風邪っぴき
「……けほっ」
「波折、風邪?」
「そうかもしれない……」
「あんまり無理するなよ?」
「うん、分かった」
私のサイドエフェクトは人の心を読む。
読むというより聞こえると言った方が正しいかもしれない。
人は少なからず頭で考えてから言葉を話すものである。
その考えが私には声になって聞こえる。
テレビでいう主音声と副音声が一緒に聞こえる感じだ。
人の心の声なんて聞いてもいいことはないので、意識していない時は雑音としてあまり耳に入らない。
この体で風邪を引いたことがなかったから気づかなかったが、どうやら体調を崩したときはサイドエフェクトの制御が効かなくなるらしい。
普段の倍以上に聞こえる音の情報の多さに気分が悪くなりながら本部の廊下を歩く。
それでも、今日は東さんとゆっくり話せる貴重な日だから家に帰りたくない。
そう思っていても、体は限界だったようで視界がどんどんぼやけていく。
「おい、大丈夫か」
足元がぐらついて倒れる寸前に風間さんが支えてくれたみたいだ。
「あ、かざまさん……おはようございます」
「おはよう。お前いつから体調が悪かったんだ」
「えっと、あさから……ですかね?」
「馬鹿者。体調が悪いならこんな所に来るな」
「だって、きょうはあずまさんとおはなしするんです」
「それで東さんが風邪を引いて嫌な思いするのは天喰自身じゃないのか」
「……ごめんなさい」
「分かったら、まずは医務室だ」
「はい……」
風間さんに背負ってもらって医務室に行くのは少し目立ったから恥ずかしかった。
「冷たいぞ」
「……っ」
冷えピタを貼ってもらって横になる。
医務室には薬はないので、風間さんがほかの人に頼んで買ってきてもらうことになった。
「おい、薬買ってきたぞ。って本当に風邪引いてんのか、お前」
風間さんが頼んだ相手は諏訪さんだった。
「ほら、これ飲んで早く寝ろ」
「すわさんありがとうございます……」
「お前がしおらしいとかキャラじゃねーから早く治せ」
「……すわさんひとことおおいです」
諏訪さんはこんなことを言っていても、本当に心配してくれているのはサイドエフェクトを使わなくても分かる。
この人は優しい人だから。
「眠くなったか?」
「……はい」
「じゃあ、俺らは退散するか」
「まってください、いかないで」
諏訪さんの服の裾をギュッと握った。
「……しゃーねえな。お前が起きるまでここにいるから」
「俺が諏訪を監視してるから安心しろ」
「風間、お前な……」
2人とも優しい。
私って幸せ者だなあ。
「元気になりました。風間さんも諏訪さんもありがとうございました」
「もう倒れたりすんじゃねーぞ」
「体調管理は自己責任だぞ」
「うっ……」
「まあでも、お前ならやってるだろって思ってたけど、案外普通のガキと一緒だな」
みんなと一緒だと言われたことが私にとって嬉しかったということは、恥ずかしいから諏訪さんには言わないでおく。
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