5.変化



「あっ、や、も、もう……、っ!」
「黙れ、」


懸命に一君の身体を押し返すも、叶わず開かれて穿たれる。

私をうつ伏せにさせて、ぐっと頭をベッドに押し付け、腰を持ち上げてお尻を突出させて獣の様な恰好を強いられる。


「ああっ……い、…たい…ッ」


みしみしと私の壁を割って、埋め込まれていく一君の熱…。



今までこんな格好で私を抱く事なんて無かったのに、まるで犯す様に欲望だけを私にぶつける一君。

この体位は、いつもより深く貫かれる為、私は初めての痛みに涙を滲ませて首を横に振る。


「い、っや…、や、あっ、…あ!」


私の悲鳴にも関わらず、一君は私に何かを沁み込ませる様に熱のこもった呼気を耳元に掛けながら、腰を打ち付け続けた。


「あっ、あ、…あああッ!」


もう縋る者も無い、一君の熱と、腰を掴む掌の力強さを感じながら必死にシーツを掴んで泣き呻き、喘いだ。







―――――――――――――






変化とは、突然やって来るもの。






仕事から帰ってみれば、玄関に灯り。



(お母さん、今日は仕事早く終わったのかな…?)



ノブを回して脚を踏み入れれば、見知らぬ男物のスニーカー。


「……?」


来客にしては、らしくない若者の靴。



(誰か来てる……?)



私は玄関ドアの音を立てて閉めてしまったにも関わらず、そっと靴を脱いで足音を殺し居間に近づいた。



そーっとそーっと、と、足音に気を取られていて下を向き気味に向かっていた所為か、その靴の持ち主がさっさと私の帰宅に気付いて玄関に向かっていたのに気付く事が出来きず、歩を進めた故に出来た人影に気付くのに暫く掛ってしまった



あと数歩で居間、という処で視界に入る足先。

ハッと気付いた時にはもうその人物は私の目の前に。


「………」


顔を恐る恐る上げて足元から辿って見れば、その人物は壁に手を付いて、にこやかだけど黒い笑みを湛えていた。


「…………っ」
「久しぶり、ユイちゃん、会えて嬉しい。」
「ちょっ……」


息を呑んで身を強張らせる私を余所に、彼は私の腰に腕を巻きつけ自身に引き寄せる。


「どうして、家に…?」
「ふふ、どうしてかな…?」
「………」


質問に質問を返され、埒が明かない、と彼の胸を押して何とかその腕から逃れようとするけども、びくともしない。


「だめ、離さない」
「!!」


彼の目が悪戯に光ったと思った瞬間…


「総司くーん?どうしたのー?」
「お母さん……!」


居間からひょいと母が顔を出し、彼の肩口から顔を覗かせた私に“あら、おかえりー”と声を掛け、にこやかに笑った。


「総司くんは相変わらずユイが大好きねぇ」
「うん、ユイちゃん優しいから大好き」
「………ッ」


総司くんは悪びれる事無く私の腰に絡めた腕の力を強めて私にじゃれる様に抱き付く。

もうすっかり大人の身体になった総司くんは、私の身体を呆気なく包んでしまう。

だけど母の中では、子供は子供、という感覚がまだ根強いのか、年頃の男女が抱き合っているよりも、子供同士のじゃれ合いにしか見えないんだろう。


「お母さん、どうしてっ、総司、くんが…」


私に絡まる総司くんの腕を払いながら母に問う。


「あ、ごめんごめん、言って無かったわね。話するから手、洗って着替えてらっしゃい」


そう言うと母はいそいそと台所に消えていった。


「………」


唖然とする私の顔をみて、総司くんはとても楽しそうに喉を鳴らして笑い、私の頬を突きながら、


「………、なんて顔、してんのさ? …僕がいたら、迷惑?」


くっと顔を横にかしげ、覗き込むようにネコの様な愛らしさと強さを秘めた瞳が私を捕らえる。


「……っ、そん、なこと」


慌てて視線を逸らし、俯いて否定したものの、私はこの子のこう言う麻薬的な魅力が苦手で…、正直言ってあまり関わりたくない…。


「…っ、も、いい…?手洗ってくるから…」


くいくい、と総司くんの胸元をさっきみたく押し返せば


「はぁい。僕もお腹すいたから早くね」


総司くんはパッと手を上げて私を解放する。


「………ッ」


私は彼に気が変わらない内に、逃げる様に洗面所に逃げ込んだ。






心を鎮めるように、ジャ―ッと音を立てて流れる水を眺める。


「………」


手を洗いながら、色んな事を頭が巡る。

居間からは母と総司くんの他愛の無い会話が聞こえているというのに…、何だか嫌な予感がしてならない。



「………」



のそのそと階段を上り、気力無くドアノブを捻って部屋に入った。

どさ、と鞄が重たい音を立てて私の手から滑り落ちて、中身を溢しながら足元に倒れる。

のろのろと脱いだコートをハンガーに掛けて、一つ溜め息を吐いて胸元のボタンに手を掛け、着替えようとするけど、なかなか進まない手。





「ユイ―――?」





痺れを切らせた母が、私を階下から呼び寄せた。


「…っはい、今行きます!」


私は慌てて適当な部屋着に着替え、重い足取りで居間へ向かった。

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