30.鳴り響く

ドンドンとドアを叩く音が真っ暗な部屋に響き渡る


「総司!総司!! 今の音は何だ!」


ただならぬ慌てぶりで、部屋の主の名を呼びつづけ、なおもドアの向こうの相手は"開けろと"叩き続ける。


「総司…俺だ、近藤だ! 開けてくれ!」
「管理人室に行ってきます!」
「頼む! 斎藤くん…! ──総司! 開けてくれ!」





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「…っ、ユイ、ちゃん…おちついて…!だめだよ!そんな事…!」
「うぅ……っ」


またひとつ、ズキリと痛む頭。

もう、意識を保っているのも…できない…。

手にした鋏が、床に落ちていった。

それと同時に、身体中の力が抜けていく…。


「ユイちゃん!!」




────────



「──総司! 総司!!」
「……こんどう、さん…?」


真っ暗な廊下の先、ドアスコープから差し込む光だけが頼りの行き止まり。

ドンドンと響き渡る音が、扉の向こうの人物の焦燥を知らせる。

ついでバタバタと複数の足音が聞こえ、鍵を掛けたドアのシリンダーが回る音が、玄関に響いた。

総司の舌打ちと同時にガチャ、ガチャリとダブルロックが簡単に外され、開いた隙間からどんどん光が差し込んで、真っ暗だった廊下と部屋を明るく照らしだした。

聞き覚えのある大人の声が混ざり合う。

家主の沖田を呼ぶ声と、混乱を避けようと何かをやり取りしている声。

そしてまた複数の足音が、今度はどたどたとその廊下を渡ってくる。

疲れのせいか、ドアを叩く音や足音がやけに頭に響き、沖田はこめかみを少し強めに押して不快感を顕にした。


「総司!!」
「ユイ!」
「…っ!!」


目の前に飛び込んできた部屋の異様な光景に、突然の訪問者、近藤と斎藤はごくりと息を呑む。

切り落とされた長い髪の毛
ずたずたに切り裂かれた豪奢なドレス。

床に刺さった鋏。

ぐったりと倒れこんだユイをみて、斎藤は沖田に激昂した。


「……貴様っ!!」
「来ないで!」
「やめないか!斎藤くんも総司も!!」


胸ぐらを掴み、殴りかからんとする斎藤を近藤が慌てて羽交い締めにし、反転しながら大きな身体を割り込ませる様にして引き剥がした。


「落ち着くんだ! 斎藤くん! そんな事をしては駄目だ!」
「………っ」


悔しそうに歯噛みし拳を下げた斎藤は、ただただた意識のないユイを見つめるほか出来なかった。が、その視線にも触れさせぬと沖田はユイを抱え込み斎藤を睨みつけた。

そしてわざとらしい程に、大きな溜息をはいた。


「……一体何の用ですか。連絡もなしに押しかけて、管理人さんに鍵まで開けさせて…」
「……総司、お前何日会社に来ていないんだ?」
「………っ」
「連絡も何もない、取れない。そうお前の社の人間が俺に連絡をよこしたんだ。皆、心配しているぞ!」


真剣な近藤の眼差しに、沖田は堪らず目を反らした。彼は、そう。近藤にだけは心の隙間を顕にする。


「総司、ユイくんがこのような状態で…本当に良いのか?」
「………」
「……総司…!」


両腕に抱えたユイを、…子供がお気に入りのおもちゃを取り上げられまいとするような仕草で隠すように抱きしめる。
だらりと力無く投げ出されたユイの腕を目にした斎藤は、堪らず奪い返そうと手を伸ばしたが、総司はそうはさすまいと、床に落ちた鋏を手にとり振りかざした


「総司…!!」
「……君は、近寄らないで…!」
「あんたという奴は…!!」
「君だけは! 君だけは嫌だ! 許さない!」


凍りつく場。
今、誰かが動けば薄氷のようにあっという間に壊れてしまうような空気。

ぎちりと拳を握り会う二人
沖田をにらみ見据える斎藤
斎藤を射殺すように見据える沖田

堪らず近藤が沖田をおおい隠すように大きい体を再度割り込ませ、斎藤から二人を隠した。


「斎藤くん! 君は一度出なさい!」
「ですが…!!」
「大丈夫だ。悪いようにはしない。総司とて、ユイ君を傷つけるはずが無い!」
「……っ」
「大丈夫だ。君は一旦社に戻るんだ」


何も出来ない手出しも出来ない苛立ちに、斎藤は大きく壁を叩き、もう一度ユイの名を読んだ


「ユイ!! 目を覚ませ! 俺だ!」
「………」
「ユイ! ユイ!!」
「斎藤くん!よすんだ!」


近藤に押し出されるようにして部屋をあとにした斎藤は、見逃さなかった。

斎藤の呼びかけに呼応するように、ひくりとユイの指が動いたことを。

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2016/12/04


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