31.それぞれの
──────α
目が覚めても、わたしの現状は何もかわってなどいなかった。
当たり前だ。
この願望は、ただの現実逃避なんだから。
自分で乱雑に切った髪は、総司さんが呼びつけた美容師さんの手によって肩までに切りそろえられ、何事もなかったように、わたしの暴れた痕跡を、跡形も無く消してしまった。
重くのしかかる現実は、刻一刻と近づいていき、時を刻むと同じくして、わたしの感情をどんどんと奪っていく。
あの日
一さんがわたしのことを呼ぶ声が、聞こえたのに…
何度も何度もわたしを呼ぶ声が、聞こえたのに…
どこか頭の中で “もう、どうしようもないんだ” って諦めの言葉が支配して動くことが出来なかった。
総司さんを振り払って、一さんの元へ行きたかったのに、わたしに残された現実がそうはさせてくれなかった。
わたしにはどうすることも、できない
ただただ、一さんへの気持ちを押し殺すだけしか、できない。
会いたい
ここは嫌
初めて、好きになった人。なのに
「また、泣いているの…?」
心を殺すしか
わたしには出来ない。
「目、赤く腫れちゃうよ…」
総司さんには酷いことをたくさんされた。だけど、わたしが、私になっていた時に聞かされた話はとても…、とても優しく懐かしいものだった。
だけど…そうだとしてもわたしは
一さんのことが好き…一さんの事だけが好き…
だけど、一さん、あなたの名前を口にすることは
二度とできない…。
──────β
僕は、どうしたらいいんだ。
僕は君を、幸せにしたかっただけなのに
僕は君と、幸せになりたかっただけなのに。
小さかった時の頃のように、ずっと一緒に居たかっただけなのに
「また、泣いているの…?」
ユイちゃんはあれから力無くうなだれて、ぽとぽとと涙をながすばかり。
手の甲に落ちた涙を、頬を流れる涙を
拭っても拭ってもユイちゃんは涙を流し続ける。
「目、赤く腫れちゃうよ…」
何がいけなかったんだろう。何が悪かったんだろう。
僕は、僕は本当にユイちゃんが大好きなのに。幸せにしたいのに。助けたかったのに。感謝がしたかったのに。
それだけだったのに
なんで、なんだろう。
小さい頃からの仲良しで、幼稚園も小学校も一緒で。
中学生になったとき、僕が私立中学校に行く事になって、離れ離れになる事に落ち込んでいる時だって…
『いつでも遊べるよ。私立なんてすごい! 総司くんは頭良いんだね!』
大丈夫。と僕の背を押してくれた。
だけど、その頃から…
ユイちゃんに別の友達ができて…、疎遠になって…、ユイちゃんが余所余所しくなっていって…
「…………」
どんなに遊びに誘っても、他の子との用事を優先するようになって
今まで、ずっと、ずっと僕の側にいてくれたのに
周りの人間に誑かされていったんだ。
周りの人間がいけないんだ。そう思ってユイちゃんの通う高校や大学に編入して、ずっと側にいたのに
ぜんぜん、ユイちゃんは僕を見てくれなくて…
いつも、困った顔をしていた。
僕が会社を継いで、そこで働けば?と就職口を用意しても、お父さんのところで働くから。って近藤さんのところへ研修に行っちゃって。
…ユイちゃんが益々遠く感じたなぁ
それから、ユイちゃんのお父さんが自死してしまったと聞いて、やっとユイちゃんの役に立てる日が来た!僕に振り向いてくれる日が来た!…もとに、戻れるんだ。って…本当に嬉しかった。
ユイちゃんのお父さんの会社も助けられる。ユイちゃん一家も助けられる。
ユイちゃんは、もう一度僕を見てくれる筈だって
本当に嬉しかった。
また元に戻れるって、またずっと側にいられるって信じてた
なのに僕が築き上げてきたユイちゃんとの時間を、あの斎藤って人が呆気なく攫っていっちゃったんだ。
許せない、なのに
僕にはどうすることもできない
僕は、ユイちゃんにもう一度笑って欲しいだけなのに…
僕は、ユイちゃんの笑顔が好きなだけなのに…
─────
2016/12/06
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