戸惑う
あの日、私は死ぬはずだった。
車に轢かれた私の身体は自分が思うよりも遠くに飛んだ。
でも、私は目覚めた。
それは私の元の身体ではなかったけど。
目を開くと、心配そうに顔を覗き込む男の子。
目の前に4歳くらいの男の子がいることに戸惑う。

「はおり、だいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶ」

この子は誰だ。

「波折ちゃん大丈夫?」
「あ、だいじょうぶ……です」

自分が思っていたより高い声が出たことや、少し舌っ足らずだったことに驚いた。

「鋼、波折ちゃんのお母さん呼んできてくれる?」
「わかった」

男の子の名前は“こう”くん。
名前を知ったところで私はこの子のことを何も知らない。

「波折!目を覚ましたのね」
「お……おかあさん?」

強く私を抱きしめる女性。
若くて、綺麗だ。

「そう……お母さんだよ」

お母さんの体が震えている。
きっと泣いているんだ。

「わたしはだいじょうぶだよ。おかあさんなかないで」

私はそれから直ぐに退院することになった。
この身体はずっと寝たきりだったからか、立ち上がろうとしたらフラついた。
でも、リハビリをしているうちに普通に歩けるようになった。

「はおり!」
「こう、むかえにきてくれたの?」
「うん。はやくかえろう」
「こうありがとう」
「どういたしまして」

この子は村上鋼。
私の幼なじみらしい。
お母さん同士がすごく仲が良い。

「今日は幼稚園で何したの?」

と、鋼のお母さんが聞く。

「こうと、うたをうたいました」
「はおりとあそんだ」
「ふふ、2人は本当に仲良しね」

と言って、鋼のお母さんは私たちの頭を撫でてくれた。
私のお母さんはこの時間にあまり家にいない。
だから幼稚園から帰ったら鋼の家に行くことが多い。
それに対して私は特に不満はない。
このご時世、両親共に働いていることなんてよくあることだ。

「こっちであそぼう」
「いいよ。きょうはなにする?」
「つみき」

私はどうしてまた4歳に戻ったんだろう。
知らない環境、知らない人。

「おしろつくりたい」
「いいね、つくろう」

どうして、ここに来てしまったんだろう。
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