お星様にお願いしましょ



『それじゃ、着付けを始めるね!まずは、襟をきちんと正して…前を整えたら、浴衣を少し上にたくし上げて、腰紐を結んでいくよ。』
「はいっ。」
『着崩れない様にしっかりと結ぶから、ちょっと苦しいかもしんないけど、我慢してね。』
「うっ、は、はい…っ!!(ち、近い…っ!!)」


身長差のある二人だが、彼よりも背の低い彼女にとっては、当然の如く、見上げる形となってしまう。

ただでさえ、若干の上目遣いに来るものがあるというのに、腰紐を結ぶ事で、普段では決して無いであろうくらいに身体と身体が近くに触れる。

まだ密着はしてないものの、純粋なこの少年にとっては、レベルの高い行為だろう。

そのせいで、さらに緊張が増すアーサー。

そんな様子を眺めていた七つの大罪・団長メリオダスが、ニヤついた顔で見守っていた。


『男の場合、後は帯を結べば終わりだよ。あともうちょい、我慢してね…!』
「あ、はい。頑張ります…っ。」
『帯結ぶから、袖上げて。じっとしててね〜…。』
「え?あ、はい…って、ぇえ…っ!?」


最後の帯を結ぶ為、腰に抱き付くような形になるエミル。

床に膝を付いて、膝立ち状態なのだ。

これには、さすがのアーサーも驚きを隠せず、慌てた。


「あ、あああのっ、エミル殿…!!?」
『こら、まだ動いちゃ駄目だって。』
「しし、しかし…っ!近過ぎやしませんか…!?」
『こうしなきゃ、帯結びづらいの。だから、じっとしてて?すぐ終わらせるから…っ。』
「あぅ…っ。はい…分かりました。」


彼の現心情など露知らず…。

真剣に結んでいる彼女は、上辺のように、「確かこうだったよな…。」などの独り言を呟いていた。

複雑な女結びとは違い、至って簡単な男結びは、その後すぐに済んだ。

結び目に満足すると、満足げに頷き、「これで良し…!」と呟いて、後ろ手に回っていた身体を正面に移動させた。


『ほい…っ、着付け終わり!お疲れ様ぁ〜。慣れない事やって疲れたでしょ…?少し休んでても良いからね。』
「大丈夫です。ありがとうございました…!」
「おぉ〜、終わったか…?ほぉほぉ、成る程…。こういうもんなのなっ!」
「ふむ…。思っていたより簡単そうだな。記憶は読み取ったが…やはり、実際に見ると分かりやすいようだ。」
『でしょ…?後は、残りの面子にも着付けして…最後、各自合う草履を選んで履くだけね。いつも履いてる靴じゃ、浴衣に合わないから。』


そう言って、残りのメンバーの着付けが始まると、着付け役が間違わないか少し様子を眺めてみる事にしたエミル。

ぎこちない動きで、男子組の着付けが進められていく。


「あの、メリオダス殿…。すみませんが、腕をもう少し上に上げてもらってもよろしいですか…?」
「おうっ、こんな感じか?」
「…ねぇ、ゴウセル…。ちょっと締め過ぎなんじゃないかい…?く、苦しいんだけど…っ。」
「我慢しろ、キング。もう少しで終わる。」


どうやら、問題なく順調に着付けが出来ているようだった。

ただ、一人を除いては…。


「なぁ、何で俺のだけ服が違うんだ…?」
『ん…?あぁ、それねっ!バンは基本、上半身前開けてるでしょう…?だから、法被みたいな方が似合うかと思って。』
「どうやって着りゃいいんだよ…♪」
『下は甚平さんのズボン履いて、上はそれを羽織るだけだよ。あ、でもお腹冷やすと悪いから、さらし巻いといてね?』
「へいへい、りょ〜かいしやしたよ♪」


男子組がある程度済むと、今度は女子組と交代させる為、別作業中の彼女らを呼びに行く。

見てみると、笹の飾り付けは全て済んでおり、後はそれぞれの願い事を書いた短冊を吊るすだけとなっていた。


『さっ、男組と交代だよ〜!』
「あっ、エミル様…!お待ちしておりましたっ!!」
「今度はボク達だねぇ〜♪目一杯可愛くしてよね!」
『もっちろん!あ、マーリンも浴衣着てね。絶対似合うから。』
「私もか…?」
『せっかく皆着るんだから、マーリンも着ようよ。アーサーも着てるんだからさ!』
「ふむ…。ならば着てやるか。」


華やかな女子組の着付けが始まった。

男性とは違い、女性は上から下までを綺麗に着飾る。

当然の事ながら、浴衣の柄も華やかで色鮮やかであり、帯や装飾品にも力が入る。


『女子は、浴衣の下に肌着を着てからになるからね。』
「そうなんですねぇ…。」
『帯結んだりで、締め付けられて苦しいかもしれないけど、我慢してね?』
「大丈夫だよ、ボク達ならへっちゃらだって…!」


