8.変化(激昂)

シンプルな部屋に入り、ソファに向かってジャケットを無造作に投げた一君は、私の腕を強い力で引っ張る。


「!、っあ」


今日はいつもより性急だな、なんて驚いていれば、


「…んっ!」


噛みつく様に唇を塞がれる。


「ん、っ、…ん、ふぅ……」



頭を掴まれて、呼吸ごと奪う様な乱暴なキス。

腰に回された腕。

逃がす事を許さない、と言わんばかりに私の髪を掴みながら首裏を押さえる掌。

そして、息苦しさと相俟って、…求められる強さに、自然と私の心が悦んで震え、涙が滲む。


「ん…、は、ぁ……」


水音を立てて唇同士が離れ、一度だけちらりと視線を合わせ、濡れたままの一君の唇が、私の首元に落ちる。

背に回された一君の両腕は、私の身体を更に引き寄せる。

ぴったりとくっつき合った身体と身体が、隙間無く触れ合って互いの体温を伝え合う。


「ん、んんっ……」


目尻に溜った涙が零れて頬を濡らした時、一君が弾かれた様に首元から顔を離した。


「………?」


どうしたの?と一君の顔を見れば、一君の表情は怒りと困惑を織り交ぜていて、背に回されていた腕は肩へと昇り、その腕は私を一君から引き離した。



「!っ……きゃあ!!」


いきなりベットに押し倒される。

ギシっと言う重い音と、突然の衝撃に驚きで息がつまり、固く閉じた目を恐る恐るゆっくりと開ければ、いつの間にか私に覆いかぶさった一君と目が合う。


「…っ、」

「あんたの、涙の訳は…、これか……?」


つ、と指された私の首元。


「………?」
「誰だ…」
「??」
「誰があんたに……!」
「ぁ……」


喉が張り付いて、声が掠れ、昨晩の事が脳裏に甦る…!

……、そこは確か、昨晩総司くんが唇押し付けた所じゃ…



まさかあの時……!



「きゃ……!あ…っ! ぅっ、…」


例の、恐らくキスマークが付けられているであろうそこに、上書きするように一君が噛みつく。


「…っ、…た…ぃ…、あ…ぁ」


痛みに涙がまた滲み、次いで一君がぐっと私のシャツを捲りあげた。

そして下着をほんの少しだけずらして胸の先を露わにする。

僅かな隙間から零れ出た胸の先端を、伸ばした舌先で下から上へ舐め上げ、もう片方の先は執拗に指で捏ねられる。


「…、っ、あ、あん、ん……」


突然の痛みからの甘い刺激。

一君が私に与える、擽ったい様なもどかしい快感に身を捩る。



胸の先を蠢く生温かい滑った感触に、時折びくん、と身体が跳ね、その度に太腿にあたる一君の熱。



頭上に片手で一纏めに拘束された私の両腕。

完全に外されていない下着。



その所為で、余計に“拘束されている”という、“征服されている”という錯覚に思考を犯され下肢に熱が籠る。


「あっ、あ、あ…んんっ」


胸の先端だけの愛撫だというのに、私は浅ましく腰を揺らし、甲高い声を上げて喘ぐ。

なのにその甘さを許さない、とでも言うかのように乳房に歯を立てる。


「や……っ!」


痛みに身を捩れば、また胸の先を舌で擽る。


何度も何度も噛む、愛撫する、を繰り返され、一君が私の腕を解放する頃には、もう痛みなのか快楽なのか訳が分からないほど乱されてしまい、途切れ途切れの吐息の中、チラリと見た私の身体は歯型が至る所に刻まれていた。


熱を燈され、身体の中心がドロドロに溶けて熱くて堪らないのに、私を見下ろす一君の視線は、冷えたまま蒼い炎を宿して揺らめいている。


「…っあ!」


思い切り腕を引かれ、半身を起こされる。

肩を押して私の身体を反転させてうつ伏せにし、腰を持ち上げてお尻を突きだす格好にしてから体重をかけて私を抑え込む。

スカートを捲られ、パンストが裂かれ、下着を一気に下ろされる。



(こんな恰好…!)



「やだっ! …はじめく…っ、こんな……!」
「…………」



私は羞恥から慌てて身を捩って、一君に懇願した。
けれど私の声は届かない。


「………!」
「………」
「…ひ、…ぅ、ぁ…あ…っ!」


下肢に違和感を感じ、侵入してくる一君の熱に。
染められた身体は、否が応でも腰が揺れて脚が震える。


「あっ、…あ…、あっ! ゃ、…だ……」
「………」


私の腰を掴む一君の手を外そうとして身を捩っても、反対に腕を取られてしまう。


「うぁっ、ああっ!」


背を押され腕を片手で後ろ手に拘束されてまい、支えの無くなった上半身は倒れ込んで、容赦なく顔がベッドに沈み込む。


「うぅ、…っあ…、あ…」


身体を裂く様に入り込む一君の熱。
それに合わせてがぶるぶると腰が震え、私の声はベッドに沁み込んで、くぐもった呻きへと変わる。



苦しい。

苦しい…!



首を打ち振って 悲鳴に近い喘ぎ声を上げて“やめて”と懇願しても、一君は沈黙したまま打ち付けを始め、それも深く刻み込むようにして私を穿つ。

深く入り込む一君の楔は、私の中を咎めるかのように打ち込まれ、突き上げが頭の芯を痺れさせて私はもう悲鳴を上げる他無かった…。



一君、…怒ってる。



どうして…?



総司君が付けた、キスマークの所為…なの…?



どうして…?

どうして一君が、怒るの……?



私は、



私は…


だって私は……



わたしはただの………



――――――――――――――



変化とは、突然やって来るもの…。



平穏を望もうと、望まざろうとも……。

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