「…能力は?」
「一言で言い表すなら…毒、ですね。」
「毒…。」
____スタンド能力によって、触れたものに毒を回らせてしまう。人や動物・植物など生物は勿論のこと、木材や食べ物に触れれば腐らせてしまうらしい。金属物やコンクリートなどには反応は見られなかったが、銀食器などは反応を見せた。触れるよりも強い効果を出すものは涙や唾液、血液などの体液。しかし効果時間は短く、30分程度で少し痺れる程度まで下がる。体内から出て30分以内であれば、それらを他人が体内に入れてしまったりすれば死にいたり、触れればその部分は強い痺れが止まらない、または壊死してしまうことがあるらしい。
「それは、どうやって確かめたんだ。」
「勿論人は使っていません。研究者の知り合いに頼んでマウスを使いました。
あ、この実験については、あまり彼女には掘り下げないでくださいね。心を痛めていましたから…。」
「…。」
「また、彼女の心理状態によって、効果も大幅に変わります。今はとても酷い状態だ、空気まで濁る。」
成程、あの家があんな状態になってしまっていたのは、スタンドの暴走なのだろう。空気が腐って、食料を盗み住み着いていた鼠も死んだ。そんな自らの能力を恐れて、彼女は手袋をするようになった…。
だから俺の手も払い除けたのか。傷つけまいと己の能力から俺を守ったのか。
「彼女の母親だけは大丈夫だったのですが…。」
「母親は、今どこに?金はあると言っていたが。」
俺の問いかけに対して、医者は何かを言い淀んで静かに頭を横に振った。どういうことかと聞くまでもない、死んだのだ。
訳は分からないが、病院に金を置いていった日に"私は近いうちに死ぬだろう"と言い残して行ったらしい。数年前に消えた別の組織の頭と愛人関係にあったらしいが、それと何か関係がある、とふんでいる話を聞いた。
そして母親の死については彼女自身も気づいていて、精神状態が悪いのはそれもあるだろうということ。
「精神面、体調のケアについては勿論お任せ下さい。昔から診てきているので。ですが、もし宜しければ偶に彼女の見舞にきてくださいませんか?」
「俺がか?」
「ええ。
先程問診をしている時貴方のことをお聞きしました。彼女を助けてくださって、ありがとうございます。」
「そんな、当たり前のことだ。」
「まるで王子様のようだと言っていましたよ。」
「王子…?」
「憧れているのですよ、彼女は。」
フフ、と笑ってカルテに目を通し始める医者。特段意味はなさそうだが、変な気持ちだ。
しかしまあ、来ない理由はないだろう。気にもかかるし、こう言われて知らないふりをする程俺も冷たくはない。退院までは見守ってやるのが、筋ってものだろう。
「わかった、彼女が望むなら仕事の合間に来よう。」
「ありがとうございます、彼女にも伝えておきますね。きっと喜びます。
…さて、今日はこれくらいですかね。次回来た時はお名前をお申し付けください、病室に通させていただきますので。」
「貴方みたいな医師がいて頼もしいな…俺も何かあったら来よう。」
「あはは、そんな機会が無いことを祈っていますね。」
◇
「ブチャラティ!すみません、こいつ言うことを聞かなくて…。」
「ブチャラティ〜!このパスタ、美味いぜぇ!!」
いつものトラットリアへ向かうと、相変わらずフーゴとナランチャが喧嘩をしていた。まあ、ナランチャが先に食い始めたのが理由だろう。俺は構わないから、と2人を治めた所でウェイターが来て、メニューを受け取る。
「今日は遅かったな、何かあったのか?」
「あぁ、まあな。」
「アンタの事だから、また人助けだろう。」
「だろうな!今度はどんな案件だったんだ?」
「犬か?!猫か?!」
「おい!!ソースを散らすな!」
スパゲティのトマトソースが、白いテーブルクロスに散る。フーゴの拳骨が降りて、その勢いでまた散る。ついにミスタからも『汚ねえだろ!』という声が出たし、店に迷惑だからちゃんと注意しないとな。言えばわかってくれるヤツらだし、そこは楽で助かるが。
メニューを閉じ、コーヒーとマルゲリータを頼んで冊子も返す。汚してしまった事も謝る。
間もなく運ばれてきたコーヒーを飲みながら、それぞれに頼んでおいた仕事の進捗を聞く。ミスタとナランチャの二人に頼んでいた案件は今日でかたがついたらしい。どおりでピストルズの様子が昨日よりも上々なわけだ。フーゴとアバッキオには別々に調べものを頼んでいたが、それも順調らしい。本当に優秀な仲間に囲まれて、俺は幸せ者だな。
「それで、ブチャラティは結局犬と猫、どっちを助けたんだ?!」
「お前、まだそれ引きずってたのか!」
「だってよォ〜、俺、ミスタとアバッキオと賭けてんだぜ?」
「賭け・・・?何をだ?」
「だから、『次にブチャラティが助けるのが、犬か猫か、人か』だよ。」
「ミスタとナランチャならわかりますが、アバッキオまでか・・・。」
アバッキオまでその話に乗るとは意外だな。フーゴの呆れたような視線もガンと無視を決めるアバッキオだが、『で?何を助けたんだよ、ブチャラティ。』と口を開いた。いつものようにポットで頼んだ紅茶を飲みながら、足を組んでこちらを伺っている。
『人、だな。お前たち風に言うと。』そう返すと、アバッキオがニヤリと口角を上げると同時にミスタとナランチャが悔しそうな声を上げた。『何だよォ〜ッ!』と二人とも地団駄を踏んでいる。このチームでは最年少のフーゴにため息をつかれているが、そんなことはお構いなしだ。
「またグレーコのばあさんか?あんたの事気に入ってるからな。」
「いや、女の子・・・というより、少女だな。俺も初めて会ったが、いろいろあって彼女を助けることになった。」
「女?!歳は!可愛かったか?もしかして綺麗系?スタイルは?!」
「おいおいミスタ、女性の年齢なんて聞くものじゃないぞ。
でもまあ、そうだな・・・。おそらくフーゴと同じくらいじゃあないか?」
「ガキじゃねえか・・・。」
「あ゛?!僕がガキだって言いたいのか?!」
「落ち着けよフーゴ!ちげえって!フォーク下ろせ!!な?!」