いの願いを込めて書き、それを笹の枝に吊るすのを習わしとしてきた。

一種の年の行事である。

しかし、それは日本という国の話である。

―現在、エミルは、次元を飛び異世界に来ていた。

それも…元の世界で大好きで、憧れて止まなかった「七つの大罪」の世界に。

そして、その世界で、今日という日を迎えたのだ。


「なぁ、エミル…。つかぬ事を訊くが…こりゃ、何だ?」
「なんだか変わった服ですね…!」
『それは、浴衣と言ってねぇ…っ!風流の一貫で、今日みたいな日に着たりする物なんだよ!』
「ふ〜ん…。」
『私の住んでた国では、今日は七夕という日なの。浴衣を着て、短冊に願い事を書いて、笹に吊るしたりするんだ。願い事が叶いますようにって!』
「へぇ〜、君のところは色々なものがあるんだね…?」


皆それぞれ専用の浴衣を渡すと、七夕について説明した彼女。

だが、皆いまいち分かっていないようだ。


「ん?それだけなの…?他には、ないの?」
『ディアンヌ、良くぞ訊いてくれました!実はね、七夕にはお話があるんだけれど。私の国では、七夕の日の夜空に“天の川”って呼ばれる、星の筋が見えるの。それは、一つの境目であり、七夕の日にしか現れないんだ。そしてその日は、織姫と彦星という恋人が、年に一度逢う事を許された日でもあるんだよ。』
「えぇ…!?何々、気になる!もっと詳しく…っ!!」
「私も、気になります…!」
『まぁまぁ、ちゃんと話すから…。』
「それで、どうしてお二人は、その日しか逢えないのですか…っ!?」
『は、え…?な、何で、アーサーも食い付くの…?』


織姫と彦星のエピソードを話そうとしていると、何故か、アーサーまで目をキラキラさせて訊いてきた。

いや、女子組の反応は分かるけども…。

何か惹かれるところでもあったのだろうか?


『え〜っと…。あんまり詳しくないというか、本当に合ってるのかは分かんないんだけどさ。とある説で…二人が仕事もせず、しょっちゅう逢瀬を重ねるから、それに怒ったある人が、罰として二人を逢わせないようにしたんだ。それを何とかどうにかさせて、一年に一度だけ…天の川が現れるから、その川に架かる橋で両岸が繋がる日に、逢う事を許された、とか…。私が聞いた事のある説だと、そんな感じだったんじゃなかったっけな…?』
「へ〜、そうなんだぁ〜…。なんだか悲しいね。」
「でも、逢える事を許されて良かったですね!好きな人と永遠に逢えないなんて、すごく寂しいですから。」
「自信満々にしてた割には、あんま詳しくないんだな!」
『うぅ…っ、こういう話には色々と説が存在するから、一つの説が正しいとは限らないんだよ…!まぁ…、もうちょい勉強しときゃ良かったとは、思いましたけどね。』


団長に言われた言葉が、ストレート過ぎてぐさりときたエミル。

軽くしょぼくれて、項垂れた。


「んな話はどーでもいいんだけどよぉ♪結局、この服はどうすりゃいいんだ…?」
「それは、俺も気になっていた。エミル、俺達にこれを渡したという事は…俺達に着て欲しい、という事で合っているのか…?」
『あぁ、うん。そのつもりだったのだよ〜っ。話を戻してくれてThanksゴウセル♪』
「俺はスルーかよ♪」


ゴウセルとバンが指摘してくれて、本来の目的を思い出す彼女。

気を取り直して、改めて、たった今渡した浴衣について話し始める。


『ゴウセルが言った通り、今渡した浴衣は、皆に着てもらいたくて渡したんだ…!せっかくだもん、どうせなら…夏の風物詩である七夕に、浴衣のセットを揃えたい訳よ。』
「それで、全員分用意したのですか!?しかも、私の分まで…。」
「オイラに頼んでたのは、この為だったのか…。道理で、幾つもの布が用意されてた訳だ。」
『そういう事っ。アーサーだけを一人ぼっちで外す訳にはいかないでしょう…?』
「わぁ…っ、ありがとうございます!喜んで着させて頂きますね!!」
「ですが…これって、どうやって着るんでしょうか…?」


エリザベス王女が、至極最もな質問を投げ掛ける。

この中で浴衣の着方を知っている者は、当然の事ながら、エミル…彼女一人しかいない。

そこで、エミルは、ある名案を思い付いた。


『勿論、私が着方を教えてあげるよ?でも、さすがに全員分となると無理だから…誰かに浴衣の着付けを実践しながら教えてあげるとして。相手は、そうだな〜…アーサーで!お願いしても良いかな…?』
「わ、私ですか…!?ちゃんと出来るかな…。」
『大丈夫。教えた事をそのまま他のメンバーにも行うだけだから、難しくないよ…!念の為、ゴウセルの力を使って、記憶を読み取ってもらって〜。ってな訳だから、ゴウセルにも着付け役、頼んでも良い?』
「問題ない。」
「女子はどうすんだ…?男と一緒なんて、さすがにマズイだろ?」
『そりゃ、男子と女子分けますよん。女子は、私が担当。男より、女の子の方が着付け難しいからね。ではでは、さっそく…開始っ!』


景気良く手を叩くと、早速着付けを開始したエミル達。

まずは男組、アーサーへ実践する事に。

着付け役に覚えさせれば、後はそんなに時間は掛からないので、流れを見て、粗方出来次第、女子組の方へと移る事にした。


「そっ、それでは、お願いします…!」
『うん。そんじゃ、まずは今来てる服を脱いで、軽く浴衣を羽織ってくれるかな?』
「は、はい!えっとぉ…。」
『あぁ…、着替えてるところは、見えないようにカーテン閉めればいいよ。恥ずかしいなら、後ろ向いてるから!羽織ったら教えてね。』
「あ、はい。分かりました…。」


緊張した面持ちでカーテンを閉めたアーサー。

心なしか、顔が赤い気がしたが…気のせいだろうか。

程なくして、カーテンを開いたアーサーから呼びかけられ、振り返るエミル。

彼の方へと振り返った先、その様子を見て、思わず苦笑が漏れる。


『あはは…っ、そんなに緊張しなくても、大丈夫だって!男の着付けは簡単だし、アーサーなら覚えられるから。リラックスして?』
「あ、や…っ!その、すみません。こうやって、女性の前で着替えたりする事には、慣れていないものでして…。なんか、恥ずかしくて…っ。」
『あぁ、そっちか…っ。』
「普通は、女のお前が恥じらうべきところなんじゃないのか?」
「エミルは無地覚なところがあるからな…。いつもの事だろう。」
『おい、そこうっさい。外野は大人しく待ってなよ…!ゴウセルは、ちゃんと見ててね。記憶読み取るにせよ、実際にも見た方が分かりやすいから。』


エミルは、これから使う腰紐を自身の首に掛けながら、横から茶々を入れてくる団長達を静かにさせる為、声を上げた。

ちなみに、男子組の衣装チェンジの間に、女子組には笹の枝に飾り付けをしてもらう時間と組み、今後の流れを決めたのだった。