こうして、女子組の着付けは楽しく進められていった。

服を脱いで、肌着を着たりした時に…胸の大きさが目立ち、それをお互いで比べ合ったり。

髪飾りを付け、ちょっぴりおめかししたりと、普段では味わえない体験をしたのであった。

その間、男子組には、先に短冊へと願い事を書いてもらう事にしてもらった。

―一時間半程を過ぎた頃…ようやく着付けを終えた女性陣が姿を見せる。

外に飾られた笹の元へ行くと、待ちくたびれたであろう男子組が待っていた。


「おっ待たせ、団長ぉ〜!!」
「大変お待たせしてしまってすみません…っ!」
「お前ら長かったなぁ〜。待ちくたびれちまったぞ…?」
『ごめんねぇ〜!女子の着付けは難しくてさ…。人数も多かったし、自分で自分の着付けもしなきゃなんなかったから。つい、手間取っちゃって…。』
「ディ、ディディディディアンヌ…!?そ、その格好…、かっ、かわ、可愛い…っっっ!!」
「あり、マーリンも着たのか…?あんまり着るイメージなかったから、てっきり着ねぇと思ってたんだけど。」
「可愛い子猫さんに頼まれてな…。なかなか良いものだろう?」
「わあぁ〜っ!皆さんお似合いですね、とても綺麗です…!!」


美しく着飾った女性陣を見て、男性陣は感嘆の溜め息を漏らし、見惚れてしまっている。

キングは、いつもとは違う、いつになく可愛らしい姿のディアンヌを目にした途端、口許を押さえ込み、顔を真っ赤に染めている。

滅多に反応を見せないゴウセルやバンさえも、驚いたように歓声を上げていた。

アーサーはというと、普段とは全く違う雰囲気を纏った七つの大罪メンバー達に、ただただ感動しまくっていたのであった…。


「綺麗だぞ〜、エリザベス!」
「あ、ありがとうございます…っ!メリオダス様も、お似合いで格好良いです…っ。」
「う〜ん…、やっぱりちょっと苦しいし、動きづらいかなぁ〜?」
『まぁ、慣れない内は、皆そんなもんだよっ。』
「マーリン…。お前のは、やけに胸元が目立つな?」
「ん…?これは仕方ない事なんだよ、ゴウセル。私の胸は大き過ぎてな。布に収まりきれず、前が見えてしまうのだ。」
「おいキング…、何鼻血出してんだよ?」
「ぅ、うるさいな…っ!放っといてくれよ…っ!!」


それぞれの浴衣姿を見合っている隅で、一人必死で鼻血を押さえるキング。

どうやらディアンヌの可愛さに、堪え切れなかった様だ。

ボタボタと鼻血を垂らす姿に、バンが呆れた視線を送っていた。


『長らく待たせっちゃってごめんね、アーサー?』
「あ、エミル殿…。」
『うん〜…?もしかしてぇ…綺麗な女の子達に、見惚れちゃってたのかにゃ〜?って、私に限っては無いと思うけど(笑)。』
「い、いえっ、そんな事ありませんよ!先程から、私が見惚れていたのは、エミル殿だったんですから…っ!!あ…っ。」
『あ、ははは…っ。アーサーは正直だなぁ…!でも、ありがとう。そう言われると、なんだか照れるなっ。』


アーサーに直球で、「自分に見惚れていた。」などと言われてしまった彼女は、ちょっぴり顔を赤らめて笑う。

彼女自身も、普段見る鎧姿とは違う彼に、内心どぎまぎしていたので、気恥ずかしさがあるのである。

互いに恥ずかしくて、目を合わせず、俯いたりそっぽを向いたりして視線を逸らす二人。

だが、すぐに視線を戻したアーサーが再び口を開いた。


「あの、女性の方々は…短冊、まだでしたよね?」
『あ、そうだった…っ!女子組の皆さぁ〜ん!!これから、短冊に願い事書いて吊るす作業するよ〜!その後は、全員で夕飯の準備に取り掛かるからね。せっかく晴れてるんだし、今夜は外で食べない?星空を眺めながらさ!』
「わぁ…っ!それイイね!!ボク賛成〜♪」
「私もっ!ロマンチックで素敵だと思います!!」
「そんじゃ、そうするか!」
『んじゃっ、私らはちゃちゃっと願い事を書いてしまいましょうか…!!』
「「おーっっっ!!」」


エミルの提案により、今夜は夜空の下でのディナータイムという事に決まった一行。

早速、女性陣は短冊に願いを書き綴り、吊るす作業に移る。

そして、ディナーの準備へと取り掛かっていったのである。