0.空を掴む

会わなきゃ、いけない人がいるの…
約束、した人がいるの……




秋の澄み渡った青空。反射する太陽が眩しくて、目を細めながら何かをつかもうと思い切り開いた手のひら。
だけどその手のひらは虚しく空を掻き、結局わたしは何も掴む事はできなかった。


そう。それはそう足掻いたわたしの最後のキヲク。

空の青から反転して飛び込んだ視界いっぱいの藍。

それが、わたしの覚えている限りの色だった…。




ピピピピピピ
ピピピピピピ…


「…………」


ピピピピピピ
ピピピピピピ


「……うー…ん…」


アラームが鳴っている
けたたましく鳴っている

聞き慣れた音。もう、起きなきゃならない時間なのはわかってる。だけど


「…と、ご…ふん……」


あと五分だけ。そう口にすれば何だか周りがざわざわとしている。


「んー…?」


なんで、なんでこんなに外がうるさいの…?平日だよね、まだ木曜だよね?人の声がたくさん聞こえる。
お母さんが井戸端会議してる煩さじゃないし…

起きるから、必ず起きるから…


「も、すこし……」


またもざわつくわたしの周り。何なの?なんでこんなに騒がしいの?
すすり泣き声まで聞こえる…。それも、大人の人の。
何?もしかして寝ぼけてる…?わたし、夢でも見てるの?


「…っ!!」


誰かがわたしの手を握ってきた!
やだ!なんで!?


「…やっ! ……っ!!!」


まだ寝ていたい。という気もちを断ち切り驚きに堪らず目を開けば


「…っ!!」


あまりの眩しさに条件反射で慌ててギュッと固く目を閉じる。

なんで、こんなに眩しいの…!?カーテン閉め忘れた?


「……っう…」


瞼の裏に残る残光が弱くなったところで、ゆっくりと目を開けば、今度は白一色の景色が広がる。


「…ぇ……?」


わたしの部屋の屋根も壁も、こんな色だったっけ…?カーテンこんなだった?あれ?ポスターがない。ポスターどころじゃない。見覚えのない窓とカーテン、それからシンプルな棚と細長いテーブル。


ここ……わたしの部屋じゃない……!?


「…っ!?」


何、このぶら下がってるの…。点滴…?…わたしの腕に繋がってる…?


え…?なんで?ここ病院…?

わたし、倒れたかなんかした…っけ?


「……っつ」


身体を起こそうと、首を動かしてみれば、ずきん、と頭に痛みが走り、わたしはまた固く目を瞑る。
呻きながら痛みをやり過ごしていると、そうっとわたしの名前を呼ぶ声が聞こえた


「ユイ…ちゃん…」
「…?」


聞き覚えのある声なんだけど…


「……?」


そっと目をあけて、瞳だけを動かして、声の主を探して


「………っ!!」


得体の知れない恐怖感に、勝手に体が強張った。


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2015/09/15


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